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第6話

日曜日の試合が終わり諸々の後片付けと雑用まで済ませ、合宿所の休憩スペースでまったりとしていた時、工藤さんが真剣な顔で私に言うのです。


「ねえ晴ちゃん、相談なんだけど、今度トーナメントで当たることになったでしょ?それが終わるまで部屋を別々にしようと思うの。一応上田さんには了承してもらってるんだけどいいかな」


え、いきなり何ですか?そんなこと言われてもどうしていいかわからないんですけど。理由を聞いてもいいですか?

「うん、そうよね。いつもの試合もそうだけど、今回は特に気を引き締めて試合に臨みたいのよ。ほら、この大会で優勝したらいわゆる実績ができるでしょ?立野さんや綾ちゃんの先を行くにはこれがいいチャンスだと思ったの。晴ちゃんもそう思わない?」


工藤さんも優勝を狙って上田さんのベルトに挑戦するつもりだったんですか。今までだってタッグマッチやシングルマッチで戦ってきましたがそんなこと一度もなかったけど、このと0ナメントにそういう気持ちで挑んでいたんですね。これは相談というより既に工藤さんの中ではそうするつもりなんでしょうね、変に引き止めてもダメでしょうから。

「わかりました。勝っても負けても恨みっこなしで、試合が終わったらまた一緒に過ごしましょうね」


これで工藤さんか山田さんがチャンピオンになったりしたら同期の中でギクシャクしちゃうのかなとか思いながら練習に励んでいますが、いつも近くにいるはずの工藤さんがいなくなると少し物足りないというか不安というか、心もとなく感じてしまいますね。早く土曜日になって試合が終わって、元通りに戻るといいなー。


そんなことがありながらの試合当日、本日もたくさん集まっていただいています。お天気も良くてガーデンプロレス会場の方にもお客さんで賑わっていますね。その一角にはちょっと商店街ではあまり見かけない集団がいらっしゃいますが九龍城のファンの皆さんでしょうか。プロレス観戦をするよりビールと屋台料理を楽しんでいるようです。でも、周りのお客さんの迷惑にならないように楽しんでくださいね。


本日は全部で6試合が組まれ、目玉として一回戦で負けた選手同士のタッグマッチが用意されているようです。しかもその試合は誰と誰がタッグを組んで誰と対戦するかは試合直前に発表するというのです。そんな無茶な!とは思いましたが、どんな試合になるか楽しみでもあります。そしてトーナメント二回戦が第四試合に工藤さんと私が、セミファイナルに山田さんとヘイトさんの試合が組まれました。今まで工藤さんには一回も勝てたことがないけど、私のやれることをやっていきたいと思います。


青コーナーで待っていると工藤さんがゆっくりと入場してきました。いつもより気合の入った表情、通路に集まったちびっ子たちと軽くタッチをしてからリングに上がってきます。ここまできたらもう試合をするだけ。渡辺さんに言われた同期越えとか私が強くなったら周りも強うなるとか、そんなのは一旦忘れて正面からぶつかっていくだけ…いや、正面からぶつかっていったら勝負にならないから手を変え品を変えやっていきますよ。一応作戦も考えてあるんですから。お客さんの声は工藤さんの方が多いかな?そんなことを考えながらお互いにがっちり握手をしてコーナーに戻りレフェリーの合図を待ちます。


「レディー、ファイっ!」

ゴングが鳴りリング中央でロックアップ、全然ビクともせず逆にそのまま押し込まれてロープブレイク。再びロックアップ、今度はその場から投げ飛ばされてしまいます。やっぱり正面からというのはやめた方がいいですね。

ゆっくり工藤さんに近づき体を上下させて組み合わないようタイミングをずらし、いきなりローキック!一旦離れます。工藤さんの反応は特になし。円を描くように近づいてローキックを連発、すぐに距離を取ります。すると工藤さんは蹴られた足を前に出し〝こいよ!もっと蹴ってこいよ〟みたいなポーズを取ります。それに乗ることなく今度はレスリングの片足タックルのように潜り込んでその足を掴むと反対側の足を引っ掛けて前に倒し、足首を掴みながらヒザの裏にストンピングからハーフボストンクラブ!これはロープに逃げられてしまいました。いつの間にか打撃を躊躇なく相手に打ち込めるようになってますね。これは慣れなのかリングネームの暗示がかかっているからなのかわかりませんけども。


一旦技をほどいてすぐに足へのストンピング、これはレフェリーに注意されてリング中央に下げられてしまいます。その間に工藤さんが立ち上がり私に向かって突進してきたのでカニバサミで倒すとスッテプオーバー・トー・ホールド。これにフェイスロックを合わせると違う技になるんだっけ。でも今日は足だけに攻撃を集中させます。ついでに体重をかけてスタミナも奪っていきますが、これもロープに逃げられてしまいました。


足を気にしながらロープを掴んで立ち上がったタイミングで低空のドロップキック、四つん這いになったところへラ・マヒストラル!カウント2で返されました。

少し離れたところで立ち上がるとすぐ目の前に工藤さん!ショルダータックルというより体当たりでコーナーまで吹き飛ばされると助走をつけた串刺し式のボディアタック!その場に崩れ落ちると顔にお尻で押しつぶされます(※1)お尻は柔らかいからダメージなんてないと思うでしょうがそんなことはありません。毎日何100回ものスクワットで鍛えたカッチカチの筋肉の塊なんですから。それがコーナーマットとサンドイッチするので頭の中から骨のきしむ音が聞こえてきます。

そこからボディフラムで叩きつけられるとセカンドロープからダイビングボディプレス!うげぇ、息が詰まって動けない!カウント2で肩をあげて場外へ逃げます。こんな連続攻撃をさらに受けたらどうなっちゃうやら…もう少しで場外に落ちる途中で捕まり両足でお腹の上に乗られます!ロープを掴んでバランスを保ちながら!足踏みはやめて!レフェリー反則、反則!カウント4で降りてくれたので今度こそ場外へ。中身が全部出ちゃいそうになるのを我慢しながら息を整えます。私のストンピングより工藤さんが単純に乗っかる方がダメージがあるんじゃないですか?理不尽すぎますよ。


エプロンサイドに手をかけて立ち上がると工藤さんに捕まり鉄柵ホイップ!音もそうですけど衝撃によるダメージも凄いんですよ。それを2度3度と繰り返されるも4度目は体を入れ替えてホイップ仕返してからリングに戻ります。コーナーに寄りかかりながら体をチェック。背中全体は痛いけど動かせないところはないから大丈夫、スタミナもまだ大丈夫。工藤さんはどうでしょうか。


場外カウント18になってリングに戻ってくると私に向かってダッシュ、それに合わせてドロップキック!倒れないのでもう一発!フラフラとロープまで下がったらその反動を使ってショルダータックル!マットに叩きつけられその場跳びボディプレス!カウント2で返すと強引に起こされてブレーンバスターの体勢。投げらないように踏ん張っていると背中にハンマーパンチ!すぐにブレーンバスター!体が半分浮いたくらいで足をバタバタさせてこれを防ぐと着地した勢いを利用してブレーンバスターで投げ返します!形は崩れたしきちんと持ち上げられなかったからなんちゃってブレーンバスターかな?


工藤さんのタックルの威力が全然衰えないので片方の足を踏みつけ、攻撃を集中させていた足首を固めつつ股裂き。その足にエルボードロップやスピニング・トー・ホールドからレッグロックと集中させていきます。このままあのパワーを受け続けていたら次は返せないかもしれませんからね、心を鬼にして徹底的に攻めていきます。


ハーフボストンクラブのように体をひっくり返すとその足をマットに叩きつけてからストンピング。ヒザの裏を踏みながら引っ張ったりねじったり私の知ってる限りの技を出していきますがこれもロープに逃げられてしまいます。

技をとき一旦離れてからすぐにフォール、続けてスモール・パッケージ・ホールドも返されてスクールボーイは、うぐっ!尻もちのように体重をかけられて潰されてしまいました。そこへボディプレス、いつもより高く持ち上げられてボディスラム!からのフォールはなんとか返します。腰を押さえてうずくまっていると何やら決めるぞのポーズをしています。これは工藤さんの必殺技が!私を持ち上げようとするのを必死で抵抗、肩口にエルボーを落として脱出しドロップキックを放つもふき飛ばされ、お相撲のぶちかまし!チマチマとダメージを与えていたけど一発でプラマイゼロになってしまう不条理を嘆きつつ立ち上がると、すでに工藤さんが待ち構えていて再び無双の体勢!ヒザへのストンピングで一瞬の隙を作り、スモール・パッケージ・ホールドは返され逆さ押さえ込みも返され、それならばと左手を掴み直し一回ひねってからもう一度スモール・パッケージ・ホールド!(※2)これなら!どう!かしら!ふわっと体が浮いたのでフォールが返されちゃったか…


「カンカンカンカン!」

え?レフェリーが倒れている私の腕を上げています。それと本当にカウントが入ったのかと必死に詰め寄る工藤さんが見えます。

「22分18秒、22分18秒ー、体固めにより佐藤選手の勝利となりました。これにより決勝戦へと進出となります!」

リングアナウンサーが私の勝利をアナウンスしています。私、勝ったんだ...


※1 ヒップアタックみたいな技だと思ってください

※2 完璧首固めみたいな技だと思ってください

次話は6月13日を予定しています

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