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第5話

控え室に戻りリングに向かうマリスさんを見送ると、それと入れ替わるように渡辺さんがやってきました。

「まずは一回戦突破おめでとう。作戦通り動けていたわね」

そうなんですよ、渡辺さんの作戦があっての勝利です。

「本来ならあのくらいのことはひとりでできないとダメなんだけどね」

うう、痛いところを突かれてしまいましたが、いつもの私たちだけの大会の時はいちいち作戦なんて授けてもらったりしてないですからね。

「まあでも、緊張せず安定した試合運びもできていたようだから、これはこれで良しとしましょう。その代わり、二回戦目からは自分だけで考えてやってみなさいね」

はい、これが新たな課題だと思って頑張っていきます。


二回戦といえば、今戦っている工藤さんとマリスさんの勝者と対戦することになります。ちょっと渡辺さんにどちらが勝ち上がって来そうか予想を聞いてみましょうか。

「そうねー、江利花の実力は分かっているつもりだけど、マリス選手がどういう選手なのかよくわからないのよね。仮に晶と同じくらいの力として考えると7対3で江利花かな?でも勝負事はどうなるかやってみないとわからない部分もあるし」

体格差だけが勝敗に影響するなら工藤さんが負けることはないけど、堀田さんが工藤さんに勝つイメージが湧かないって言ったら失礼になっちゃいますね。

「あとはそうね、マリス選手はルードでしょ?レフェリーのスキをうまくついてだまし討ちのようなことがあれば江利花もどうなるかしらね」

やっぱり工藤さんが有利だろうけど戦い方次第ではどうなるかわからないようです。


お互いに初対決で相手がどんな動きをするか探りながら試合をしていかなくちゃいけないし、私みたいに作戦を授かってないでしょうからね。そうだ、ついでにあのことも聞いてみましょうか。

「私の対戦相手って一緒に入団したけどすぐに辞めちゃった白鳥さんだったんですよ、びっくりしました」

「へえーそうだったんだ。すぐに辞めちゃった子たちはあまり覚えてないけど...もしかして入団テストの時に派手にバク転してた子?あーなるほど、それでね」

なんとなくですが覚えていたみたいです。あのバク転はインパクトが強かったですもんね。それで私ももしかしてって思い出しましたから。別の団体ですけどプロレスラーになる夢を叶えられて良かったなーと思いましたけど、ドリームファクトリーのことはよく思ってなかったっぽいんですよね、なんででしょう?

「もしかして気付かなかった?普通ならリングネームで気づくでしょう」

実はリング上で話をするまで、もしかして?とは思ってましたけど本当に気づかなかったんです。まさかホワイト・スワンなんてストレートすぎる名前を付けるなんて思いませんもん。


そんなことを話しながらも工藤さんの試合を気にしていると、なぜか笑い声が聞こえてきたり、そのうち「マリスー、もっとガンバレー」なんて聞こえてきたりしまして。「お!上げろ上げろ!ああーダメかー」とか。どんな試合になっているんでしょうか。

そうこうしているうちに工藤さんが勝利し二回戦の相手が決まりました。なんだかんだ言いながらも渡辺さんの予想通りでしたね。


「ほら、次はみづきと綾の試合でしょ。一回戦で当たるのは勿体無いけどくじで決まったんじゃ仕方ないわね。晴子にも得るものがあるからしっかり見ておきなさい。それと、そろそろ同期を超えることも考えておきなさい。これまでの経験の差を埋められないけど、吸収力と伸び代は晴子の方があるんだから。いつまでも自分が一番下って思ってたって何もいいことないわよ。ここに来て、色々見て教わって覚えたことあるでしょ?それを全部ぶつけてみたら?もしかしたらってこともあるし、何かが取り付いたような力がまた出るかもしれないし。晴子の成長が彼女たちの成長にもなるんだからね。...良かったわね、いいライバルが身近にいて。じゃあ頑張りなさい」

そう言って渡辺さんは控え室の奥に行ってしまいました。同期超えにライバルかー、かなり自信がないけどそうも言ってられないのかもしれませんね。さて次は立野さんと山田さんの対戦です。


お二人はいつものコスチュームでいつも通りの入場。特に緊張している様子もなくリラックスしていますね。久しぶりのシングルマッチでワクワク、わたし的メインイベントが始まろうとしています。どんな試合になるのでしょうか。


緊張感が漂うなかゴングが鳴ると勢いよくリングの中央へ。立野さんがロックアップの構えの山田さんの脇の下をすり抜けて腕を取るとヒザをついた状態でレスリングで言うところの飛行機投げからいきなり腕ひしぎ十字固め!極まる前に腕を取り返すと山田さんも十字固め!これを強引に腕を引きぬいてすぐに立ち上がると山田さんがアームドラッグからアームロック、立野さんは下から足を上げてヘッドシザースのように切り抜けると一旦距離を取ります。すぐに駆け寄ると立野さんがバックを取りジャーマンスープレックス!は、体が持ち上がるも何とか耐えた山田さんが勢いをつけて前転、立野さんの足を掴むとアンクルホールド!これが極まる前に立野さんも前転、アンクルホールドをやり返すも、山田さんがロープを掴んでブレイク。

落ち着く暇もなくロックアップ、立野さんがハンマーロックからサイドヘッドロック、フライングメイヤーからスリーパーホールドへ。これを切り返すと山田さんはサイドヘッドロックからホイップし袈裟固め。これも極まる前にヘッドシザースで切り返し、払いのけすぐに立ち上がりお互いに向き合う。一瞬の静けさが訪れます。


「うおおおーーーっ!」

直後に拍手と歓声が場内を包みます。それまでの一挙手一投足を声を出さずにリングに集中していたお客さんの声が一気に爆発したかのようです。同期だし同じ練習をしてきたし、最近は少なくなったけど毎週のように試合をしてきていたのでお互いに何が得意でどんな動きをするか分かっている者同士です。めまぐるしく攻防が入れ替わる中で相手の得意な技を先に仕掛けていきながらもきっちり同じ技でやり返していくあたり、挑発しながらも意地とプライドがぶつかり合っていますね。


ふと周りを見渡すと、会場の後ろの方にはこれから試合を控える先輩がコスチューム姿で、試合を終えた先輩はジャージ姿でこの試合を見ています。団体内でも注目の一戦のようです。


ここでふと思ったのですが、いつもの試合とこのトーナメントの試合の違いは何でしょう。毎週先輩たちに立ち向かい、いずれは上田さんに挑戦するとしてもすぐに次のチャレンジャーになれるかといわれると、少し難しいと思います。ですがこのトーナメントで優勝すれば誰にでもわかりやすい実績を残すこととなります。その勝利者インタビューで「上田さん、次、私に挑戦させてください!」なんて言ってしまえば挑戦できるのかもしれませんね。もしかしてお二人はそれを狙っているのでしょうか。


その後の休むことなく一進一退の攻防を繰り広げ、最後は動きの鈍くなった立野さんに山田さんが正面から組み合うと、立野さんのわきの下に自分の頭を入れ両腕と一緒に体ごと抱え込むと、そのまま後ろに投げる技!(※1)綺麗なブリッジで立野さんをフォール!おおっ、新しい技!きちんと受け身が取れなかったようで返すことができずに3カウントが入ってしまいました。


「28分15秒、28分15秒ー、体固めにより山田選手の勝利となりました。これにより二回戦へと進出となります」

勝敗が決まってもお二人はしばらく立ち上がることができずにいます。それだけ気力も体力も使い果たした試合だったんでしょう、お客さんの拍手と声援が鳴り止みません。私の期待していた以上のすごい試合を見ることができました。


レフェリーに促されてやっと立ち上がった山田さんが近づき、なんとか起き上がった立野さんと目が合うと両手で握手、するとお客さんから大きな拍手が送られます。立野さんがリングを降りると山田さんが大きくガッツポーズをしてからお辞儀をして控え室に戻っていきます。お二人の姿が見えなくなるまで拍手が止まることがありませんでした。それだけ見応えのある試合でした。


このあとの大木さんとヘイトさんの試合はというと、違う意味でお客さんがエキサイトしていました。とにかくヘイトさんがすごかったんです。大木さんを一方的に反則攻撃でやりたい放題で攻め立てていきます。顔面をロープにこすりつけたり両手で髪の毛を掴んで強引に投げたり手首に巻いたテーピングをほどいて首を絞めたりしていきます。大木さんの数少ない反撃もサミングで打ち消したりしています。お客さんからブーイングを受けるとやっちゃいけないフィンガーパフォーマンスでやり返しています。


その模様を見ていた私はプンスカ怒ってたのですが、試合が終わりジャージ姿で試合を見ている中野さんからすればこの程度なら許容範囲らしいです。レフェリーの反則カウント以内で外しているので、いわゆるインサイドワークの一貫らしいのですが、ドリームファクトリーにはないファイトスタイル(たまに渡辺さんや松本さんがやってるくらい)であることは確かです。


そんなことが続いてか、善戦虚しく10分くらいで大木さんが負けてしまいました。これで来週の二回戦へ進出する4人が決まりました。


※1 ノーザンライトスープレックスみたいな技だと思ってください


次話は6月5日を予定しています

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