第4話
そして日曜日、雨の心配もなく春の日差しが心地よい天気の中、若手中心の大会〝Brote〟が始まろうとしています。今日から3日間はドリームファクトリーのファンだけじゃなくCRG、フェアリーテイル、九龍城のファンの皆さんも来てくれるのではないかと予想され、久々にガーデンプロレス形式をとる事になり商店街の会長さんが張り切って準備をしてきました。
テーブルや椅子が並べられ各種の屋台が軒を連ねいい匂いをそこら中に溢れさせています。前回はお客さんが多すぎて仕方なく外に席を作ってましたが、今回は場内でじっくり見るか屋台の雰囲気を楽しみつつゆったりたっぷりの〜んびり見るか意見が分かれそうですね。
そうそう、前回は屋台プロレスなんてノリと雰囲気だけで呼び方を決めてしまったものの、やっぱりそれはどうなのよ?と青年部の女性陣から意見があったようで、もう少し何とかならないか、という事でガーデンプロレスと名付けられました。やってることはほぼ一緒なんですけどイメージを大切にしたいそうです。〝主婦の昼寝〟と〝夫人の午睡〟じゃ同じ意味でも響きも違いますからね。商店街のことだから〝昼寝〟の方が似合うし和やかでいいと思うんですけどね。開場してからしばらく経ちますがお客さんの入りは同じくらいのようで、初めてのお客さんも2回目のお客さんも楽しんでくれたら嬉しいです。
今日は全部で7試合、CRGからは増田マリーさんと吉岡ルコルさんが参戦し〝Brote〟の試合以外は全てタッグマッチとなりますが、他の団体からは参加できる選手がいないそうです。同じくらいのキャリアの選手は興味ありますが、フェアリーテイルさんや九龍城さんの選手も見たかったですしどんな試合運びをするのかにも興味があったので残念です。
第一試合、第二試合と先輩たちが会場を盛り上げてくれて第三試合から〝Brote〟の一回戦が始まります。
場内のスクリーンに今大会のあらましと選手紹介の動画が映し出され、それが終わるといよいよ出番です。
「将来の女子プロレス界を牽引する選手たちによる特別な大会、只今よりGPWO主催〝Brote〟を開始いたします!」
華やかで明るいイメージの曲が流れアナウンスが終わると私の入場する時間です。今日はセコンドが誰もいないのでひとりでリングに向かいます。ステップを登りロープをくぐり、青コーナー側で簡単に体をほぐしていきます。そして場内が薄暗くなるとミラーボールに光が当たってキラキラし始めるとホワイト・スワンさんがスポットライトを浴びながら颯爽とリングに向かってきました。真っ白なガウンとコスチュームで、あれ?マスクしてないですけどいいんですか?ん?どこかで見たことあるような、違うかな?
リングに入るとコーナーのトップに駆け上がると、私を注目しなさい!みたいなアピールしてからリングに降りるとその場で体操選手みたいにバク転を2回、片手を上げてポーズを取りました。あ!もしかして、入団してから一週間くらいで辞めちゃった白鳥さんかしら?堀田さんがいたらわかるかもしれないのに!まさか試合前に白鳥さんですか?なんて聞けませんよね。もしそうだったら嬉しいんですけど!他の団体ですけどプロレスラーになれてよかったですね。
リングアナウンサーにコールされレフェリーに注意事項を受けている間にその問題があっさり解決しました。白鳥さんが自ら「お久しぶり、あなたもデビューできたのね。こんな時代遅れの団体を辞めたのが正解だったってことを身を以て教えて差し上げるわ」みたいなことをニヤニヤしながら言ってきたんですよ。な!これには普段怒らない私でもカチンときましたね。
「お互いに握手」
レフェリーにうながされると白鳥さんが手を伸ばしてきたので私も手を出し握手、の直前にスッと手を引き、またしてもニヤニヤしだして赤コーナーに戻っていきます。私、白鳥さんに対してなんか悪いことしたかな?ほんのひと時だったけどお仲間だと思ってたのは私だけだったようです。まあいいか、試合に集中しましょう。
「レディー、 ファイっ!」
ロックアップからヘッドロックに取られたので白鳥さんをロープに振るとリープフロックで避けられ、反対側から返ってくると前後に開脚して身を沈めて避けられ、再び返ってくるとドロップキックを受けてしまいました。すぐに立ち上がりロックアップ、ロープに振られてショルダータックル狙いはブリッジで避けられ、返ってくるとヘッドシザースホイップで場外へ落ちてしまいました。そこへ白鳥さんが向かってきたので身構えるも、トペと見せかけて実はフェイント、そのままリング中央に戻ると両手を広げるポーズを取ってお客さんから拍手を受けています。
リングに戻りロックアップ、サイドヘッドロックに取られるとフライングメイヤーで投げられ背中に低空ドロップキック、踏みつけるように私をフォール。これをレフェリーが認めないと軽く押して抗議しています。
やられっぱなしのように見えますが、これは渡辺さんから授かった作戦その1なのです。試合が始まったら相手の様子を見つつ受けに専念しろ、です。
初めて対戦する相手がどういう動きをするかを観察しながら試合をしていくという高度な作戦だと思ったのですが、なんとなく白鳥さんがしたい事がわかったような気がします。相手のことを挑発してペースを崩すのと見栄えのいい技を使いたい感じでしょうが、もう少し様子を見るのに白鳥さんにペースに乗ってみましょうか。
私を捕まえると滞空時間が長いブレーンバスター、お客さんから拍手をもらってから投げ、コーナーのトップに登り起き上がるタイミングでミサイルキック!それなりの衝撃で反対側のコーナーまで吹き飛ばすと、またもや両手を広げ、手拍子を促すようにクイクイッと手を揺らしています。そういえばコーナーに登る前もコーナーマットを叩いていたような。
その後も技を決めて私がダウンしているたびにお客さんにアピールして注目を集めていますが、そんなことしてる余裕があったら次の攻撃でもすればいいのに。お客さんも一部の白鳥さんファン以外は落ち着いているというか冷めちゃってるみたいですよ?
私もやられているばかりじゃ面白くないので、そろそろ反撃といきましょうか。作戦その2、グラウンドに引きずり込む、です。
声援を受けていい気分になっている白鳥さんに対し、何のダメージも受けてないよ的な態度で近づきロックアップ。ハンマーロックを切り返しサイドヘッドロック、ヘッドロックホイップから袈裟固め。いつもならここで…あれ?ヘッドシザースで切り返すことなく足をバタバタさせているだけ?それならとグラウンドでハンマーロックを決めたりフロントネックロックを狙ったりと白鳥さんの背中に体重を預けながら仕掛けていきますが、あーとかうーとか声を出すだけで切り返すそぶりが見えません。それじゃあと再度ヘッドロック(ダジャレじゃないよ)をかけてキャメルクラッチみたいに反り上げてるとさらにジタバタとしてロープに逃げられてしまいました。
リング中央に戻り向かい合い、ロックアップする腕を避けて右側から潜り込んでバックを取るとスリーパーホールドへ。私の方が背が低いため中途半端になり技が決まる前にロープに逃げられて、その勢いで私だけ場外に落ちてしまいました。それを見た白鳥さんは手拍子をしてからプランチャ!さらにセカンドロープを使って場外へラ・ケブラーダ!おおーというどよめきに満足しなかったかリングに戻るともっと私に喝采を!みたいにポーズを取っているけど息が切れそうじゃないですか?こちらの様子を見るふりをして休んでいるようです。
場外で技を受けたらダメージを回復するのに私の方が休むのが普通だと思いますけど、この試合に限っては違うようです。ここで白鳥さんを休ませるわけにはいきません。急いでエプロンサイドに上がると白鳥さんのドロップキック!再び場外に落ちた私にプランチャ!でもその技はさっき見たのだよ、とばかりに避けると背中にハンマーパンチから鉄柵ホイップ!休む暇を与えずリングに戻してフォール、カウントギリギリ2で、うおっ、スルッとブリッジで抜けると、立ち上がろうとした私にドロップキック、2人ともダウン。白鳥さんの様子を見ると息が荒くスタミナもないっぽいです。
ここで作戦その3、相手の動きが鈍ってきた、且つ私の方スタミナが残ってそうなら一気に攻め込み、自分が一番イヤだった技で決めてしまえ、です。
イヤだった技かー。上田さんのエルボー、渡辺さんの4の字ジャックナイフ、豊田さんのラリアット、クリスさんのジャイアントスイングなどなどキリがないですけど、やっぱりアレですかね。
白鳥さんが立ち上がるのを待たずに引き起こし、叩きつけるようなボディスラム、続けてバックブリーカー、最後に両足を捕まえてボストンクラブ!腰を落として絞り上げていくもジリっジリッと匍匐前進で逃れようとする白鳥さん。あと数10センチでロープに手が届く、というところでリング中央まで引きずり戻しさっき以上にどっしりと腰を落とすと白鳥さんはたまらずギブアップ、ゴングが鳴らされました。
「13分53秒、13分53秒ー、ギブアップにより佐藤選手の勝利となりました。これにより二回戦へと進出となります」
あっという間っていうほどじゃなかったんですけど15分経ってなかったんですね。これが私だけの力だったらどうなっていたでしょうか、ダラダラと試合が続いていたか、白鳥さんにいいようにやられていたでしょうか。渡辺さんの作戦がうまくいって勝てたので良かったです。
次話は5月25日を予定しています