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第3話

入団テストも終わり商店街の入社式や歓送迎会などのイベントが落ち着いた頃、いつものように朝のミーティングをしている時のことでした。なぜかGPWOのお偉いさんみたいな方からお話があるというのです。


「えー、皆さんおはようございます。練習前にお時間を頂きましてありがとうございます。実は今回、GPWOが主催してドリームファクトリーさんの協力を得まして、4年ぶりに若手だけのイベント、Broteを開催する運びとなりました。そこで上田さんに協力を打診したところ即決で了承されまして、参加しする選手を決めて頂きました。突然ではありますが、呼ばれた選手は前に来てください。まずは立野選手、山田選手、工藤選手、最後に佐藤選手の4名です」


これは事前に上田さんから言われていたんですけど、いざ呼ばれるとドキドキしてしまいますね。この話を聞いた時、あれ?堀田さんは?松本さんは?と思ったんですけど堀田さんは今回は芸能活動と日程が重なってしまったので泣く泣く辞退、松本さんは参加資格から外れていたので繰り上がり?で私が選ばれました。


GPWO主催ということで他の団体からも選手が参加するそうです。参加資格はデビューしてから5年以内、GPWOの管理するタイトルに挑戦していない、戴冠していない選手のなかで将来に期待できる有望な選手が選ばれるそうです。そんな選手たちがイベントを通して切磋琢磨することで、さらに実力を伸ばしこれからの女子プロレス界を盛り上げていく人材を育てていこうという趣旨だそうです。いわゆる若手の選手同士で戦って、優勝したらそれなりに有名になったり話題になったりで、そこからプロレス界を盛り上げていこうってことですね。こういうのって堀田さん好きそうだからさぞ悔しいんだろうなー。それにしても〝女子プロレス界を盛り上げていく人材〟ですって。どうしましょう。


そして参加選手は全員で8名が選ばれてトーナメントで優勝者を決める形式で全部で3日間、ドリームファクトリーの道場を使っての開催になるそうです。私たちの初代チャンピオンを決める時みたいに一日二試合することはないのは良かったのですが、8人の参加選手のうち4人も出たら私たちが有利になっちゃいませんか?私たちVS他の団体の選手たち、みたいな構図を想像してしまいましたが、そうならないようにくじで対戦カードを決めることで少しでも公平になるようにするらしいです。くじ運によっては一回戦で私たちでぶつかるかもしれないしバラけるかもしれないわけですね。そうか、いきなり立野さんたちと対戦するかもしれないのか。先輩たちとは何度も対戦して何回か勝ったことはあるけど同期の中では堀田さんに一回勝てたくらいだったはず、他の三人さんには粘るだけ粘ったけど勝ったことはないんですよね。なぜか先輩たちより苦手意識があります。


「それでですね、他団体の参加選手も発表していきたいと思います。まずはクリムゾン・ローズ・ガーデンより大木カラン選手、フェアリーテイルよりホワイト・スワン選手、九龍城よりヘイト選手、マリス選手の4名です」


おお、大木さんも選ばれたんですね。私は自分のことで精一杯だったからその後のことはよく知らなかったんですけどあれから頑張ってきてたんですね。あとは初めて聞きますね、フェアリーテイルと九龍城という団体は。

フェアリーテイルは東京に本拠地を置いた団体で、モデルやアイドルみたいなキレイ系カワイイ系のビジュアル重視で、基礎的な動きよりも大技やオリジナル技でお客さんを魅了する団体らしいです。コスチュームも無駄に豪華なんですよねーと山田さんがトゲのある言い方で説明してくれました。何かあったのかな?

そして九龍城は神奈川県を中心に活動しているようです。以前は〝金曜日の中華街〟という名前で基本に忠実で伝統的なプロレスで地元に愛されていたのですが、オーナーさんが色々問題を起こしてしまい一時解散したものの、今のオーナーさんにより本拠地を別の場所にすることで心機一転、再出発をしたらしいです。さらにルチャを取り入れたり団体内のユニット抗争を繰り広げることで以前の時よりも盛り上がってきたそうです。おお、なんか複雑なことがあったんですね。で、今回参加するヘイトさんとマリスさんは団体内でルード(悪役)として頭角を現してきたと、これも山田さんから教えてもらいました。物知りですね、最強を目指す人は外の情報にも精通しているなんてやることが違います。


そんな風に感心していると「晴ちゃん、そのくらいのことならみんな知ってるわよ?食堂にある月刊女子プロレスを見れば全部載ってるわよ」

え?あ、はい。雑誌があるのは知ってましたし読んでますけど、ドリームファクトリーの所しか読んでなかったなんて今更言えやしないですよ、あははは。




「本日はお忙しいなかお集まりいただきましてありがとうございます。只今よりGPWOの主催する若手を中心とした大会、〝Brote〟の記者発表会ならびに組み合わせ抽選会を開催いたします」


四月の最初の土曜日、道場にそれぞれを代表する方々が集まってマスコミさん向けに発表会が開かれました。この大会の趣旨とか大会名はスペイン語でつぼみという意味だとか、代表の方の意気込みとかをインタビュー形式で会見した後、ひとりひとり参加選手を紹介してから抽選会となるそうです。この模様はネットで配信されるのと道場にお客さんを入れたりで、ある種のイベントのようになっています。


お偉いさんが会見する机を挟んで反対側に他の団体の選手が並んでいます。おお、あちらが九龍城の方ですか。お二人とも私より身長が低いですが、ルチャを取り入れているというので身体能力は高そうですね、黒いジャージを着崩して気だるそうにしていますけど。ドレッドヘアーに右側だけ刈り上げているのがヘイトさんでベリーショートの青い髪と眉毛にラインが入っているのがマリスさん。いかにも悪そうって感じですね。

その隣にいるのがフェアリーテイルのホワイト・スワンさんですけど、ひとりだけ本番用?のコスチュームに身を包んでいます。アームカバーからシューズからサポーターまで真っ白ですね。それにシルバーでフリンジやらリボンやらゴテゴテ一歩手前の装飾、試合中に取れないのかなあと心配です。すらっとした体型とサラサラのロングヘアーはプロレスラーというよりモデルさんでも通用しそうですよ。でも気になるのがオーバーマスクをしていて口元しか見えないんですよね。

最後に一番奥にいるのがCRGの大木さんです。知ってる人がいて安心しますが、よく見ると体つきが前より引き締まっているようです。そしてひと皮向けたように垢抜けてかっこキレイになっています。今回はピンクと赤の中間くらいの色のフード付きおしゃれスウェットがよく似合っています。


「それでは、参加選手による対戦カード抽選会を行います。このボックスの中に1から4まで番号が振ってあるボールがありますので、同じ数字を引いた者同士の対戦となります」


最初にヘイトさんから。ゴソゴソとボールを取り出すと数字は4、第四試合です。次のマリスさんは2、第二試合です。その次はホワイト・スワンさんは1、第一試合です。大木さんが引くとそこには4とあり、早くも第四試合はヘイトさんと大木さんで決まりました。


続いて私たちの番です。最初は私がボールを引くと数字は1、第一試合。いきなりですかー。次は工藤さんが引くと2。え?そんなまさか、会場の記者さんもお客さんも各団体の代表者さんもザワザワし始めました。なんだかなーというような、ホッとしたような表情で山田さんと立野さんが続けてボールを引くとそこには間違いなく3とあり、わたし的優勝候補のお二人がいきなり激突してしまいます。


「それでは決定した対戦カードを発表いたします。

第一試合、ホワイト・スワン対佐藤琴音

第二試合、工藤江利花対マリス

第三試合、立野みづき対山田綾

第四試合、ヘイト対大木カラン。以上のように決定いたしました」


その後、各選手がインタビューを受けて、試合に向けて一言がありました。

ヘイト

全員!ぶっ潰してやんよー、あー?

マリス

………フッ

ホワイト・スワン

オープニングマッチで最高の試合、最高の私を見ることができて、皆さんも非常に嬉しく思っているでしょう?こんな小さな大会でも圧倒的な実力差で美しく優勝して、これからのプロレス界を最高にしていく私をひと目たりとも見逃さないように!

大木

こういう大会に出るのは初めてなので、悔いの残らないようにベストを尽くしたいと思います

佐藤

自分の力を十分に発揮できるように一生懸命頑張ります!

工藤

この体を生かして相手をなぎ倒して、決勝ではドリームファクトリー対決ができればいいと思います

立野

やりやすいけどやりにくいというか、こんなところで戦わなくてもいいと思うんですけどね。でもやると決まったからには徹底的にやっていこうと思います

山田

私も同じことを思いました、相手にとって不足はありません。この大会が同期の中で一歩先に進めるいい機会になればいいと思います


試合は30分1本勝負、GPWO公認ルールを採用します。第一回戦は明日の日曜日から始まり二回戦は来週の土曜日、決勝は次の日曜日となりました。不安もあるけどドキドキしてきました。それにしても、いきなり立野さんと山田さんの対戦が決まっちゃうなんてね。デビューしたての頃は毎週のように見てきましたが、ここ半年くらいはタッグで何度かくらいしか見てません。久しぶりのシングルマッチはどうなってしまうんでしょうか。

それと、私の対戦相手のホワイト・スワンさん、マスク越しだけど目があったであろう時にちょっとだけニヤッとしたんですよねえ、なんででしょう?

インドの狂虎ことタイガー・ジェット・シンさんが旭日双光章を受賞されました

次話は5月15日を予定しています

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