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第10話

渡辺さんとの試合は特訓の成果が出せたと思いますし、実際に先輩やお客さんからも良かったよと声をかけてもらえたし本当に良かったんだと思うんですけど、結局は渡辺さんを驚かす事ができなかったみたいです。勝てるとは思わないけど、いい勝負までもいわずあせらせるとか余裕をなくす?ところまではいきませんでしたね。これって悔しいって事なのでしょうか、勝敗に貪欲になってきたって事なのでしょうか、なんかモヤモヤします。


そして第四戦目、豊田さんとの対戦です。ドリームファクトリーの中で一番パワーがあるので工藤さんとのぶつかり稽古のような特訓が生かせると思います。

工藤さんがセコンドについてくれてリングに向かって行くと「今日も頑張れー!」とか「期待してるぞー!」先週の試合を見てくれていたお客さんでしょうか、なんて声が聞こえてきます。

パンパンと背中を叩かれ「いつも通りで大丈夫よ、頑張ってね」と工藤さんの送り出されてリングに上がります。フーッと大きく息をして青コーナーで待機していると豊田さんが入場してきました。ガウンのフードを深くかぶっているので表情はわかりませんが、リングの側までやってくるとフードを外しお客さんの方を見ているのかな、その姿になんか気合いが入っているようです。リングに上がるとお客さんの声援に応えるように拳をあげる姿はいつも通りです。


「本日の第四試合、佐藤琴音 試練の五番勝負第四戦、30分1本勝負を行います!」


レフェリーのボディチェックを受けた後、私の方から「お願いします!」手を伸ばすと豊田さんはがっちり握手をしてくれました。工藤さんからは「豊田さんは正面からまっすぐぶつかっていけばまっすぐ返してくれるから、変にスカしたり小細工なんてしないようにね。特訓の成果が効くかわからないけどしっかりぶつかって砕けてきてね」というアドバイスがありましたが、この握手だけでそれが伝わってきますね。まあ私にはスカしたりとか出来ないので、とにかく今できることをぶつけていくだけです。そして倍に返ってきて砕かれちゃうんでしょうね。


ゴングが鳴り試合が始まります。どっしりと構える豊田さんの周りを警戒しながらゆっくりと近づいてロックアップ、うわっ、ビクともしません。体を上下に振っても動きそうにないです。そんな私がいないようにのっしのっしとロープまで押し込まれてブレイク。肩をばちんと叩かれ両腕を上げてゆっくりと下がっていきます。まったく動かなかった豊田さんをどうしましょうか、苦手だけど考えるより私の方から動かないといけません。

待ち構える豊田さんにロックアップ、とにかく力いっぱい押していくと、ゆっくり豊田さんが下がっていきます。ロープに押し込みブレイクの声がかかる前に反対側のロープへ振り、返ってきたところにドロップキック!倒れないところにもう一発!すぐに立ち上がってもう一発!それでも倒れないのでもう一発!!バランスを崩して少し下がる豊田さん、ちょっとは効いたのかな…?立ち上がると、うわっ、ショルダータックル!リングの中央から一気にロープ側まで、ロープがなかったらリングの下まで落っこちちゃいそうな勢いで吹き飛ばされてしまいます。なんてパワーでしょう、工藤さんとのぶつかり稽古がなかったらどうなっていたか…


「さあ、どうしたー!」

豊田さんの掛け声で頭を押さえながら立ち上がります。パワー勝負でどうにかなるとは思わなかったのでショックはなかったものの、こんなに飛ばされてしまうとは。気を取り直して、今度は立野さんと山田さんに散々な目に遭わされながらも特訓してきたレスリング技術と寝技でいってみます。

リング中央で構えている豊田さんに対して体勢を低くしながら近づいていきます。摑みかかる手を躱しながら片足タックルのように懐に飛び込みバックを取ります。そういえば立野さんだったか山田さんだったかな?「自分より大きな相手でも倒してしまえばどうにでもなる」みたいなことを言っていたのを覚えていたので、身長も体重も私よりひとまわり大きい豊田さんに対してできるかなーと思いつつヒザの後ろを軽く押してヒザかっくんみたいに前に倒しヘッドロックへ。お、できたかも?効いてるかわからないけど体を反らしながら力を入れてきますが、なぜかクルッと倒されて私の方がマットについてしまいます。


「フォール、ワーン、ツー」

わっ、危ない!急いで体勢を戻して再びヘッドロック。またしてもクルッと返されてカウントが数えられます。これも返すとその勢いを利用されてヘッドロックのまま立ち上がり、ロープへ振られるとショルダータックルで倒され、豊田さんがロープワークへ。それをアームドラッグで腕を取りそのままアームロックへ。


「おおーっ!」

豊田さんを投げたことでお客さんから驚きの声が聞こえてきます。そのままがっちりと極めようとしていると体をバタバタ動かしてロープに逃げられてしまいました。

豊田さんが立ち上がってきたのでロックアップ、腕を取られたのをハンマーロックで切り返しヘッドロックからヘッドロックホイップ、袈裟固めをヘッドシザースで返されそうになったのでロックされる前に足を払いのけ…られない!太い足が絡みつきさらに体をひねってきたので首が極まってしまいます!うぐぐぐ、痛いし苦しいし、必死で逃げるだけでひと苦労、なんとか足がロープに掛かりブレイク。


立ち上がり再びロックアップ、バックを取るも簡単に切り返され、なんとスリーパーホールド!足と同じくらい太い腕で絡みつかれヤバいっ!とっさに片方の手を豊田さんの腕を、もう片方を伸ばしロープへ。もう少し、もう少しで手が届きそう…リング中央に引き戻され、さらに胴締めスリーパー!ギブアップはしたくないけど…息が苦しいし意識が朦朧と…なんだかもう…


「ーン!ツー!スrっ!」

そのまま絞め落とされたと思ったらフォール!カウント2ギリッギリで肩をあげることができました。無意識のうちに体が反応してくれたようです。返せたのは良かったけどなんかボヤッとして体が重く感じます。


うげっ!お腹に衝撃!キチンシンク!続けてもう一度!さらに河津落とし!フォールは返すことができましたが、なんだろう、スタミナを奪いにきてる感じでしょうか、この四試合で一番苦しい気がします。

でもボヤッとしてたのが取れて目が覚めたようにスッキリしてきました。体はまだ重いけどもう少し試合を続けられそうです。


頭を持たれて無理やり立たされますが、その手を振り払って豊田さんの胸元にハンマーパンチ!両手を広げて受けているところに2発、3発と、とにかくハンマーパンチを打ち込んでいきますがバチーンと1発の逆水平チョップで攻撃を止められてしまいました。胸元を抑えてうずくまるもそこからもう一度、何度もハンマーパンチ!これも逆水平チョップ一発で止められてしまいます。倒れそうになるのをグッと我慢、そのうち倒されるかもしれないけど我慢できるうちは倒されないようにします。それは次の試合は上田さんとの試合が控えているからす。豊田さんとの試合を軽く見ている訳ではありませんが、豊田さんのチョップと上田さんのエルボーって同じくらい強そうじゃないですか。しかもエルボーは胸元じゃなくて顔に受けるのでダメージはそれ以上にあるかもしれませんからね。だから何とか耐えて次の試合に生かせればいいと思っていたのです。それでも3度目の逆水平チョップを受けると我慢の限界で胸を抑えて倒れこみ場外へ転げ落ちるように逃げていきます。うわ、コスチュームで隠れてない素肌の部分に手の跡がくっきりと付いています。その跡のところが異常に熱くなってますよ。


「ヘイ、琴音!カモーン!」

リング上から私に向かって大声を出す豊田さん、これはゆっくり休めそうにありませんね。胸元を押さえながらリングの周りを半周してリングに戻ります。

ロープを掴んでエプロンサイドに登ると豊田さんが近づいてきて、ロープを挟んで私を捕まえるとそのままブレーンバスターへ。一度目は堪えたけど二度目は持ち上げられる!でも体をひねって綺麗に着地するとバックを取ってジャーマンスープレックスのように後ろに投げる!立ち上がろうと片ヒザ立ちになったところにドロップキック!すぐにコーナーのトップに登りミサイルキック!両足を掴んで全体重を浴びせるようなフォールもカウント2で返されてしまいます。それでもと、豊田さんの左手を掴んで体を起こすと見せかけて脇固め!それを前転で回避されるも腕ひしぎ十字固め!技が決まる前に両腕をがっちりロックされるとその状態のまま持ち上げられてマットに叩きつけられてしまいました。なんてパワーでしょう。

そこから私の足を4の字固めみたいに捕まえるとそこからボストンクラブのようにひっくり返されてしまいます(※1)。これはロープに近かったので程なく逃げられましたが、もう体がいうことを聞いてくれそうにありません。すぐに捕まりボディスラム。すると豊田さんが「よーし!行くぞー!」とお客さんに向かって叫ぶとコーナーのトップに登り、何とムーンサルトプレス!!ふわっと飛んでズドーンと圧迫されて抵抗することもできずそのままカウント3が入ってしまいました。うわー、苦しいし息ができないし痛い…


工藤さんとの特訓の成果は半分くらいできたのかな?それを上回る豊田さんのパワーでしたけどそれだけじゃありませんでしたね。私たちの作戦を感知したんでしょうか、臨機応変に戦い方を変えてきたように思います。今の私にはそんな戦い方ができないですもん、渡辺さんとは違うやり方でしたが手のひらの上で踊らされていたのかもしれません。それでも最後の方にちょっとだけいつもと違う動きができたのは良かったんじゃないですかね。


※1 テキサスクローバーホールドみたいな技だと思ってください

本気でドラゴンボールを探さないと、と思ってしまいました

謹んで鳥山明先生、TARAKOさん、吉江豊選手のご冥福をお祈りいたします

次話は3月25日を予定しています

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