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第9話

ドリームファクトリーに入団して何十試合もしてきましたけど、気を失うとか試合中の記憶がなくなったりとかいうのは初めてのことでしたが、負けたなら負けたでその感覚が残っていれば反省なり次への対策なりができたんですけどね、なんかモヤモヤしています。


立野さん、山田さん、工藤さんはそういったことが何回かあったようですが、そうならないためにどうすればいいかは頭部に打撃を受けないことらしいです。って言っても難しいですよね格闘技なんですから。そして「プロレスラーとしてまたひとつ階段を登った」みたいです。ひとつ目はリングシューズの紐が結べない夢を見ることで今回のがふたつ目、そしてみっつ目が意識が飛んでも試合を成立させる動きができること、なんですって。そんなことが私にできるかわからないですけど上田さんや豊田さんからも似たようなお話を聞いた事があるので、そういうものでしょうと深く考えずに納得しておくことにします。


そして第三戦目のお相手は、私たちの先生役でもある渡辺さんです、上田さんの次に緊張しますよ。練習中でも試合中でも何か見透かされているような、そんな雰囲気がありまして毎試合テストを受けているようです課題をひとつひとつクリアしていっても次から次へと違う課題が、さらにレベルが高くなっているような、そんな気分です。


今日のセコンドは山田さんがついてくれて、リングに向かう途中で私から積極的に、でも基本技を丁寧に出していけば私の力を引き出すように戦ってくれるかもしれないけど見限られたらすぐに終わらせるかもしれないから気をつけて、というアドバイスをもらえる事ができました。そういえば少し前の大会で大森さんか誰かが、試合後にリングから投げ捨てられるように場外に出された事がありましたね。そうならないように一生懸命頑張っていきます。


そんなことを考えながらリングに上がりレフェリーのボディチェックを受けていると渡辺さんの曲が流れてきました。黒と白を基調としたコスチュームにサングラスを掛け革のライダースをジャケットを肩に掛けての入場です。なんでしょう、目が合った瞬間に「お前はどのくらいできるようになったんだ、んーーー?よし、ちょっと見てやろうか」みたいな雰囲気がプンプンしてきます。すでに気圧され倒されてそうですがグッとこらえて青コーナーに向かって「よしっ!」っと気合を入れます。


『そうそう、気圧されてもそれを見せちゃダメだ』


リング中央に促されると私の方から「お願いします!」と両手を出しますが、あっちけ、しっしっ、みたいに手を振られ赤コーナーに戻っていきます。握手を拒否される予想はしてましたけどちょっと悲しいです、しかも両手でですからね。

ゴングが鳴らされて試合開始、気合を入れなおしてから渡辺さんに向かっていきます。ロックアップからヘッドロックに取られてヘッドロックホイップ、袈裟固めをヘッドシザースで返し足を外されるとすぐに立ち上がり今度は私から同じようにやり返します。ヘッドシザースを切り返して立ち上がりも一度!と向かっていくと渡辺さんから、おいおいおい、しょっぱなからイキってんじゃないよ、みたいなジェスチャーをしてロープまで下がっていきます。おっとっと、私のやる気を削がれてしまいました。


アゴを気にしながらゆっくり近づいてくる渡辺さんとロックアップ、腕を取られハンマーロック状態、これを切り返すとすぐに切り返されてしまいます。そんなやりとりを何度となく繰り返しハンマーロックで捕まえると、後ろ手で私の髪の毛を掴んだり股の間から足を掴もうとしたりで隙を作られるとカニバサミで前に倒されてヘッドロックをかけられますが、その腕を取り返してグラウンドのハンマーロックで切り返します!山田さん!特訓した渡辺さん対策の成果が出ましたよ!

でも技を掛けられてないかのように立ち上がるとバックエルボーでハンマーロックを外すとフライングメイヤーからスリーパーホールド!これも極まる前に腕を掴みハンマーロックで切り返します!できた!

「おおー」先生相手によくできてるな、感心感心、みたいな声がお客さんから聞こえてきますけど、これも特訓の成果ですよ。そこからサイドヘッドロックで締め上げるも何事もなかったように立ち上がり私をロープへ、ショルダータックルで倒されてしまいます。ロープワークを始める渡辺さんの前に倒れ飛び越えたらドロップキックを、と思ったら背中にフットスタンプ!からのヘッドロック!これは切り返す事ができずにロープへ逃れます。立ち上がる前に渡辺さんに場外に落とされると鉄柵ホイッ…掴まれた左手を離さずに思いっきり引っ張った!肩が抜けそうな衝撃!続いてハンマーロックの状態で鉄柱にぶつけられる!


『始まった始まった、得意のパターン、気をつけろ』


これは渡辺さんの一点集中攻撃を覚悟しておかないといけません。

リングに戻されてフォールは2で返すとストンピングからキーロック、これはロープを掴む事ができました。一旦技を解かれますがすぐにロープに腕を絡ませてグイッと力を込められます!

「ロープ!反則!外して!ワン、ツー!」

反則カウント4で手を離しますがすぐに捕まって締め上げられていきます!カウント5までは反則OKというルールを最大限に利用して攻撃してきます。


その後も蹴ったり踏みつけたり、ねじったりテコの原理で締め付けたりと攻撃を続けてくると、私の腕の感覚があるよなないような、なんかジンジンとしてきました。

技の合間を見つけてはハンマーパンチでやり返しますが突破口は見えず、サミングからチンクラッシャーで決まりそうなところをなんとか返していきます。

私を立たせるとロープへ、ショルダースルーを狙って前かがみになっている渡辺さんの首を捕まえるとぐるっと半回転して背中から落とす技(※1)で勢いを止めると私が渡辺さんをロープに振ってドロップキック!フォール2で返されるとブレーンバスターを仕掛けます!が、それを耐えられて技を解かれると同時にサミング!ちょっと見えにくくなったけどすぐ前にいるだろうからと構わずにその場跳びドロップキック!手応え(足応え?)あり!うまく当たったみたいです。息を整えながらちゃんと見えるか確認すると場外に転がり落ちたらしい渡辺さんを追いかけて場外へ。鉄柵ホイップをやり返しエプロンサイドに頭をぶつけてからリングに戻します。

渡辺さんが立ち上がりそうなタイミングでコーナーのトップに登りミサイルキック!うわっ躱された!背中を打ち付けてしまいます。そこからハーフボストンクラブにキャメルクラッチにストンピングと腰や背中に攻撃を集中されてしまいます。

やっとの思いでロープに手を伸ばしますが左手への攻撃から腰に変わったってことは…?って考える間も無くバックドロップ!続けてもう一度!さらにもう一度!というところで体をひねって抵抗すると、投げられると同時に私が渡辺さんをフォールする体勢!カウントは2、ここで一気にスモールパッケージホールド、スクールボーイ、足を掴んでジャックナイフ式と続けるもすべてカウント2で返されてしまいます!もうちょっと!


立ち上がってきたところにハンマーパンチを胸元に打つもサミングで止められる、さっきと同じようにドロップキック!は足を掴まれてそのまま4の字ジャックナイフ固め!ギリギリで返すと左手を持たれてのキャメルクラッチ(※2)ちょっ!これはっ!必死でロープに足を伸ばしてなんとか逃げる事ができました。

腕も腰も痛いけどとにかく立ち上がるとまたもやバックドロップの体勢!足を絡めて体重を落として投げられるのを防ぎます。そこから体を入れ替えて私もバックドロップを狙いますが耐える渡辺さん。強引には持ち上げられないので背中にハンマーパンチを打ってからもう一度チャレンジ!お?持ち上がったけど足をバタバタと動かして抵抗されると、あれ?くるっとヘッドロックホイップ?まずい!袈裟固めが決まる前にヘッドシザースで、え?その足を抱え込まれて渡辺さんの体が顔を覆われて動けない!ちょっ、ちょっ!!!


『これな、ヘビー級でもやられちゃうんだよな』


「16分32秒、16分32秒ー、回転片エビ固めにより渡辺芹香選手の勝ち」

最後の最後で丸め込まれてしまいました。結構粘って耐えて、特訓の成果も出せたんですけど、結局は渡辺さんの手のひらの上だったって事でしょうかね。


「晴子、次は攻撃の特訓と勝ちパターンが必要ね。お疲れ様」

渡辺さんが珍しく試合後に話しかけてくれました。そして頭をポンポンと叩いてリングを降りていきます。これは…喜んでもいいのでしょうか。


「晴子さん、放心するのは仕方ないですけど、周りを見てごらんなさい」

え?周り?なんか騒がしいなーと思ってましたけどなんでしょうか。

「お客さんが晴子さんに声援を送ってくれてますよ、聞こえませんか?」


「「「コートーネっ!コートーネっ!コートーネっ!コートーネっ!」」」

うわっ、山田さんに言われて気がつきました。皆さんが私の名前を…

「渡辺さんには負けてしまいましたけど、今日の頑張りはお客さんに届いたみたいですよ。特訓した甲斐がありましたね」

渡辺さんからは合格をもらえたみたいだし山田さんも褒めてくれたし、何よりお客さんがこんなに応援してくれてるなんて…ちょっと泣いちゃいそうです。

ゆっくりでも自分の力だけで立ち上がりお客さんに向かってお辞儀をすると琴音コールがさらに大きくなって私のことを讃えてくれているようです。できることは全部できたとは思わないけど、できることをできるだけやってこの期待を裏切らないようにこれからの試合も頑張っていきます。


左手と腰を中心に体じゅうがかなり痛いけどお客さんの声援で痛みが少し引いたみたいです。その声を噛みしめながら控え室に戻っていきます。


※1 ネックブリーカーみたいな技だと思ってください

※2 腕極め式キャメルクラッチみたいな技だと思ってください

次話は3月15日を予定しています

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