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第6話

メインイベントが終わり人通りが少なくなった頃にリングの撤去作業を始めていきます。

この大会を楽しみにしていたファンの皆さんも、なんとなく通りがかったついでに足を止めて見てくれたお客さんはどうだったでしょうかね。道場とはまったく違う環境で、特に夜の部はお祭りの雰囲気と相まって、非日常的な中での試合でしたからね。道場だといっぱいに入っても400人くらいしか見られないけどここでは1000人近くの方たちが見てくれましたからね、多分ですけど。その中から半分くらい?1/3くらい?せめて1/10くらいの方が新しくファンになってくれたら嬉しいなーと思います。


そんなことを考えながらリングの撤去です。運搬用のトラックを近くまで乗り付けてサクサクと分解しては荷台に積み込んで行きます。この作業にもちょっとしたコツがあって、積み込んだものをその逆の順番で出していけば混乱することなくリングを組み立てることができるっていうんですけど、積み込み方を間違えると時間がかかったり部品が入らなかったりがあるらしいんです。ですがそこはリング屋さん、道場に戻ったらスムーズに作業が進み、あっという間に元通りですよ。職人の技って感じですね。


翌日はお祭りの最終日。本部席の一番目立つところにチャンピオンベルトが飾られています。昨日観戦していたであろうファンの皆さんやお祭りを楽しみに来ている一般のお客さんにも見ていただいて、燦然と輝くそのベルトをパシャパシャとスマホで撮影しているところを見ると、結構なお客さんに興味を持ってもらえて嬉しいですね。そのベルトを無事に防衛した上田さんは、昨日のリングコスチューとは打って変わってシックな大人っぽい柄の浴衣姿で商店街の皆さんや会長さん、最終日に挨拶に来てくださった偉い人たち(かな?)と談笑中です。昨日はあれだけ戦って疲れているだろうに、痛いところもあるだろうに、そんなそぶりを見せないで笑顔で対応している姿に、改めて上田さんってすごい方なんだなーと思ってしまいます。


そのお陰でしょうか、ドリームファクトリーで用意していたグッズコーナーでは上田さん関連の商品がこちらの予想を大きく上回って、結構な数を用意していたはずなんですがダントツの一番人気で全ての商品がソールドアウトになってしまいました。ちなみに2番人気だったのが豊田さんと堀田さん(!)、3番人気が宇野さんと中野さんだったそうです。それを聞いた松本さんが”キーーーっ!”となったとかなかっとか。なんか堀田さんにライバル意識があるみたいなんですよね、プロレスのことじゃなくて。


あれ、なぜかCRGの大木さんがドリームファクトリーのグッズコーナーにいますよ?どうしたんでしょうか。

「なんでって、増田さんにこれも経験だからって言われて手伝いに来てるのよ。こういうことに慣れていればCRGのイベントでも使えるわよって」

イベント関係で言えばCRGさんの方が大掛かりなイメージがあって、売店とかは他のスタッフさんにお任せかと思っていたのでちょっと意外でした。どんなに小さなことでも何かの糧にしようという姿勢なんでしょうが、できればお祭りを楽しんで欲しかったなーと思います。


それにしてもですね、七夕祭り大会前は初防衛戦を無料で、しかも屋外でなんて如何なものか?みたいな風潮があったんですけど、いざ試合をしてみたら中野さんの前評判を覆す頑張りとお祭りという会場でお客さんが一体となった異様な盛り上がり、そして磐石と言っていいほどの貫禄で勝利を納めた上田さん、そしてそしてその勝利のタイミングに合わせて打ち上がった花火が幻想的なラストで締めくくってくれたおかげで、大会前の風潮を見事にひっくり返してしまいました。

これは試合が、というよりもお祭りの雰囲気がプラスに働いたんじゃなーい?と当の上田さんが他人事のようにおっしゃってましたけどね。次回も同じことができるかどうかわかりませんが、今回の七夕祭り大会自体は大成功だったと思います。試合翌日のスポーツ新聞の記事でいつもより大きく取り扱ってくれていましたし、後日、月刊女子プロレスの取材を受けることになって、初防衛戦を終えた最後の打ち上げ花火のシーンが表紙になるみたいなので今から楽しみです。


そんな感じでお祭りが終わると、いよいよ私の五番勝負が始まります。

合同練習終わりに立野さんに嫌という程リングで転がされて、山田さんには関節技をこれでもかと極められて、堀田さんのスピードについて行けずいつの間にか丸め込まれ、工藤さんの打撃やショルダータックルに吹き飛ばされながらも過ごしてきた1ヶ月ちょっと。今ではなんとか耐えられたり逃げられたり技を返すことがでるようになると、皆さん今までより一段と動きが変わってきました。立野さんは私の動きがわかるのか、出す技全てを切り返してフロントネックロックで捕まえられてギブアップ。山田さんには脇固めを切り返して腕ひしぎ十字固めを防いだと思ったら三角絞めや首4の字固めでギブアップ。堀田さんにいたっては「いっくぞー!」とロープワークでリング上を駆け回り飛びついてきたと思ったらヘッドシザースホイップで投げられたり足を絡ませて回転したかと思ったら私が上になった状態で足を極められてギブアップ。工藤さんは胸元や背中に両手での水平チョップを打ち込んできたり、ショルダースルーで後ろに投げられると思ったら前に落とされたり、近距離ながらもキチンシンクをされたりと、もうスパーリングを通り越して4対1で試合をしているようです。皆さんは3分ずつで交代できますけど私はそれを4人分受けて行くんですから本当に疲れます。入団してから一番しんどいかもしれません。


でもそのおかげでしょうか、耐久力だけはついてきたようで、守ったり耐えたり逃げたりだけじゃなくて私から攻めて行けそうな感じになってきました。

特訓に付き合ってくれた立野さんたちも「これなら先輩たちをびっくりさせられるかもね。簡単には負けなかったっていう意味だけど」

「そうですね、逆に先輩たちが焦ってしまうかもしれませんね。あれ、おかしいな?って思わせることができればある意味晴子さんの勝ちだと思いますよ」

「これだけ私たちの攻撃をしのぎ切れるんだから問題ないわよ、ドーンと構えていっちゃいなさいよ」

「よく耐えられたわね。あとは体調をしっかり整えて本番に備えるだけね」

と特訓の成果を喜んでくれているようですが、勝てないまでもいい勝負ができるようになるまではいかなかったみたいです。

でもこの五番勝負を経験したら同期の皆さんといい勝負ができるようになるといいなーと思います。


そして9月に入った頃、とある大会の休憩明けにリングに上げられ私の五番勝負の発表がありました。今月の最終土曜日の大会から毎週、第四試合試合に行われるそうです。その時、リングアナウンサーに「最後に意気込みを聞くので考えておいで」とマイクを通さずに言われたので、なんて答えようかと思っている途中で対戦相手が発表されました。

第1戦 クリス・フォークフィールド

第2戦 宇野愛菜

第3戦 豊田エツ子

第4戦 渡辺芹香

第5戦 上田ショウ子


ちょ、ちょっとー!同期の皆さんの付き人関係の先輩たちにクリスさんに、う、上田さん!?これまで五番勝負をしてこなかったのに?それに現役のチャンピオンとシングルマッチですよ?え、え〜〜〜!?

リング上で動揺、どうしよう。お客さんも面白がって煽るような声援はやめてください。意気込み?そんなのわかりませんよ、パニックです!何に笑顔でマイクを向けてるんですか、どうしようー!


「は、はい、えっと、精一杯頑張って皆さんに呆れられないようにしていこうと思います、です」

しどろもどろになりましたがなんとか言えました。対戦相手の発表前だったら、期待に応えられるような、特訓に付き合ってくれた同期の皆さんに頑張ったねって言ってもらえるような試合ができたらなぁと思ってそう言いたかったんですけど、上田さんとの、チャンピオンとのシングルマッチってこんなにプレッシャーがかかるんですね。ちょっと自信がついたと思ったんですが、そんなものあっという間にどこかに行ってしまいましたよ、本当にどうしようー。

次話は2月15日を予定しています

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