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第5話

第一部が終わり、場内の掃除と忘れ物がないか見回っていると

「プロレスのお姉ちゃん、あそこに上がっちゃダメ?」

と小学校低学年くらいの男の子に声をかけられました。あそこってリングのことかな。

「リングに上がってみたいの?」

「うん、ダメ?」

どうしよう、私が勝手に決めていいなら将来的にファンになって欲しいからリングに上げてもいいんだけど、流石にそれはダメよね。あ!

「ちょっと待っててね、もっと偉い人に聞いてきてあげるから」

お祭りの本部席で来賓の人と商店街の会長さんとお話をしている上田さんを発見したので急いで確認します。


「すみません上田さん、少しお時間よろしいですか?」

「いいわよ、どうしたの?」

「お客さんにリングに上がってみたいって言われたんですけどどうしたらいいですか」

とさっきの男の子の方を見て、あの子です、と言うと

「そうね、みんなの休憩は大丈夫?...そうだ!会長さん、面白いこと思いついたんだけど」

なんか話が大きくなりそうな嫌な予感がします。


「おう、それは面白そうだな。ショウ子ちゃんの方がいいんなら使わせてもらえるとありがたい。よし、うちの若いもんを何人か寄越すから上手く使ってくれ」

うわ、男の子だけだと思って聞いたんだけど、お祭りのイベントのひとつにして他の人たちを巻き込んじゃいましたね。


「じゃあ準備があるから今から1時間後くらいでいいかしら。晴子、あの子にそう伝えてくれる?それと予備のキャンバスを道場から持ってきてほしいの」

「はい、ありがとうございます!すぐに行ってきます!」

男の子にはこれから準備するから1時間くらい待っててね、そうしたら上がれるからおうちの人と来てね」

「うん、ありがとう!ママー!」

と保護者さんの方へ走っていったようです。

会長さんから指示を受けた青年部の人に車を出してもらい道場へと向かいました。


「七夕祭りにご来場されているお客様にご案内申し上げます。ただいまより、お子様向けにプロレスのリングを開放いたします。この機会にプロレスラーが戦う本物のリングを体験してみてはいかがでしょうか。保護者の方もご一緒に楽しめます」

場内放送が終わると親子連れで何組かやってきます。集まったところで1回3分、10組ずつくらいの人数でリングに上がってもらい思い思いに過ごしてもらうと、ロープって太いのねと驚かれたり、リングって意外と高いのねとかマットは柔らかいけどエプロンサイドは硬いとか話をしたり、お子さんはでんぐり返ししたりコーナーに登ったりしながら楽しんでいる様子です。


予備のキャンバスはお客さんが靴のまま上がってもいいようにリングに敷いておきました。思ったより小石とかゴミとかあったのでこの後の掃除の手間が省けてよかったです。


そんな風にしているうちに陽も暮れてきて第二部が始まる時間になってきました。こんな時間になってもまだ暑いので、お客さんが入ってくる前に打ち水をしていきます。少しでも涼しくなるといいな。



「大変お待たせいたしました。ただいまよりプロレスリング・ドリームファクトリー七夕祭り大会第二部を開始いたします!」


第一試合は渡辺さん・山田さん対CRG増田さん・立野さんの試合です。

タイプは違うけどテクニックのある選手たちの対戦。基本的な技だけど必殺技になるまで鍛えた技と切り返しと一点集中攻撃がえげつない渡辺さん。一瞬の隙をついて柔道仕込みの関節技を極める山田さん、冷静沈着でこの中で一番スピード感のあるCRGの増田さん、レスリング技術とパワーでどんな体勢からでも投げちゃう立野さん。キャリアのある選手とその差埋められるくらいの実績の持ち主の対戦、これって冷静に考えたらすごい通好みのカードかもしれません。

ちょっと地味になってしまうのかなって思っていた私の予想を上回るテクニックの応酬にお客さんも唸るような試合展開、派手な技を使っているわけでもないし連携技も出してないのに見入ってしまい、あっという間に30分、時間切れ引き分けとなってしました。すると、お客さんから延長コールが起こりましたが試合はそのまま終了。それくらいずっと見ていたい試合でした。


第二試合はダイヤモンズの佐々木さん・中島さん対豊田さん・工藤さんの試合です。

リングに上がった両チーム。こういう時って若い選手の方が前に出ていくのをよく見てきたし私も先輩とタッグを組むときはそうしてきましたが、佐々木さんと豊田さんがずっと睨み合っています。中島さんと工藤さんがそれを止めるというちょっと殺伐とした雰囲気になってしまっていますが、それを見たお客さんからも何かを期待するような歓声が上がってきます。お二人さん、真剣に対戦するのも大切ですけど、今日はお祭りなんですからもう少し楽しめるようにしてもいいんじゃないですか?ダメだ、スイッチが入っちゃってるみたいで睨み合いが終わりそうにありません。中島さんと工藤さんが身を呈してコーナーに下げたところでゴングが鳴らされました。


そんな先輩たちを見たからか、中島さんと工藤さんも最初から全力で戦っています。中島さんは鋭く重い蹴りで、工藤さんはパワーで。これはとんでもない迫力!やられたらやり返し防御するとか関係なくドスドス、バチバチとすごいことすごいこと。体格的に不利な中島さんが押し込まれる時間が長かったけど気迫と負けん気で乗り切り一発やり返してから佐々木さんにタッチ。第一部の宮原さんもそうでしたけどダイヤモンズの方がっって気持ちを強く出して戦っていますよね。いったい、どんな厳しい練習をしているんでしょうか、私も見習わないといけませんね。


佐々木さんが出てくると工藤さんは豊田さんにタッチ。するとチョップとかエルボーとかラリアットが乱れとび相手より先に倒れるものかと意地になっている様子。その戦いにお客さんもおおいに盛り上がってきます。お二人とも上半身が汗でビッショリでエルボーやチョップを受けるたびに汗が水蒸気みたいになってキラキラと照明の光に反射しています。


手に汗握る試合は豊田さんが中島さんを空中で一回転させるほどの衝撃のラリアットを打ち込んで試合が終わりました。うわーセコンドにいるだけで疲れちゃいましたよ。



そしてメインイベント。

一度会場が薄暗くなると重厚なパイプオルガンの音がきこえてきます。これはベルトをかけて試合が行われる時の曲で、この日に合わせて作られたそうで初お披露目となります。なんか格好いいかも。

まずは中野さんが入場してきます。袖なしの白いガウンに新しいデザインのコスチューム、気合はバッチリでリングに上がると青コーナーに寄りかかっていきます。

続いて上田さんの入場です。曲に合わせてお客さんの拍手と声援が今日のタイトルマッチへの期待が伺えます。腰にはしっかりとチャンピオンベルトが巻かれ、特に見せびらかしていないのに存在感がハンパないです。リングに上がり赤コーナーに佇む姿は王様の風格があります。女性だから女王様かな?


「試合に先立ちまして、上田選手からチャンピオンベルトの返還です」

レフェリーに預けられたベルトが目に前に来ると、じっくりと見た後に右手で軽く叩く中野さんとちらりと見て頷くだけの上田さん、どんな心境なんでしょうね。


ゴングが鳴らされるとお客さんから大きな拍手、その中でロックアップ。これはクリーンにブレイク。そこからバックの取り合い、腕の取り合いからエルボー合戦。これは上田さんの方が有利でしたね。

再びロックアップから中野さんがヘッドロックへ。ロープワークからドロップキックで場外に落とされると上田さんがエプロンサイドからいきなりエルボースイシーダ!序盤から大技を出してきますがこれは中野さんが叩き落とした!立ち上がると鉄柵に投げ、すぐにリングに戻っていきます。


上田さんが首を気にしながらリングに戻るとエルボー合戦、中野さんをなぎ倒すとフェイスロックで捕まえます。無理やり立たせるとブレーンバスターの体勢、これは中野さんが耐えます。お互いにブレーンバスターを掛け合う途中で中野さんがDDT!ジャンピングニーアタックで場外に落し、エプロンサイドで上田さんを捉えると後頭部にひざを当てた状態で鉄柵にぶつけていーっ痛い!(※1)顔かアゴかを押さえている上田さんをリングに戻しフォール、カウント2で返されます。チョップやエルボーでコーナーに押し込むと、助走をつけて走りこんできたところに上田さんのエルボーがカウンターで決まります。倒れたところにセントーン、カウントは2!


スリーパーホールドからフェイスロックに変えて動きが止まったと見るやフォールはカウント2、コーナートップに上がるとフライングボディプレス!そのままフォールするもカウントは2。

起こしてタイガードライバーを狙いますが中野さんが耐えます。すぐにダブルアームスープレックスに切り替えて投げると起き上がるタイミングでランニングエルボー!続けてタイガードライバー!これもカウント2!中野さんが耐える力がすごいです。

中野さんが立ち上がると上田さんのランニングエルボー、これを捕まえると裏投げ?みたいに抱え込んで後ろに投げました(※2)!もしかして今日のための新技?さらにもう一発!上田さんのやられっぱなしじゃなくエルボーを返していきます、そしてダブルノックダウン!


先に起き上がった中野さんが上田さんにジャンピングニーアタック!これをブロックしたら強烈なエルボー!左、右と続けてローリングエルボー!これはさっきの裏投げで返す!その勢いを生かすように回転しながら立ち上がった上田さんがランニングエルボー!これが決まるとガクッとひざを落としそうになった中野さんにタイガードライバーが炸裂して上田さんの勝利となりました。


っふーーー、最後の一進一退の攻防は息をするのも忘れるくらいの熱戦でしたが、なんとか上田さんの勝利となりました。セコンドに控え室に連れられていく中野さんを見届けるとレフェリーがチャンピオンベルトを持ってきました。


ドーーーン、パパパーン!

フェレリーからベルトを渡されて上に掲げると、そのタイミングで打ち上げ花火が上がりました。疲労困憊でダメージもあって、汗まみれで髪の毛もバサバサになってしまった上田さんですが、花火をバックに手を振ってお客さんの声援に応えている姿はとても素敵な笑顔で格好いいと思います。


「20分05秒、20分05秒、体固めにより上田選手の勝ち、上田選手の初防衛となります!」


※1 カーフブランディングみたいな技だと思ってください

※2 エクスプロイダーみたいな技だと思ってください


2001年4月11日 初代GHCヘビー級王座決定トーナメント準決勝戦を参考にしています

次話は2月5日を予定しています

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