表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/228

私の五番勝負の話 第1話

昨日で五番勝負が終わって今日の夜、同期の5人でささやかながら恒例のお疲れ会兼反省会をすることになりました。


五番勝負が終わるまではとお酒を我慢して挑んでいた工藤さんは今日で解禁です。好きなだけ飲んじゃってください!と思って用意しておいたものの、工藤さんは最初の1本だけ飲んでそれ以外には手をつけない様子。せっかく買ってきたんだけどなー。でもそんな気分じゃないみたいですね。代わりに立野さんと山田さんと堀田さんで仲良く分けて飲むようです。私はアルコールとは仲良くなれない体質だったので気分だけどもとノンアルコールのカクテルやビールを用意しました。ん〜〜〜、これなら普通のジュースでも良かったかな?お子ちゃま舌の私はそう思うのでした。


「で、自分の思うようにできなかったようだけどその辺どうなのよ」

立野さんの問いにゆっくり考えている様子の工藤さん。1戦目の豊田さんとの試合は短かったけど工藤さんのやりたいと思っていたことができていたと思うんですよね。例えばショルダータックルも迫力があったし力くらべも負けてなかったんじゃないでしょうか。そういう戦い方でやっていくって言っていたので、反省するところもあるけどやり切ったんじゃないでしょうか。セコンドで見ていても攻められっぱなしだったように見えませんでしたもん。


「そうね、豊田さんと宇野さんの試合は7〜8割くらいはできたと思うんですよ、試合が終わった後は。でも中野さん以降の試合は相手に飲まれたっていうか格の違いを突きつけられたいうか。そう考えると豊田さんと宇野さんの時も実はうまくできたんじゃなくて引き出されていたようなのかもしれないわね」

見ていた私と戦っていた工藤さんとではまるで正反対の感想なんですけど、そんなに違うものだったんでしょうか。


「私が豊田さんと対戦した時は、すべての技を正面から受け止められていた感じがしましたし宇野さんはもう少しでペースを掴めそうっていう時があったんですけど、いつの間にか逆転されて宇野さんのペースになっていたんですよ。それがキャリアの差と言ってしまえばそうなんでしょうけどね」

あら、現役時代は日本でもトップクラスの選手だった山田さんでもそんな風に思っていたんですか。


「実を言うとね、私も山田さんを見習って一発逆転勝利をを中野さんに対して狙っていたんだけどダメだったのよね」

えー、宇野さんからじゃなくて中野さんから勝とうとしてたんですか。それは知らなかったです。体格差が一番大きかったのは宇野さんを狙っていたとばかり勝手に思っていましたよ。


「なんて言うんだろうね。こう言ったら失礼なんだけど、上田さん、渡辺さん、萩原さん、横田さん、豊田さんに比べると中野さん、大森さん、松本さんたちって明らかな実力差があると思ってて。そこから宇野さんが抜け出したから次の中野さんなら何とかなるかなって思ってたんだけどね。立野さんと山田さんにシングルで負けてから人が変わったように練習してたのは見てたんだけど認識が甘かったわ」


ある意味中野さんの方も抜擢とか言われながらも五番勝負じゃないけど査定みたいなことされていたのかもしれないですね。

「無駄なことを排除して的確に技を決めていたし何より気持ちがこもっていたのよ。私もそれなりに勝負事を経験してきたけどあんなのは滅多になかったわよ」

あの日の中野さんの迫力は凄かったですよね、ひとりだけピリピリした雰囲気で周りの人が若干引いてましたもんね。

「やっぱり下からの突き上げを受けてこれじゃダメだと思ったから今まで以上に努力してこれ以上抜かれまいと覚悟を決めて練習を重ねてきたんでしょうね。これからはそう簡単に勝てないかもしれないし、もしかしたらベルトに挑戦するための実績を作っているのかもね。そういう目的があるならもっと強くなるわよ?私たちもウカウカしてられないわね」


立野さんと山田さんがうなずき合っています。上田さんから直接実績を作るように言われていたお二人ですからね。

「相手に飲まれたといえば吉岡さんよ。初対決の割に手があったというか戦いやすかったからペースを考えないでガンガン行ったんだけどギリギリのところで攻めきれなかったのよね。試合が終わる頃にはスタミナ切れで何もできなかったわ。でもなんでそんな風に思ったんだろう?」

「多分ですけど、上田さんと志村さんの関係が影響しているんじゃないですか?確か上田さんてドリームファクトリーを作る前は志村さんとライバルだったんですよね。ということは同じ団体にいたんでしょうし幾度となく対戦していると思います。その志村さんの団体に所属しているんですからある程度は似ていてもおかしくないと思うんですよ」

私の妄想と違って冷静に分析している山田さんの意見には説得力がありますね。


「なるほどね、そういう意味では渡辺さんにも少しは影響あるのかしらね。まあ渡辺さんの方がえげつなかったけど。あれは成長させるっていうよりも叩き潰すぞっていう意思みたいなものがひしひしと伝わってきたのよ。肉体もそうだけど精神的に追い詰められたっていうの?テクニックもそうだけどあの戦い方ってきっとそうよね。立野さんの時はどう感じた?」

「私の場合はデビュー前から綾さんと一緒に色々とね。だからある程度は予想して試合に向かっていったおかげでなんとか6:4で耐えることができたけどね。もちろん私が4ね。でも試合を決めにきたところは手も足も出せなかったわ」

何が6:4なのかわからないけど「そんなもんでしたか」なんて工藤さんが納得してるから、言葉で言い表せない何かがあるんでしょうね。


「それでぇ、今後はぁ、どうしていくんですかぁ?」

いつの間にかとろーんとした口調と表情で山田さんがしなを作って工藤さんにもたれかかってきます。わおっ!隣にいる私にもわかるような色香漂う仕草が妙に妖艶です。そんなになるまで飲んじゃいましたか。

「そ、そうですね、5試合を戦ってみて感じたのは全体的な底上げが必要だなってことね。パワーは通用したけどそれだけじゃダメ。わかっていたつもりだったけどそれ以上に実力差があったわ」


あーっとちょっと大きめのため息をついてからチューハイを一気に飲み干すとそんなことを言い始めました。これは思っていた以上に心のダメージが大きかったのかもしれませんね。五番勝負が始まる前は当たって砕ける!みたいなことを言ってたけど実は中野さんには勝とうとしてたらしいですから。でも立野さんも山田さんも五番勝負が終わってからぐんぐんと実力を伸ばしてベルトに挑戦できるかもってところまで認められてきてますから、工藤さんもどんどん強くなっていくんでしょうね。


あーあ、これでまた同期の皆さんと差が開いちゃいますね。

「ちょっとー、何ひとりでたそがれてるのよー。同期の中で置いてきぼりになっちゃうーとか思ってなーいー?ダメよそんなんじゃ、次は晴子ちゃんの番なんでしょー?ここが頑張りどころじゃないのー?」

なぜ堀田さんは私の考えてることが分かっちゃうんですか、そしてなぜ上着を脱いでスポブラ姿なんですか!そんな格好で抱きつかれたら頭の後ろがぱふぱふと…

「そうよー、私たちの最後のトリを飾るのは晴子なんだから。私たちの試合を一番近くでみてたんでしょ?何か感じたものとか対策とかあるんじゃないの?」

いや、どうでしょう。今できる力を全部出せたら当たって砕けるだけでいいと思ってたんですけど、それだけじゃ通用しなさそうですよね。お客さんも私たちに対する目が肥えてきたようでハードルが上がってるような気がするんですよ。できない子が頑張ってる姿を見て、よかったよーなんていうレベルでは済まされないですよね。


「ど、どうしましょう。一生懸命頑張った、だけじゃダメっぽい雰囲気ですよね…」

アハハと乾いた笑いをしてみてもすでに出来上がっている皆さんには通用するわけもなく。


「よし、これは特訓するしかないわね」

「そうですねぇ、晴子さんの必殺技を考えた時以来ですねぇ」

「そうと決まれば来週から練習終わりにね。私は五番勝負できないからその分も頑張ってもらわないと!」

「晴ちゃん、私は一生懸命頑張るのでいいと思うんだけど、この流れはもう止められないわね」


梅雨が明けて蒸し暑くなった夜に、私の意思とは関係なく私の特訓が決まってしまったのでした。

プロレスの技に自分の名前がつくって格好いいですよね

フジワラアームバー、アサイDDT、マルフジフックキックなどいろいろあります

謹んで木戸修さんのご冥福をお祈りいたします

次話は12月25日を予定しています

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ