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第9話

1週間経って第3戦目です。これまで2連敗は想定していましたが、できることなら宇野さんには勝ちたかったですね。まあ宇野さんの方も五番勝負で負けるわけにはいかないと思っていたでしょうけども。豊田さんの時と宇野さんの時の反省を生かして試合に臨んでいきます。


本日の対戦相手は中野さんです。上田さん曰く、私たちがデビューしてから気力、実力がぐんと伸びてきて一番成長してきたことからの抜擢だそうです。そういえば立野さんと山田さんの五番勝負が終わった頃くらいから戦い方を変わったたような気がします。今まではいろんな技や派手な技を好んで使っていたようですが、だんだんと使う技が減っていってシンプルな戦い方になっていった印象があります。ひとつひとつの技を大切に効果的に、感情を乗せて使っているような感じでしょうか。


さて、そんなことを思い出していると工藤さんの試合の時間が迫ってきました。まずは工藤さんから入場します。今日は今まで以上に落ち着いています。もう3戦目だからこの雰囲気に慣れたんでしょうね、堂々とした感じでリングに向かいます。お客さんからも「そろそろ勝ってくれー」みたいな声が聞こえてきます。

次に中野さんが入場してきま…おお、普段は着ない袖なしのロングガウンを着用しての入場です。前に使った時は、確か初代チャンピオン決定トーナメントだったでしょうか、そのくらいの気持ちでこの試合に臨んでくるようです。それにしても通路からリングに向かっている時から気迫というか殺気というか、中野さんの周りだけピリピリとした空気感ができています。お客さんもそれに気づいたのでしょうか、声をかけようにも黙ってしまったり腰が引けているような感じがしますね。セコンドについている山田さんもちょっと顔がこわばっています。

リングに上がりガウンを脱ぐと、さらにそれが強く感じるようになって私も怖気ついてしまいましたが、さすがに工藤さんは…ちょっと表情が引きつっているみたいです。ですがそれを気づかれないように軽くステップを踏んだりストレッチをしたり、大きく深呼吸をしたりしてなんとか落ち着かせようとしています。


「レディー、ファイッ!」

ゴングが鳴らされて試合が始まりました。静かな立ち上がりからロックアップ、工藤さんがロープまで押し込み綺麗にブレイク、元に戻ります。続いてロックアップ、今度は中野さんがロープまで押し込み綺麗にブレイク、と思いきや離れ側にバチーンと工藤さんの頬を引っ叩くと「来いよーっ!」挑発します。そこへ工藤さんが駆け寄りロックアップをすると中野さんは大きな声を出してその場に踏みとどまっていきます。力のこもったからヘッドロックへ移行すると、工藤さんの振り払おうとする動きを絶妙なタイミングと体さばきでそれを阻止していきます。腰にエルボーを当てられてもロープに投げようとするのにも全くヘッドロックが外れそうにもありません。工藤さんの動きが少しおさまると、さらにグリグリと力を入れて絞り上げていきます。あれって腕の骨が頬の骨に押し当てられてかなり痛いんですよね。何も抵抗できないでいると「どうしたオラー!」なんて言われてしまっています。


それでもなんとかロープに足をかけてヘッドロックが外されると転げまわりながら場外へ落ちる工藤さんを追いかけて中野さんも場外へやってきます。工藤さんを捕まえると力一杯の鉄柵ホイップ!強引に起こしてもう一回!鉄柵に投げられるたびにガシャーンと大きな音が響き崩れ落ちる工藤さん。それでもまた捕まえて、今度はリングの鉄柱に頭からぶつけていきます!直前で腕を出してカバーしましたがかなりのダメージを負ってしまいました。


そんな工藤さんと試合を続けるのにリングに戻して…と思ったら、胸から上だけリングからはみ出るように調整すると、中野さんはエプロンサイドを走り頭をめがけてニードロップ!工藤さんはお客さんの悲鳴とともにそのまま場外に落ちてしまいました。怖いー、中野さん怖いー。これまでもちょっと怖いかなと思ったことはありましたが今日は一段と怖いです。


「五分経過、五分経過ー」


私は工藤さんを励まして、お客さんの応援の後押しもあってなんとか場外カウント18でリングに戻るこると、そこへ宇野さんのフォール、カウント2で返されると顔に手を当てて押し付けるようにもう一度フォール、これもカウント2、次にヒジを押し付けて体重をかけてフォール、カウント2、今度は自分の手をロックした片エビ固めで強引にフォール!これはカウント3が入ってしまうギリギリで返されました。危なかったー、強引すぎますよ中野さん。連続してフォールを返すのも結構体力を使うのを知っててのことでしょうけど。


「どうした、終わりか!」

やっとのおもいで立ち上がろうと四つん這いになった工藤さんの顔を叩きながらそんなことを言う中野さん。それに対して叩かれるたびに力を入れて少しずつ立ち上がった工藤さんはお相撲の突っ張りのようにニュートラルコーナーまで中野さんを押し込むと、対角線のコーナーへ投げると串刺し式のジャンピングボディアタックが炸裂!続けてオクラホマスタンピート!2回コーナーにぶつけてからマットに叩きつけフォール!カウント1で返されてしまいます!カウント1で返すことで「お前の技なんて効いてないんだぞ」というのをアピールしているみたいです。そんなはずはないんでしょうけど、これは五番勝負の相手に抜擢された中野さんの意地でしょうか。


工藤さんは中野さんを起こすとコーナー近くでボディスラム、セカンドロープまで登ってフライングボディプレスでフォール!カウントは2!ここで必殺技を出すぞ!とアピールしてから中野さんの髪の毛を掴んで起こすと、その手を振り払われて連発のエルボーを受けてしまいます。ロープに走られてジャンピングニーアタック!バランスを崩して一歩二歩後ろに下がってしまいましたが倒れずに耐えました!それを見た中野さんはもう一度ジャンピングニーアタック!これでも倒れない!さらにもう一度!これはがっちり受け止められて前に投げられてしまいました。なんていう荒技でしょう。まさか受け止められ、さらに投げられるなんて思ってなかった中野さんは頭を抱えて倒れています。そこに工藤さんが組み付いたかと思うとブレーンバス…強引に持ち上げたので崩れそうになってしまいましたけど、しっかりとしたブレーンバスター!これにはお客さんも「え、ええ?ああぁー、うわー、ぶっこぬいたーっ!」と興奮したような声を出しています。


投げ切ったのは良かったのですが工藤さんは疲労困憊です。ですが試合はまだ終わっていません。今度こそあの必殺技を!中野さんが立ち上がってくる前にもう一度アピールするとがっちり捕まえます。抵抗する中野さんは工藤さんの背中にエルボーを落とし腕を振り払うと胸元にヒザ蹴り!そして立ったままフロントネックロック!腕を振り回し動き回ってロープに逃げようとしてもなかなか引き剥がすことができません。工藤さんはそのまま持ち上げて後ろに投げようと試みたようですがそれもできません。そこに中野さんが後ろに倒れることでグラウンド式のネックロックに!しばらく動けないでいるとレフェリーが試合を止めてしまいました。何か危険を察知したのでしょうかレフェリーストップで中野さんの勝利となりました。


「8分37秒、レフェリーストップにより中野香織選手の勝ち」


急いで山田さんがリングに上がり処置をすると、工藤さんが急に動き出してレフェリーに止められています。もしかしたら気を失ってしまったのでしょうか?負けたことに納得いかなかったのでしょうか、試合が終わったことを知らされるとマットを叩いて悔しそうにしています。そんなやり取りをずっと見ているわけでもなく中野さんは控え室に戻っていってしまいました。私たちも足元がおぼつかない工藤さんを抱えて控え室に戻ります。あとで山田さんに聞いたところ、フロントネックロックで落とされてしまったそうです。なんか嫌な試合の終わり方でした。




そんな試合から一週間が経って、明日はCRGの吉岡さんとの対戦です。ドリームファクトリーの選手ではないので、どういう選手でどういう戦い方をするかの情報が少なかったのですが、事前にいくつかの動画を見ることができたので同期のみんなで対策を立てることにしました。基礎的な動きや技はできているようですね、そしてテクニックや試合運びにはさすがといった感じですね、とか立場をわきまえず勝手なことを言いながら。これといった体力とか必殺技とか特徴的なものが見られなかったので、このくらいなら工藤さんも対応できそうということで意見がまとまりました。

といっても実際に試合になったらどうなるかわかりませんし、あまり深く考えすぎないほうがいいのかもしれません。出たとこ勝負といっては乱暴ですが、そのくらいの感覚でいたほうがいいのかもしれません。何かあっても対応できるように仕込んだつもり、みたいなことを前に上田さんに言われていましたからね。


なんて思っていた昨日の同期の対策会議のことを呪ってやりたい気分です。

試合はというと、体力的には工藤さんが勝りスピードや俊敏性は同じくらい、それ以外のスタミナやテクニック、冷静さなどはほとんど吉岡さんの方が勝っていました。力任せでピンチになったところを脱出したり、試合終盤のフォールをするまでの技の畳み掛けるところは良かったものの、そこ以外はずっと吉岡さんが手綱を握っていたというか手の上で踊らされていたような展開が続きました。

豊田さんのように力でねじ伏せる訳でもなく、宇野さんのように自分のペースを崩さずに試合を進めていた訳でもなく、中野さんのように気合を前面に押し出してゴツゴツとした試合をした訳でもなく工藤さんの持っている力の最大限に引き出して、さらにもう少し出させるような戦い方できたということはとんでもない実力差があったんでしょうね。

こうした戦い方ってどこかで見たような気がするんですよね。誰だったかな、すごく近くで見ているような選手だったような?CRGにはお知り合い以上の選手はいません。ちゃんと試合をした選手といえば大木さんと志村さんか…あ!上田さんと似ているかもしれません。でも吉岡さんと上田さんてどこかで繋がっているのでしょうか?そういえば志村さんが上田さんのライバルと言われていた時がありましたね。志村さんに影響されてCRGに入った後に上田さんにたどり着いて、戦い方を模倣しているうちに吉岡さんの戦い方になったのかもしれませんね。


これが本当かどうかはわかりませんが、そういう想像を膨らませながら楽しむのもプロレスの醍醐味ですよね。

次話は12月5日を予定しています

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