第4話
ジャスミンさんから教わったサイドキックが武術的に優れていてもプロレスではそのまま(余程のことがない限り)使えないと聞いてかなりショックだったものの、それならあの映画みたいな蹴り方と使いかたをすればいいんじゃない?と、これまたジャスミンさんに教わったことで、せっかく練習したかとがムダにならずに済んで良かったーと思う今日この頃です。
さて、皆さん多少のムチャや予定の変更などもあったようですが奉納プロレスの準備も着々と進んでいて、いよいよ前日に迫ってまいりました。それまでは商店街の会長さんやGPWOのスタッフさんたちと上田さんが話し合いを重ねて短い期間での開催にこぎつけ、神様に奉納しても恥ずかしくない催しになるだろうと、会長さんが自慢していました。
その間の上田さんはほとんど合同練習に参加することがなかったのですが、そのまま試合をしても大丈夫なのでしょうか。ほら、「一日休んだらそれを取り返すのに三日かかる」なんて言われていたじゃないですか。今回は一日どころか何日もとなっているのでチャンピオンとしての責任とか威厳とかどうなってしまうのかな?なんて思ってしまうのですが、反面、上田さんなら堂々と華麗に、いつものように格好いい姿を見せてくれるでしょうと思ってもいるんですよね。長年、実績と信頼を重ねてきているのですから。
そして一番気になるお天気はというと、曇り、所により一時雨と、どうにも中途半端な予想が出ていまして、でもこのくらいなら決行しちゃいましょうということで、リングを神社の境内に設置することになったわけですが、ここで問題が発生してしまいまして、リングを運ぶ大型トラックが道幅が狭くて境内まで入らないことがわかったそうです。そんなの見たらわかるだろう!なんて意見もありましたが、こういうところでミスしてしまうのは急に予定を組んでしまった弊害なんでしょうね。そうも言ってられないと色々手配をして小型トラック何台かで分けて運ぶことになりました。それでもギリギリのところまでしか行けないということでそこからは人力で運ぶことになり、そんなんじゃリング屋さんだけじゃ間に合わないということで私たちもお手伝いに繰り出されたのです。
そんなわけで昼からの練習を取りやめて神社に急行しリング屋さんの指示に従って行動開始!部品を運び入れる前にリングの設置場所にブルーシートをリングよりふた回りほど大きく広げてその上にリングの鉄柱を置く位置を決めてゴムマットを敷いていきます。そこへ解体したリングの部品を運んで順番に組み立てていきます。まずはリングの鉄柱四本をゴムマットの上に仮置きし下の方にある穴にワイヤーを通していきます。その鉄柱をつなぐように外枠の鉄骨をはめて正四角形になるように位置を微調整。そこへ枠内の鉄骨をはめていきますが、もうこれが重労働ですよ。鉄骨なんて人力で運ぶものじゃないと思うんですよ、重いし硬いし痛いし。
その鉄骨が組み終わるとその上に木の板を並べていきます。板といっても一枚の厚さがまな板くらいあるんですから。長さもリングの半分くらいあって、これも運ぶだけでも大変です。持ってきたところから隙間なく鉄骨の上に並べていきます。
木の板が並べ終わったらその上にマットを敷きます。このマットは見た目は普通のウレタンマットのようですが、ゆっくり力を入れるとゆっくり沈み、ある程度力が入るとその衝撃を吸収してくれる特殊なマットみたいです。このマットは男女・団体・国内外でも統一されていないらしく、他の団体で試合をするときは何度か受け身を取ってその日の戦い方を変えるとか使う技を変えるとかするようです。特に海外の団体だとマットがなかったり薄かったりして衝撃がもろに体にかかるというのでパイルドライバーとかの技が禁止されているところもあるらしいです。
そんな大切なマットを敷き終わると、普通のガムテープだと粘着力が強くて剥がすときに綺麗に剥がれないので、大工さんや引越し屋さんが壁や床を傷つけないようにクッション材を貼るのに使う養生テープというテープでずれないように固定していきます。
それが終わると表面のキャンバスシートを張っていきます。ドリームファクトリーの団体ロゴがカメラマンさんが集まる方からよく見えるように広げると、コーナーに合わせて対角線に引っ張りシワにならないようにバランスを見ながら引っ張って固定していきます。その作業と同時進行でコーナーの鉄柱にロープを固定するターンバックルという金具をセットしていきます。
キャンバスマットを張り終えるとロープをリングに運び入れます。ロープといっても太いワイヤーにゴムのカバーが付いているものなのでこれもかなりの重さがあります。それも三本!このロープも各団体によって違うみたいで、これも海外の団体だと本物のロープを使っているとかで、体重を預けるにはかなり危なくてロープワークなんてできないところもあるそうです。空中殺法なんてもってのほかなんだとか。こういうのも事前にチェックしてから試合をしないといけないんですね。まだ私はそういうリングで試合をしたことがないんですけど、いざという時のために覚えておいたほうがいいかもしれませんね。でも、あるのかなーそんな状況。
ロープは下からサードロープ・セカンドロープ・トップロープの順番でターンバックル(金具)に引っ掛けていきます。このときはまだピーンと張らずにしておきます。一緒にエプロンサイドを隠すようにキャンバスを張っていき、それが終わってから金具を締めてロープを張り、その金具を隠すコーナーマットをセットします。最後に赤コーナーと青コーナーにタッチロープをくくりつけ、リングの下に張っていたワイヤーを締め付けて終了です。リング屋さんに最終確認をしてもらってOKが出たらリングの設営の出来上がりです。あー疲れた。
練習とは違う疲れですね。リング屋さんて毎回こんなことしてると思うと本当に頭が下がります。こうして裏方さんの作業を経験するともっと大事に道具を使わないとなーなんて思っちゃいますね。
今回は屋外で試合をします。もしかしたら当日までに雨が降るかもしれないということでロープ、キャンバス、マットを一旦外して鉄骨だけの状態にしてブルーシートをかぶせておきます。水を吸ったマットやキャンバスはかなり重くなるそうなので雨に濡れないように保管しておきます。
私たちの作業が終わった頃から屋台を組み立てる皆さんや商店街の皆さんがテントやテーブルなどを運び始めました。そんな作業を横目に見ながら明日のスケジュールと雨だった場合などの確認のミーティングをしていくのでした。そこで明日の対戦カードの発表がありまして、以下のようになりました。
第一試合 宇野さん・堀田さん対大森さん・私
第二試合 中野さん・工藤さん対横田さん・ジャスミンさん
第三試合 松本さん・立野さん対渡辺さん・山田さん
メインイベント 上田さん・豊田さん対CRG増田さん・萩原さん
全四試合、すべてタッグマッチで行われます。この試合の見所は、
第一試合は宇野さんと堀田さんのルチャドーラが見栄えあるファイトスタイルで第一試合から会場を盛り上げ、大森さんと私がどのくらい食らえつくか、私のキックが実戦で使えるかが注目の一戦です。
第二試合は工藤さんの五番勝負を見据えて、コーチ役だった横田さん、初対決のジャスミンさんとの絡みがどうなるか、いい結果が出るように期待したいですね。
第三試合は松本さんと立野さんのレスリング経験者コンビと、渡辺さんと山田さんのテクニシャン師弟コンビ対決です。多分グラウンドでの展開が多そうで派手さが少ないと思いますが、ドリームファクトリーの根っからのファンのお客さんはじっくりと見ることができる対戦だと思います。
そしてメインイベントはチャンピオンベルトのお披露目をしながらも実力者同士が集まった組み合わせとなります。上田さんはトーナメントで戦った豊田さんと組み、萩原さんはCRG増田さんと組みます。増田さんは当初予定していた志村さんの代わりで出場だそうです。その志村さんのケガの状態は順調に回復しているそうですが、今回の大会には間に合いませんでした。
ん?ってことはですよ。急遽奉納プロレスが決まったと言っていたけど、もともと予定していたってこと?
あー、チャンピオンベルトのお披露目大会はするつもりだったのをこちらにスライドさせたことですか?だから上田さんは前向きだったのかな?GPWOのスタッフさんはドリームファクトリーの大会に直接関わってなかったから巻き込まれた感じだったのかな?なんて思っちゃったりしました。これが大人の駆け引きなんですかね。
ベースボール・マガジン社 プロレス入門を参考にしています
次話は10月15日を予定しています