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工藤さんの五番勝負の話 第1話

「はいはい、おふざけはこれくらいにして、ここからはちょっと真面目な話ね」

上田さんはベルトの入ったケースを私から受け取ると、中身を確認してからフタをしてテーブルの上に置きました。


「じゃあ四人に新たな予定を話しておくわね」

四人ですか。これは私がまた後回しにされちゃう感じですね。まあこれまでの成績が他の同期の皆さんと比べたらよくないですから仕方のないことです。


「まずはみづきと綾、二人にはこのベルトに挑戦できるだけの実績づくりをお願いするわ」

おおー、と三人で声が出ちゃいましたけどこれはとんでもないことじゃありませんか?ベルトに挑戦なんてそう簡単にできるわけじゃないですからね。お二人もヨシっ!と拳を握りしめてちょっと顔がうっすらと赤くなっているような気がします。


「あー、いますぐってわけじゃないのよ?」多分、三〜四回くらい防衛できたらの話なんだけどね」

それにしてもですよ、これはまたとないチャンスじゃないですか。でも、実績作りってどうすればいいんでしょうかね。


「そうねぇ、まずは未来(横田さん)・香澄(萩原さん)・芹香(渡辺さん)・エツ子(豊田さん)と対等な試合ができるように。できればタッグでもいいから一本取れるとタイトルマッチが組みやすいかな?」


おおー、とこれまた三人で声が出ちゃいましたけど、これはとてもハードルが高いかもしれませんよ?今だって対戦してもやられる時間が長くて、実力も体力もテクニックもとても敵わないっていうのに。これは相当頑張らないと難しいかもしれないですね。なんて思ってお二人を見ると——

「防衛戦はいつやるんですか?」

「私たちはいつまでに実績を作ればいいんですか?」

などなど、ハードルの高さがないかのようにいろいろと質問をぶつけていきます。うわー、やる気まんまんですね。


「ちょ、ちょっと落ち着いて。初防衛戦に関してはベルトの価値を高めたいから相手や場所、日時を慎重に決めたいのよ。だからもう少し時間をちょうだい。それ以降の防衛戦は一〜二ヶ月に一試合として、順調に防衛できると仮定すると夏くらいかしらね。それまでに誰が見てもわかるような実績を作れる?二人のどちらか、両方でも構わないけどね。もしそれができたなら私の独断で指名するからよろしくね」


「はい、わかりました」二人が声を揃えて返事をします。多分ですけど、この話を聞いたことで新たな目標ができて今まで以上に張り切っていくんでしょうね。何たって大森さん、松本さんを追い抜いての大抜擢ですもんね。でも、このことは大森さんたちは知っているのでしょうか。


「んー?みんなほど詳しく言ってないけど一応伝えてあるわよ?チャンスは公平に、結果はそれぞれの頑張り次第ね。これであの二人も今まで以上に頑張ってくれるといいんだけどねー」

私たちがデビューしてから何度も同じような話を聞いたことありますが、今でもそんなこと言っているということはあんまり変化が上田さんには届いてないってことなんでしょうね。


「じゃあ次、江利花、それと晴子。五番勝負するわよ」

え?私?...えーーーっ!工藤さんと私?私?だって順番が、堀田さんじゃないんですか?


「晶はね、あちらの社長さんの意向で今回は待ってほしんですって。アイドル活動を少しずつ増やしていくみたいよ?」

「そうなのよ、やっと残りのメンバーが決まったのよ。それでメンバーと社長とスタッフで方向性を話し合ったり合同練習とかのスケジュールを優先させたいみたい」

このことは堀田さんも事前に知っていたようです。アイドルのお仕事も本格的に始まるわけですね。何というか嬉しいやら寂しいやら。でも方向性ってこの時期に決めるものなんですね。以前は健康的なグループを、みたいなこと聞いたことあったけど変わったのかしらね。

それにしても私ですか?かなり早くないですか?


「今回の五番勝負は、江利花が夏前に、晴子は秋を予定しているわ。二人には試練になるような相手と交渉中だから準備しておいてね」

準備しておいてねって言われてもですね、何をどうすればいいかわからないわけでして。

「勝敗はあまり気にしなくてもいいけど勝てるならそれに越したことはないわ。今まで積み上げてきたものを精一杯出してくれればいいわよ。そうねえ、プラスで何か新しい何かを見せてくれると嬉しいかな?」


新しい何かですか。いやーどうしよう、打撃技が苦手でキックの練習を始めたからそれでもいいのかな?これは立野さんや工藤さんと話し合った方がいいかもしれません。経験者からのアドバイスは貴重ですし、これから同じ試練に向かっていくわけですから建設的な話し合いができると思うんですよ。そして今回は辞退したけど、いつか五番勝負が組まれる堀田さんの力になれるかもしれません。いやー、ホントにどうしましょう。



           ——時間を遡ってトーナメント決勝戦の日の夜——



「それではみづきちゃん、今更だけどトーナメント一回戦突破おめでとう!そして残りの私を含めた四人は爪痕を残すことなく負けちゃって残念でした。まあ負けたってことはまだまだ伸び代があるってことで次のチャンスを逃さないように特訓していきましょう!それでは乾杯!」

堀田さんの掛け声で始まった同期だけのお疲れ会ですが、冒頭の言葉を聞いただけじゃお疲れ会というより残念会のようです。そして私はトーナメントに参加できなかった私はお疲れ会に出てもいいのでしょうか。


「晴子、今回は間に合わなかったけど、だからと言って能力がないわけじゃないんだから今まで通り真面目に練習していけばいいのよ」

「そうですよ晴子さん。焦らずしっかりと地力をつけていきましょう。そしていずれはこの五人の誰かと誰かでチャンピオンベルトをかけて戦えるようにするんですよ?」

「そうよー晴ちゃん、これからも一生懸命練習していけばいずれはベルトに手が掛かるかもしれないんだから。晴ちゃんはもしかすると何か切っ掛けをつかめば一気に駆け上がっていくタイプかもしれないわね」

ちょっと俯き加減でいると立野さん、山田さん、工藤さんが励ますように声をかけてくれます。うん、チャンピオンになれるかとかは別として、落ち込んでいる暇があったらもっと練習して、少しでも強くなるしかないんですよね。


「ちょっとみんなー、晴子ちゃんを甘やかさないでよ。あんたはね、もっとハングリー精神を持ってガムシャラにやっていかないとダメなんだからね。うちの社長だったら〝だったら今から走ってこい!根性が足らんのじゃー〝って言ってるわよ」

こんな声色を変えてまで言わなくてもいいと思うんですよ。


「まあまあ晶ちゃん、今時そんなこと言ったらパワハラとかモラハラとかうるさいわよ?成長の仕方なんて人それぞれなんだから仕方ないじゃない」

「それも社長が言ってたわよ。そんなだからちょっと厳しいこと言うとすぐ辞めちゃうから育つものも育たない、せっかくの才能が勿体無いって」

「そうかもしれないけどさ、もしかしたら晴子は大器晩成型なのかもよ?それに江利花が言うようにきっかけ次第でどうなるかわからないよ?」

「そうですね、晴子さんには得体の知れない何かが眠っているような気がするんですよ。今はそれが自分でコントロールできないだけで、いずれはドリームファクトリーを代表する選手になれるかもしれないんですから」

「そうやってみんなで甘やかして。でもその得体の知れない何かって話、わからなくもない気がするのよねえ」


堀田さんがそんなこと言うと四人が揃ってジロっと私のことを見ています。いやいや、そんなことありませんから。最近やっとシングルマッチでも勝てるようになったくらいですし、同期対決では立野さんと山田さんと工藤さんには一回も勝ててないんですから。私としても上田さんの今日の試合と試合後の出来事でもっと頑張らないとって思っているところですから。本当に大器晩成だったら嬉しいんですけど、実際のところは早く皆さんに追いついていい勝負ができるようになれたらなー。


「そんなことより、みづきちゃん、綾ちゃん。次の挑戦者に選ばれたらどうするの?」

「そうなったら嬉しいけどまだそれどころじゃないわね。今日のタッグマッチだってやられてばっかりだったもの。もっと耐久力とかスタミナとかつけないといい勝負にもならないわね」

「私も打ち合いになると負けてしまうことが多いですから、体を厚くするか回復力を早くできるようにならないとダメですね。でも変に筋肉をつけると技に入るスピードが落ちてしまうと思うと…」

このお二人がここまで考えているなら私なんてまだまだですね。

次話は9月15日を予定しています

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