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第17話

プロレスリング・ドリームファクトリー旗揚げ4周年!

2日連続で投稿します!第2夜

よろしくど~うぞっ!

試合終了後にあるベルトの授与式とか記念撮影とかマイクとか、そんなことよりも体のケアの方が大切じゃないですか!と思いながら控え室の前で上田さんが戻ってくるのを待っています。本当ならすぐにでもリングに駆け寄って控え室に連れてきたいんですけど「きちんとファンサービスをして、マスコミサービスをして、最後まで自分の足で帰ってきた方が格好いいじゃない」なんて言われてしまったら何もできなくなってしまい、大人しく待っています。


リングから降りてもまだ記者さんに囲まれてインタビューに受けていて、それが終わるとやっと控え室に戻ってきました。すぐに座ってもらいリングシューズの紐やテーピングをほどいたりサポーターを外すお手伝いをします。このサポーターってマジックテープで固定するタイプなのでちょっと手間がかかっちゃうんですよ。その間に医療チームの方々が上田さんの目に光を当ててみたり首をひねったり診察をしていきます。それが終わるとコスチュームを脱ぐのを手伝ってシャワー室へ向か宇野ですが、胸元や背中を中心に肌が見えるところや見えないところに赤く腫れていたり青いアザができていたり。これまでの、今日の試合の激しさを物語っているようです。


ところで、なぜ私が上田さんのお世話をしているかというと、指名されたわけでもなく誰かに言われたわけでもなく、私でもわからないうちに付き添っているという感じです。渡辺さんが言うには「入団テストのパフォーマンスが気に入られたんじゃない?同類を見つけたって感じで」ということだったんですが、まさかねえ。

いわゆる付き人というものは制度的にないのですが、先輩たちをお手伝いしているうちに自然とそういう感じになってるようです。ちなみにですが、立野さんは萩原さんに、山田さんは渡辺さんに、堀田さんは宇野さんに、工藤さんは豊田さんに付いています。そこでプロレスのこととか一般社会の礼儀とかを教わったりしています。


タオルを持って上田さんのシャワーが終わるのを待っていると「うぅぅ〜」とか「いっ」とか聞こえてくるのは、試合の興奮が冷めて痛いのを感じられるようになったんでしょうか。そぶりを見せないけどあれだけ攻められていたんですから当たり前ですよ。


「大丈夫ですか?何か声が聞こえたんですけど」

「ええ大丈夫よ、ありがとう」


なんて言ってますけど大丈夫なわけないんですよね。今日だけで2試合、トータルで1時間近くも豊田さんとクリスさんと戦っていたんですから。ラリアットだってジャーマンスープレックスだって逆水平チョップだって他の選手と比べても一発一発がメチャメチャ強いはずなんですから。


「いや〜さっぱりしたわ。試合の後のぬるめのシャワーは最高ね、このために試合していると言っても過言でもないわね」

そんなことを言いながらシャワー室から出てきた上田さんにタオルを渡します。ある程度は同意できますが過言すぎると思うんですよ、居酒屋のサラリーマンが仕事終わりにビールを飲んだあとみたいなことを言ってるんですから。


バスタオルを一枚巻いただけの姿の上田さんが控え室に戻ろうとするとき、ちょっとフラつい感じがしたので体を軽く支えながら移動して、すぐに椅子に座ってもらいました。本当に大丈夫でしょうか。

上田さんの髪の毛を乾かしながらいつものように世間話をしていますが、今日に限ってはどうしてもトーナメントの話になってしまいます。さっきもフラついたみたいですけど、上田さんてあんまり痛いとか辛いとかってないんですね。

「そんなわけないじゃない。痛いし辛い時もあるわよ。でもそれを言ったからって体調がよくなるわけじゃないし痛いのがなくなるわじゃないから言わないだけよ」


私だったらすぐに言っちゃいそうです。痛みとかを感じないんじゃなくて我慢してるってことなんですね。だからあんなに攻められても立ち上がれるんでしょうか、なんて我慢強いんでしょう。

「う〜ん、それはちょっと違うかしら。どちらかというと、この試合ではまだ自分の得意な技、必殺技を出してないじゃない、その技を出すまではまだ負けられないって感じかしらね。それでも負けちゃうのは自分の力が足りなかっただけだからね」


なんて話していると、不意に上田さんが顔をあげました。鼻を押さえている指の間から血が出てるじゃありませんか!急いで他のタオルを渡して押さえてもらいます。確か首の後ろを叩いたり詰め物をするのは間違った知識なんですよね。でもこれって試合のダメージが原因なんでしょうか。もしそうなら、なんでそんなになるまで戦わなきゃいけないんでしょうか。

「まあ私の場合はね、まだ肩をあげる力も意識もあるのに諦めちゃうと、あの時ああしておけばよかった、こうしておけばってよかったって後悔しちゃうのよ。たとえダメージが蓄積されるとわかっていても、動けるうちは動いちゃうのよね。そのまま負けちゃえば楽なのはわかっているんだけどね」


それはそうかもしれませんけど、試合が終わった後に鼻血が出るような試合ばっかりしていたら本当にどうにかなっちゃいませんか?

「……そのうちポックリ逝っちゃうかもね。……ははっ、ちょっと刺激が強かったかしら?そんなことにならないように激しい練習をしてるけど、私たちはいざという時はそのくらいの覚悟で試合に臨んでいるわよ。確かに体にキツイことしてるけど、その先には晴子の思ってる以上のキラキラした世界が待ってるわ。見てたでしょ?試合が終わったらお客さんがリングサイドまで駆け寄ってくれて大きな声で応援してくれるんだもの、レスラー冥利につきるわよ。みんな満面の笑みだったし、中には感動して泣いてくれてる人だっていたじゃない。プロレスラーってそういうことができるのよ。晴子はどうする?怖くなった?」


今はまだわかりません、少し考えさせてください。でもプロレスから離れることはないです。

「そう、そのうち無理をしなくちゃいけない時が来るでしょうから今は無理をせず時間の許す限り考えておきなさい。これからもビシビシ鍛えてあげるから一緒に頑張りましょうね」

はい、よろしくお願いします!


上田さんを通してプロレスラーの強さ、気持ち、覚悟など、自分で思っていた以上のことのほんの一部でも知ることができました。これからの練習をどうするか、今まで以上に考え直さなきゃいけないのかもしれません。


夜の虹を架ける(双葉社)を参考にしています

至高の三冠王者 三沢光晴(ワニ・ブックス社)を参考にしています

次話は8月15日を予定しています

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