第12話
実)さあ第四試合は引き続き初代チャンピオン決定トーナメント第二回戦第二試合であります。青コーナーからは豊田エツ子選手の入場です。おっとりとしたフェイスとグラマラスなボディからは想像しづらいパワーファイトというギャップから観客のハートをがっちりキャッチ、大きな支持を受けており、上田選手のエースの座を狙う一番手ではないかとファンの間ではささやかれています。第一回戦は同じパワーファイターの工藤選手を13分06秒で下しています。今、ゆっくりと場内を見回し勢いよくリングイン。
対する赤コーナからは横田未来選手の入場、淡々とリングに向かっていきます。普段はあまり目立つことはなく、どちらかといえば縁の下の力持ちという存在ではありますが、ここぞという時の暴れっぷりはどの選手でも手をつけられないほどの勢いがあります。一回戦は堀田選手を15分10秒で難なく下し二回戦へとコマを進めてきました。その試合ではボディへの攻撃を集中していたのが印象に残っています。足元を確認してロープを跨ぎました。
「ただいまより、ドリームファクトリー初代チャンピオン決定トーナメント第二回戦第二試合、30分1本勝負を行います!」
実)さあゴングが鳴らされました。佐倉さん、この試合の見どころと言ったらどの辺りになるでしょうか
解)そうですね、普段から対戦している両選手ですから手の内はわかってると思いますので、体格差がある分、横田選手はどれだけ意表を突くかウラをかくことができるか、豊田選手は体格差にモノをいわせて正面から力でねじ伏せられるかだと思いますがどうでしょうね。
実)ゆっくりとした動きから組み合った、横田がロープに押し込むとロープへ、豊田をリープフロックでやり過ごすと返す刀でドロップキック!顔面にクリーンヒット!すぐに丸め込んだラ・マヒストラル!これはカウント2!横田がいきなり仕掛けてきました!
解)体格差がありますからね、時間かければかけるほど不利になってしまうと思っての作戦だと思いますが、豊田選手を仕留めるにはもう二手三手必要だったんじゃないでしょうかね。
実)豊田を起こすと再びロープへ、ドロップキックはロープを掴まれて不発、立ち上がったところにショルダータックル!その勢いで場外へ転げ落ちてしまいました。豊田がロープへ近づくぞ?ロープを持った、プランチャー!横田は大ダメージを受けてしまいました!豊田がプランチャーなんて珍しいですね。
解)豊田選手がこのトーナメントにかける思いがそうさせたのではないでしょうかね。
「10分経過、10分経過ー」
実)横田のボディ攻撃が随所に見られなかなかペースが掴めない豊田、コーナーで息を大きくしています。横田が走り込んでバックエルボー、ローリングソバット!連続の串刺し式!これは逃げ場がないぞ!さらにコーナーに登り豊田の頭を掴むとリバース式のカーフブランディング!(※1)カバーは2ですが危ない技が続きます。
解)技が的確に決まっていますが豊田選手から3カウントを奪うには至っていません。短期決戦で攻めている横田選手の心理状態が心配ですね。それにしても豊田選手は攻められっぱなしですが耐久力がすごいですね。
実)横田が豊田をロープへ、その手を掴み返し横田がロープへ、豊田のキチンシンク!もう一度ロープへキチンシンク!さらに河津落とし!ここから豊田の反撃開始か!横田を起こすとブレーンバスター…まだ落とさない…まだ落とさない…ここで落とした、滞空時間の長いブレーンバスターに会場からも大きな拍手が送られてきます。ここで髪の毛を掴んで起こすとその手を払い横田のエルボー!チョップをかわしボディにローリングエルボー!これは効いたか、豊田がロープに寄りかかるように倒れていきます。そのロープを掴んで立ち上がるところに横田が走り込み、その勢いのままロープを掴み回転しながら蹴りを浴びせた!(※2)そこからカバー!カウント2!なんと身軽な技でしょうか!
解)先ほどのリバース式のカーフブランディングや今の浴びせ蹴りなど、見せたことのない技を出してきていますね。
「15分経過、15分経過ー」
実)おっと、急に動きが鈍くなってきたか横田、なかなか立ち上がってきません。スタミナ切れでしょうか。豊田のチョップにエルボーを返していきますが力が入っていません。
解)短期決戦の作戦が裏目に出てしまったようですね。ボディ攻撃でいい線までいっていたように見えましたが豊田選手のスタミナを削りきるまでに至らなかったようですね。
実)倒れた横田を強引に起き上がらせると後頭部を掴んだままショートレンジラリアット!これは返せない、スリーカウントが入ってしまいました。
「16分31秒、16分31秒ー、片エビ固めにより豊田エツ子選手の勝ち」
解)横田選手の攻撃を耐え、フィニッシュは豪快なラリアットでマットに沈めました。この結果により初代チャンピオン決定トーナメントの第一試合は上田ショウ子選手対豊田エツ子選手の対戦が決まりました。
実)いやー、これも見ごたえのある試合になりそうですね。ドリームファクトリーの旗揚げに関わってきた両選手ですし、お互いが認め合っている実力者同士ですかね。今から楽しみです。
解)ほんと楽しみですね。ここからは休憩を挟みまして、後半開始の第五試合はタッグマッチです。試合開始までしばらくお待ちください。
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第一試合を終えて、ちょっとだけ休憩して簡単に体を拭いて着替え終えると、第五試合の赤コーナー側のセコンドにつきます。
青コーナー側は宇野さんと中野さん、赤コーナー側は山田さんと渡辺さんが組んでの試合です。先輩たちに囲まれて、私ならかなり心細いかな?でも山田さんならきっと大丈夫、と思いつつもやっぱり気になっちゃいますね。
青コーナーには宇野さんの曲に合わせて宇野さんと中野さんがリングに向かっていきます。先に駆け足でリングに上がった宇野さんは派手にトップロープを跳び越えて、中野さんはゆっくりと落ち着いた雰囲気でリングに入っていきます。
そして赤コーナーは渡辺さんの曲で入場です。山田さんは一回戦で負けちゃって少し落ち込んでいましたが、ここでは気持ちを切り替えて試合にのぞんでいくようです。実は今回のトーナメントには同期の中で一番力が入っていたようなんですよね。五番勝負でCRGの原口さんから勝利してから試合に向き合う時の凄みというか迫力というか、何か雰囲気が違ってきたんですよ。シングルマッチでは特にそんな感じがしていました。今回はタッグマッチだからそういった凄みが薄れてしまうのか、それとも相手が二人だから迫力も二人分になってしまうんでしょうか。
対戦相手の宇野さんは基本に忠実かと思えば、たまに対戦相手もレフェリーもお客さんでさえも考えつかない技を出したり動きを見せたりするんですよね。私と対戦した時はなんでもなかったのが立野さんとの試合は五番勝負のことをそっちのけで試合自体を楽しんでいたようですし、その日の気分とか相手の実力次第では何をしてくるか想像がつかないんですよ。
中野さんは、いつもは物静かなお姉さんなんですけど、いざゴングが鳴ると人が変わったように暴れまわるちょっと二面性のある先輩ですし、今日の試合はどうなってしまうのでしょうか。いろんな意味でドキドキしています。
試合はそんな宇野さんと山田さんが先発で試合がスタート、ロックアップから腕を取りハンマーロック、山田さんが切り返してバックに回るがすぐに切り返しサイドヘッドロック、そのまま投げてヘッドシザースへという素早い動きに対して山田さんはヘッドシザースが決まる前に足をはねのけて起き上がります。すぐにロックアップ、宇野さんがヘッドロック、フライングメイヤーからスリーパーホールドを狙うも山田さんは腕を振りほどいてハンマーロックで切り返していきます。おおー!っとお客さんは盛り上がるけど今の山田さんならそのくらいはなんの問題もなくやってのけるのですよ。特に驚くことじゃないんですけどね。
ロープブレイクで離れると宇野さんは中野さんとタッチ、山田さんは渡辺さんとタッチしてコーナーに下がります。コーナーに下がっても休むことなく左右に軽くステップしながらリングの様子を伺ってのを見ると、山田さんの調子は良さそうですね。
しばらくすると渡辺さんが中野さんの腕を取ったままコーナーに戻り山田さんとタッチ。その腕を続けて攻撃をしていきますが、中野さんは強引に振りほどくと首あたりを捕まえると柔道の背負い投げみたいな技を繰り出しました。これはもしかして山田さんのことを挑発してます?でも山田さんだってそう簡単に乗るなんて思えないんですけどね、って中野さんに向かっていっちゃいましたよ。意外と頭に血が登ってしまうタイプだったんでしょうか。でも青コーナーで捕まり二人掛かりでキックとかチョップとかボディスラムとかを時にはクイックタッチで、時には二人同時で攻撃を受けてしまっています。
「晴子、あなたならこの状況になったらどうする?」
いきなり渡辺さんが声をかけてきました。や、どうしよう。えっと、この場合は一刻も早く脱出しないといけないので、いきなり逃げようとしてもダメでしょうからどこかで隙を見つけて逃げるか、ロープに投げられた時に反撃を試みるか、でしょうか。っていうか山田さんの方は気にしなくとも大丈夫なんですか?
「応援するのも大切だけど、自分だったらこうしよう、とか考えながら見ておきなさいね。綾ならまだ大丈夫よ。心配するほど追い込まれてないわよ」
場外戦に備えるだけじゃなくて、いつでも勉強していなさいっとことですね。そして山田さんの実力も把握してのことだったんですね。
ですが、中野さんは場外でエプロンサイドに山田さんの背中をショルダータックルで打ちつけたり、宇野さんは場外戦からやっとの思いでリングに上がる山田さんめがけてトップロープからドロップキックを放ってみたりと山田さんはずっと劣勢に立たされています。大丈夫かな、心配だな。私はマットを叩いで力付けようと懸命に応援していきます。
なんとか一撃やり返してから戻ってきた山田さんは渡辺さんとタッチ。そこから山田さんに指示を出してダブルのショルダータックルやブレンバスターで宇野さんに攻撃をしていったり、宇野さんをヘッドロックに捕らえるとカットに入ってきた中野さんをヘッドロックのまま両足で頭を挟むと勢いをつけて二人同時に投げてみたり、コーナーに投げられたところに走り込んできた中野さんをギリギリでかわしてコーナーにぶつけると、さらに走り込んできた宇野さんをぶつけて同士討ちをさせたり、中野さんをカバーをしているときにカットに入った宇野さんの蹴りを避けて中野さんにダメージを与えた上に宇野さんをボディスラムで中野さんを押しつぶしたりとやりたい放題の大活躍!最後は中野さんをバックドロップホールドで勝利を収めました。その時もしっかり山田さんに指示を出してカットに入られないようにしていましたね。山田さんは得意技になっている脇固めを出しているあたり、その技への自信をのぞかせているようです。
中野さんの荒っぽさも宇野さんの変幻自在の動きも出させた上で、最後は渡辺さんが一番いいところを見せて勝利したところを見てしまうと、比べるのもおこがましいですが私なんて全然まだまだだなーって思ってしまいました。
※1 地獄の断頭台みたいな技だと思ってください
※2 ファンネル(619)みたいな技だと思ってください
次は7月5日を予定しています