第6話
漫画家の高橋”うる星やつら”留美子先生がフランスの芸術文化章”シュバリエ”を受章されました
次話は5月5日を予定しています
あんなに凄い試合だったのですがそれに浸ることなく、首筋のアイシング用の氷のうがずれないように押さえながら渡辺さんを控え室に連れて行きます。渡辺さんはダメージが大きかったようで、息も荒く私の肩にかかる体も重く感じます。お客さんからは「良かったぞ」「今日の最高試合だよ」なんて声が聞こえてきますが渡辺さんには聞こえているんでしょうか。それにしてもこんなに疲れている姿を見るのって初めてじゃないかな、それくらいの疲労が見えます。控え室にたどり着くと渡辺さんのことを心配しながらもすぐに第二試合の準備をしていきます。
第二試合は大森さんとダイヤモンズの佐々木さんの対戦です。当然のように佐々木さんにはダイヤモンズの方々がセコンドをしていくので私は大森さんのセコンドにつきます。
大森さんは緊張している以外にも、何か心に秘めた事があるような厳しい表情でリングに上がっていきます。
大森さんはゴングとともにダッシュ!ロックアップや腕の取り合いなんて関係ない、ただ倒してやろうと佐々木さんの胸元を蹴っていきます。それを平然と受け止めるどころかもっと来い!と胸を突き出す佐々木さん。大森さんは何発も蹴り続けていきますがなかなか倒すことができず、逆に佐々木さんのお返しのバチン!という音とともに受けた逆水平チョップ一発で倒されてしまいます。あれ?腕と足の力を比べると足の方が強い気がするんですけど?そんな私の考えが吹き飛んでしまうような一撃です。
ですが大森さんはすぐに立ち上がり同じように攻め続けていきます。5発・6発・7発目でやっと佐々木さんを倒すことができるとガッツポーズを取り、佐々木さんを立ち上がらせてブレーンバスターをかけます。これは佐々木さんが投げられないようにぐっとこらえ、逆に投げ返してやろうかと力が入ります。その攻防は体格差で不利な大森さんが投げられてしまいました。マットを叩きながら悔しがる表情で立ち上がると、ももや腰辺りを蹴っていきお腹にローリングソバットが炸裂!そこからブレーンバスターをズバッと決めることができました!再びガッツポーズを取っている最中にスクッと立ち上がってきた佐々木さんの逆水平チョップで倒されてしまい、続けてボストンクラブ。必死に両ひじを使って一旦はロープへ逃れるように動くも、ロープを掴むギリギリのところで引きずり戻されてリング中央へ、今度はどっしりと体重を落とされてなかなか動けない態勢になってしまいます。それでもなんとかロープに逃れると、お客さんからは大きな拍手が起こります。
佐々木さんは「行くぞ!」と気合を入れてから大森さんを立たせてロープに振ると必殺技のラリアットの構え。危ない!と思った瞬間に大森さんはその腕を蹴りで打ち返しました!タイミングばっちり!ですが、反対の腕で背中にラリアット!不意を突かれてマットに倒れてしまいます。佐々木さんは立ち上がってきた大森さんに自らロープに走ってからのラリアットが炸裂!ぐちゃっ!っという効果音が似合うくらいの勢いで後頭部からマットに叩きつけられそのままフォール、なんの抵抗もできないままカントが3つ入ってしまいました。
「12分42秒、12分42秒、体固めにより佐々木選手の勝ち」
私は大急ぎで大森さんの介抱のためにリングに入ります。それを尻目に佐々木さんの勝利を喜ぶダイヤモンズの皆さん。勝負事だから仕方ないですけどもう少しこちらの状況にも気にしてほしいなって思っちゃいました。
介抱を続けながら、そうか、次の上田さんの対戦相手は佐々木さんなのか、大丈夫だとは思いますけどなんか心配です。
第三試合は工藤さんと豊田さんの対戦です。どちらもテクニックというよりパワーを使った方が得意な選手同士の対戦は、序盤から力くらべのような試合です。
ロックアップから相手をロープに押し込もうとしています。どちらも一歩も引かずにさらに力を込めていきます。体を上下左右に振って力を分散させて相手をコントロールしていく豊田さんが押し込んでいきます。
ロープブレイク後に工藤さんが豊田さんの両肩を押してリングの中央に戻るとそこからロックアップ、今度は工藤さんが徐々に押し込んでいきます。
ロープブレイクの直後に豊田さんがヘッドロック、ロープに振ることでヘッドロックを外すと強烈なショルダータックル合戦が始まります。お互いにふらつく事なくその場にとどまると、工藤さんがロープに走りショルダータックル!倒れる気配さえ見せない豊田さんは自ら走りショルダータックル!これも工藤さんは倒れない!お互いに先に倒れた方が負けなんじゃないかと思われるほどのショルダータックル合戦にお客さんからもどよめきと歓声が沸き起こります。もはや意地の張り合いかのように何度も繰り返していきますが、工藤さんが根負けしたかのようにぐらつくと、とどめとばかりのタックルで倒れる工藤さん。大声をあげてガッツポーズを取る豊田さんもゆっくりと倒れてしまいました。両者ダウンのカウントが数えられる中、お客さんの大声援が響いてきます。
その後は先ほどまでとは打って変わってグラウンドの展開です。これは豊田さんの方に一日の長があるようでうまく工藤さんをコントロールしています。隙を狙って腕や首を取ろうとするも工藤さんは取られないように必死で守っています。しかし、常に豊田さんは工藤さんに乗っかっている事で工藤さんスタミナを奪っているようです。苦しそうでちょっと心配です。
工藤さんがロープに逃れると豊田さんは一旦距離を取るとリング中央で仁王立ちで様子を伺っています。工藤さんはロープに寄りかかってまだ起き上がれないでいます。
「立てー!」と豊田さんが大きい声を出すとそれに応えるかのようになんとか工藤さんは立ち上がります。そこへ豊田さんの逆水平チョップを叩き込むと、その衝撃で工藤さんの胸元に流れる汗が霧のように舞います。照明が反射してなんて綺麗な、じゃなっかったそんな場合じゃなかったですね。連続してチョップを放っていくと工藤さんの胸元は見る見るうちに真っ赤になっていきます。それでも工藤さんは意地でハンマーパンチやエルボーで反撃。何発も打ち込んでいきますが豊田さんの逆水平チョップ一発で倒されてしまいます。豊田さんのバックドロップ、首元にひざの裏側を落とす技(※1)からフォール、これはカウント2で返します。
工藤さんは立ち上がらせようとする豊田さんの腕を振り払うとお相撲の突っ張りのような技でコーナーへ押し込み、対角線のコーナーへ振ると追いかけるようにジャンピングのボディアタック!続けて正面から豊田さんの顔を両手で挟み、左右に大きく揺らしてから真上へ持ち上げそのまま投げました!(※2)さらにコーナーの一番上に素早く登るとダイビングボディプレス!!リングの下にいた私にも分かるドスーンという衝撃!これは!もしや!あー、カウント2で返されてしまいました。もう少しだったのに!
しかし、それからはぐんと工藤さんの動きが遅くなり息づかいも荒くなってしまいます。技をかけられてもすぐに起き上がれず、技をかけてもすぐに次の技に移れなくなってしまいました。ひざをついて肩で息をしている姿も多く見られます。
「江里花はエツ子に乗せられてスタミナ配分を間違えたわね」
え?っと振り返ると上田さんがジャージ姿で工藤さんの様子を私に説明してくれます。どうやら工藤さんは豊田さんに対して短期決戦を挑んだようですが、豊田さんはそれを見越して正面から受けて立ち、さらに工藤さんのスタミナを奪うように振る舞って見事にその作戦を打ち破ったようです。なんでそんなことまでわかっちゃうんですか?
「まあ最後の最後に自分の持ち味が出せたんだから次に期待ね」
え?っと思う間もないまま上田さんは本部席の横に、いつの間にか持っていたパイプ椅子を並べそこで試合を観戦するみたいです。配信用の解説でもするのかな?
リング上では豊田さんが工藤さんの後ろ髪を掴んだ状態から下に叩きつけるようなショートレンジラリアットで勝利しました。
「13分06秒、13分06秒ー、片エビ固めにより豊田選手の勝ち」
セコンドに連れられて控え室に戻る工藤さんを心配しながら豊田さんを誘導していますが、豊田さんも意外と疲れているようです、戦っている時はそんな様子を見せることがなかったんですけど。相手に疲労感を見せないのも作戦なんでしょうか。
※1 ギロチンドロップみたいな技だと思ってください
※2 合掌落としみたいな技だと思ってください