第5話
会場の照明が緑色に光り始めると入場曲に合わせて上田さんがリングに向かってきます。今回はCRGとダイヤモンズの皆さんがお手伝いをしてくれて青コーナーのセコンドを担当してくれています。これでもかというくらいの声援とこれからの熱戦の期待を背負ってリングに入っていきます。
続いて赤コーナーより渡辺さんの入場です。今日は皮のロングコートを羽織ってリングに向かいます。私は急いでロープを広げるとそこから入っていきます。リング上でただ見つめ合うだけなの両選手にお客さんからは、おおぉーという声と拍手が自然と巻き起こります。
「ただいまより、ドリームファクトリー初代チャンピオン決定トーナメント第一試合、30分1本勝負を行います。青コーナー、140パウンドー、うえだー、ショー、コーーー!」
リング上が一気に緑色の紙テープに覆われると急いで片付けていきます。
「赤コーナー、115パウンドー、わたなべー、せりー、かーーー!」
格闘技の経験が一切なかった私にイチから、いやゼロからわかりやす丁寧に指導してくれて、なかなか技を覚えられなかった時も手取り足取り理解するまでゆっくりと教えてくださった渡辺さんと、ドリームファクトリーの代表を務め、困って位いるときは的確なアドバイスをくれて、なかなか勝てない私にリングネームをつけることで勝てるきっかけを作ってくれた上田さん。あるときは対戦しあるときはタッグを組んでいたお二人のシングルマッチがこれから始まります。マニアックなお客さんは私と比べるまでもなくドリームファクトリーができる前からのお二人の経緯や歴史、関係性を詳しいようで、「この試合が決定戦でもいいでしょう!」「第一試合にはもったいない!」「白い方が勝つわね」みたいな声がどこかしこからも聞こえてきます。試合が始まる前からお客さんのボルテージがいつもの第一試合より上がってきています。本当にどうなっちゃうんでしょうか。そして私はどちらを応援したらいいんでしょうか。ん?白い方?
「レディー、ファイッ!」「カーーーン!」
実)「今、そのゴングが打ち鳴らされました。さあ組み合った、押し込んでいくのは上田。ここは綺麗にブレイ、いきなりエルボー!すぐにカバー!カウント2!もんどり打つように場外に逃れます渡辺!佐倉さん、挨拶の一発にしては強烈すぎましたね」
解)「試合序盤からペースを握るつもりだったのかこの一発で終わらせようとしたのかわかりませんが強烈でしたね。でも渡辺選手もある程度は予測していたからこそ返せたんだと思います」
実)「客席かはらどよめきが起こりました。渡辺は場外ではアゴのあたりを気にしながらヒザをついて上田を伺っています。ゆっくりと立ち上がってリングに戻っていきます」
実)「ここからロックアップ、今度は渡辺が押し込み、ロープへ振ってヘッドシザース、ホールド!そのまま抑え込む!カウントは2!」
解)「先ほどのお返しでしょうか、いきなり丸め込んできましたね。渡辺選手から上田選手にペースはそう簡単に握らせないぞ、という無言のアピールなのかもしれませんね」
実)「なるほど、序盤から高度な駆け引きが両者の間で繰り広げられているもようです」
実)「先ほどからうって変わってグラウンドの展開です。低く構えてバックの取り合い、腕のロックを切ってハンマーロックの体勢、これを切り返して、さらに切り返して、腕をとられたままアクロバチックな動きから渡辺の胸を下から蹴り上げる!両者一旦距離を取ると客席から大きな拍手が起こります」
解)「両選手とも基本をおろそかにしていない証拠ですね、緊張感がこちらにも伝わってきます。この展開は他の選手もお手本にした方がいいですね」
5分経過〜
実)「ロックアップから渡辺がヘッドロック、上田がロープに振るもヘッドロックを外さない。もう一度ロープへ振るもこれも外さない!」
解)「同じ技で集中攻撃することで終盤に勝負をかけようとしてるのではないでしょうか」
実)「その状態から持ち上げてニークラッシャー!これでも外さない、しつこいくらいに食らいついていきます。そこからロープに近づいて担ぎ上げると場外へ投げた!思わず手を離しエプロンに着地した渡辺にエルボー!下に落ちたところへプランチャー!これはかわされる!」
解)「急に試合が動いてきました。場外戦はちょっと危険な匂いがしてきますね」
実)「渡辺はその上田を鉄柵へ、これを切り返し投げる!打ち付けられた渡辺に突っ込んで来た上田にカニバサミーーー!正面から鉄柵に突っ込む上田!」
解)「胸でしょうか首の辺りでしょうか、相当なダメージを負ってしまいました」
実)「そのダメージがあるところに渡辺がいくが迎え撃つ上田!エルボーの連打からすぐにリングへ戻る、ん?反対側のロープへ走ると…エルボースイシーダーーー!」
解)「渡辺選手にも大きなダメージを与えることで試合を五分五分に持ち込んだのでしょう」
10分経過〜
実)「さあ上田、サイドヘッドロックからフライングメイヤー、渡辺の左手を足でロックするとフェイスロック!体ごとねじ切るかのように絞っていく!渡辺も必死に手を伸ばす!ロープにもう少しのところでカバー、カウント2!髪の毛を掴むと、コーナー近くでブレンバスター、上田はコーナーポストからフロッグスプラッシュ!これもカウント2!」
解)「渡辺選手が流れ的にまずいと思ってエスケープしましたね」
実)「場外に逃れた渡辺にエプロンをダッシュ、空中で一回転して体重を浴びせ、あーーー!これは自爆!渡辺がチャンスとばかりに鉄柵ホイップ、頭から突っ込む!続けてDDT!これは危ないぞ!」
解)「場外に出ると渡辺選手の動きがより良くなってきますね。自爆を機に連続攻撃を仕掛けていきます」
実)「リングに戻すとバックドロップ!すぐに2発目!さらにもう一度バックドロップからのカバー!これはカウント2で肩をあげる上田。お?上田を起こしてからさらに4発目、5発目の連続バックドロップ!上田のエルボーをかわして6発目!さらに4の字ジャックナイフで押さえる!これもカウント2!怒涛の攻撃を受けてもなんとかしのぐ上田!」
解)「渡辺選手はここを勝負所とみての攻撃だと思いますが上田選手も粘ります」
15分経過〜
実)「上田を起こすとロープの間から鉄柱に右肩を打ち付ける!またもやバックドロップ!カウント3ギリギリでキックアウト!」
解)「これでも決まりませんか。渡辺選手もこれだけの技を出したのに返されたとなると、今の心理状態は複雑だと思います。並みの選手なら心が折れてもおかしくないと思います」
実)「渡辺の気持ちやいかに、レフェリーに本当に3つ入ってないか確認しています。一息ついてから起こすと、上田はその手を振りほどいてエルボー!これは避けて腕を取るとDD…体を入れ替え…逆に腕を取り返すと上田のタイガードライバーが火を吹いた!両者ダウン!」
解)「なんとか一発返すことができましたがこれまでのダメージの蓄積が心配です」
実)「さあここから攻めていきたい上田、が、渡辺がうまくバックを取るとバックドッロ…を囮に丸め込んだ!これを返されるとスモールパッケージホールド、さらに逆さ押さえ込み!これも返されてしまいます」
解)「渡辺選手は連続のバックドロップが決まらなくてもこの丸め込みがありましたね。しかし、それでも決まらないとなるとこの後が厳しくなりそうです」
20分経過〜
実)「渡辺はサミングからジャブ・ジャブ・ストレートパンチ、そしてチンクラッシャー、そこに上田のカウンターのエルボー!渡辺の攻撃をこらえて渾身の一撃!立ち上がるのを待つとロープに走りランニングエルボーーー!カウントは2!上田は立ち上がるとともに渡辺を起こすとタイガードライバー!これは返せるか、返せない!カウント3つ入りました!」
「21分57秒、21分57秒、体固めにより上田ショウ子選手の勝ち」
実)「勝負タイムは21分57秒、タイガードライバーからの体固めで上田選手がトーナメント一回戦を突破しましたが佐倉さん、この試合はいかがでしたか」
解)「いやー、凄まじい戦いでしたね。自分のペースにしようと試合序盤から駆け引きがあったり終盤の畳み込みがあったりで見応えがあって面白かったですね」
実)「そうでしたね、渡辺選手も場外戦、連発バックドロップ、丸め込みと持ち味を出していたのですが一歩届きませんでした」
解)「あえて右腕を攻めてエルボー封じをしなかった分、最後の一発で決まってしまいましたね」
実)「上田選手もダメ押しのタイガードライバーという感じでしたね」
解)「上田選手の最後のランニングエルボーで決まってもおかしくなかったのですが、意地で返したっていうところですね」
実)「興奮冷めやらぬ会場ですが、次は第二試合の大森悠対ダイヤモンズ・佐々木北斗が始まります。この試合の見所はどの辺りでしょうか」
解)「これは佐々木選手にどれだけ大森選手が食らいつくか、というところですね。得意の蹴りがどのくらい通用するのか、大きな壁ですが乗り越えてほしいです」
行きたかったなあ、ムツゴロウ王国
謹んで畑正憲さんのご冥福をお祈りいたします
次話は4月25日を予定しています