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第4話

試合が始まる30分くらいに前になってやっとお客さんのやってくる人数が緩やかになってきました。ロビーにも人・人・人とごった返しています。商店街からお借りしてきたイスも結局足りず、数十人くらいのお客さんは立ち見になってしまいました。一応「この後入場するお客様は誠に申し訳ありませんが立ち見になる可能性もございます」というのをチケットを購入してもらう際にお伝えしていたんですけど、それでもいいということででした。一番後ろの席の後ろにずらっと並んでいる姿を見ると、なんか申し訳ないなーと思ってしまいます。正確な人数は今はわかりませんが、いつもの大会の倍近くはいらっしゃるんじゃないでしょうか。多分錯覚だと思いますが会場の空気がちょっと薄くなっているような感じがします。それは他のスタッフさんも気になったようで換気のために窓を開けたり大型扇風機を用意しているのを見ると錯覚じゃなかったようです。こんな状況のなかでもお客さんは今か今かとザワザワしながら試合開始を待っているようです。


「カーン・カーン・カーン・カーン・カーーーン!」

ゴングが打ち鳴らされ場内が少しずつ暗くなっていくと、いよいよ始まるぞって感じですね。


「本日のご来場、誠にありがとうございます!大変お待たせいたしました、只今よりプロレスリング・ドリームファクトリー、初代チャンピオン決定トーナメントを開催いたします!それでは選手の入場です!」


♪ティリリティティー、ディッティ、ティリリティティー、ティリリティティートゥィティ〜

ギターの軽快なテンポの曲が流れてきます。それに合わせて選手たちが入場してきました。


実)「ドリームファクトリー常設会場では、これより選手の入場式が行われます。16名の選手たちが来週に行われますトーナメントの準決勝・決勝戦へ向けてしのぎを削っていきます」


♪ティリリティッティー、パパラー、ティリリティッティー、パパラー、ティリリティティーティティー、ットゥントゥントゥントゥン〜

曲が流れていくにつれてドラムとかトランペットなどの楽器の音も増え、ますます賑やかになってきます。


「第1試合、上田ショウ子対渡辺芹香」

「第2試合、大森悠対ダイヤモンズ・佐々木北斗」

「第3試合、工藤江里花対豊田エツ子」

「第4試合、堀田晶横田未来」

「第5試合、クリス・ホークフィールド対宇野愛菜」

「第6試合、立野みづき対中野香織」

「第7試合、山田綾対萩原香澄」

「第8試合、松本ひな子対CRG・志村ローズ」


名前がアナウンスされてリングに向かってくるごとにお客さんからそれぞれの選手に声援が飛んでいきます。曲に合わせた手拍子のなか、ある選手は緊張のあまり表情が硬かったり、ある選手はここらで一発かましてやろうぜ!みたいに体を動かしていたり、ある選手は手拍子に合わせて明るく元気にやってきてお客さんに手を振る余裕を見せたりとそれぞれリングに上がっていきます。選手たちはこの日に合わせた大会記念Tシャツを着ています。よく見ると取材の記者さんやカメラマンさんも同じものを着ていますね。


リングでは一番最初に呼ばれた上田さんと渡辺さんを先頭に、カメラマンたちに向かってVの字になるように並んでいきます。16人もの選手が並んでいる景色はなんとも言えない圧倒的な迫力がありますね。その場をカメラに収めようとあちこちからフラッシュが光っています。そこへベルトを持ったレフェリーとなんだか偉そうな方が現れて、リング下に用意されていたマイクの前に立ちます。


「開催に先立ちまして大会セレモニーを行います」

一瞬にしてザワザワしていた会場がシーンと静まり返りました。


「大会宣言。この初代チャンピオン決定トーナメントはGPWOが認定し、そのルールに従って決定されるものであり、優勝者にはチャンピオンベルトが贈呈されます。チャンピオンになった選手はその地位に甘んじることなく自らを鍛え挑戦し、このベルトの価値を世界的に崇高なものになるよう精進することを願います。GPWOタイトル管理委員会・委員長、鶴田朋美」


とーもちーん!という声と同時に会場全体から贈られる拍手のなか、ベルトがリングに上げられると選手ひとりひとりの目の前に確認してもらうように出されていきます。偉そうなって思った方は本当に偉い方でした。

全選手の確認が終わるとお客さんにお披露目するように掲げられると、また大きな拍手が起きます。そしてベルトがこれからの選手たちの戦いを見守るかのように本部席に置かれました。でもいいんですかね、そんな偉い人をとーもちーんなんて呼んだりして。


「それでは選手の退場です」


先ほどの曲が流れ、お客さんの手拍子のなか選手たちが控え室に戻っていきます。


「リング調整のためしばらくお待ちください」

お客さんがいよいよかーという期待と興奮でザワザワしてきます。これから歴史的な瞬間が近づいてきます!私もこの機会を少しでも見逃すことなくセコンドを頑張りたいと思います!


実)「さあこれから始まりますドリームファクトリー初代チャンピオン決定トーナメント。今日と明日は特別配信としてお送りいたします。実況は潮野真琴、解説は月刊女子プロレス副編集長の佐倉和代さんです。本日はよろしくお願いします」

解)「月刊女子プロレスの佐倉です、よろしくお願いします」

実)「さて、いよいよ始まりますこのトーナメント戦ですが、見どころといったらどのあたりになるでしょうか」

解)「そうですね、間違いなく第一試合だと思いますが、他の対戦ですと新人・中堅選手対ベテラン選手の構図になっているところに注目したいですね」

実)「そういえばそうですね、綺麗にばらけています。注目するポイントはどのあたりでしょうか」

解)「普通に戦ったらベテラン選手が勝つと思いますが、トーナメントは一発勝負ですからね。何が起こってもおかしくないと思いますし、このトーナメントに合わせて何か秘策を持っている選手がいるかもしれません」

実)「なるほど。そう考えると先頃の5番勝負で大活躍した立野選手、山田選手はもしかしたら準決勝まで進んでもおかしくないかもしれません」

解)「それもありますが、両選手に触発されて中堅選手がどのくらい頑張ってくれるかが見所のひとつに上げてもいいかもしれませんね」

実)「下からの突き上げに立ちはだかるのかそのまま追い抜かれてしまうのか、本人たちも必死になるでしょうからね。さてここで、決定トーナメントが開催されるまでになった経緯を簡単に説明していただけますか?」

解)「はい、NJP以外の女子プロレス団体・個人を取りまとめているGPWOでは一定の人数と実力のある選手が揃っていないとチャンピオンを認定しないという決まりがありまして、昨年の末あたりにやっと申請が通り今回のはこびとなりました」

実)「ありがとうございます。チャンピオンといえばその団体を代表するというか強さの象徴という面がありますからね」

解)「ええ。ただプロレスという競技は他のスポーツや格闘技とは違って、勝敗も大切ですがお客さんに興奮と感動を与えられるかという側面もあります。ただ勝つだけでなく、いかにして勝つかというのも大切なことです。今回ドリームファクトリーの申請が通ったということは選手それぞれの実力・キャラクターなどが認められたということですね」

実)「ありがとうございます。それはますます楽しみになってきますね。それではこれから始まる第一試合ですが、いきなり上田対渡辺というカードになりました」

解)「これはですね、通常の大会ならメインイベント、タイトルマッチ級のカードでもおかしくないと思います。第一試合でドリームファクトリー旗揚げ時の両選手のシングルマッチはちょっと勿体無いと思う反面、くじ運の妙といいますかつかみはOKなんじゃないかと思います。それと、第一試合ということでそれ以降の選手にも何かしらの影響を与えるくらいの試合になるんじゃないかと思います」

実)「だからでしょうか、今日は試合前からお客さんの熱気がこれでもかというくらい伝わってきますね」

解)「ホントそうですね、これだけの雰囲気は近年他団体でも感じたことないですね。それだけお客さんも待ち望んでいたんだと思います」

実)「ちょっと息苦しさを感じるときもあります。さて、この試合はどのようになると思いますか?」

解)「そうですね、両選手とも実力は折り紙つきでお互いにどういった戦い方をするかわかっていると思いますが、強いて挙げるとするとすると上田選手のエルボーと渡辺選手のテクニックの攻防になるんじゃないでしょうか。いかにしてその技を出させないか切り返すか、かわすのか正面から受けてはね返すのかだと思いますが、どうなるかわからないのが正直なところです」

実)「そうですか。実はですね、長い間実況として見てきて私なりにこうなるんじゃないかと想像はしてみたんですが、本当にそうなるかは全く予想がつきません。万が一実況が止まってしまう場合あるかもしれないので今のうちに謝っておこうかと思います」

解)「仕事でこういう場面に出くわすことはあるんですが、今日は純粋にひとりのお客として見ていたいという気持ちもあります」

実)「まさしくおっしゃる通り、こんな気持ちになるのは久方ぶりです。でもそういう訳にもいきませんから頑張って参りたいと思います。間も無く選手の入場です」



♪王者の魂 TEMPA/実川 俊 みたいな曲だと思ってください

次話は4月15日を予定しています

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