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第3話

お天気お姉さんが桜の開花宣言を伝えてから1週間くらい。

朝と夜はまだ寒さを感じますが、お昼の気温は厚手のコートどころか薄手のジャケットでさえ着ていると暑く感じるようになってました。そろそろ桜も見頃を迎えそうで皆さんはお花見の計画や場所取をしてるのでしょうか。なんとなく道場の周りの空気もほんのり桜の香りが漂ってきそうな本日は、初代チャンピオンを決めるトーナメントの第1日目です。


道場の掃除を終わらせてからロビーへと向かいふと外を見ると、え!ちょっと!すでに何十人ものお客さんが並んでいるじゃないですか!開場まであと何時間もあるっていうのに!先頭はプロレス会場に似つかわしくないスーツ姿の女性たち…これはC・R・Gのご婦人たちですかね、うん間違いないです。長い時間待っても大丈夫なように椅子とか風よけの対策が万全ですね、もう並ぶプロじゃないですかってくらい準備万端です。他のスタッフさんたちもチラチラと気にしている様子です。


「ちわーっす、エチゴ生花でーす。GPWO様、C・R・G様、ダイヤモンズ様他からのお祝いのお花を届けにきましたー」

そんなお客さんたちの合間を縫って商店街のお花屋さんがやってきました。並んでいるお客さんの邪魔にならないように配送用軽トラックを少し離れたところにわざわざ停めています。


「ちょっと数があるんで誰か手伝ってもらえるとありがたいんですけどいいですかー」

そんな訳で私とスタッフさんで手分けしてお花を運んでいきます。荷台から受け取り、とりあえずロービーに持っていきます。スタンドに乗せた色とりどりの花束には「祝 チャンピオン決定トーナメント開催記念」的なことが書かれたプレートが付いています。私と同じくらいの高さでお水を含んだスポンジもあって意外と重いんですよね、倒したり転ばないようにゆっくりと運んでいきます。バラとかユリとか胡蝶蘭とかモンステラなどを使っていてなかなかの豪華さです。

ロビーに置かれたお花に囲まれていると、綺麗だなーと思うより自然の香りに圧倒されちゃいますね。おっと、この真っ赤なバラのかっこいいアレンジはC・R・Gさんからのお花ですか。こちらのピンクや黄色の可愛らしい系のアレンジはダイヤモンズさんだったんですね。よく見ると花束にも個性があるようです。そして、ひときわ大きい花束にはNJPというプレートが付いています。ん?NJP?どこかで聞いたことあるような、ないような。


今回出場する選手の団体の他にも、月刊女子プロレスさんやスポーツ新聞のプロレス担当さんからいただきました。また、商店街の会長さんや青年会一同とかからもいただいてますね。もう、それなら商店街一同でもよかったのに、ありがたいやらお手数をおかけしましたやらで恐縮してしまいます。


それにしても量が多いですね、並べ方のルールとかマナーって分からないんですけど、どう並べたらいいんでしょうか。そんなことを思いながら作業をしていくと、ラフな格好で準備の様子を見にきていたらしい上田さんの姿が見えます。そして「エチゴ生花さん、このお花は一番目立つところに置いてくれるかしら」いつもの優しい口調でちょっと嬉しそうな声でお花屋さんに声をかけます。そうか、お花屋さんならそういうの詳しそうですね。


「上田さん、おはようございます」

せっかくロビーにいらしたのでご挨拶に向かいます。

「うん、おはよう。会場の準備はどうかしら」

「はい、お花を並べ終わったら売店の準備をするところです」

「ありがとう。今日はいつもより多くのお客さんが待ってるみたいね、開場時間を早めるかもしれないからそのつもりで準備をお願いね」

「分かりました。あ、あと、お花の並びはこれで大丈夫ですか?一番大きいお花はエアコンの風が直に当たってよくないと思うんですけど」

「そうね、でもここでいいわ。このお花は一番目立つところに置いておけば失礼にならないと思うからここで。まったく、旗揚げした時も5周年の時も何もなかったっていうのに。やっぱりチャンピオンがいないと認めてくれないってことなのかしらね」

最後の方は複雑な事情がありそうだったのであえて聞かないようにして残りの作業へと向かいます。


もろもろの準備が整ったか整ってないかのところで開場はいつもより一時間早くなりました。お客さんが入場してからの熱気が凄まじいものになっています。ロビーに貼り出されたトーナメント表の前では、この選手とこの選手が勝ち上がるとどうのこうの…という予想をしていたり、各社から頂いたお花や初代チャンピオンに贈られるプラチナ色に輝くチャンピオンベルトがお披露目されている場所はちょっとしたフォトスポットのようになっています。


今日は立野さんたち同期の皆さんは試合に集中するためロビーでのお仕事や会場内の誘導などは私とスタッフの皆さんの他にC・R・Gの大木さんやダイヤモンズの皆さんとで手分けしています。売店では私たち以外のコーナーも設置されていて、それぞれが声をかけているのでとても賑やかというよりの騒がしくて、どこもお客さんでごった返しています。そんなお客さんをなんとか誘導してギリギリ混乱しないようにしているスタッフさんはすでに額に汗が流れていますよ。


そして、いつも以上に並べたイスもなんとなく足りなくなりそう、ということで商店街で保管されていたお祭りの時のイスを急遽借りてきていますが、それでもギリギリなんじゃないかなというくらいだそうです。単純計算で私たち以外の2団体のファンの方々が増えた訳ですからね。これだけのお客さんが来てくれたということは商店街の方にもいい影響が出ているそうです。

それにしても予想以上の来客だったらしく、これなら入口前に屋台を開いたらひと儲けできたかもなー、なんてイスを並べる手伝いをしてくれている会長さんがガハハと笑いながら他の商店街の人と話しています。ってなに話してるんですかいつの間に!お手伝いはありがたいんですけどあまり無茶なことしないでくださいよ?


「明日もあるんだろ、だったら屋台を並べて屋台村みたいにしちまえはいいんだよ!」

「ロビーだと狭くて場所が作れない?だったら外の駐車場があるじゃないか!ついでにベンチも設置すればお客には便利だよな!」

「チケットを買ったお客と買ってないお客が分からない?だったらチケット売り場も外にして枠で囲んじまえばいいだろ!ロビーと屋台村と行き来できるようにすればいいじゃないか!」

「警備?なんのための青年会だ!暇なやつ集めればなんとかなるだろ!上田さんのところにはいつも世話になってるんだからこっちも手伝ってやるのが筋ってもんだろ!せっかくこれだけのお客が来てるんだ、楽しんでもらうのに努力するのは商店街としては当たり前だろ!」


そんな声が聞きたくないけど聞こえてきちゃいました。こちらから頼んだ訳じゃないですけどどんどんと話が進んでいるようです。これって上田さんは知らないですよね。無断でこんなことして大丈夫なんですか?あー、スタッフの上の方の人が呼び出されてますね、会長さんの勢いに巻き込まれてしぶしぶ計画に参加させられているようです。報告しなくて大丈夫なんでしょう…あ、いつもなら上田さんの出番は最後の方だから時間があるんですけど、今日は第一試合だから今頃は試合に向けて集中していそうで報告できそうにありませんよね。


そんなこんなありながら私もスタッフさんたちもあたふたしている間にも刻々と試合開始の時間が迫って来ています。

次話は4月5日を予定しています

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