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第6話

ハロウィン大会の舞台裏をちょっとだけ。


それは試合終盤のシャドー軍の紹介の後のことでした。フォー役の堀田さんが私に近づいてきます。

「ねえ晴子、さっきのさーんって言ったやつは今日ずっと使うの?」

「いえ、前に見た芸人さんのギャグを思い出したので勢い余って言っちゃいましたけど、お客さんには分からなかったみたいなのでこれっきりにしようかと思っています」

「ならいいわ、私もちょっと考えてたことが晴子とかぶっちゃったからどうしようかと思ってたのよねー」


あー、あのフォーーー!ってやつですね。私と同じことしたら目立ちませんからね。

「そういうことでしたら。私はすぐにいなくなっちゃう役なのでどうぞ思うまま会場を盛り上げちゃってください」

「まあ任せなさい、私が後半戦で一番目立って盛り上げるんだから!」

マスク越しでもギラギラした雰囲気がわかる堀田さんはどんなことするんでしょうね。何か企んでいるようなので私も楽しみにしたいと思います。


なんて思ってますが私もこの試合は楽しみでしょうがなかったんですよね。端役ですけど、すぐにやられちゃいますけど、本物の特撮ヒーロー物じゃないですけどヒーローショーに参加できるんですもの。それを会場のお客さんや配信している先の視聴者さんに見てもらえるんですから!こんなに嬉しいことはありませんよ。小さい頃からの私の夢が一つ叶った瞬間でもあります。あーあ、お客さんに好評だったら来年もこんな催し物やってくれないかしらね。普段プロレスを見ていない皆さんの目に触れることができればいいんですけどね。ただ、これがプロレスだ、と思われるとちょっと違うんですけど、こういう形のプロレスもあるよってことで。そこから少しずつでも普段の私たちのことを気にかけていただけると嬉しいんですけどね。

後日、上田さんが「あんなに本格的なのだったら私もキングとして出たかったわー。仮装の審査を未来に代わってもらったのに!」と非常に残念がっていました。なんでヒーロー側じゃなくて悪役側なのかはいまだに謎ですけど。


そんなイベントも終わり、ちょっと気の抜けた11月と年末への準備が始まると、にわかに活気付いてきた12月を過ごしていくと立野さんと山田さんは本番に向けて熱のこもったトレーニングをおこなっていきます。そして合同練習が終わると二人してどこかへ出かけているようです。ひょっとして秘密の特訓とかしてるのでしょうか。何かできることがあればお手伝いしたいのはやまやまですけどこれから試練を迎えるお二人には私の実力では物足りないでしょうから。とりあえず、初日が終わったらどんなことをしていたのか教えてもらおうと思います。


商店街のクリスマスの飾り付けのお手伝いがひと段落すると、私たちもクリスマス大会の準備が始まります。いつもなら明るく楽しいイベント大会なのですが、今回に限ってはちょっとだけピリッとした雰囲気があります。というのも立野さんと山田さんの試練の5番勝負が組まれているのです。先輩によっては「こんなおちゃらけた試合なんてしたくない」と言いつつもクリスマス大会に合わせたコスチュームを用意したりコミカルな試合をしたりと、なんだかんだ楽しくなっちゃうところですが、今回、お二人に限ってはそういう訳にもいかない様子です。

当日は、第一〜第三試合がクリスマス仕様の試合が、休憩を挟んで第四試合に山田さんが、第五試合に立野さん、メインイベントがまた明るく楽しくなるような組み合わせがあり、全試合終了後にはお楽しみ映像が用意されています。今回はどんな映像になっているんでしょうね。ちなみにお二人の試練の勝負がいっぺんに行われるのは今回だけで、今後は一大会にどちらかの試合が組まれるようになります。土曜日に山田さんの、日曜日に立野さんの試合の予定ですが、他団体から来てくださる選手がいるときは順番が逆になるようです。それは普段見られない選手が来てくれる訳ですから必然的に注目度が高くなるのでたくさんのお客さんに見て欲しいということだそうです。


そんなこんなでクリスマス大会当日を迎えます。今回は22(日)とクリスマスには微妙に早いんですけどこればかりはしょうがないですね。25日を過ぎると商店街が一気に年末の和の雰囲気になってしまいます。

第一〜第三試合までは明るく楽しいプロレスで会場のお客さんも和気あいあいとイベントを皆さんで楽しみましょう、みたいな感じになっています。と言っても先輩たちはそのノリにイマイチ乗れてない方もいらっしゃるようです。いつもと変わらないコスチューム姿に赤いサンタの帽子をかぶっただけだったり(特に豊田さんや渡辺さん)それなりにお菓子やご自身のグッズなどを客席にばら撒きながら入場したり(特に大森さんや堀田さん)セコンドやタッグパートナーにはトナカイのカチューシャを付けさせ、本人は新作のサンタコスで入場し先輩たちを呆れさせたけどお客さんには大ウケだったり(松本さん)と、それぞれそれなりに盛り上げようとしている模様です。そんなほのぼのとした雰囲気も休憩時間が終わるとガラッと変わり、会場全体が緊張したような空気に包まれます。


いよいよ第四試合、山田さんの試練の5番勝負が始まります。対戦相手は宇野さん、くせ者感があるけど渡辺さんにも引けを取らないテクニックで相手を翻弄し、小さな体を大きく使い、さらに小さく丸め込む戦い方に山田さんがどう対応していくかがポイントになるそうです。

曲が流れ始め場内の照明が青く光りだすと山田さんの入場です。さすがに今日は緊張しているような表情ですが、セコンドについた私の肩に手をかけて「じゃあ行ってくるわね」と声をかけてくれて笑顔でリングに入っていくのを見送るに、私が心配するほど緊張していないのかな?っていうか私が緊張しているのかもしれません。山田さんがリング上でボディチェックを受けていると宇野さんが入場してきます。こちらはいつも通り明るい感じでリングに入ってくると赤コーナーに登り、お客さんに手を振っています。宇野さんも緊張している様子はないみたいですね。


「これより、試練の5番勝負第1戦目、30分1本勝負を行ないます!青コーナー、115パウンドー、やまだー、あーやーーー!」

「赤コーナー、110パウンドー、うのー、まーなーーー!」「レフェリー中山マキ」


ゴングが鳴ると両者ともリングの中央へ、様子見をすることもなくロックアップ、ヘッドロックを切り返してから腕の取り合い、バックの取り合いとオーソドックスなスタートを切ります。見た目は高原の日陰で読書が似合いそうな山田さんですが、国を代表して柔道の試合をしてきたこともあって何気に気が強いです。技でも打撃でもやられたらやり返していきます。ペースを握った山田さんは宇野さんの左腕に狙いを決めたようで、攻撃を一ヶ所に集中して攻めていき、最後に得意技の腕ひしぎ十字固めを決める布石を打っているんでしょうね。


対する宇野さんもそう簡単に攻撃を許しても攻め続けられるようなことはなく、ペースを握られたかと思うと距離を取ったり場外に出たりして山田さんが有利にならないようにしていきます。そのタイミンが本当に絶妙でペースを握ったかと思う山田さんもちょっとイラっとしているようです。これも作戦なんですかね。そんなことをしながらも、山田さんの一瞬のスキを突くと攻守が逆転し宇野さんの攻撃が始まります。これには山田さんも対処が遅れてだんだんと攻められる時間が増えてきています。

お客さんからは時々声援が来ますが、会場自体がこの試合を静観している様子で両者の荒々しい息遣いとロープのきしむ音、たまに打撃音が聞こえるなか試合がじっくりと続いていきます。


「10分経過、10分経過ー」


場内アナウンスが聞こえると宇野さんの動きが変わります。今までは基本に忠実な、道場でのスパーリングのような試合内容だったのが急にいつものトリッキーな動きで山田さんを翻弄していきます。どうやらこれまでは山田さんの様子を伺っていたんですかね、正面からガッチリ組み合ってきたものをスカしてみたりお客さんを手拍子で煽ってみたり、山田さんを場外に投げ出してプランチャを放ったりとやりたい放題です。それでも、身長、体重、柔道の経験以外は全て上回る宇野さんに対してなんとか食らいついている山田さんもすごいです。お客さんもその頑張りに声援が送られていきます。それからほぼ攻められっぱなしの山田さんでしたが、ロープに振られた時のカウンターで放った払腰のような投げから腕ひしぎ十字固めであわや!という場面を作ったりとギリギリまで粘りを見せていましたけど、最後に前屈みの状態で背中に飛び乗られ、両足をわきの下にひっかけられてからの高速前方回転エビ固めを決められた技(※1)を返すことができず、18分21秒で負けてしまいました。

ダメージがあるなか、自力でなんとか立ち上がると客さんからは温かい拍手が送られ、宇野さんからは何かしらのアドバイスと検討を称えて手をあげられると倒れるようにリングから降りて控え室に戻っていきます。充実感と悔しさをにじませた表情は暗いものじゃなかったので、残りの四試合で何かとんでもない事が起こるんじゃないかと勝手に期待してしまいます。


※1 ヨシタニック みたいな技だと思ってください

次話は1月25日を予定しています

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