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第16話

「10分経過、10分経過ー」


上田さんとタッチした私は大木さんの腰に向かってストンピングをしてからボディスラム!続けてボディスラムからフォール!カウント2で返されてしまします。もう一度ボディスラムを狙うも投げられないように体重を落として耐えられると肩から首筋にかけてエルボーを落とされ、力が抜けると青コーナーまで押し込まれて志村さんとタッチされてしまいます。せっかく上田さんがダメージを与えていたのに逃げられてしまいました。


そこからは青コーナーの近くで攻められ続けていきます。志村さんは赤コーナーを警戒しながら大木さんとタッチ、大木さんは2つ3つと技をかけてすぐに志村さんとタッチするので反撃をするタイミングがわかりません。


『パートナーに助けてもらってもいいんだよ』


え?私から上田さんに指示を出すなんていいんですか?なんて思っているうち志村さんが大木さんとタッチすると、今度はロープに振られて手を繋いだようなダブルチョップ攻撃!それをブロックして突破すると反対側のロープで反動をつけてから両足ドロップキック!すぐに上田さんがで出てきて大木さんにエルボー!すぐに私の肩を叩いてから志村さんの方に向かいます。


『ゆっくりしてる場合じゃないよ、ダブルのショルダー』


はい、と言ってから私も志村さんに向かいロープへ振ると上田さんのタイミングでショルダータックル!リングから転げ落ちる志村さんを見ることもなく赤コーナーに戻ります。


「琴音!早く!」

コーナーから呼ばれて上田さんとタッチできたので、攻め続けられていた状態からなんとか抜け出せました。


実)対戦は一進一退のシーソーゲーム、お互いに合体攻撃を見せましたがチームワークという点では青コーナーサイドが若干上回ってるでしょうか。前哨戦で築き上げた合体攻撃を遺憾なく発揮できているようです。


ほどなくして大木さんを青コーナーに押し戻すと志村さんを挑発するように手招きをしています。それに応えるようにリングに入ってくると上田さんとシングルマッチのように戦い始めました。

上田さんと志村さんの対戦は、私たちとのやり取りを数倍も正確で速くて強くて迫力もあります。お客さんもセコンドの皆さんも息をするのを忘れたかのようにじっくりと見ていたり、大技が決まると声援をかけたりピンチになると自然とコールがかかったりと会場が一体となったような不思議な感覚に包まれていきます。志村さんがピンチになると大木さんがカットに入るとちょっとブーイングをされてます。それほどお二人の攻防に見入ってるんでしょうね。


『パートナーから合図!すぐ動く!』


そんなこと考えてる場合じゃありませんでした。リングに入ると大木さんをドロップキックで場外に落とし志村さんに合体バックドロップ!すぐに立たせてコーナーに振ると私もコーナーに振られて志村さんにバックエルボー、続けて上田さんが突進してきてバックエルボー、そしてフォール!


『カットに入ってくるよ』


しかしカウント3寸前のところで大木さんがカット!ああ、大木さんのことを邪魔することができません。ちょっと注意力が散漫になってきているようです。


実)この時間帯になって赤コーナーサイドも連携が見られるようになってきました。ブーイングもなんのその、必死の形相でカットに入る大木選手。勝敗の行方が分からなくなってまいりました!


「20分経過、20分経過ー」


ところで、さっきからちょいちょい聞こえる声に助けられたところもあったけどそれって一体誰なんでしょうね、セコンドにはそんな男の人いないし。男の人?まさかまたエロ社長さん?でも声が違うし?

『まあそんなことはいいからさ。そろそろ勝負つけようか?』

そりゃそうですけど、そんな簡単に言わないでくださいよ。

『なんか見てるとお嬢ちゃんには荷が重いというか、パートナーのこと考えて行動してるだけじゃダメなんだよ。よし、俺が手伝ってやる』

そんなこと言って、まさかエロ社長さんみたいにセクシーな下着姿を見せろとか言うんじゃないでしょうね?

『エロ社長って…そういのは嫌いじゃないけどお嬢さんのじゃねえ。どっちかって言うとお嬢さんのパートナーか対戦相手の白いコスチュームの人の方が俺の好みかなあ』

そ、そんなのダメに決まってるじゃないですか!何言ってるんですか!

『だからそういうのはいいから、一回だけ手本を見せるから。ちょっと借りるよ』

ちょ、ちょっと待ってくださいよーって聞いてませんよねーーー?


♪ドゥクドゥクドゥクドゥクドゥクドゥクドゥクドゥクドゥクドゥクドゥクドゥク## $$ %%% Come on!

わー、また頭の中に音楽が流れてきましたよ。なんか喉が痛くなりそうな歌い方してますね。


実)カットに入った志村に対し佐藤のジャブからストレート、これは珍しい、さらにサミンからのチンクラッシャー!そこへ上田渾身のランニングエルボー!たまらず志村が場外へエスケープ!

リング上で佐藤は大木に左足を取らせると右足で延髄斬り!それでも掴みかかってくる腕を避けてDDT!強烈な一発からカバー!これも志村がカット、間一髪、間に合いました。

そこに上田がやってきて志村をロープに振る、そこへダブルのバックエルボー!倒れない志村にダブルのブレーンダスター!さらに上田のエルボードロップに佐藤のフットスタンプ!そのまま場外に落とす!試合終盤になってから赤コーナー側の連携が冴え渡ります!


ギターかベースのリズミカルな低音とドラムが鳴り響くのはハードロック?でもこの声の歌い方だとヘヴィメタル?私の音楽知識ではそのくらいしかわかりません。あと英語の歌詞なので合いの手のようなYeahとかHeyとかCome onくらいしか聞き取れませんよ。


実)ここでブレーンバスターの掛け合いか、仕掛ける佐藤、耐える大木!これは大木が持ち上げたが堪える佐藤!足をばたつかせて着地するとなんとスイング式ネックブリーカー、さらに大木選手の片足を掴んで弓なりに締め上げる!(※1)まるでサソリのようだ!これは厳しい大木、ここも志村のカットが間に合った!

しかし上田が志村をコーナへ振り、そこに佐藤が上田をコーナーに走らせて、バックエルボー!今度は上田が志村を佐藤に向けて振ると佐藤はカニバサミで志村を倒すと、そこへ上田のエルボードロップが降ってくる!なんだこの連携、今までの戦いでは見られなかったアンタッチャブルな展開を誰が予想したでしょうか!上田が志村を追いかけて場外へ!勝負を佐藤に預けたようです。


♪Hey!#$$Hey!$%%Hey!%&&## $$ &&& Come on!


それにしても私ってこんな動きをしてるってことは、次の日からまた筋肉痛になるんでしょうね。でもこういう連携ってやってみたかったんですよね。これぞタッグマッチって感じがします。


実)リング上では大木との一騎打ち、やられっぱなしでは終われない大木は最後の力を振り絞ってエルボーを連打!自らロープに走ってドロップキック!これをかわした、いやそのまま捕まえてその足を折りたたみ4の字ジャックナイフ固め!なんとかこれをキックアウト!なんでしょう、ここにきて佐藤が覚醒してきんでしょうか!

佐藤が両手を広げるポーズを見せます、これも珍しい。大木のバックに回るとバーックドロップ!腕を解かずにもう一度!さらに続けてもう一発!そのままホールド!カウントが入る!

「ワン、ツー、スリー!」「カンカンカン!」「25分03秒、25分03秒ー、バックドロップホールドにより佐藤選手の勝ち」


セコンドの皆さんがリングに駆け上りそれぞれの選手の介抱に当たります。私のところには工藤さんが駆けつけてくれて「よくやったね、頑張ったね」と褒めてくれました。


『パートナーの動きには考えなくても合わせられるようにしないとな。まあこのくらいできないとベルトに届かないから、しっかり練習しておくように』


はい、とは言うものの後で動画を見てみないと自分でもどんな風にしてたのかわかってないんですよね。音楽が流れてからはあっという間だったんですから。はあ、今になって息が切れてきましたよ。


しばらくすると上田さんと志村さんが場外から戻ってくるとそれぞれのパートナーの元へ向かっていきます。私は工藤さんの肩を借りてなんとか立ち上がるとレフェリーが近づいてきます。軽く体調チェックをすると工藤さんが離れていくのでなんとか自力で立ちます。上田さんと私の手を取って上に上げると客席からは弾けるような拍手が巻き起こります。立ってるのもやっとですけど、とにかく勝てて良かったです。途中から上田さんの足を引っ張ってましたから。それよりも、またおじさんの力を借りてしまいましたが新しい下着を用意しなくてもいいのは良かったですけど、なんか複雑な心境です。


「ふうー、ショウ子、ちょっと物足りないけど今日のところはこのくらいで勘弁してあげる。でもね、っていうか何よその子は!あんたとんでもない子を育てたわね。何あの最後の連携、あんなの私たちの時より随分と意思の疎通ができてるじゃないの!何が昔の動きができないよ、それ以上だったじゃないの!もう、すっかり騙されたわよ」


志村さんがマイクを取ると叫ぶように上田さんに話し始めました。最初にリングで挨拶していた演劇っぽい話し方をしていましたが、こっちの方が素の話し方なんでしょうか。でもこちらの方が人間っぽさがあって好感が持てますね。その志村さんが私のそばまでくると、頭に手をやりポンポンとされました。ん?

「琴音と言ったかしら。ショウ子が才能を認めるだけあったわね。うちの大木があなたのライバルになれるように鍛えておくからその時はまたお願いね」

と言うと、私のほっぺに軽くキスをしてきました!え?キス?かあぁぁぁ〜


青コーナー側の客席からは異様な叫び声が聞こえたような気がするけど確認を取る間も無く、急に上田さんが私に抱きついて力任せに志村さんから距離をとりました。

「ちょっと!何うちの子にツバつけてるのよ!まったく、油断も隙もありはしないわね。どお、言ったでしょ?秘蔵っ子だって。それにね、まだまだ隠れた才能があるんだから。それにね、このこだけじゃなくてうちの選手たちの潜在能力は計り知れないんだからね!」


私だけじゃなくて同期の皆さんも先輩たちも、こんなものじゃないんだぞって言う上田さんはとても誇らしく見えて、上田さんの期待に応えられるようにもっと頑張らないとなって思いました。


「最後の最後で負けちゃったからこんなこと言うのもどうかと思うけど一言言わせてもらうわ。誰がなんと言おうと、どんな手段を使ってでも、ドリームファクトリーの初代チャンピオンを決めるトーナメントに、必ずエントリーするから!そして、決勝でショウ子に勝ってみせる!」


いきなりの宣言にお客さんは大いに盛り上がり志村コールが響く中、上田さんは、参ったねどうも、みたいに肩をすくめると私とセコンドにリングを降りるように促します。あれ?こういう時って勝った方が最後まで残るんじゃなかったでしたっけ?


私たちがリングを降りてお客さんが静かになると、C・R・Gの皆さんがリングに上がり志村さんと大木さんを囲むように整列します。

「大木幸子、そこに直りなさい」

疲れていたいだろう体を無理やり起こすと、片ひざをついて志村さんに向かって座りなおします。志村さんは先ほどまでと違って優しく大木さんに話しかけ始めます。

「ドリームファクトリーとの交流戦、そして今日の最終戦、幸子と一緒に戦ってきてずっと見てきた。最後に負けてしまったのは残念だったけどこれまでのことを鑑みてひとつの結論に出そうと思う。これは他の選手たちも了承を得ているから安心してほしい」


なんか仰々しいことが始まりそうです。それはお客さんも感じたようで場内がシーンと静まり返っています。


「大木幸子、あなたには”カラン”というリングネームを授けようと思う。良かった受け取ってほしい。そしてその新しい名前に恥ずかしくないようなプロレスラーになってくれることを願う、どうだろうか」

それを聞いた大木さんは志村さんの顔を見ると「ありがとうございます、一生懸命頑張ります」というやいなや泣き崩れてしまいました。それを見ていたC・R・Gの皆さんが大木さんを囲んで喜びを分かち合っている姿にちょっとほろっとしちゃいました。そしてお客さんに挨拶をすると割れんばかりの拍手が大木さんに送られます。もちろん青コーナー側の客席かも拍手とすすり泣く姿が見られました。


「ドリームファクトリーの皆様、そして多くのお客様にこの場をお借りできたことを感謝申し上げます。おかげさまで大木カランの命名式を取り行うことができました。皆様にはこの新しいレスラーがどのように活躍していくか見守っていただけると幸いです。それではまたお会いできる日を楽しみにしています。今後もプロレスリング・ドリームファクトリーと同じく、クリムゾン・ローズ・ガーデンをよろしくお願いします。本日はありがとうございました!」


颯爽とリングを降りてお客さんの声援に応えている志村さんをかっこいいなーと感心していると、不意に目があってウインクされてしましました。あらー、これは試合前に言われた立野さんのことが本当になっちゃったみたいですね。


♪ Scum Of The Earth/ロブ・ゾンビ だと思っていただけると嬉しいです

※1 変型逆片エビ固め みたいな技だと思ってください

次話は11月25日を予定しています

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