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第13話

なんやかんやありながらも来週にはローズさん・大木さん組との対戦が迫ってきました。それに合わせて特別な練習を連日これでもかっていうほどやってきてますけど、その成果が発揮されているのか手応えが掴めない日々を過ごしています。

それと同じように立野さん・山田さんも5番勝負に向けて色々と試している様子が伺えます。というのも今まで使ったことがない技がチラホラ見えて、まるで本番で使えるように試しているかのようです。まさか試合中に?って思いましたが、本番で使えなかったら意味がないと言わんばかりです。度胸があるというか肝が据わってるというか、国を代表するくらいの人はこのくらいやっちゃうのは当たり前なのかもしれません。


そんなことを考えている立野さんと山田さんが対戦相手にしている時の原口さんは、何かちょっと余裕を見せてるというか精神的に有利に立ちたいようで、ことあるごとに言葉を投げかけています。試合中にもかかわらず、立野さんには「はっはっは!そんなもんかこの若造が!全く効いとらんわい!」とか「うちの大木と変わらぬような青二才が!」とか言うんですよ。そして山田さんには「どうした、どうした嘴が黄色い若鳥が!もっとかかって来い」とか「そんなもの痛くも痒くもないぞ、卵の殻も取れないひよっこが!」とか。とにかくお二人を下に見ているように攻め立てています。松本さんの口撃よりも厳しいんですけどなんかねえ、時代劇のような言い回しにちょっとクスってしてしまいます。よくそんな表現が出てくるもんだなあと不思議に思ったりボキャブラリーが豊富だなぁと思ったり。でもそんなこと言ってられるのも今のうちかも知れませんよ?


またそういうのは味方にもかけるようで、特に大木さんがタッグパートナーになると「行けっ!そこだっ!一気に攻めろ!」とか「まだまだ!お前の力はそんなものじゃないぞ!」とか「もう少しだ!勝利の神様が腕枕をして待ってくれてるぞ」などなど、ちょっと、いやとても暑苦しい声援を送っています。基本的にいい人なのかもしれませんが対戦相手になると面倒そうな気がします。


そんな感じで試合を重ねている同期の皆さんは、私より先にリングコスチュームが新しく変わっています。

立野さんは赤いレスリングスーツにチューブトップブラを合わせたようなワンピースに、炎のような模様が控えめに描かれています。サポーターはヒザだけでパッドのない薄い物にして、より動きやすくしているようです。私よりシンプルなデザインは無駄を一切排除したようなストイックさが伺えます。

山田さんは青をベースにシルバーのキラキラ反射する素材を使い、衿つき半袖のトップにミニスカートに見えるショートパンツのセパレート。同じ色使いのサポーターにヒザまでの編み上げのリングシューズを履いています。初めて見たときは、強さを求めている山田さんがこんなに可愛らしいコスチュームを作ったなんてちょっと意外!って思っちゃいましたけどとてもお似合いです。

ちなみに、工藤さんは立野さんと同じような黒のレスリングスーツをベースに、ベルトのような包帯のような帯状のもので装飾を施しシルバーのバックルやスタッズが付いています。でもそれって凶器と同じ扱いにされるんじゃないかと思ったけど柔らかい素材で作っているようです。そこにパッドの厚いサポーターにふくらはぎくらいのリングシューズを履く姿を見たとき、思わず世紀末覇者が活躍する世界で、外敵から集落を守っていそうな戦士って思っちゃいました。

堀田さんは白ベースに赤と緑でアクセントをつけたリングコスチュームはデビューしてからほとんど変わってませんが、スパンコールがついたりフリンジのついたアームカバーを付けたりとちょっとずつ豪華になっているみたいです。大きく変わったのは入場する時用に鷲のようなオーバーマスクを被るようになりました。そして、試合中に場外に飛んだり大技を決めると「ビバ・メヒコー!」と叫ぶようになったんですよ。別にメキシコ人じゃないのにって思ったんですけど、これがお客さんに好評で、早々と定着すると結構盛り上がっていますので結果的に良かったのかもしれませんね。


合宿所では同期の皆さんと明後日に迫ったC・R・Gとの最終戦のことが話題に上がります。何と言っても先輩たちを差し置いてメインイベントで試合をするっていうのでいやが上にも盛り上がってしまいます。立野さんと山田さんはくじ引きだったけど私の場合は何を思ったか上田さんからの指名なんですから。私より実力もある工藤さんや堀田さんさえもまだなのに。いつも第一試合や第二試合ばかりだったのがいきなりメインイベントで試合をしないといけなくなっちゃんですから。あのときは試合の順番のことより指名されたことにびっくりしちゃっててそこまで考えられなかったですからね。今になって緊張するかと思ったんですが意外と落ち着いてるんですよね。これまでリングに上がってきた経験と緊張するのをなんとか克服できたという自信と、何と言っても上田さんが隣にいるっという頼もしさと安心感があるからだと思うんですよ。立野さんからは「失礼だと思うけどこんなに早く晴子がメインに上がれるなんてねー」と言われ、山田さんからは「晴子さん、タッグマッチですけどこれは非常に名誉なことなんですからね、遠慮なんてしないであの時みたいに見てる人たちを全員びっくりさせればいいんですよ」と力強く応援してくれました。堀田さんは「くっそー、また私より目立つことしてくれちゃってさー、羨ましすぎる!」とちょっと的外れなことを言われ、工藤さんは「大変だろうけど無理しないでね、怪我のないように気をつけて」とお母さんみたいに心配されてしまいました。と言っても、試合になったら練習してきたこと以上のことはできないでしょうから、なるべく上田さんの邪魔にならないように気をつけていこうと思っています。「これでまた他の団体の人から目を付けられちゃうのね」って立野さん、恐ろしいことを言わないでくださいよー。


「それで、最終戦はどう戦うとか上田さんと話し合いはしてるの?」

そういえばそんな話はまだしてませんね。今の私はとにかく上田さんの指示通りに遅れないようにすることで精一杯ですから。以前に聞いた、1+1は大きな1、についてはいくら考えても答えが出そうにないのでその時にならないとわからない、ということにしています。もちろん上田さんのことは練習の時から試合から仕草や目線の先を見ながら気をつけているのですが、上達したとかタイミングばっちり!という手応えもなく、額にピキピキピーン!と稲妻が走って上田さんや対戦相手の動きが視える!とかもなく今日まできてしまった訳ですけど。


そこからはどんな風に戦っていこうとか、こういうのはどう?というアドバイスをもらったり、吉岡さんは無表情で技が効いてるかわかりづらいよね、とか、原口さんは力があってでかいけど付け入る隙はありそうねーとか、増田さんのファイトスタイルは晶と違うけど似てるよねーとか、大木?いや私は聞いた事ないかなーとか、ローズさんは懐が深くて掴み所がないのよねーとか、晴子の新しいコスチュームって結構可愛いじゃん、似合ってるよ、とか、最終戦のことを気にしつつも途中から女子会のようになってしまいました。


次の日、その日の全試合が終わった後、上田さんに呼び出されてしまいました。なかなか結果がともなわなくて今日の試合でも負けてしまったので、練習の成果が出てないとか明日のタッグマッチは交代させるとか言われてしまうのかと思い恐る恐る事務所の方へ向かいます。応接室のドアをノックして「失礼します、佐藤です」と言うと「どうぞー」上田さんの声が返ってきたので中へ入ると上田さんだけじゃなく渡辺さんも一緒にいました。間違えちゃった?とドアの方を向いたら渡辺さんに促されてそのままソファに座ります。


「お疲れ様。晴子、明日の準備はできてる」

「はい、明日にならないとわからないところもありますけど、今のところは大丈夫だと思います」

「これまでC・R・Gとの交流戦をやってみて晴子はどう思った?」

「はい、思ったよりできたところとまだまだなところが見つかったのでもっと練習をしていかないと思いました」

「そう、わかった。それじゃあ明日の試合のための作戦会議よ」

「は、え?あの、私はずっと負けたばかりだったから明日は他の選手と変えられてしまうのかとばかり思っていたので…」

「晴子は試合に出たくないの?それとも私の選手起用が間違ってるって言いたいの?」

「いえ、そう言う訳ではないんですけど、なんて言うか、このまま私でいいのか不安になってしまいまして…」


『この子は技術的には問題ないんだよなぁ、あとは気持ちの問題かぁ』


「そんなこと気にしなくていいわよ。試合では結果が出てないけど練習ではしっかり私のこと見てるし周りにも気を使ってるのがわかるし、私なりに手応えを感じてるわよ?」

「あ、ありがとうございます。ずっと負けてばかりだったからてっきり…」

「もう、しょうがないわねー。いい?私が晴子を選んで今日まで練習を重ねてきたんだから大丈夫よ。何も心配しないで明日を迎えることだけを考えていればいいから、わかった?」

「はい、わかりました、ありがとうございます。明日は一生懸命頑張ります!」

「よし!じゃあ早速作戦会議を始めましょう。芹香、説明をお願いね」

私の弱い気持ちをなんとか押しのけて作戦会議をしていきます。


「その前に晴子、新人とベテラン、勝つために狙うならどっちがいいと思う?」

そりゃあもちろん新人の方を狙った方が勝てると思いますけど?

「そう、向こうもそう思って晴子を標的にしてくると考えていた方がいいと思うの。そこで作戦その1、晴子はひたすら耐えること」

ヒェッ!ひたすら耐えるって、作戦というより気合いでどうこうするようなものじゃないですか?変な声が出ちゃいましたよ。

「もちろん限界を超えてまでギブアップするなとは言わないけどなるべく耐えてほしいのよ。そうすれば次の作戦にうつりやすいの。作戦その2はね、本命は大木選手だけど2人同時攻撃は志村選手だけにする」

え?なんですかそれ、大木さんに攻撃をした方がいいんじゃないですか?

「これは相手の裏をかくための作戦ね。向こうも大木選手に攻撃を集中してくると思って準備してると思うのよ。それを逆手にとって志村選手に仕掛けてこちらの狙いをわからないようにするの」

や、そこは素直に大木選手を狙っていきましょうよ。とても危険な感じがしますよ。

「そう、だから晴子には耐えてほしいの。そのためにずっと練習してきたでしょ?ピンポン球のとかテニスボールのとか」

ああ、そういう意図があってのあの練習だったんですか。動きながらセリフみたいなこと言ってたのは瞬発力と同時に心肺能力を鍛えていたんですね。

「そしてショウ子には大木選手には晴子、志村選手にはショウ子が当たるようにタッチワークをしっかり管理してほしいの」「あれの相手をするのは面倒だけど今回はしょうがないか」

渡辺さんの作戦内容に上田さんがイヤそうながらも承諾していますね。


「そして最後に作戦その3、ショウ子のことをよく見てて。特に晴子がコーナーにいるときはショウ子の合図や目配せを見逃さなようにしなさいね」

それはC・R・Gさん用の練習を始めた時からずっと見ているようにしています。ちょっとずつ決めていた同時攻撃の合図も覚えたので、あとはそれを出すタイミングがいつかってところですよね。見逃さないようにしないといけません。

「よし、これでいきましょう。大丈夫よ晴子、どんなことになっても最後は私がついてるんだから、明日は思い切ってやっちゃいなさい!」

そんな力強い言葉をかけてもらったら不安とか負けっぱなしだっで落ち込んでたのなんて忘れちゃうくらい勇気が出てきますね!よ〜し、明日は頑張るぞー!!

次話は10月25日を予定しています

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