第12話
タッグマッチとはどういうものなのか、今更ながら気付かされた私は早速練習に取り掛かることにします。
まずはコーナーにいる時、戦っている時、2人攻撃をする時、場外戦の時、相手を分断した時はどうすればいいのかを座学で頭の中に叩き込んでから実戦で体に覚えさせるようにしていきます。実際に戦ってみると座学で学んだことで意外と対応できているようで、これはこういうことなのか!初めて意識できるようになってきてます。
練習の合間に「同期のみんなも先輩方も考えながら動いてるなんてすごいですね!」って言ったら、どうやらそう思っていたのは私だけらしく、皆さんに「はぁ?今頃何言ってるの?」みたいに言われてしまいましたけども。
また、こちらが有利に戦うにはどうすればいいかなど試合形式のスパーリングで確認していきます。でも、さっきはこうだったからこっちにすれば「そっちじゃないよ、こっち」と言われたり、「せっかく腕を攻めてたんだから同じように続けないと」などと注意されたりしながらもさっきできていたと思っていたことが違う!って言われると焦ってしまいますね。
「要は臨機応変に動けるようにならないと」って言われますがそれがまだできなくて、その時の対処法ひとつひとつ教わっていくのですが、何が何だかもう…一応パターン的なものがあって、そういうのはなんとなくできるのですが想定外のことが起こってしまうと動きが止まってしまい、その度に注意されてプチパニックなってしまいます。そうなるごとにスパーリングを一回止めてゆっくりと解説しながら繰り返して練習をしていきます。
そしてさらに、パートナーが捕まって逃げられない時のカットするタイミングやレフェリーにアピールして少しでもこちらに有利になるようにするとか、直接試合に関係がなさそうなことなども覚えないといけなくて、ウキャー!ってなってもおかしくないんですけど、そうなる前に上田さんと渡辺さんが教えてくれるのでパニックになりそうでならなさそうで、ストレスか何か良くないものが溜まりそうです。こんなに考えたり覚えたりするのって高校受験以来じゃないかな?今の方が何倍も大変ですけど。皆さんさらっと試合をしているので、何気なくしている事が実はこんなに難しいことだったのを体験して、改めて凄いなーって思ってしまいます。
そんなことがありながらも、次は渡辺さんにチェックしてもらいながら上田さんとスパーリングをしていきます。
グラウンドの攻防から首や腕の取り合いからバックの取り合いなど、それはもうがっつりとじっくりと。試合中でも練習でもやってきている基本の動きだから、これなら大丈夫だろうと思っていた数分前の自分を叱ってやりたいです。私の中でこのくらいはできてるって思っていたよりも2段階も3段階も飛び超えるような動きやスピードに翻弄されっぱなしで何もさせてもらえない状態です。一見地味なような基本の動きを積み重ねていくと、同じ動きで同じ技のはずなのに全く違うように感じてしまいます。そんなことを思いながら極められたりタップしながらひたすらスパーリングをしていきます。
試合のない日は最終戦に向けての特別な練習をして、少しずつでも上達している?なか、C・R・Gのお二人は着実に2人攻撃や連携がスムーズになっているようです。ローズさんの掛け声をもとに大木さんが合わせているのがだんだんとタイミングが揃ってきているように思えます。最初の頃は大木さんが遠慮してぎごちないような動きだったのですがどんどんスムーズになっていく様子を見ていると無性に焦ってきてしまいます。
「ねえねえ江利香、あれ、何やってるの?」
松本さんが私に声をかけてきました。あ、私は工藤江利香です。あれっていうのは上田さんと晴ちゃんがリングから離れた壁際でやっている練習のことなんだけど、私にもさっぱりわかりません。C・R・Gの皆さんが来てから2週間くらい経ちますが、上田さんと晴ちゃんは最終戦までタッグを組まれることがないので色々心配してるのよね。昨日はスパーリングをして動きを止めながら「こういう時はこう動くの」とかアドバイスを受けていたんだけど、今日はなんとピンポン球を至近距離から晴ちゃんの顔にめがけて投げてるじゃない!少し前にボクシング親子がやっていたのを見たことあるけどそれが一体どういう意味があるっていうの?避けられなかったら額で受けるってどういう事よ!最終戦に志村・大木組とのタッグマッチが組まれてるのにそんなことしてる場合じゃないような気がするのよね。もっと他に連携技の練習とかした方がいいんじゃないの?まあ当事者じゃない私がヤキモキしてもしょうがないんだけど。そんな練習に文句一つも言わずに黙々とこなしていく晴ちゃんもどうかしちゃったんじゃないかと思ってるのよ。試合中やスパーリング中に迷ってるそぶりをみせてるし本当に大丈夫かしら。それとも今回の試合は負けてもいいから今後の経験に生かせれば、とか思ってるのかな?上田さんは。
「ねえ、今日のは何なの?」
次の日にまた松本さんに聞かれたけど「何でしょうね、多分瞬発力と持久力を同時に鍛えてるんじゃないですか?」としか答えられないことをしてるのよね。
上田さんと渡辺さんと萩原さんが晴ちゃんの前・左・右と3方向から少し離れたところから軟式テニスのボールを投げて、それを避けながらたまに叫んでるのよ。なんか「だっだん人の矢よりも速く」とか聞こえてくるんだけどこんな練習見たことないわよ。幸いなことに2人同時に投げて避けられないってことはないんだけど。でもいくら柔らかいボールでもあの距離から当てられたら結構痛いでしょうに。
あ、言ってるうちから当たっちゃった。
「はい、もう一回初めから!」
当たったらやり直しみたいだけど、いつまでやったら終わるのかしらね。
「今日のは…あの2人はどこに向かってるの?」
「って言われても…まあ相手のパンチを避ける練習なんじゃないですかね?」
今日の練習は見たまんまだと思うのよ、1メートルくらいの棒に先にボクシングのグローブを付けて晴ちゃんの顔めがけて突き出してるのをひたすら避けてるっていうね。この練習に何の意図があるのかわからないけど。何日か前にやっていたピンポン球のやつをハードにしたんでしょうかね。
もしかしたら志村さんか大木さんて打撃が得意なのかしら。それの対策の練習なら意味があるのかも。でも試合ではそんなに使ってなかったしパンチって反則だったよね。
トントン、トトトン、トントン、ットトン……
「今日のって、また変なことしてるわねぇ…」
「これはちょっとだけわかりますよ。上田さんが叩いてる太鼓のリズムに晴ちゃんが合わせていくみたいです。息を合わせるとか精神統一とか聞こえましたよ?」
「そんなことしてる暇あるの?本当に大丈夫?」
「まあ上田さんがこの時期に必要ない練習をさせないと思うんですけど、その辺は何とも…」
とは言ったものの、本当に大丈夫なのか不安で不安でしょうがないわよ。でも上田さんのことだから私には想像もつかないことを考えてるんでしょうけどね。考えてますよね?
9月30日に六代目三遊亭 圓楽師匠の訃報が伝えられて何だかなーと思っていたさなか
翌日にはアントニオ猪木さんの訃報が伝えられました
笑点の番組内でジャイアント馬場さんとの逸話や三沢光晴さんの事故を悲しむコメントを発表したり
ファンとしてプロレス界を支えてくださっていた圓楽師匠と
選手としてプロデューサーとして政治家として活躍されていた猪木さん
謹んでお二人のご冥福を心よりお祈りいたします
次話は10月15日を予定しています




