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第11話

試合が終わりリングの周りを片付けていてもロビーを掃除している最中も私の中でずっと「なんで私が?」とういうことがぐるぐると回っています。本当になんでなんでしょう?

立野さん、山田さん、工藤さんからは「いいチャンスじゃん!頑張れよ」とか「上田さんも見る目がありますねえ」とか「そんなに悩まないで、当たって砕けろよ!」なんて応援してくれましたが、堀田さんからは「なんであんたがローズさんに声をかけられるのよ!ジャスミンさんの時といい有名人に気にしてもらえるなんて!」意外な理由で怒られてしまいました。松本さんにも何か言われましたけど…まあいいでしょう。


モヤモヤしながら食事を終わらせて雑用を片付けてからお風呂に入ります。ちょっとはスッキリすると思ったんですけどそんなことはありませんでした。それじゃあ寝ちゃえばいいかといつもより早くベッドに入ったんですが眠れずにいます。門限が近いけど体を動かせば眠りやすくなるかなと工藤さんに一言声をかけて軽くランニングしてきます、と外に向かいます。


「あら、こんな時間に何をしてるの?門限も近いのに感心しないなー」

タイミングがいいのか悪いのか、上田さんがちょうど帰るときに出くわしました。忙しいと思いましたけどこのモヤモヤした胸の内を聞いてもらおうと思います。


食堂まで戻って飲み物を用意してから話を聞いてもらいました。

同期の皆さんの方が実力も経験もあるのになんで私が選ばれたんでしょうか。その方が勝てる確率が高いですし、立野さんなら相手の大木さん対戦を求めていましたし、なんなら松本さんだって一番やる気があったように思います。


「それはね、初勝利した時の試合を見て決めたの。晴子には同期の中で一番潜在能力がありそれを引き出すのに大きなチャンスじゃないかって。初勝利してもなかなか勝ててないのは自分の力を十分に発揮できてないけど、それを引き出すのが私の使命だと思ったからだからあなたじゃなきゃダメなのよ。幸いにも相手も同じくらいのキャリアだから晴子にもチャンスがあるし、うちの選手たちとは違う刺激を受けてもっと自信を持って欲しいのよ」

そこまで私に期待してくれてるってことでしょうか。自信が持てないまま試合をしていたのは確かなんですが、上田さんのいう通り私の中に眠っている力が引き出せれば今よりは自信が持てるんでしょうか。


「それと、これは正式決定じゃないんだけど次の5番勝負は江利香と晴子よ。本当なら晶の番なんだけど、芸能活動もあるからって辞退されたのは残念だけどね」

そうかー、堀田さんはそっちのお仕事もあるからプロレスだけってことができないのか。それは本当に残念ですが、堀田さんの分も頑張らないといけませんね。


『社長の次は俺かな』


次の週からC・R・Gの皆さんとの交流戦が始まりますが、それのためだけの練習というのはしないようです。上田さん曰く「ドリームファクトリーの練習はどこの団体よりも厳しいって思っている。だから特別に何かをしなくても大丈夫よ」とのこと。なので週末の試合に向けて通常の練習をしていきます。


そしてこの交流戦のタイミングで私の新しいリングコスチュームが完成し、お披露目することになります。黄色がベースで差し色に白や光る素材を使い重ね着をしたようなデザイン、襟付きのノースリーブにショートパンツのセパレートタイプ。特に柄や飾りはなく、いたってシンプルに作っていただきました。ホッホー、これは想像以上に戦隊モノの元気が取り柄のイエローみたいないい物ができましたね。このコスチュームに負けないように気合を入れて頑張りたいと思います。


というわけで交流戦が始まります。ローズさんは基本的に大木さんとタッグを組み私たちと対戦するそうです。私はというと上田さんと組むことは少なく、豊田さん・横田さん・渡辺さんと組みタッグマッチで対戦するようになります。C・R・Gの原口さんは立野さん・山田さんとの対戦を多くすることで5番勝負の前哨戦とするようです。


C・R・Gの皆さんはお揃いのリングコスチュームで、ご挨拶に来たときに着ていた軍服のコスチュームと同じようなデザインでまとまっています。皆さん黒で統一されていますが、ローズさんだけ真っ白です。スタンドカラーに袖なしのワンピース、胸元の刺繍も少しずつ変わっているとこまで軍服コスと同じようで、所々に甲冑のような飾りがついています。ローズさんの背中には真っ赤なバラの模様が刺繍されていてゴージャスさが一層引き立っています。吉岡さんはローズさんのような刺繍はありませんが、ロココ調の花柄の刺繍が袖口や襟元など全体に縁取られるようになっています。増田さんは狼のような動物が金色で、原口さんには槍の先の方がクロスするように黒で刺繍されていますが大木さんのにはまだそういったのがないようです。そしてヒザサポーターとリングシューズにはC・R・Gのロゴとバラの刺繍がついています。こういうのが付いてるとチームで一体感が出そうですね。


それから私がC・R・Gの皆さんと対戦したりセコンドで見ていた印象ですが、ローズさんからは上田さんや萩原さんとスパーリングしているような錯覚が試合中にも関わらず受けてしまいました。テクニックや体の使い方、攻め方がどことなく似ているような気がします。吉岡さんは冷静沈着で淡々と技を重ねながら相手の弱点を見つけるとそこを中心に攻めていくような、渡辺さんのような戦い方をしているようです。原口さんはそれとは対照的にパワーと勢いで強引に押し切っていくような感じでしょうか。ちょっと雑?な印象を受けましたけどクリスさんに似ているのかな?増田さんは冷静に相手の出方を見ながらスピードで翻弄して時には強引に来たり、相手が勢いで攻め込もうとすると一旦距離を取ったり、空中戦はしないんですがどことなくルチャっぽいような感じです。大木さんはレスリングの経験があるようですが気持ちで押すタイプのようです。私の同期の皆さんはどちらかというと冷静で感情を表に出すことが少ないのでちょっと気押されちゃいそうです。でもこれが本当の実力じゃなくでまだ何か隠しているように思います。


私とタッグを組んだ先輩たちはうまく動いて相手のペースになってもなんとか立て直すことができるのですが、私が狙われるとそのままズルズルと攻められてしまいます。なんとかやり返ますがどれも単発で、次の攻撃につなげたりタッチする前に潰されてしまいます。このままじゃせっかく期待して指名してくれた上田さんに愛想を尽かされるかもしれません。


そんな感じで負けていたのを危惧してか、次の週から練習の内容を少しだけ変えてみようということになりました。いつも通りの練習の後にタッグマッチ用の練習を、上田さんと、しかもマンツーマンで!だそうです。これはまた贅沢な時間をいただきましたけど松本さんの視線が痛いです。


「ところで晴子、あなたはタッグマッチをどういう風に捉えてるのかしら」

練習が始まる前にそんなことを聞かれました。そういえばきちんと聞かれるまでちゃんと考えたことありませんでしたね。2対2のチーム戦で1人が戦って1人が休んで、状況によってピンチの時は助けてチャンスの時は2人で攻撃するくらい?なのを説明してみます。


「ん〜〜〜……そこからもう少し踏み込んで考えてみようか。例えばC・R・Gと対戦してきたけど、試合を通して相手はどうしていてたか覚えてる?」

そうですね、相手はタッチワークをうまく使って1人だけが疲れないようにしたり、攻め込まれても切り抜けたりしていたと思います。そしてパートナーをしっかり見ていて合図を送ったり声をかけていたりしていましたね。


『そうだね、でもそれだけじゃないんだよね』


「うん、そこまで見ていたならもう少しでタッグマッチのことがわかるようになりそうね。相手がしていることを晴子もすればいいのよ。まあ、言うは易し行うは難しなんだけどね」


私は試合中、精一杯頑張って相手のペースにはまらないようにと気をつけるのと耐えていただけでしたからタッグを組んでいただいた先輩たちはやりにくかったんじゃないでしょうか。チームプレーどころじゃなかったですから。


「私が見た感想だけど、1人と1人対2で戦っていたからうまくいかなかったのよ」

ん?2対2じゃなくて1人と1人対2ですか?


「プロレスではね、優秀なタッグチームとなるとひとりひとりの力が足されると1+1は3にも4にも200にも10倍にもなるって言われてるわ。単純な計算では出せない力が出せるのよ。お互いが気を使い助け合うと総合的に力がプラスされるのかもしれないわね。逆にそれができないチームは噛み合わなくて2になるどころか1人の力すらも出せなくなる場合もあるわ。最初から2という人もいるようだけど、私の考えはこうなの。1+1は大きな1、どういうことかわかる?」

いえ、さっぱりです。ナゾナゾか禅問答か何かに思えてきます。


「いい?大きな1っていうのはパートナー同士がいつ、どこで、何をすればいいか同じようにわかって行動できることと思っているの。例えば晴子がピンチになった、私に助けを求める、私が助けに入るっていうのが合図や声をかけなくてもわかるようになることね。共通認識っていうのかな?」

何も話さなくてもお互いに分かり合えちゃうってことですか?まるで宇宙にまで生活圏を広げて環境に適応した新人類のようじゃないですか。


「まあ理想というか究極的なことを言っちゃえばね。とはいえその域に到達するまで待ってられないから、何か別のことを考えましょう。あとはそうね、同時攻撃の練習もしておきましょうか」


それから練習の合間に松本さんと渡辺さん(体格がローズさんと大木さんに近かったので)に相手になっていただいて合体ブレーンバスター、合体ショルダータックル、合体バックドロップの練習が追加されるようになりました。


せーのっ!といういう掛け声とともに技を繰り出していきます。とにかく私が上田さんに合わせようとしていますが、だんだん上田さんの方が私に合わせるようになっていくのが感じられ、そのたびに足を引っ張ってるなーとかご迷惑をおかけしてるなーとか思ってしまいます。

今更ですが本当に私でよかったんでしょうか、でも弱気になっている暇があったらもっと練習して、期待に応えられるようにしないといけないですね。

次話は10月5日を予定しています

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