第11話
「これから皆さんは道場内、事務所、いずれ行動を共にする地方の試合会場や他団体の道場ではプロレス業界の関係者、記者さんなどいろいろな方たちと会う機会が増えることと思います。その時は必ず「おはようございます、ご苦労様です」と挨拶してください。これは朝でもお昼でも夜でもです。また、うちの団体では年齢に関係なく入団が早い順で先輩後輩の関係になります。皆さんより年下でもすでに入団しているならば必ず「おはようございます、ご苦労様です」と挨拶してください。皆さんの中には社会人として過ごしたり最上級生や経験者として後輩に指導していた方もいたと思いますが、そういった事は一旦リセットしてください」
「すみません、なぜ挨拶は”おはようございます”なんですか?”こんにちは”や”こんばんは”ではダメなんですか?」
「はいダメです。時間的に朝に会った相手だけではなくその日初めて会った相手に挨拶する時に使うからです。この業界や記者さんは昼夜関係なく仕事をしている人がいますが始業が夜になることもあるので”おはようございます”で統一することになりました。あと”こんにちは”や”こんばんは”とは違い”ございます”を付けると丁寧な言い方にもなりますね。そういうことから挨拶はいつでも”おはようございます”でお願いします」
その話、スーパーでパートで働いてるお母さんに聞いたことある!お昼過ぎに出勤してきた社員さんにいきなりおはようございますって言われたときなんで?って思ったんだって。
「それと女子プロレス業界の昔からの習わしで、お酒・タバコ・男性とのお付き合いを禁止する三禁というものがありました。お酒、タバコは20歳になるまでダメなのは当たり前ですが、お酒は特に禁止していません。タバコはスポーツ選手としての自覚があるならば、ね。ちなみに合宿所と道場内は禁煙になっています。あと男性とのお付き合いですが、これも特に禁止していません。私はお付き合いをすることで自分にやる気が出るとか活力にな大丈夫!というならいいですし、逆に戦ってるところを見られたくないとか彼氏を優先しがちになるからやめておくとか、自分の性格に合わせてもらえればいいです。ただし、練習や試合がおろそかになったり私生活が乱れたりしてるのがこちらからでも分かるようになったら、ちょっとお話し合いをするかもしれませんね。それと、合宿所はご家族でも男子禁制になってるのでご注意ください。まあ練習生の間はそこまで気にかける余裕があるかしらねぇ」
その他にもお給料のこととかプロレスラーとしてデビューするまでの大まかな予定とかSNSで情報をあげるときの注意点、マスコミからの受け答え、万が一裏社会と接触してしまったときの対処法などの様々な説明を受ける。
「簡単ですが以上で終わりにします。詳しくはその都度していきたいと思いますが他に何か聞いておきたい事はありますか?」
「すいません、1ついいですか」
「はいどうぞ」
「私たちのテストの時にジャスミン・リーさんがいたと思うんですけど、こちらとはどういう関係なんですか?」
堀田さんが横田さんにしているけどそういえばそうよね。世界的な女優さんがこんなところ(と言っては失礼か)にいたんだろう。それにしても堀田さん、目の付け所が道場の説明と関係ないと思うんですけど。やっぱり芸能関係者としては無視できないんだろうね。
「その件については私から」
とショウ子さんが代わりに答えてくれる。
「ジャスミン・リーは向こうでの撮影や仕事が入ってないとき、だいたい半年に1回、2〜3ヶ月くらいうちのリングに上がってます。その日は帰国する予定だったけど入団テストがどういうものか見たいということで見学してもらいました。ちょっとしたハプニングがあったけどとても満足してたわよ」と言って私の方をチラっと見る。ん?その日にハプニングってあったっけ?
「なぜこちらでプロレスをするようになったかを教えてもらうってできますか?」
「え〜っとね、演技の勉強になるって聞いたわね。テレビや映画の撮影とか舞台と違っていろいろな角度や方向からお客さんの目線を感じて、普段は見られないところにまで神経を行き渡らせるのがいい刺激になるって言ってたわ。あと実際には使えないかもしれないけどプロレスの技や動きが新しいアクションのアイデアにいいかもって。それに実際に殴ったり殴られたりするのがリアルな演技に活かせるらしいわ。まあこんな感じかしら。もっと詳しく聞きたかったら次に来日した時に本人に直接聞いてちょうだい」
そういう見方もあるのね。堀田さんが何かを見つけたような表情をしてるよ。
「以上で終わりにします。この後は合宿時に荷物の受け渡しと部屋割りを確認してお昼にします」
次話は11月15日を予定しています