表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
109/228

第3話

梅雨もすっかり開けて毎日30度を超え不快指数も上昇しっぱなしの日々が続き、世間ではそろそろ夏休みに入るんじゃないかという、ある日の朝礼での挨拶の時のことです。


「再来週から商店街恒例の七夕祭りの準備が始まります。そのお手伝いの役割を決めるので練習が終わったもすぐに帰らずにもう一度集まってください」

と上田さんから連絡がありました。そういえばもうそんな季節なんですね。個人的に色々なことが続いてたのですっかり忘れていました。お祭りって聞くとそれだけでワクワクしてきますね。


さて、なんでこの時期に七夕祭りが催されるかというと、ドリームファクトリーがあるこの地域はちょっと地方にあるので大学進学や就職等で地元から離れる方々がいらっしゃるようで、その分年末年始やお盆には帰省してくるそうなんです。だったらその時期に合わせてと当時の商店街の会長さんあたりが地元の楽しみを増やしてあげようと夏祭りが始まり、今の七夕は7月7日だけど旧暦では8月の一週目だから夏祭りの時期と近いからいっそのことまとめちゃう?週末に合わせて3日くらい弾けちゃう?せっかくだから派手にいこうよ!みたいなことがあったかどうかは知りませんがそういうことになったらしいです。


私たちの役割は、お祭り前日までの商店街の飾り付けと当日の見回りと迷子センターの受付、メインステージの進行アシスタントと来賓客の接待などが任されることになりました。それとは別にドリームファクトリーのお店も出していいそうで、グッズの販売や選手との交流会なども行われる予定です。


そして1週間前、午前の練習を終えると商店街の人たちに連れられて飾り付けがメインの道路へ向かいます。電柱や街路灯の真ん中から高いところまでハシゴで登って滑車を取り付けてロープを渡していきます。そのロープには金具が等間隔で付けられてて、そこに七夕飾りや提灯等をつける予定だそうです。最後にピーンとロープを引っ張り結ぶと完成です。電柱一本一本に滑車を付けるのにハシゴを登ったり降りたりするのって結構な重労働になりますね。トレーニングの代わりと言ってもいいかもしれません。お祭りの準備期間中はお休みみたいなことになるかと思ったけどそうはなりませんね、毎年準備をしていますがこれはこれで大変です。あーあ、電気会社の人たちが使ってる高所作業車が借りられなかったのかしらね。毎年のことなんだから支店とか出張所に相談して借りられたら少しは作業も安全に楽に早くできそうなんですけどね。

メインになる道路以外のところはロープ掛けも中盤にさしかかろうというとき、路肩に停車しようとするトラックが入ってくるのを見つけ、邪魔だなーなんて思っていたらまさかの高所作業車!あったじゃないですか!これで少しは楽になるかなーと思ったら、それは商店街のベテランさんが使う予定だそうです。


「よお、姉ちゃんたち。ご苦労なこったな。こっちは楽々でいいっぺよー」

どうぞどうぞこちらを気にせずに使っちゃってください、落ちないように気をつけてくださいねー。


そこから数日前から交通の邪魔にならないところから飾り付けをはじめていきます。機織りや裁縫が上手くなりますようにと紙ころも、家内安全を願う折り鶴、前向きな気持ちでいられるようにと提灯、心願成就の輪つなぎ、招福万来の網飾りなど吹き流し以外にも色々と飾り付けていきますが、綺麗なだけじゃなくてちゃんと意味があったんですね、そんなこと意識したことなかったですもんねと商店街のおねいさんたちとお話ししながら作業していきます。幼稚園や小学生の時に作ったのと比べると素材も出来栄えもクオリティが高いし大きさも何倍もあって派手で豪華ですよね。SNS映えもするんじゃないかしら。光をキラキラ反射させて、まるで天の川の中にいるかのように輝いています。さすがプロの職人さんの作るものは仕事が丁寧ですね。それにしても機織りとか裁縫が上手くなりますようにって今どき聞かないお願いですよね。


そんなこんなでお祭りの前日、お昼過ぎから交通整理が始まりところどころで車両通行禁止区間ができると、それを見計らって飾り付けの最終段階に入ります。メイン会場の道路いっぱいに吹き流しや七夕飾りをロープに引っ掛けて、高さを大人が手を伸ばしても届かない高さに調整したり固定したりします。出来上がった飾り付けは県内有数の名所になるらしいんですけど、それを作っている私たちって結構すごくないんじゃないかしら?なんて思ったらちょっとくらいの肉体労働も大丈夫!ハシゴを使ってどんどん飾り付けて行くわよ!駅前広場から商店街を通るメイン道路は、金・銀・色とりどりの飾り付けで煌びやかに。メインを少し外れた道路も負けじと華やかに飾られていきます。


商店街の外れからなだらかな坂道を登っていくと初詣でお世話になっている神社があります。そちらは地元の小さいお子さんやそのご家族が安全に楽しめるようにと第二会場、ちびっ子お祭り広場的な場所になります。小さいながらもやぐらを組むので大忙しです。マイクチェックと和太鼓の音がちょっとうるさく感じますが、お客さんが集まってきたらちょうどいいんじゃないでしょうか。屋台の準備も着々と進められていて、すでにソースやお砂糖の焦げた匂いが食欲をそそります。


ちなみに、この商店街には盆踊りの音や太鼓の音がうるさい!近所迷惑だ!なんていう苦情を言ってくるような人たちはいないようなのでひと安心です。どこぞのハイソな地方では、子供の声がうるさいと土地の価値が下がるとかなんとかで幼稚園や公園を作らないでほしい、なんていう人たちがいるらしいですね。これからの国を背負う子供たちをなんだと思ってるんじゃ!お金は持ってるけど心が貧しいんじゃろか、なんておじいちゃんが嘆いてたのを思い出しました。


そして七夕祭り当日、駅前広場の方も慌ただしくも準備が進んでいるみたいです。メインステージが組み上がり、照明や音響のテストか繰り返され、地元のテレビ局やラジオ局の方々が機材の搬入やチェックをしていたりカメラやマイクを持った人たちが台本を確認しながら予行練習をしている様子が見えます。近くのテントには椅子や机が並べられて来賓席のようなものが出来上がっています。地元の消防団と警察の皆さんの協力で完全に道路を通行止にしています。飾り付けの最終チェックも終わり、それぞれの持ち場へと向かいます。一応七夕祭りの開会宣言があってからお祭りが始まるようなんですが、一部のお客さんは浴衣姿でお祭り会場を散策し、屋台はすでに営業を始めてるし、商店街の皆さんも店頭で簡単な売り場を作ってお客さんとやりとりを始めてます。なんだかなーとは思いつつもこういう雰囲気は嫌いじゃないんですよね。


夕方になると私は工藤さんとペアを組んでローテーションの一番目の仕事として、来場された方々の接待と迷子センターの受付を任されました。接待といっても挨拶に来られたお客さんにお茶を出したり席まで案内したりの簡単なお仕事です。そのあとは本部席にいる運営委員の人におまかせするだけでいいんですから。迷子さんは始まったばかりですぐにくるとは思いませんからね。

あ、ダークブルーのスーツを着た人たちに囲まれたお偉いさんぽい人がやってきましたよ?委員会の人がわざわざ近寄って挨拶をしています。この人はどちらさんかしら?どこかで見たことがあるような気はするんですけどね。

お茶を運んで離れると委員会の人とちょっとお話をして、しばらく後に別の人がメインステージに誘導しようとしています。ってことはそろそろお祭りが始まるのかな?そう思うとワクワクしてきますね!お祭りだーい!わっしょいわっしょい!!

誠心会館の青柳政司さんの訃報が届きました 謹んで青柳館長のご冥福をお祈りいたします 押忍!

次話は7月25日を予定しています 押忍!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ