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第20話

上田さんからのアドバイスを受けて今日も松本さんとの対戦です。

今日は何か重大発表があるらしく、マスコミの方とかがいつもより多いみたいです。


まず、今までみたいに丸め込みは狙わずに力押しでガムシャラに戦ってみること、スタミナを奪うためにグラウンドではとにかく上に乗っかる時間を増やしたりボディー攻撃やスリーパーホールドを使ってみることにします。うまくいけば試合終盤には面白いことが起きる、かもしれない?との事です。そのあたりは私の頑張り次第だと思うので何とかアドバイス通りにやっていきたいと思います。


(私は佐藤琴音、私は佐藤琴音。リングの上では一般人の晴子じゃなくてプロレスラーの琴音)


試合開始のゴングがなる前から自分に暗示をかけながら松本さんと戦っていきます。ロックアップはせずにバックの取り合いから腕の取り合いをしていきます。この辺は松本さんの方が優勢ですがなんとか対処できてるようです。


(私は佐藤琴音、私は佐藤琴音。晴子じゃないから打撃技もできる!)


一旦距離を取ると今度はロックアップ。ロープに押し込まれ、離れ側に胸元にバチーンとチョップを受けます。

再びロックアップ、私がロープに押し込むと体を入れ替えられても一度胸元にチョップ!今度はお返しにと頭を掴みヨーロピアンアパカー!


(私は佐藤琴音、私は佐藤琴音。晴子じゃないから力技も使える!)


ヘッドロックをかけるとすぐにヘッドロックホイップから袈裟固めへ。ヘッドシザースで袈裟固めから逃げようとしてもその足を手で跳ねのけて体重を乗せてぐいっと力を込めます。苦しんでいるようだけどバタバタと暴れられてロープに逃げられてしまいます。


(私は佐藤琴音、私は佐藤琴音。晴子じゃないから首も絞められる!)


本当に首を絞めたら反則なのでアドバイス通りにスリーパーホールドを狙います。何とか松本さんに乗っかって横から後ろから首を守る腕の隙間を狙って自分の腕を伸ばしていきます。ボディも攻めた方がいいと聞いていたので足で胴体を挟んでみたり。この場合ボディシザースでいいのかな?


思うように攻められないようで、松本さんから「あーっ!」とか「くそっ!!」とか、何だかイライラいてるような声が聞こえてきますが今までみたいにビビったりしません。だって今日から佐藤琴音だから!


それでもロープに逃げられて一旦ブレイク。松本さんは場外で一呼吸するようにリングの周りをウロウロしています。勢いに任せて追いかけていくとお腹を蹴られ、髪の毛と左手を掴まれたかと思うと鉄柵に向かって投げられます!とっさにロープワークのように背中からぶつかると、ガシャーン!という音とともに背中いっぱいに激痛が走ります。背中を抑えてうずくまっている私に向かってストンピング、髪の毛を掴んで無理やり立たされるとリングのエプロンサイドに顔を叩きつけられ、すぐにリングの鉄の柱に体を打ち付けられてしまいます。そんな乱暴な攻撃をされると晴子の部分が出てきちゃいそうです。そこに追い討ちをかけるように背中にパイプ椅子で叩かれる!ドスンという衝撃がまた背中に!


カウント16くらいでリングに戻されるとコーナーに座らされてロープを掴みながら体重をかけて踏まれてしまいます。レフェリーが反則カウントを取っているようですがお構い無しです。


こんな時、何でもいいからどうにかならないかな?アニメや漫画なら内なる声が聞こえてきてぎゃーって叫びながら覚醒するんだけどなー、


《力が欲しいならくれてやろう—》(※1)

なんて右腕のナノマシンが呼ぶわけないし


《ピピルマピピルマプリリンパ—》(※2)

これはその道のプロフェッショナルになれる魔法の呪文だった


《クルクルバビンチョパペッピポ—》(※3)

これは物事の初めてを見に行く呪文だった。ええと、他には何かなかったかな。この状況を何とかしたいんですけど。すると松本さんはレフェリーに強引に離されたかと思うとリング中央でマイクを握っています。


「おい!このどっ素人ヤロー!お前が影でコソコソしてるみたいだけど私には通用しないんだよどっ素人ヤロー!丸め込みやエルボースマッシュを覚えたからって勝てるなんて思ってるんじゃねーよこのどっ素人ヤロー!最後はダブルアームスープレックスでご機嫌ちゃーんてか?私に勝とうなんて10年と3日早いんだよどっ素人ヤロー!」


ちょっと!何でそこまで知ってるんですか!あんなに内緒にしてたのに、絶対バレないと思ってたのに!でも私、エルボースマッシュなんて技、使ってないですよ。あー、さっきまでの頑張ろうって気持ちがどんどんなくなっていきます。せっかく自己暗示までかけて頑張ってきたんだけど今日もダメなのねって思っちゃいました。




『ちやーっす、呼ばれて飛び出て、ちゃっちゃちやーっす!』

何?なんか男の人のしゃがれ声が聞こえてきたんですけど?あれ、そういえば周りの歓声やレフェリーの声が聞こえないんですけどどうしちゃったのかしら?


『そんなことはどうでもいいから。それより今の状況わかってる?』

そうでした、まだ試合中だった。今日こそは何とか勝ちたいなーって思ってたら松本さんに秘密練習のことがバレててやる気がなくなっちゃったんでした。


『まあそこにオレが来たわけなんだけど、それでこの後どうしたい?』

自己暗示がかかってた時はうまくいってたんですが、場外乱闘と口撃でそれがなくなって、松本さんに勝つことなんて難しいのかもしれないのかなって思ってるんですよね。


『何だよそれ、そんなんでいいのか?とりあえず周りを見てみろよ』

おじさんに言われて周りを見ると、いつの間にか同期の皆さんが集まって来て私のセコンドをしています。立野さんはダウンカウントを数えているレフェリーに松本さんがこちらに来ないようにチェックしているみたい、山田さんは私に向かって必死に声をかけてくれてるようです。堀田さんはトップロープのコーナーパットを叩いてお客さんに拍手を促して、それに合わせて工藤さんはマットを両手でバンバン叩いています。

客席の奥の方ではジャスミンさんがコスチュームのまま肩にタオルをかけて私を見ています。目があったかどうかわからないけど肩をすくめています。


『そして、あそこを見ろ』

本部席で解説をしている上田さんが実況をしている人に声をかけられてもこちらをじっと見ています。


『それと、相手のお嬢ちゃんな』

松本さんはレフェリーの制止に従い赤コーナーに寄りかかっていますがたまにこちらに向かってこようとしています。でも肩で息をしてるし表情も何となく辛そうに見えます。もしかしてスタミナがなくなってきてるのかな?


『そう、あのお嬢ちゃんは体力がなくなる前にここが勝負時とみて仕掛けたいんだよ、でもお前さんがダウンしてるから体力と精神的に回復されるのをまずいと思ってるんだろうな』

まさかそんな、本当に余裕がないんですか?もしかして上田さんのアドバイスが効いてる?


『あっちのお嬢ちゃんは負けたくないって気持ちだけで立っていられるんだよ。そしてお前さんはそれに負けてるだけ。体力はまだあるしダメージだって場外のだけぐらいだろ。それに出してない技があるにもかかわらずダメかなーって思ってるんだよ』

な、何で私が思ってること分かっちゃうのよ!


『何だってわかるさ、そして次また頑張ればいいかなーってのもあるだろ。それじゃダメだ。こんなチャンスまた来るとも限らないぞ?今日みたいに同じようなことがあったとしてもあっちのお嬢ちゃんなら対応してくるぞ。周りの応援もないかもしれないし、オレだって次は来ないかもしれないぞ?今しかないんだよ』

そう言われても…


『勝ちたいって思ったからオレを呼んだんだろ!なら勝負に出なきゃダメだろ!腹ぁくくれ!』

確かにそうなんですけど…


『あっちの本部席の人にも世話になったんだろ?このまま終わってなんて報告するんだ?諦めちゃいましたってか?そんなの聞きたくないと思うぞ。勝っても負けても精一杯頑張りましたって胸張って言えるのか今の状態で!』

確かにそうです。前にもアドバイスをもらったり今日のためにお話を聞かせてくれたりリングネームまでつけてもらっておいてそれはないですし、したくないです。


『それに、あそこの人に教わった技だってまだ出してないだろ。秘密練習に付き合ってくれて技を受けてもらったりしただろうに。いいのか?そんな人をガッカリさせて』

いやいや、それは良くないです。せめてあの技を出したいんですけど、何でそんなことまで知ってるんですか?


『そりゃずっと見てたからな。たまに声をかけてたんだけどお前さんしか聞こえてなかったようだから』

じゃあ練習中に聞こえてたのって幻聴だったけど本人はいたってこと?


『そう、オレ。やっと会話らしい会話ができたってわけだ』

そうでしたか、初めましてだけど初めましてじゃない感じですか。

ん?ちょっと待って?練習を見てたってことはどこからどの辺まで見えたんですかね。


『おう!ぶっちゃけると道場から合宿所からこの敷地内はほぼ丸見え。なるべく見ちゃいけないところは見ないようにしてたけど、まあなんだ、男のサガっていうのがあってだな』

ってことは合宿所の部屋の中とかお風呂場とかも!何よこのヘンタイ!のぞき魔!サイテー!


『悪かったよ。でもしょうがねだろ見えちゃったんだから。だからこうやって白状したんだし実害はないんだし、これからはもう見ないようにするからよ?許してくれよ』

確かにそうかもしれないですけどいろいろ許せないところがあるんですよ!


『わかったわかった、今後は見ないように気をつけるから、な?それで』

本当ですよ?

『ホントにホント、ぶっちゃけマジで』

じゃあ今回はそれでいいですけど…なんか納得いかないなー。


『OK、OK。でだ、これからどうしたい?ちょっとは手伝えるかもしれないが』

そうでした、のぞき見されてることで話がずれてしまいましたけど、このあと力を貸してくれるってことでいいんですよね。


『おう!いいぞ、でもここからは有料な?』

ちょ、ちょっとソレってなんですか!


『まあさ、のぞいてた罪滅ぼしに力を貸してもいいかなと思ってたんだけど、謝ったら許してもらっちゃったからな、ここからはタダとは言わんよ?』

うわー、何やってるんだ私、そんなことって…


『なーに、そんな難しいことや金品なんてのぞまんさ。そうだなー、いちごちゃんやパステルカラーも嫌いじゃないけど、もっと大人っぽくてsexyなのがオレの好みかな、ぐふふっ』

なっ、いちごって、ちょっと!何をさせようとしてるのよこのおじさんは!そんなやつ持ってるわけないでしょ!あーあ、こんなことさせられるんだったら知らないうちに見られてた方が良かったじゃない…いや、良くはないんだけど。


『こういうのはさ、お互いが納得してた方が後腐れなく楽しめるじゃん、ぐふふふっ』

もう、何考えてるのよまったく。笑い方といいどこのエロ社長よ!ええい!わかりましたよ。でもそんなに高いのやキワドイのはアテにしないでくださいよ?


『いいよいいよ、その辺は任せるから。ガーターとかニーハイとかオープンクロッチとか言ってもわからないし似合わないだろうから』

なんか訳わからない事言われましたけど、この試合が無事に終わったら驚安の殿堂に探しに行くしかないですね。

これで手伝ってもらえるのはいいとして、どんな事するんですかね。事前に教えてもらっておいた方がいいかな。


『そこは試合なんだから練習してきたことを思いっきりやるしかないだろ。あとはオレの技と体の使い方を覚えてくれたらこの後も使えるかもしれんがな』

おじさんが何をするか想像できないですけどここまできたらやるしかないですよね。でもちょっと不安だな、あとはできるだけ痛くしないでほしいなー。


『グホッ、天然なのはいいけどなーお前さん、あんな話をした後に言うことじゃないと思うぞ?でもそんなこと言われちゃったらオレも頑張っちゃおうかなー、ぐふふっ』

え?なんか私って変なこと言っちゃったかしら?おじさんがやけに元気になっちゃったんですけど?


『まあまあその辺はな。お、そろそろダウンカウントもやばくなっってきたから始めるぞ、ちゃんとついてこいよ?それではミュージック、スタートっ!』


ちょーっ!ミュージックって何よーー!!聞いてないわよーーー!!!



※1 ARMS/皆川亮二・七月鏡一/小学館 を参考にしています

※2 魔法のプリンセス ミンキー・モモ/テレビ東京/葦プロダクション を参考にしています

※3 まんがはじめて物語 /ダックスインターナショナル/TBS を参考にしています

次話は6月13日を予定しています

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