第10話
「それでは皆さん集まってください。これから入団説明会を始めますので席に着いてください」
挨拶と世間話をそこそこに終わらせて先ほどのパイプ椅子のところに集まり座ります。やっぱり合格した日が同じもの同士で固まっちゃうのよね。
「本日は入団おめでとうございます。ここから私が司会進行を務めます横田未來といいます、よろしくね。皆さんは晴れて私たちの一員となるわけですが、これからはいくつかのルールと注意点があります」
と青っぽいショートボブにしたお姉さんのような雰囲気の女性が事務員らしい方と入団の案内のような冊子のような物を配ってくる。
「まず先ほど配った冊子を見ながら説明していきますね。この団体は上田ショウ子が中心となり立ち上げられました。道場にする物件を探してる時にこちらの商店街から街おこし・地域活性化を目的としたいとお誘いを受け、他の物件よりもいい条件だったという事もありここをプロレス団体ドリームファクトリーのホームグラウンドとしました。これはスポーツ(プロレス)を通じた地域・経済活性化のためにスポーツ産業の活性化,スポーツ環境の充実,そしてスポーツ人口の拡大がつながっていく循環が重要で、スポーツツーリズムや,多数の参加者・観衆が見込めるスポーツイベントの開催を核とした地域活性化に向けた取組を推進するとともに,スポーツ施設の魅力・収益性の向上,スポーツ経営人材の育成,スポーツ(プロレス)と他産業との融合・拡大など,スポーツ(プロレス)を地域の成長産業へと転換していくための取組の一環、としたいそうです」(スポーツ庁ホームページより一部抜粋)
な、なに?いきなり難しい話が始まってるんですけど?地域の発展とかスポーツツーリズムとはなんのことですか?社会の授業が苦手だった私には呪文やお経と同じくらい難解なお話ですよ。書類の提出や寮で荷物を受けったらすぐにトレーニングが始まるものだと思っていたからかなり戸惑っています。
「〜ということで〜って、難しいこと言われてもねぇって表情ね。今の話を分かりやすくすると
・町おこしのために道場を作ってください。
・地域の行事にはスケジュールに余裕があれば積極的に参加してください。
(地域の清掃やお祭りの出店や警備のお手伝いなど)
・団体で必要な物はできるだけ商店街で購入してください。
・私たちが活躍することでファンの方が集まり商店街でお買い物をしてもらおうという狙いもあるそうです。
・地域の皆さんの体力の向上・ストレスの発散・イベント開催時に道場を使わせてください。
その代わり
・道場の家賃が相場より安く抑えます。
・何か購入するとき少しお安くします。
・引退後の選手の再就職や事業を始めるときはお手伝いします。
他にもいろいろありますが、まあこんな感じで持ちつ持たれつの関係って事ですね。なので強制ではないけどなるべく商店街で買い物をしてください。あと何かあると逐一報告されるので気をつけてくださいね。この商店街にとって皆さんは新入社員みたいなものですから」
それならもっと簡単に説明してくれてもいいじゃない、びっくりしちゃったよ。でも逐一報告ってなんか怖いんですけど。
「続きましてこの建物の説明をします。こちらは地下1階地上3階の建物で、私たちは道場と呼んでいます。地下は皆さんが入団テストの時に使用していますね、更衣室とシャワールームと選手用トイレがあり試合前の控え室として使います。そしてここ1階にはロビーと、吹き抜け状になっているこちらのスペースにはリングがあり、この奥にトレーニングマシーンがある部屋と倉庫と合宿所につながるドアがあります。ここが吹き抜け状になっているのは明かり取りと熱気がこもらないようにするためです。ロビーの方には皆さんが入ってきたお客様用出入り口とトイレが2ヶ所とパイプ椅子やテーブルを収納するスペースがあります」
へえ〜、テストの時はよく見なかったけど結構いろいろあるのね。ロビーの方は普通の建物だったけどリングのあるこっちの部屋って天井がこんなに高かったっけ?
「ロビーの奥にある関係者以外立ち入り禁止の扉を開けると階段があります。そこから2階に上ります。そこには事務所と応接室と吹き抜けの窓を開けるための通路に行けるようになっています。そして3階は音響設備倉庫と映像・照明を操作する部屋です。この後案内しますので楽しみにしていてくださいね」
意外と複雑な作りになってるんですね。これは後で案内してもらえるのが楽しみだなぁ。特にあの吹き抜けの通路、行ってみたいなぁ。今の時期は運動した後風が入ってくると気持ちいいんだろうなぁ。
次話は11月5日を予定しています