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月からの使者 創世編  作者: 朝太郎
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月の恋人

跳ぶ。

クロノスは疾駆する。

目指すイリティスタは、獣から異形の怪物に変態した姿で空に向かって急上昇している。島の残骸を足場にクロノスが跳ぶ。イリティスタの羽ばたきが乱気流となって、クロノスが飛ばされるよりも早く四脚に短剣を突き刺した。

カリンを取り込んだことで変異した肉体、クロノアの細胞がイリティスタの存在を変えてしまった。

再構築。短剣を突き刺した場所から飛び上がる。クロノスがいた場所が極太の針山となる。風を圧縮、足場にして跳躍する。大型生物が起こす突風が不安定な移動をより困難にする。重力の枷が厳しい。

「これで終わりにしてくれよ!」

力任せに跳ぶ。

跳んだ先にイリティスタの翼がある。翼というには荒々しく、力強い印象を受ける。巨体を重力から引き剥がすだけある。

異形の翼。その向こうには捩れた角がある。これだけ巨大になったことでクロノスのことなど気にならないのか、攻撃の気配がない。気が付かないとしたら運がいい。

イリティスタの背に乗っている。

戦場だ。

風による奔流が行く手を阻む。力任せに走る自分を滑稽だとクロノスは思った。巨人と小人。もっとも、相手は巨人ではなく化け物であり、自分もまた小さな化け物だ。

重力の魔手がクロノスの体を掴み、宙に放り出そうとする。巨体が上昇する際に生まれる突風もイリティスタの味方をする。クロノスは死線を放ち、翼の一部に絡ませた。

ぎりぎりのところで体が止まった。しかし、落ち着く状況には至れない。

温存していた魔力を解放する。範囲を最小限に結界を構築し、乱気流を受け流す。背に着地して結界の強度を上げていく。

体内で循環させた魔力を薄く広げる。イリティスタという巨大な怪物の全体を膜で包み、クロノスの舞台を整える。風は止んだ。呼吸も問題ない。肺の流れ込む冷気が意識を目覚めさせた。イリティスタが無意識に垂れ流す魔力が結界に反応して、クロノスの制御から離れ、さらに肥大化、監獄のように強化された。それだけイリティスタの持つ魔力が強大だということである。

その魔力の中にカリンのものを感じた。侵蝕の炎によって体内の魔力を奪われることを心配したが、イリティスタにその意思はないらしい。例え、意思があっても闇の魔力が炎を喰う。クロノスが展開する結界は闇属性でできている。特性は『吸収』。いかなる攻撃もクロノスの前には通用しない。無限の闇に呑まれては消える。

だが、吸収した分の魔力をクロノスが消費しなくてはいけない。侵蝕されるよりも相殺すうほうを選んだが、一撃によってはそれ以上の魔力を失うことになる。まさに諸刃だった。

「本当に不便な体だな、クロノア」

最初は夜の間だけ魔術師でいられると思っていたのに、魔力を消費すれば人間になるなんて思いもしなかった。『孤独』という特性を改めて理解した。それだけでも、十分なほど世界は落ちぶれていたし、本気で戦う必要がなかったからいままではよかった。アヴェロスとクロノアがとんでもない爆弾を隠していなければ。

死線を解き、翼を切り裂く。

片手では強固な付け根も束ねれば殺せる。

月の魔力を付加させて片翼が地に落ちる。イリティスタの上昇する速度が一気に下がった。異次元空間の穴が近づいてきた。クリスタル王国で見たものよりは小さいが、覗いている闇が不気味に囁きかける。クロノアとレンのいる世界に引き込もうと自分を誘惑する。このままあの空間に飛び込めば何かが起きる。

イリティスタがいうようにクロノアが復活する。

クロノアの細胞から生まれたカリンももしかしたら復活するかもしれない。死んだ人間が蘇るなんて理を超越しているがクロノアだったら、やりかねない。クロノスの中で疑念を、恐怖を、生み出したのは全てクロノアが関係しているからだ。

クロノアがクロノスの原点。

まさか、未来まで干渉してくるとは思わなかった。長い付き合いだが、どこまでが偶然で必然なのかわからない。もしも再開する機会があれば一度本格的に話し合う必要がありそうだ。

だが、淡々とした表情の奥でクロノス以上に渦巻いているものがクロノアにはあるのかも知れない。

「月魔術――ムーンバニッシュ」

結界の魔力を操作して、金色の鎖がイリティスタを突き刺した。

速度を増して、拘束する。

イリティスタの全身が光った。結界の魔力を供給源に光の制裁は瞬きの間も与えない。いままで無反応だったイリティスタから魔力が溢れた。光を押し返すように闇の波動が輝きを消し去る。

イリティスタの体が変化する。背から鋭利な触手がクロノスに襲い掛かる。足が背に沈む。どこにいるかは把握していたようだ。

結界に触手が吸収される。触れては霧のように消えていく。黒い粒子が弾丸のように結界にぶち当たる。魔力が削られていく。この状況を打開する策を検討しようとして、クロノアの言葉が蘇る。

自分に何ができるのか。

クロノアがいつの日か珍しく自分にアドバイスを送ったことがあった。それは到底アドバイスにはなりえないものだったが、今だったら分かる気がする。

『やるなら一気に片付けなさい』

「月魔術――月と炎の心臓(ハーツ)

お遊びは終わりだ。クロノスがカリンのように全身を炎で包み、結界から抜け出した。

宙を回転し、迫り来る触手の群れを死線で切り刻む。侵蝕効果で触手が燃え上がる。

「案外簡単だったな」

全身の炎の範囲を拡大、結界内で炎を満たす。

どうすれば勝てるのか考えている自分はどこかにいった。初めてイリティスタと会った日を思い出した。そのとき、クロノスは何を考えていたか? 

何も考えていなかった。目の前にいる存在を不思議に思わず魔術を扱っていた。

「さて、総力戦と行こうか」

内部を燃やす炎に触手の気配が絶え、結界が消滅した。

跳躍してイリティスタから離れる。目の前の巨大な化け物。風を纏い炎の勢いを強める。竜巻の中に閉じ込めると炎が侵蝕を開始する。

イリティスタの全身が赤く染まる。体内を駆ける炎がイリティスタの魔力を燃やし尽くそうとしている。カリンの魔力によって具象化しているなら、その分を奪えば弱体化する。安易な考えだったが、効果はあった。イリティスタの全体が少しずつ縮小し始めた。水が蒸発するように体から黒い粒子が蒸気のように上がっている。

残りも翼もいつの間にかなくなっていた。即席で造っただけに余計なものは先に切り離したというところだろうか。

イリティスタは一向にクロノスを見ようとしない。ここまで攻撃されても異次元空間に視線は向けられ続けた。見上げれば完全な円形になった異次元空間の入り口が視界の全てを占めていた。

濃密な魔力とクロノスの魔力が共鳴している。体内を流れる魔力が高まっていく。イリティスタ同様、クロノスの力が増している。ここまで近づいたことによっての影響か、それともクロノスの姿を哀れに思った同情か、いまはわからない。

「月魔術――月と雷の破壊槍(グラニエル)

目的のものは、見た場所通りなら正面の中央、寄り代の顔が出ている真下にあると思うのだが、このサイズになってもその位置にあるかは疑わしい。

「攻めていればいずれわかる」

腕を引き投擲。巨槍がイリティスタを貫いた。異次元空間が見えたのは一瞬で、すぐに泡が体を再生させた。

クロノスは複数の巨槍を生み出すと多角的に配置して撃ち出した。

今度は貫かなかった。まずは肩に一本刺さり、次いで前足、腰、背に深々と刺さっては巨槍に込められた雷が暴れ狂う。

再生するにも魔力はいる。侵蝕効果で魔力を奪い、消費を促す。こんな戦い方をしたことがないために、加減が出来ない。だが、変化は起きた。

背筋を冷たいものが走った。

イリティスタがこちらを見ている。

視線が合った。

「ちっ……」

突然のことに体が萎縮して動くのが遅れた。イリティスタの四本の腕がクロノスに放たれていた。風圧で体がよろめいた。

考えている暇はない、反射的にクロノスは注げるだけの魔力を目の前の腕の前に解放した。

見えない壁を腕によって殴られた。

砕けた壁を取っ払いように残りの腕が続けて殴る。強度の問題でなく、イリティスタの力がここにきても上がってきている。背後からは魔力に影響された風刃が向かってきている。

「月魔術――月と金の宝珠(アステリオン)

壁を放棄し、自身を球体内に押し込める。

防御に特化した合成魔術にはイリティスタの攻撃も耐えられるらしい。

「こんな一撃、常人なら圧力でバラバラだぜ」

中から眺めているとイリティスタが形を縮小させ、巨大化する前の姿をとった。形も人のそれに近い。しかし、背からは六本の腕が生えている。三つ眼もあり、角もある。

ただ、魔力が安定している。いままでが暴走状態だったといわんばかりに、本来の姿を取り戻したといいたいように、イリティスタが悠然と立つ。

「……なっ!」

クロノスの眼前に腕が伸びていた。それがイリティスタの腕だと気が付くのが遅かった。

瞬時に感覚が痛みを伝えた。

顔を殴られ外に飛ばされた。

意識はある。もう少しで首を持っていかれていた。混乱が駆け巡るよりも、事実がクロノスを落ち着かせた。

「やっと本気かよ」

トンファーを生み出し、クロノスは走る。視界にイリティスタの姿はない。それでも、クロノスは右で虚空を殴る。炙り出されたようにイリティスタが出てくるとクロノスは高速連打を放つ。主導権を得たことで、劣勢だった分を取り戻すように殴り散らす。

周囲を漂う魔力で創造した鎖で五体を縛り上げると胸の中心に必殺の一撃を叩き込んだ。

「太陽魔術――太陽と炎の爆発(ビックバン)

自身をも巻き込む大爆発。だが、二人はなおも動いている。大爆発にも動じず、宙を蹴り、迫る手を捌き、蹴り飛ばし、時に吹き飛ばされながらクロノスとイリティスタは立ち向かう。不可視の大地に足をつけると高速移動を利用した衝突が起こる。衝撃に大気が悲鳴を上げた。

これが化け物同士の戦いだとしらしめるように戦いは止まらない。

相手に着実なダメージを与えるなんてことはしない。

一撃、それだけが欲しい。

「音魔術――音と闇の衝撃(ウィゴール)

足の感触を頼りに思いっきり蹴り上げると、クロノスは頭上で魔力を爆発させた。イリティスタの全身が衝撃で弾けた。連結連鎖(チェインレイル)という技術を利用した無限爆発。空気振動が止まらない限り、音の衝撃からは逃れられない。しかし、音は勝手に止んだ。

「喋れるなら会話しようぜ、澄まし顔はうんざりする」

『主の肉体ではないにしろ、この体はいい。お前の攻撃にも耐え切れる』

淡々とした声をクロノスは聞いた。頭上から聞こえる声の主は、衝撃によるダメージを感じさせない。

『だが、仮初の肉体なんぞ私には意味がない。何をしたところで私の欲は満たされない。弱き器に用はない』

「それが弱かったら地上の奴らは滅ぶしかない」

言いつつ、クロノスは大きなため息を吐いた。

(あの時はどうして無邪気だったか)

クリスタル王国の地下を探検しようという姉についていったばかりに出会った結果、突然現れた異形にびっくりして、地下室を吹き飛ばした。何も考えなかった時代に戻りたい。

「お前は自分の主がどのレベルの人間か、考えろ。一緒にする人間が可哀想だ」

『それはお前たちの修練が足りない証拠だ。弱い奴は強い奴に助けを請う。それが当たり前のような世界で生きている奴らなんて私が知ることは何もない。強さこそ生物に求められるものだ。それができない奴は滅びればいい』

イリティスタの手に六本の剣が握られた。戦いの共に生き抜いた剣はどれも刃こぼれしている。

「お前もクロノアを主に選んでいるだけに相当歪んじまったな。最初の頃なんて覚えちゃいないが、あの頃のお前は今よりもマシだった気がするぜ」

『最高の主だ。お前たちには感謝せねばならないな』

挨拶代わりの斬撃。だが、それも六撃となっては厳しいものがある。二本の腕でもいまのクロノスには防いでいる魔力がもったいない。同じ所作からどういう軌道で流れてくるかも読めない。嫌な手だ。皮肉なことにアルビノの能力を持っていなければ、今頃肉槐にされていたのは自分かもしれない。

「仕方がないか……」

体内の魔力量を確認する。全快時の五割まで減少したが、問題なし。時間を計ろうとも時計がない。大雑把に見積もって体内時計であと三時間程度。クロノスから金色の光が消えた。これからの戦いに加護は必要ない。

クロノスの態度に何かを察したのだろう。イリティスタが腕を上げた。

「ディアソルテ!」

瞬間、クロノスを中心に光が炸裂した。銀色の光だ。イリティスタの六本の腕を何かが弾き、イリティスタの空いた胴体に鋭い突きを打ち込んだ。

刹那の後に光が消える。

クロノスの前に光が留まっている。

イリティスタが光に向かって突進する。

出迎えたのは一本の長い銀色の杖だ。イリティスタの六撃を一瞬で捌き、先端に収束させた魔力を爆発させる。堪える姿に追撃の斬撃。杖が二本に分裂し、先端の魔力が刃となって腕を切り落とす。破壊、破壊、破壊。正確無比に確実にイリティスタの体が破壊される。捩れた角が切り落とされた。再生はされない。腕は元ある二本だけ再生された。月の魔力で切断面を覆っているらしい。膨大な魔力で抑えているからこそできる芸当だ。イリティスタもそれを理解したらしく、余計な部分を切り離しにかかった。

『具象化するなんてどういうつもり? 』

白銀の粒子が散っていくと、中から美女が姿を見せた。しかし、人間ではない。人間は見上げなければいけないほど巨人ではない。イリティスタよりは小さくも、体格は人間を超えている。銀色の髪は踵まで伸びている。金眼と青眼のオッドアイ。頭にティアラ、腕には複数の金輪が三つずつある。

光が放たれる。

だが、闇が壁となって光を飲み込む。

『久しぶりだな、ディアソルテ』

切り離しが終わったのか、イリティスタが話しかけてきた。ディアソルテと呼ばれた美女はクロノスを見ていた。

「事情は目の前と俺に宿っているならわかっているだろ、二度も言わせるな」

苛立つクロノスに微笑する。

ディアソルテが手を動かすと何もない場所から光が放たれる。イリティスタの闇を飲み込む光に絶叫が響いた。串刺し状態のイリティスタの胸部から何かが出てきた。クロノスの知る、それは人間の頭だ。

紅い宝石が胸の間に埋まっているカリンの上半身が出てきた。

『本当にイリティスタなのね。その宿身はクロノアの紛い物。それでよく、具象化できたものね。肉体構造や細胞組織が同じなら私も同じことが出来るのかしら? 

最も全力を出すには脆い器ね』

ディアソルテは、クリスタル王国の地下に封じられていたイリティスタと対を成す超古代の負の遺産であり、クロノスが所有しているピアスに封じ込められている魔人だ。彼女が装飾品内にいる限り、月の加護が働き、クロノスは守られる。これがマリアの言っていたことである。いまはないクロノスが身に付けていたマントはこれを常時展開するように細工がしてある。

また具象化という手段を用いればいまのように外に出すことも可能だ。このときは魔力を消費することはなく、意思で出せる。

しかし、その代わりにクロノスの肉体にはいくつかの制約が課せられる。簡単に言えば同調。ディアソルテが使用した分の魔力や、受けたダメージを全てクロノスが肩代わりするということだ。

通常ならば具象化をすることをクロノスはしない。それはイリティスタと同じで、ディアソルテも意思を持つ魔導具たるゆえに、周囲への悪影響が強いからだ。

『私が戦えば加護は消失する。それでもいいわけ? 死ぬわよ』

イリティスタを圧倒している、ディアソルテがそう呟いた。いままで受け切れていた攻撃が致命傷になることを言っている。クロノスを見る瞳に、言葉を返した。

「自分のことは自分で何とかする。今の俺にはイリティスタを倒すのに時間がかかる。俺は本体を狙う」

自分の言葉が無謀なことなど承知している。だが、もう手がない。

ディアソルテの顔が曇った。見れば、光を染めるように闇が伸びていた。クロノスの胸を圧迫するほどの力が漂う。

光を打ち消すと、イリティスタが剣を手に取った。三つ眼が鋭く睨んだ。

『刃を交えるのは六〇〇年ぶりだ。楽しませろ』

突き出された切っ先に呆れたのか、ディアソルテは素っ気無くいった。

『その好戦的なところが私は嫌いよ』

両者がぶつかったのは同時。衝撃にクロノスは耐え切れず飛ばされた。刃を交えただけでこの破壊力。拮抗する力を試すようにイリティスタが笑っている。魔力活性からクロノスは動いた。ピアスが使えない今、頼れるのは己の体だけだ。

『月の恋人と称される月の女神。私が知る限り、アルビノでもディアソルテが主として選んだのはお前が初めてだ』

「そいつは光栄な話だな。選ばれて俺は余計に孤独を強いられたけどな」

『月の加護を受け入れたのはお前自身だ。だが、元々人間に愛想などなかったであろう』

クロノア同様、イリティスタもまた昔のクロノスを知っている。

『私の主とは違い、お前は人間を庇護した。安らぎを与えるのが加護の一環としているのもそうだが、お前は人間を恐れてそうしている』

「何が悪い」

『悪いだろう。ディアソルテはお前のそんなところを気にいって主として選んだが、私は納得できない。絶対強者の実力を持ちながら主とは違い、現実から逃げている。人間なんぞ、力のない生物に何を恐れる必要がある』

イリティスタの叫びにクロノスは拳を握り締めた。

『お前は強者だ。私の主と同等か、いや、意志によってはそれ以上の可能性を秘めている。迷うことなど何もない。人間なんぞに力を貸すことはない』

「お前には分からないさ……」

クロノアも言っていた言葉をイリティスタも言うのか……人間のどこが恐いのかそんなことを説明したところでクロノアもイリティスタも分かるはずない。

「……孤独に生きるということがどういう意味か。生まれてきて平等の権利が理不尽な力でなくなる。生きることが苦痛で、死ぬことは許されない。確かに人間は恐い……どうしてそんなに酷いことを言えるのか、視線を送れるのか、こちらのことなどお構いなしだ。それでも、俺は人を守る――命を守る」

『いい言葉、久しぶりに惚れ直したわ』

悪戯っぽい笑みを浮かべるとディアソルテが剣を弾いた。杖の先端に曲刃を形成。大鎌となったそれで斜めに切りつけた。

血の代わりに泡が噴き出す。

笑顔でイリティスタを見下した。

『私の主は本当に弱い人。弱くて、弱くて惨めな人。可哀想な人。悲しい人。でも、強い心は持っている人。どんなに汚されても、どんなに非難されてもあなたは挫けない。強くなれる。私がいつでも一緒にいる』

「……勝手なことをいうな」

こんな規格外な体格した奴と一緒にいたところでいいことなんて何もない。それ以前に人間でないところ無理だ。

魔力で剣を造り、懐に潜り込む。

視界に宝石が見えたところで全身の骨が悲鳴を上げ、後方に飛ばされた。

『クロノス・ルナリア、ディアソルテ共に主を除けばいままで戦ったどの相手よりもお前たちは私の満たす相手だ。敬意を払い、この体が朽ちるまでいまから全力で相手をしよう』

そこでクロノスは終わりを見た。イリティスタは魔獣だ。だが、ある時から獣を思わせる姿をとっていない。名は戦鬼。この場合の鬼とは他者を食い散らかすという意味だ。

漆黒の獣。

その昔にいたドラゴンを思わせる大きさに、外敵からの物理攻撃から身を守るためにびっしりと鱗が覆っている。どちらかと言えば獣よりも爬虫類だが、太い手足に口から出る牙、振ることで衝撃を生み尻尾。角の隣には獣耳。ディアソルテの二倍はあろう体格はまさに魔獣に相応しい。

「いままで全力じゃなかったか」

『全ての力をこの場で使用する。異次元空間に主がいると分かれば、いまでなくても問題はない。目先の戦を捨てるほど私は出来ていない』

つまり、いままでの姿はイリティスタにとってはどうでもいい戦だったということらしい。傲慢に聞こえる言葉はクロノアそのものだ。もしかしたら、身に付けている者に染まるのか? 

ディアソルテが自分に似るのは考えたくない。

全身の衝撃は尻尾に殴られたらしい。射程範囲が広い上に、速度もある。獣という形態を考慮すれば、速度で勝つことはできない。あの牙や爪に引き裂かれれば、どんなに楽か考えているところで捨てた。

イリティスタを前にして自分が諦めたら誰も奴を止められない。

「月魔術――月と光の領域(サンクチュアリ)

『その魔術はすでに見切った。制限ある体で私を縛り付けようなどと甘く見られたものだ。この肉体なら無に等しい』

「そんなこと俺自身が理解している。月と光の領域(サンクチュアリ)は重力操作だけの魔術じゃない」

『こういうことよ、イリティスタ』

月と光の領域(サンクチュアリ)の放つ金色の光がディアソルテの全身を金色に染め上げた。

服を着替えるように、髪を染めるように、瞳の色が両目共に青色に変わるように、ディアソルテが変化した。もちろん、イリティスタの体には重力の楔が打ち込まれる。獣としての速度が再現できるかどうかが疑問だ。

手に持つ杖の先端が光を纏い、長大の剣となる。切り伏せる相手はイリティスタだと切っ先を向けて睨みつけた。

「月の女神であるディアソルテの力を増幅する領域だ。甘く見ているのはお前のほうだ」

『それでも微々たるものだ。全力を出せないお前にディアソルテもまた同じ』

「嫌な野郎……」

言いかけて、クロノスが消えた。そこに五本の爪跡が入った。ディアソルテの一閃が入る前にイリティスタは獣の耳で気配を追った。宙に跳ぶとクロノスがそこにいた。

口内から魔力の塊が撃ち出された。

「くっ……」

剣で受け止めているが、背後には異次元空間がある。受け止めることがやっとでどうしようもできない。驚愕している手前、塊が二つに割れた。ディアソルテが切り裂いたのだ。魔力は、境界面に近づくと次の瞬間には消滅した。異次元空間に呑まれたようだ。爪を振りかざしているところに、ディアソルテが切りかかる。近づいてきてくれたおかげで距離が縮んだ、クロノスが駆け出そうとした瞬間、背後で変化が起きた。

全身から力が引き抜かれていくような不思議な、そして覚えのある感覚がクロノスに危機を知らせた。

「空間から魔力が漏れ出してやがる」

さっきの魔力が影響だ。異次元空間の流れを変えてしまったらしい。

「悪いが予定変更だ」

もう瞬きの時間も無駄にはできない。クロノスは魔力活性を限界まで引き上げた。咆哮によって吐き出される魔弾を切っ先で受け流しながら魔力循環を加速させる。

ディアソルテによる一撃で大きく身をよじらせてがら空きの胴体をさらした。重力操作で平衡感覚を奪い、下段から切り上げたようだ。首の下にはカリンの姿がある。空中で回転するイリティスタを追いかけ、砲弾のように突っ込んだ。

「大人しく消えろ」

迫り来る尻尾を即座にディアソルテが間に入り切断した。痛みに咆えるところに、ディアソルテ同様に長大と化した剣で首に振り下ろした。

しかし、無駄に大きくなる動作を読まれた。長大の刃をイリティスタは噛み付いて防いだ。力を込めてもビクともしない。ディアソルテの刃も前足で封じると、顎に力を入れた。歯が噛み合うとクロノスの刃が粉砕された。

潰された。

『無駄だ』

ディアソルテの腕の中でイリティスタの声を聞いた。全身の震えが止まらない。もはや、一刻の猶予もない。体感するこの感覚は一秒毎に増していく。自分では抑えているつもりだが、失踪しているのに近い状態になっていた。

ぼやける視界にイリティスタを見た。草原に立つのが辛い。踏み出せば、それだけで倒れてしまうかもしれない。ここまでの戦いをこの状態で演じたことはない。踏み込んだことのない世界に立っている。

『私を消すことができるのは主だけだ。力のない、いまのお前にそれは不可能だ』

あくまでも淡々と吐き出される、魔獣の意思。イリティスタの姿が消え、ディアソルテが虚空を切った。切り裂いた場所から獣が飛び出した。ディアソルテの周囲の魔力が鎖状に変化し、四肢を縛り上げる。体勢を崩され転倒した。咆えるイリティスタから闇が解き放たれる。どういう体勢であろうとも後一歩を踏み込ませてくれないらしい。

それが自分の力のなさだと思い知らされる。

「勝手に決め付けるな」

息が上がっているのは久しぶりだ。クロノスは眼の前に二つの姿を見ていた。確実に幻と分かる背中だ。こちらを向いて手を差し伸べている。クロノスに向かって、片方は笑い、片方は頑張れと叫んでいる。

一歩踏み出して、息を吐き出す。クロノスの全身から淡い光が放たれる。

『事実だ。もう魔力も残り少ないだろう』

イリティスタの言うとおり残量は二割も残っていない。時間も一時間を切ったかもしれない。

魔力活性を試みたが、失敗した。クロノスの体の震えがさきほどよりも大きくなっている。

「それでも俺は諦めるつもりはないぞ」

ディアソルテが隣にきていた。クロノスの動くタイミングを待ってくれているらしい。イリティスタの速度に追いつけるように長大の剣を双剣に変化させていた。

『それはお前の自由だ。私には関係のないことだ』

イリティスタが地を蹴った。それをディアソルテが金色の斬撃で向かえ討つ。三日月のような曲刃が双剣の刃から放たれ、逃げ道を塞いだ。上空の気配にディアソルテが跳躍し、イリティスタの双爪を受けた。

「お前にいかれたら俺はアイツと再会するはめになる。約束を破ることにも、な」

右腕に全身の魔力を収束する。考えている余裕はなかった。ディアソルテばかりに戦わせては、自分は何もしていない。余力で足が一歩進んだ。

活路。暴風が吹き荒れる中をゆっくりと流しながら、視線を固定する。ディアソルテとイリティスタの激闘にクロノスは一人向かう。倒れても、転がっても視線は外さない。

『いまの私とお前は似た者同士だ。互いの目的のために動いている。邪魔な存在だ。語るのはもうやめだ……刃のほうが私の性に合う』

「分かり易いことは俺も好きだ」

その言葉でイリティスタがまた変化する。獣の前の姿、六本腕が象徴する鬼になった。

だが、クロノスにとって好都合だ。

獣よりもハッキリと弱点が見えるのだから。

「だけどな、お前と一緒にされるのは心外だ。お前は壊す者でいまの俺は守る者。動くベクトルが違う。月魔術――ムーンセイバー」

右腕の延長上に剣が生え、クロノスが走る。自分の言葉の意味を瞬時に考えると少し前に言ったこととの矛盾に笑っていた。

ディアソルテが並走して迫り来る攻撃の雨を捌いていく、眼前で構えるイリティスタが人間のように見えた。

『それこそ戦いの目だ!』

イリティスタの六撃をディアソルテが受けきり、受け止め、受け流している間に跳んだ。

そして、眼の前にある白色の人形に切っ先を突き出した。

宝石に刃が触れた。

直後、イリティスタの体から膨大な熱量が放出された。

「ぐっ!」

息が詰まる。酸素がない。熱気が喉を伝って体内を焼こうと牙を立てている。どろりとして気持ちの悪い何かが喉を流れた。体内を隅々まで一瞬で焼かれた。浸透した熱が体の細胞一つひとつの機能を強制的に奪っていった。

この感覚には覚えがある。


制限。

制約。


呪縛。

束縛


呪印。


全ての感覚が変異をきたし、自分の体内を強制的に停止させる感覚。最低の時間がここできたらしい。時間による変革が自らの中で負のイメージを映し出した。


負けた。


死んだのか。


助けられなかった。


クロノア。


レン。


約束……守れなかった。




「がはっ!」

肺から空気が吐き出される。弱った体にいまの一撃は相当効いた。今度は血の混じった苦い味が口内に広がった。

ディアソルテがクロノスの体を支えていた。

体が自然と浮き上がろうとしている。無重力に近い場所なのかもしれない。なら、肉体の感覚は当てにならない。視界に映るものだけを信じる。ディアソルテから体を離すと目の前の鬼に構える。体内のどこかに異常が起きているのか、手足いつもより鈍いと思う。視界もいいとはいえない。頭を強打したらしい。

クロノスを本能的な恐怖が包んだ。

イリティスタとディアソルテ。この世界ではない世界から現れた化け物がいる。

荒れている呼吸を落ち着けると、クロノスは消えた。クロノスの手の中に剣があることを確認すると魔力を注ぐ。下を向いたイリティスタからの斬撃を横からディアソルテが受け止め、腕を切り裂く。そこから泡が溢れるも、再生することはなかった。傷口周辺の魔力質を変化させたことで傷は治らない。残った四本が、クロノスの体に殺到する。

ディアソルテがクロノスを抱えて腕を吹き飛ばすと無数の虚像を生み、離れる。光がイリティスタの四肢を打ち抜くが大した傷にはならない。

「ちくしょう……魔力供給が追いつかない」

風景に変化はないが、世界の時間は動いている。

クロノスが魔術師でなくなるまで時間がない。

「あと……もう一撃」

心を落ち着けて、魔力を安定させる。制御を欠けば無駄が増えて時間が早まる。

ディアソルテを具象化しておくにも数分も持たない。

イリティスタの中心に位置するカリンの中心をクロノスは見つめる。

胸に浮かぶ宝石。

その宝石を守る六本の腕にクロノスは吐き気を覚えた。優勢でいったら、イリティスタの方が勝っている。いまのディアソルテではあの腕を捌ききることはできない。

イリティスタはどうしたのだろうか? 動く気配を見せない。弱体化しているクロノスに失望したのだろうか? 

(できるか……)

ま、何もしてこないのならそれに越したことはない。こちらを休ませてくれるほど優しい奴だったとは気が付かなかった。

眼下を見ると大陸が見えた。レプティレス王国のようなものも海上に浮かぶ島のように見えた。遠くのほうが明るく見えた。日の光だ。もう少しで自分の世界が終わろうとしている。太陽の下では人間として生きる時間がやってくる。太陽。その言葉に一人の顔を思い出した。こんな状況でも強くイメージが出てきた。数時間前に別れてからどうしているか、クロノスはわからない。だけど、交わした言葉は忘れていない。

「そういや、アイツと約束したな」

その瞬間、クロノスの体の底から力が湧き上がってきた。驚愕するクロノスだが、変化はそれだけではない。髪の色が金色に染まり、両目も青眼、ディアソルテのようになった。

この変化にイリティスタとディアソルテも驚愕していた。呪印によって魔力が減少していく状態で魔力が増加することはありえない。例え魔力が増加したことでも容姿に変化が生じるのはおかしい。

生命力に満ち溢れているとクロノスは感じた。魔力が満ちてきている時よりも充実感がある。

考えられることはアルビノの因子。因子がクロノスの何かに反応したことで、この力を引き出しているとしたら、余りいいことではない。しかし、研ぎ澄まされた五感から流れ込む情報がそれを確信へと変える。

手を伸ばせば腕の中に剣が現れた。魔力よりも力強い波動が腕を伝ってくる。

「帰らなくちゃいけなかったな」

自分の体のことを無視してイリティスタに歩き出す。流れに漂うようにクロノスの体から漏れているエネルギーが周囲を明るく照らした。風の流れを全身で感じ取る。アルビノとしての感覚がクロノスの中で一つの進化を遂げた。見える。風の動きが、読めるのではなく、色が付いたように見える。

アルビノの因子の力が常識外れなのは周知の事実だが、進化するとは知らなかった。クロノスの持つ剣からも何か訴えかけてくるような意思を感じる。

あの日のクロノアはこんな気持ちだったのだろうか? 

イリティスタの正面までクロノスはたどり着くと、足を止めた。紅い宝石を隠していた腕が下がると鈍い光を見た。放射状に全体にひびが入っている。瀕死手前でもあそこまでいけたなら自分としては満足だ。

(約束だよ)

左右に二人の幻が立つ。一人は男で、一人は女だ。約束をしてから果たせていない約束の結果を見にきたらしい。クロノスの横で正面をじっと見つめている。

『恐れ入った』

イリティスタが沈黙を破った。

『まさか、この私に傷を付けるとは……』

傷。

恐怖。

クロノアしか、成しえなかったことをクロノスがしたことにイリティスタは絶句した。肉体を極限まで制限された状態で心を折らずに、敵の前に立つことが可能だろうか? 

化け物を前にしてその意志を貫き通すことができるのか、イリティスタはクロノスの背負うものの大きさに震え上がった。

イリティスタの主とは違うもう一人の化け物の運命を見た。

クロノスの左右にいる幻が見えた。

イリティスタから視線を逸らさずに見つめ続ける姿。何もせず、クロノスを見届けるために立ち尽くす姿。

約束したから。

クロノスが一歩踏み出した。

走馬灯のように時間は流れた。

イリティスタの前に立つクロノスに重なる影がある。一瞬だけ息を呑み、次の瞬間にはそれは確かなものとなった。

「あと一回でさよならだぜ」

恐怖を感じたらイリティスタの眼の前にいる者は他の誰でもない。この世で恐れる人物は一人だけ、百戦錬磨の鬼に認められたのはたった一人だ。緋色の瞳が三つ眼に映える。口元から紡がれる言葉が木霊する。

「最後は決着つけようぜ。俺も最後かもしれないからな」

『私に逃げる気などない』

だが、イリティスタは震えを止めて剣を握り締めた。クロノスの言葉に自身の未来を見た。しかし、その胸の中には後悔の念はない。

まるで、これが望んでいた結末のように。

(イリティスタ、お前は……)

イリティスタの姿を見ているうちに理解した。

イリティスタが望んでいたのはクロノアではない。クロノアに匹敵する好敵手を探していたのだ。おそらくは自分の新しい主となるべき存在を探していた。

それに応えられるものがいなかった。

そして、応えたのがクロノスだった。しかし、クロノスにはすでに別の従者がいる。強固な絆ができている。

フリードたちが持つもののように入り込めない世界がある。だから、イリティスタは立ち入ることができなかった。

あるいはイリティスタは最初から死ぬつもりだったのかもしれない。

だとすれば……どういうことになるのか? 

このまま進めばどちらかが倒れることは目に見えている。いや、だからこそイリティスタは剣を握った。この壁を超えられなければあの人物の足下には永遠に届かないとわかったからか。

『七千の時を生きてこれほどの高揚感は味わったことがなかった』

その事実を語るようにイリティスタが淡々とした声で告げた。その所作にはいままで培ってきたものが凝縮された動きだった。

だが、その瞬間、イリティスタの覚悟を見た。この表情をクロノス以外に誰が見ただろうか? 誰にも気付かれることがなかっただろう。人間らしい瞳を――

「俺もお前のような奴には出会ったことがなかったよ」

その眼にクロノスは語りかけた。

「立派な志をもった奴には、な」

イリティスタはクロノスを聞いているのかいないのか、動じることはなかった。ただ、全身から放出される魔力はクロノスに応じた。

「今更な話、お前はクロノアと出会うべきではなかった。例外的な強さを持ったクロノアを主として選ぶべきではなかった――」

語りながらクロノスは動いた。

(そうさ、イリティスタ……)

「怨むなら俺を怨め、クロノアを怨むことは止めてやれ」

右腕を動かす。

イリティスタも三つ眼を開き、剣を振り下ろした。

ディアソルテの目前で光が全てを包み込んだ。優しい光だった。荒々しくない、全てを許す光が溢れた。

願いは叶えられた。

剣が粉々に砕け散った。戦を共にし、時間を共有した戦友は失われた。どれだけ強くあろうとしても、努力をしても、強さの限界を垣間見てしまったことで自分の本心を嘘で塗り固めることになってしまっても最後に気が付くことができた。

突き抜ける刀身が引き抜かれた。ぐったりと膝が折れると、ディアソルテが肩を支えた。その表情はとてもいい顔だった。

イリティスタの体が黒い粒子となっていく。

中央の宝石が砕けた。

それが小さな手の中に吸い込まれるように落ちていった。紅い涙が手の中に溜まった。

クロノスがそっと手で覆い、魔力を流した。

その中を淡い光が包んだ。手を開くと宝石はどこにもなかった。この世から完全に消滅した。

異形の獣の姿が消えるとガクッとクロノスの膝が折れた。驚いたディアソルテが瞬時に抱きかかえる。

『大丈夫? 』

ディアソルテの瞳に映った自分の顔が蒼白になっている上に、額にびっしりと汗が浮かんでいることには驚いた。あの状態は想像以上に反動が大きいらしい。

気が付けばイリティスタと戦っている間に大陸から離れたらしい。異次元空間が頭上にあったので同じ所で戦っていると思い込んでいた。距離はそう遠いものではないが……下は海だ。

「大丈夫に見えるならお前も消してやる」

絶体絶命とはこのことだ。

一つの約束は果たしたが、もう一つの約束を果たせる自信がなくなってきた。視線の先に太陽の光が地平線を照らすのが見える。

「体が動かない……魔力切れだ」

時間としてはまだ数分残されている。しかし、体はクロノスの意思を反映してくれない。

この状況から二つの道に立たされた。

一つは諦めて海に落ちること。

もう一つは、ディアソルテに大陸まで遠投してもらい誰かしらに受け止めてもらうこと。

どちらとしても絶望的な結果だ。一つ目ならば運がよければどこかの砂浜に漂着できる可能性があるかもしれないが、クロノスは体を一切動かせないので沈むことが確実だ。

二つ目だった場合でも、相手が受け止め損なえば確実に死ぬ。それよりも衝撃で死ぬか。

『助けてあげたいけど、この呪いは私でも無理なの』

ディアソルテがクロノスの背中を擦る。その手から焦りが伝わってくる。一心同体。表情に出なくても、こちらの気持ちはディアソルテに伝わるし、ディアソルテの気持ちはクロノスに伝わる。

「確認しなくてもわかるから少し黙れ」

直接的な原因はクロノスにあるのだから、ディアソルテを責めることはしない。だから、悲しい感情をこれ以上流し込まれてもクロノスとしては参ってしまう。

『機嫌悪いのね』

クロノスの顔を見て、ディアソルテが言った。

「上の裂け目を閉じる分の魔力がないからな」

『いまの私にもそれは無理ね。存在をもってしてもここまでの裂け目は無理』

異次元空間は口を開けたまま、消える気配はない。いまは安定しているが、いつ暴走するかわからない。恐怖は拭えない。

『イリティスタが消えたことで多少なり進行が遅いのは救いかしら』

「そんなものこの場で何の意味もない」

『その通り』

ディアソルテの言葉をクロノスが切り捨てた。

『私の魔力でもダメかしら? 』

「わかっていることを俺に訊くな」

『つれないわね、それはそうだけど、一応訊いてみたのよ。私もクロノスと同じ気持ちだもの……命は助けたい』

「頼りになる言葉だ。惚れ直した」

ディアソルテは大陸を指差して呟いた。

『下にいるあの子たちに手伝ってもらうことはできないの? 三人とも魔力量は多い、いい線いくと思うわ』

「本気で言っているなら、元に戻れ」

『残念。わかっていたことだけど』

「どこまでも面倒なことを残してくれるな、俺の姉は」

『その割にはイリティスタにいい言葉を送っていたじゃない。どんな言葉かもう一度言ってもらいたいぐらいよ』

「お前が死にたいなら言ってやるよ」

クロノスは冷や汗がこめかみが伝うのを感じて、視界を閉ざした。

「冗談を言っている暇があったら考えろ」

異次元空間を相手に取ることはクロノスにとって初めての事だった。そもそも、空間に亀裂が入るようなこと事態が稀な現象だ。書物にも記載されていない、未知の領域。そのメカニズムを解析し、自由に使えるようになれば遠くの地まで一瞬で移動することも可能だろう。所詮、戯言だ。こんなことなら、マリアの部下にいる時空使いに話を聞いておけばよかった。

『時空』を謳っているなら、構造だってわかるだろう。

生き残れれば尋ねてみよう。すでにクロノスのことは大陸中で噂になっていることだ。騒がれるのは好きではないが、仕方がない。

そうなったのも、自分の力がなかっただけだ。

そして、今の自分が非情に成りきれなかった。言葉にどれだけ意思を込めても、心の中は本物の気持ちであり続ける。さっきの言葉で確信してしまったクロノスの内に秘めた気持ちは甘すぎる。その甘さがクロノス・ルナリアであるとわかる。

甘い馬鹿のやることといったら一つだけだ。

ゆっくりと腕から離れる体にディアソルテが叫んだ。

『無理よ。異次元空間の補正なんて常人ができる筈ない』

「俺はアルビノだ。普通じゃない」

『こういう時はアルビノであることを理由にするのね。あなたの自己犠牲主義も好きだけど、いまのあなたの状態でそれをやるのは自殺行為よ』

「手段がないなら仕方ないだろ」

クロノスの言葉はもっともだ。異次元空間を閉じるにはアルビノの力を使用するしかない。自分の意思で枷を外して力を暴走させる。周囲にどんな影響があるか想像できなくても、やるしかない。

しかし、その場合クロノスの命の保障はない。

顔も知らない他人のために命を投げ出すことなどやりたくはないが、クロノスがやらなければマリアやフリードやセリュサまで危険な目に合わすことになる。それに自分がいなくなればアヴェロスが馬鹿な道に走ることはもうないだろう。

「やるぞ」

太陽の光がクロノスを照らした。

『無理はしないで』

クロノスの顔を見ず、ディアソルテが粒子となって消えていった。

『私はあなたに死なれたくない』

「誰も死ぬなんて言ってないだろ」

呟いてみても、もうディアソルテからの返事はない。クロノスは意識を集中し、ゆっくりと体内に存在する因子を刺激する。

刺激しすぎては被害が出る。クロノスが意識を維持できるレベルまででいい、ただ、相殺させるだけの力を引き出せばいい。

手順らしき手順があるわけではない。マニュアルの作業だ。こんなことはしたことがないから、上手くいくのかもわからない。この作業も勘で行っているに過ぎない。アルビノの力を使うことを極力避けていた状態で精密な作業をしようとしているのだ。

無謀以外のなにものでもない。

それでも、やらなければならない。

「約束は破れないな……」

体の中から力が湧いてくる。

感触的に上手くいったらしい。

そこから一気に体に掛かる負荷が増した。

急激な肉体活性に内臓器官が悲鳴を上げた。それでも、止めることはできない。

「レンに知られたら最悪だ」

その昔、暴走した時に二度とその力を使うなと禁じられた。レンが被害を抑えてくれたおかげで誰も怪我をすることはなかったが、暴走が止まるまで派手に攻撃されたのを覚えている。

歌が好きだった。あの歌を聴いているときは世界の騒音から抜け出せたような気がした。優しい音色だった。

あの歌をもう一度聴きたかった。

しかしそれも、もうないだろう。

……と思った矢先。

「おい、冗談だろ」

歌が聴こえた。それもこの歌は――

(冗談ならよかったのに、な)

異次元空間に意識を傾けると、確かに存在を感じとれる。

レン・リッジモンドの声は異次元空間の中から聞こえてくる。

(思念だけを飛ばせるのは奇跡だ。こんなことが何度もできる訳がない。無駄話は避けようぜ)

その声は穴の中からクロノスのやっていることを見ていたように怒っていた。だが、同時に苦しげでもあった。

「どういうことだ?」

聞き返しながら、クロノスは体の中から力がなくなっていくことを悔やんだ。気が緩んでしまったことで最後のチャンスを棒に振った。もうあんな精密な作業をする気力はクロノスの中には残っていない。

(異次元空間には俺とクロノアの魔力が満ちている。その過剰な分が外界の裂け目を広げている)

「そうなのか……」

言葉では頷きながら、クロノスはわかっていても因子を刺激しようと試みる。一度できたなら、もう一度できないことはない。

だが、クロノスの状況は変わっている。さきほどまでは一人だったが、今はレンの声がする。心を乱している状態ではやはりできない。

(どうやら異次元空間は俺たちが思っていたように無限なものじゃないらしいな。有限な場所とでも言うのか、留めておくにも厳しい状況だ)

「イリティスタが言っていたのは本当だったのか」

(俺も何とか抑え込んでいるが、それもいつ限界に達するかわからない。次元崩壊で消滅するのが一番の望みだな)

「そんな悲しいこと言うなよ……」

一瞬だけ、想像した。クロノスは即座に頭を振り、思考を破棄する。考えたのだ。レンの言葉を考えた。異次元空間が崩壊し、クロノアとレンが消滅する姿を思い、今回のような事態が二度と起こらないという夢を思った。

でも、それはダメだ。

(レンが生きていた)

そう考えるだけで、自分の決意が二度と戻ることはなくなった。

(でも、クロノアも……)

(変なことを考えるな。お前に語りかけるのも結構大変なんだぞ)

クロノスの思考を読み取ってか、レンが笑っているように思えた。

だが、それはおかしいからではなく苦笑だ。顔が見えなくても、表情を引きつらせているのがわかる。

(俺は異次元空間に囚われの身だが、これといって不便なことはない。腹は減らない。喉は渇かない。疲れないし、眠くならない。時間という概念がないからなのかもしれないが、俺はあの日のままここにいる。魔力も減るどこかこの場所の魔力で満ちていくほどだ)

レンが話す間に、異次元空間から歌は鳴り止まずむしろ、どんどん大きくなっていった。それに比例するかのように異次元空間の穴が縮小していき、歌も小さくなっていった。

(今回はサービスだ。いつまでも手を焼かすなよ)

「レン!」

(…………)

呼びかけてもレンからの返事はない。異次元空間は急速に縮小していく。穴から漏れる魔力の残滓も感じられない。あの日のようにレンの魔力が全て包み込んで持っていったのかもしれない。

助かったことに実感がわかない。

また助けてもらったことのほうに意識がいく。

レンの話が本当なら、クロノアを抑え込みながらこっちの世界に干渉したことになる。自分が不甲斐ないばかりに煩わせてしまった。

「……俺は弱い」

この戦いでクロノスができたことは客観的に見れば大きなことだが、クロノス・ルナリア個人の実力ではない。ディアソルテがいて、レンがいて、みんながいなければ勝てなかった。

そして、そんな彼らに支えられなければ自分は弱い。子供の頃よりも生きたせいで心が錆びてしまった。

「……強くなりたい」

クロノアのことが頭をよぎる。純粋に姉のようになりたいとクロノスは思った。誰にも負けない力が欲しいと願った。

あの力を自由にできればいいのだろうか。

どうすればいいのかは、果てしない時間に身を任せよう。

まずは、お疲れ様。

「終わった……」

クロノスはここで初めて重力に従った。

闇の世界を見せる穴はもうなくなっていた。レンが完全に塞いでくれたようだ。

ディアソルテが喜んでいるような気がした。その感触を確かめるようにそっとピアスに触れながら、クロノスは落ち続けた。

「レン……」

生きている。あの世界でレンは生きていた。

異次元空間の中で。

クロノアも。

嬉しい半分、悲しい半分。この時ばかりはそう思っていた。あの日見た背を思い出していた。

自分がどんな顔をしているのか。考えるよりも早くクロノスは意識を手放した。





建物の外が騒がしいのは三ヶ月経った今でも静まることを知らなかった。

クロノスの姿はギルドマスターであるマリアの居室にあり、欠伸をしては届けられる依頼書に目を通しては窓ガラスの向こうにある景色をぼんやり眺めている。正面のソファーにはマリアが座り、眉間にしわを作り達成した依頼書に判を押し続けていた。

一枚の紙でも積み上がればそれなりの質量になる。不安定に揺れる紙束を気にせずマリアは紙を重ねていく。

退屈なのはクロノスだけで、他の星降る家の団員は全員外に出ていた。ある日を境にいままで以上に増えてしまった依頼を片付けるためだ。

自分が出て行けそうな依頼を探していると、窓の外からテーブルに向かって何かが放り込まれた。伝書鳥。俗にいう新聞屋だ。マリアの塔建設を邪魔しないように見ずに掴んだ。

横目でこちらを睨むマリアを片手で宥めると、一面の文字に視線を走らせた。書いてあることはここ三ヶ月経っても変化がない。自分のことなんて読んでも仕方がない。ため息を一つにクロノスがめくると大きな写真を注視した。

「フリード」

写真の中のフリード・レプティレス・ジルフォニアは、気品ある衣装を着込み、レプティレス王国を代表する雰囲気を漂わせていた。その隣にはレプティレス王と姫が柔和な表情で手を振っていた。

「レプティレス王国はイシュラン王国を吸収して大国になったそうよ」

目の前からマリアの声がした。手の動きは止まっていない。器用なことに目と手と口を動かしながら物事を認識しているらしい。

「大国ね、警備が大変だな」

「それほど大変じゃないかもしれないわよ。レプティレス王国は戦力不足なだけで、個人能力は高い国、対するイシュラン王国は反乱で主要戦力は全滅させられたけど、力の弱い戦力は多い。フリードさんが直々に指導すれば賊程度に国が落とされることはない」

フリードの望む未来とは異なったが、復讐は果たされたのだ。システムの一つが崩壊し、一つの国が救われた。貴族たちは国を捨て、権力を使用して、どこかで生きていることだろう。それもいずれなくなり、苦渋を味わうことになる。

自分たちが馬鹿にしてきた人々の気持ちを体験する日がくるだろう。

「まあ、それは時間をかけておこなうことですぐにできるものじゃない。当分は私たちギルドメンバーが支えていかなくちゃいけないわね。でも、何を考えたか、今回の騒動で三騎士が国境警護を引き受けたからそれもないかな」

「なるほど」

アヴェロスを筆頭に三騎士は当たり前の話だが、今回の事件を重く捉え、諸国に期間付きで人員を送る策を取った。フリードにしてみれば、嫌な連中だが使える分にこき使っているらしい。

星降る家も三騎士からの全額資金提供によって、以前の三倍の大きさまで建て替えられた。これにはマリアも顔を引きつらせたが、済んでしまったことは仕方がないので、多数オプションを加えた形で新しいスタートを切った。

一つの問題は片付いた。戦闘の果てに代償は大きかった(クロノス個人)が、これが正しい道筋ではないのかと思う。

クロノス・クリスタル・ルナリアとして。

いつかは世に表立たないといけないと思っている。思いながらも、そうなることを忌避する自分がいる。

イリティスタによる異次元空間の暴走を止めたことで、最悪の好敵手を呼び出さずに済んだものの、イリティスタが具象化したことによって魔力汚染ではなく、魔物たちの活動が活発化してしまった。対策として、世界中のギルドが戦いに身を投じている。イリティスタの欠片はクロノスの魔術によって完全に消滅した。クロノアの細胞から生み出されたカリンはイリティスタと共に消滅した。肉体が耐え切れずに蒸発したらしい。時間によって人間に戻ったクロノスはマリアの手当てがなければ同じ世界にいっていたらしい。

それも夜になれば、肉体活性によって怪我はすぐに塞がった。翌日には動けるようになった。

その後、アヴェロスを訪ね、研究施設一帯を破壊した。二度と同じ過ちを起こさないことと、こんな面倒なことを度々起こされても困るからだ。殺さなかったのは甘いとも思ったが、それが自分なのだと思い知らされた。

こうしてマリアと話しているのが日常として受け入れているのは大きな変化だろう。セリュサにも言ったが特別なもの感情をクロノスは持っていない。マリアがどう思っているかは別として年齢を考えてしまう。

レンから聞いた異次元空間の状況はマリアには話していない。確証を得られないこと、何より、夢だったことも考えられる。あの時の自分はどっち側だったのかも覚えていない。ただ、世界が急速に傾き始めていることだけは確かだ。

自らの意思で、自らの考えだけで進む力を手に入れる。大きなことも終わったことだし、やってみるとしよう。

どうしようもないこんな子供を救う。どうしようもない苦しみを分かち合う。どうしようもない世界を生きる――

この恩人に報いるためにも――

「マリア」

「なに?」

クロノスの声色にマリアの手が止まった。

「面倒な事態を引き起こして悪かったな」

「クロノスの口からそんな言葉が聞けるなんて何の前触れ?」

「これから騒がしくなる」

「そうね、月の使者様」

「棘のある言い方だな……」

月の使者の正体に世界規模で騒ぎは続いている。

「クロノスを拾ってから、ギルドは大きくなって保養施設も大きくなってたくさんの人が救われるわよ」

最初は百人救えればよかった場所が、いまではその百倍の人を救えるようになった。

それが一概にクロノスのおかげと言ったら違うかもしれない。ここに集まる団員は多少にしろ、人を助けたいと願う気持ちがあるのだ。侵略戦争での名残も少しずつ薄れていけばいい。

「小さな希望でしかなかった私の夢がこうして叶いつつある。とてもありがたい話よ。今回のような騒動はもう懲り懲りだけど、誰も死ぬことがなかったのはあなたのおかげよ。不機嫌面をするのはいいとしても、レプティレス王国に行くときはその顔禁止。救世主様が不機嫌だと、恐がるでしょ」

生まれ持った顔を否定されたら、どうすればいいのか考えものだった。

「月の使者のことなんて一種の伝説化しているから殺気立てなきゃ、誰もわからない。セリュサだって気がつかなかったほどよ」

「そんなこと忘れた」

「彼女のことは置いておいても、あなたのことを知って各国の国王直々の依頼が殺到している。この束どうするつもり? 断るなら早めにしてね、忙しいから」

試しに手に取って内容を確かめると、私利私欲で国民のことを考えない堕王ばかりの署名がなされていた。こんな依頼を誰が受理するのか逆に訊きたいぐらいだった。

「そうそうセリュサが呼んでいたから行ってあげて」

「何だよ。文句なら聞かないぞ」

「庭園にいるから本人に訊いて」

「あっそ」

戻ってきてからセリュサとは顔を合わせていなかった。そもそも、活動する時間が異なれば、待ち伏せない限り、会うことはない。腕の立つ魔術師はそういうものだ。

セリュサはここに来て、何をしたいのか具体的に訊いていなかった。依頼をするだけなら、他で事足りる。広い庭園の真ん中に立つセリュサ、三ヶ月ぶりの対面だった。

「こんな場所に呼んで何か用か?」

「うん、一度話し合おうと思ってね」

「俺は忙しいから早くしろ、受付が悲鳴を上げるだろ」

今は昼間でクロノスは受付の業務のために急いでいた。

星降る家に舞い込む依頼の数が増したために受付の人数も強化されたが、昼間力のないクロノスは受付業務を続けている。

五年も続けてベテランになった。新人指導もやらねばならない。

それよりも正体を知って、会話が成り立たないことのほうが現状は大問題だ。

「どいつもこいつも正体を知ったとたんに態度を改めやがって、気味が悪い」

ギルド内でも正体を隠して過ごしていた時間、薄気味悪いが実力者だと認識していた連中が姿を見つけるなり、逃げるようになった。

尊敬も憂いもない、単純な恐怖が本能を刺激した結果だ。

(ああ、知っている目だ)

セリュサから発せられる視線も、気配も、気迫も、魔力も結果でしかない。ただし、うんざりする事はなかった。

「本当に噂は当てにならない」

さっさと片付けるか。

そう呟くと、クロノスは両手にトンファーを生み出し構えた。




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