チュートリアル終了、この世界の真実
本日3話目。
アリスが扉をノックする。
「アリスですー。A様のパーティをお連れしましたー。」
「んふ~。ごくろうさま~。入っていいですよ~。」
「失礼しますー。」「邪魔する。」「お邪魔するわ。」「失礼するのです。」
聞き覚えのある間延びした声を聞きながら部屋に入ると、予想通りキャッチセールスのお姉さんが座っている。銀髪ボブカット?そして両目が完全に隠れている。こんな顔をしていたのか。
「はじめまして~。いえ、お兄さんとは2度目まして~。この世界の管理者をやっている、☆▼§▲▼です~。」
今なんて言ったんだ!?
「あ~さすがに人類に発音できなさそうですね~。じゃ~簡易的に“トルミラ”とでも呼んでくださいね~。」
「えーっと、神様?と思っていいのか?」
「創造はできないですけどね~。管理しているだけを神と呼ぶのなら~そうなのかも知れないですね~。」
ああ。とりあえず超常の存在で間違いはなさそうだ。ふと振り向くとグラシアとキリンが固まっている。
「おっと~!この子達がお兄さんのハ~レム要員なんですね~。好みがわかっちゃいました~。」
「いやオレはトルミラさんも全然好みだが。」
「お世辞・・・じゃなさそうですね~。ということは~ストライクゾ~ンが広いのですね~。」
高すぎると手が出ないし低すぎても見逃す、健全なストライクゾーンの内だと思うのだがな。
「オレのストライクゾーンは置いておいて。それよりもオレをこちらに飛ばした目的を知りたい。」
「んふ~。せっかちですね~。後ろの2人は状況が飲み込めてないみたいですし~、色々と説明していきますね~。」
「ああ、よろしく頼む。」
「まずこの世界ですが~野生動物が増えすぎるとエレメントを取り込み、モンスター化し元の仲間を食い始める。ある程度大きくなったところで狩人がそれを狩る。すると大気中にエレメントが流れ、いい感じに世界を循環するのですよ。そして増えすぎた群れも元の規模に戻る、と。」
間延びする喋りをやめて真剣に話し始めるトルミラ。
「しかし極稀にエレメントを取り込みすぎて、熟練の狩人でも狩れないモンスターが出現します。少し前まではゴルドンが頑張っていたのですけどね。彼はこの世界で切り札的な存在でしたから。そんなゴルドンでもかなわないモンスターが発生してしまいました。火と光、風と土の4つのエレメントを取り込んだ透き通るような美しさを持つ【クリアドラゴン】が。」
モンスター名は属性+元になった動物かその特徴が基本だが、2属性以上のエレメントを吸った固体は固有名を持つ。中級以上で狩猟対象になるが、《カリウド》では最高3属性だった。
「【クリアドラゴン】を狩れないと、それが取り込んだエレメントが循環せず、世界のバランスが崩れていきます。バランスが崩れた世界はどうなるか?まずはその世界に似た世界と融合し安定を保とうとします。今はその前段階、似た世界を探し近づくという段階です。」
「その似た世界がオレのいた世界だと?」
「正確にはお兄さんの世界のなかにあるTHE KARIUDO ONLINEという世界ですね。」
「もし融合するとどうなるんだ?」
「ゲームがゲームでなくなります。死ねばプレイヤーの魂も一緒に死んでしまう世界になってしまいます。」
「《カリウド》はVRMMOではないのだが。画面を見て操作しているキャラが死んだだけでプレイヤーも死ぬのか?」
「プレイヤーとその操るキャラクター、アバターとでも言いましょうか。それには魂のつながりがあります。なので片方が死に、生き返らなければ、もう片方も死んでしまいます。」
「もし、融合した世界でそうなるとして。それはゲームをやらなければいいだけの話ではないのか?」
「今真実を知っているのは貴方だけ。貴方がやめても周りはやめませんよね。そして狩人の装備している武器防具にもエレメントが宿っています。それ喰らうとモンスターが成長します。ここからが怖い話なのですが、モンスターは自身を一度も狩ったことのないプレイヤーがいる限り消滅しません。そして世界のエレメントを喰らい、狩人を喰らい、どんどん力を付けていきます。やがてバランスを崩した世界は、ゲーム世界だけではなく現実世界も侵食するでしょう。近代兵器など物の数ではないモンスターとともに。」
「つまり、トルミラ氏はオレに」
「そう、世界がきちんと機能するように、熟練の狩人でも狩りあぐねているモンスターを狩ってもらいたいのです。」
「なぜ、オレを選んだのだ?」
「精神の強さを感じました。異世界に行っても揺るがぬ平常心、状況に思い悩まずに最善を尽くす姿勢。そして何より貴方はTHE KARIUDO ONLINEを愛している。」
いやまぁ《カリウド》は生きがいだけどさ。
「・・・オレは元の世界に帰れるのか?」
「勿論です。この世界の30日が向こうの1日、向こうで1日経つ毎に、行き来する門を開くことができます。」
「ただし、向こうの1日はこちらの30日って訳だ。」
「そうです。門を開けていられる時間はこちら時間で24時間。向こう時間で48分となっています。」
短い!いや、長いのか?とりあえず次帰ったら速攻でログインして当分インが不定期になることを話さないとな。バイトはもう諦める。48分じゃ退職届送りつけるくらいしかできない。無論それはやる。
「で、世界のバランスが崩れるまでの猶予はどれくらいあるんだ?」
「10年。10年内に【クリアドラゴン】を含む特上級の狩人でも失敗している狩猟依頼をすべて片付けてください。」
「それが成功したらこの世界には帰ってこれないのか?」
「門はそのままなので、行き来はできますよ。ここまで世界が近づいてしまったので、離れることはありません。」
そっか。うっかりこっちで家庭を持ってもいいんだ。
「わかった。で、トルミラ氏。召還特典とかないのだろうか?よく物語であるだろう?」
「お兄さんの場合はいわゆる“成長チート”ですね。固有スキルを除くどんなスキルも習得が容易になり、ステータスの伸びが常人の5倍。後は脳内コントローラーですね。」
「なるほど。もう貰っていたわけか。」
「そうです。その代わり中級や上級、特上級に上がったときのステータス補正は受けられませんが。」
「それは5倍よりも高かったりは」
「しません。」
ならいいか。
「で、グラシアとキリンはそのステータス補正は受けられるのか。」
「ええ、勿論です。中級の補正は体力とスタミナの最大値を+100、魔力の最大値と残りのパラメータを1.5倍ですね。」
「あ、あの!女神様!キリンの<斧の祝福>について教えて欲しいのです!」
さっきまで固まっていたキリンがおずおずと質問する。
「んふ~。キリンちゃんは固有スキル持ちですもんね~。気になりますよね~。<斧の祝福>はですね~。斧スキルが成長しやすくなる、斧スキルで常人の3倍ステータスが伸びる、斧スキルは通常敏捷にマイナスがかかるのだけどそれがプラスに転化する、という内容ですね~。その代わり斧以外の武器は扱えなくなるんですけどね~。メイス?あれは斧を覚えるのに必要だから10まではすぐ上がるんですよ~。それ以上は上がりませんが~。」
あ、シリアスモード終了か。しかし固有スキルだけあってすごいな。
「えっと、女神様?Aは別の世界から来た人間で、2つの世界を救うために狩人をするって認識でいいのでしょうか?」
おっと。次はグラシアが丁寧語になっているな。
「そうですよ~。でも詠だけじゃおそらく無理だから、しっかり支えてあげてね~。」
「はい!」「はいなのです!」
「いい返事ですね~。あ、そうそう~。サイハじゃ中級の依頼は扱っているけど数が少ないから、エストメルの街に引っ越すといいですよ~。一軒家をプレゼントしておきますね~。」
え!?
「世界を救ってもらうのに、準備をケチっては仕方ないですからね~。あ、装備類はだんだん強くなっていった方が楽しいでしょうし用意はしませんよ~。」
「装備類はその方がいいのだが、拠点は宿ではないのだろうか?」
「そうですね~ご飯は心配ですよね~。じゃぁ家事と家の世話はこのトルミラにお任せですよ~。」
「え!?」「もしかして・・・。」「女神様、一緒に住むのです!?」
「それこそまさかですよ~。いいメイドか執事を用意しますよ~というお話です~。ちなみにどちらがいいですか~?」
「メイド!」「「執事!」」
オレは勿論メイドがよかったのだが。
「わかりました~。完璧な執事を用意しておきますね~。」
10年か。強くなって世界を救うのか・・・。まずはそのエストメル?の拠点に引越しか。
やっとチュートリアル終了しました。明日から平常に戻ります。