遠征に行こう(5)
今回は短めです。
さて。せっかくの中級回復薬が使われずに終わってしまった。使わないに越したことは無いんだけど、なんとなくもったいない気がする。
「おつかれキリン、ダメージはどんな感じだ?」
尻尾で弾き飛ばされていたキリンに声を掛ける。
「おつかれさまなのです。ダメージは30くらいなのです。全然大丈夫なのです!」
あれだけでも割とダメージが入ったんだな。しかし初級のモンスターの攻撃力はそんなものか。オレの体力では死ぬ気がしないな。
アイスパイソンの骨を2人で分けて鞄に入れ、皮は前後分かれて持って後方のグラシアのところへ行く。
「おつかれグラシア。結構魔力使ったんじゃないのか?」「おつかれさまなのです。魔法すごかったのです。」
「2人ともおつかれさま。魔力は割と余裕あるわよ?でも流石に皮全部に通すほど残ってはいないけどね。」
「胴体はいくらかに分けるか?」
「素材として使うならそのままのほうがいいのです。変に小分けして使うと端切れが出来てもったいないのです。」
「一番大きい塊は売るつもりもないし、帰りの道中で処理すればいいわよね。」
「そうだな。キリンの取り分は骨半分か、頭と尻尾の皮か、頭か尻尾(どちらも骨付き)なのだがどれがいい?」
「報酬は要らないので、キリンを正式にパーティメンバーに加えて欲しいのです。」
あー、そうきたか。加えるのは吝かではないが、それを報酬代わりにするのはどうかと思う。
「パーティに入ってもらうのについてオレは賛成だが、グラシアは?」
「私から誘おうと思ってたところだもの。大賛成よ?」
大賛成か。オレが寝ている間に親睦を深めていたのだろう。
「というわけでこれからもよろしくな、キリン。まぁでも正式なパーティになるとしても取り分は変わらないぞ?」
どちらにしろパーティに入ってもらうのに代金を貰うつもりは無い。
「それは悪いのです・・・。」
「今回の狩りの成功にはキリンの活躍あってのことだからな。あのままオレの攻撃が通らなかったらキリンに首を落としてもらっていたところだし。」
「Aの攻撃は最後の以外まともに入ってなかったわよね・・・。というかA、あの最後の一撃はすごかったわよね。初めて見る攻撃だったけど、あれは何?」
「ゴルドン師の刀の技を剣で再現しようとしたものだ。師の域には全然到達しなかったし、一撃使っただけで剣がこんなになったがな。」
『朧』自体が武器に負担を掛けるのか、それとも硬い大蛇を無理やりに斬った代償なのか。オレの熊剣は壊れる寸前になっている。
「村に帰ったら最優先で新しい武器を作らないといけないじゃない!」
「すまない。」
「これはAの筋力に武器が耐えられなかったって気がするのです。」
キリンがまじまじと剣を見て感想を述べる。その可能性もあったか。確かに今のオレの筋力は武器の攻撃力を超えている。
「そうかもな・・・。それでキリン、どの部位がいいか決まったか?」
とりあえず強引に話を戻そう。
「最後に残った部分でいいのです。」
「キリンは謙虚そうに見えて強欲だな。防具に使う分を除いてもかなり残るぞ。」
「そんなつもりは無かったのです・・・。」
からかうと恐縮するキリン。ミミがペタンと倒れる。かわいい。
「とりあえずオレが頭と骨半分鞄に入れて、骨の残り半分と尻尾をキリン、胴の皮をグラシアが持とう。分配は村に帰って防具作って殻でいいか。」
「それでいいんじゃないかしら。拠点に帰りましょ。」
「ああ。」「はいなのです。」
まだ残っている狼肉をお昼ごはん代わりにかじりながら氷土拠点に向かう。
「そういえば、キリンは氷土居つきの狩人だっただろ。引越しとかどうするんだ?」
「キリンの私物は宿においてある着替え類だけなのです。だからいつでもどこにでもいけるのです。」
「調合の道具とかは無いのか?」
「調合するときは『魔法薬ギルド』で、出来上がりの半分を渡す代わりに道具と材料を使わせてもらっているのです。」
パーティに入るなら村に来るんだろうし、気になったことを聞いてみるとあっさりとした答えが返ってくる。
「「なるほど。」」
しばらくして拠点に到着する。まずは拠点支部で報告だな。ついでにイノシシと狼の皮も買い取ってもらおう。昨日はなぜか言い出せなかったからな。
「おつかれさまアクバーラ氏。狩り成功の報告に来た。」「おつかれさまです。」「おつかれさまなのです。」
「おつかれさん。思ったより早いの。2人で来るだけあって優秀な狩人なのじゃな。発生してから中央から全く来なくての、期限半分過ぎてから来たのが2人で心配はしていたんじゃがの。全員無事そうで何よりじゃ。」
そういえばちょっと前に村のギルドで氷土遠征がどうとか言っていたっけ。あのパーティは断ったのだろう。
「ああ、それでキリンをうちの正式なパーティメンバーにして、行動を共にしたいのだが。」
「ふむ、それはかまわんが。そうすると馬車が問題となってくるの。まぁそれは明日の朝一でいいかの。朝一で馬車乗り場じゃ。わかったの?」
「ああ。」「ええ。」「はいなのです。」
すぐ帰るわけではないのか。まぁ今日はゆっくりしたいしな。
「それと、ここに来るまでに狩った野良イノシシと狼の素材を買い取って欲しいのだが。」
「かまわんよ。奥に来るといい。」
奥に行って皮と肉を出す。イノシシの皮が200ゴールドで7枚、300ゴールドで2枚売れる。ボロボロな2枚は引き取ってもらえなかった。狼は1枚180ゴールドで6枚全部売れる。加工した肉は売れなかったので適当に食料にしよう。内臓?そんなものは最初に捨てている。
「「「ありがとう。」」」
3人それぞれで代金を受け取って、宿屋に向かう。後の半日はゆっくり過ごそう。
キリンに強引に混浴に入らされかけるハプニングもあったがギリギリで拒否して、晩ごはんを食べてゆっくり寝る。
そして翌朝。朝ごはんを固辞し、3人で狼肉をかじりながら馬車乗り場に向かう。
そこにはアクバーラの姿が見える。地面に何か大きな魔法陣だろか、を描いている。
「「「おはようございます。」」」
「おはよう。さて。わしが御者をしてもいいといえばいいのじゃがな。今回はちょいと反則技を使う。3人ともそこの魔法陣の上に乗るのじゃ。」
やはり魔法陣か。そして反則技?なんかよくない雰囲気がするが、いわれたとおりに魔法陣に乗る。
「ではいくぞ。風と大地の力よ、その力をもって彼らを高く遠く運べ。テレポーテーション!」
どこかで聞いた呪文だが、テレポーテーション?そんな魔法がこの世界にはあるのか!
アクバーラが呪文を唱えると、魔法陣が光を放ちオレ達3人を包み込む。光が消えると、そこは見慣れた村になっている。
やはり瞬間移動か。こんな魔法があるなら馬車での遠征とかする必要は無いんじゃないかと思うが。魔力を半端な区使うんだろうことは予想されるし、御者の仕事がなくなるのもいろいろと問題か。主に道中の野生動物を減らして狩人以外の安全を確保する意味で。
それに朝一を指定したからにはあの魔法陣を描くのにもそれなりに時間がかかるのだとも思う。
とりあえずギルドに帰還報告をして、ついでに今日の日帰りの依頼も受けようか。