遠征準備をしてみよう
9話に加筆修正分があるので、未読の方はそちらからどうぞ。
ギルドの建物を出ると、ちょうどグラシアが走ってきたところだった。
「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ。A、おまたせ?もう訓練終わってたのね。それに鎧も綺麗になってるし。」
「ああ、思いのほか早く終わったんだ。鎧の方は装備屋で魔法で修復と浄化をしてもらった。そういやあの魔法ってグラシアは使えるのか?」
「修復浄化魔法?うーん。私は金属系の武器と防具になら使えるけど、革鎧系には無理よ。裁縫とかしたことないし。」
「そうか。いや、でも武器に使えるなら十分じゃないか。簡易修理キットが鞄の肥やしになりそうだな。」
「あれは修理に素材が要らないから、重宝するわよ?それに修復浄化魔法はすごく魔力使うからあんまり多用できないし。今の私じゃ使えて1日1回くらいよ。遠征に行ったとしても1人分の整備しか出来ないわ。」
「そうなのか?」
使って消耗した様子が一切なかったご隠居はすごいのだな。
「そうよ!それに普通の狩人で裁縫や鍛冶スキル持ってる人ってなかなかいないし。ああいう道具があることには意味があるのよ。」
グラシアは採掘者でもあるから普通の狩人ではないってことだな。
「なるほど、わかった。」
「じゃぁA、剣を預かるわ。それとも工房に一緒に来る?」
鍛冶屋の娘だったはずだから工房は実家か。
「ああ、一緒に行って製作過程を見させてもらいたい。」
「そう。こっちよ。」
グラシアに連れられて工房へ向かう。この村には南と北と東に門があるが、彼女の家はその南門付近、『採掘ギルド』の隣だった。母屋と離れがある建物だ。離れが工房だろう。
「ただいまー。」「邪魔する。」
敷地内に入るが、返事はないみたいだ。
「こっちよ。」
予想通り、離れに案内される。中は想像したとおりの鍛冶場だった。
「まず説明しておくけど、今回は別に炉に火を入れて鍛えたりするわけじゃないから。そういうのは鍛冶スキル習得とか成長の鍛錬なのよ。」
いきなり語りだすグラシア。
「そうなのか。で、すでに鍛冶レベルが8のグラシアはどうやって武器を作るんだ?」
「とりあえずやって見せるわね。A、武器を出して頂戴。」
「ああ。」
彼女は自分の鞄から掌を1つと骨をいくらか引っ張り出した。
「炉の前に魔法陣があるから、そこにおいて。」
言われたとおりに置く。彼女も素材をその横に並べる。
「すぅ・・・っ!いくわ!武器製作魔法!!」
掛け声とともにグラシアが手をかざすと、魔法陣が光を放つ。剣と熊素材は光に包まれてひとかたまりなっていき、光が収まると1本の黒い剣になった。
「ふぅ・・・。よし成功!ここからは微調整ね。A、振ってみて。」
失敗することもあるんだろうか?とりあえず振ってみる。Aボタンで斬り下ろす。
!! 使いやすい!!それに黒い軌跡が綺麗だ。
「おお!スチールソードのときよりも手になじむ感じだ。振りやすい気がする。」
「それは、よかった、わ!微調整、は、必要、ない、みた、いね!」
あれ?なんだかだいぶ消耗してる様子だ。
「ありがとう。というか大丈夫か?しんどそうだが。」
「ふぅ・・・。大丈夫、ちゃん、と、いい、武器が、作、れた、から、気が、抜けた、だけ、よ!あ。でも、疲れた、から、この、まま、ベッ、ドに、入って、寝るわ。大丈、夫、工房に、ベッドが、あるの。」
言葉が途切れ途切れだ。
「ああ。では帰る。ゆっくり休んでくれ。」
「ええ、また、明日。ギルド入り口集合、で。」
「わかったからお休み。」
「おやすみなさい。」
宿屋に帰る。晩ごはんにはいい時間になっている。
「ただいま。」
「おかえり、おつかれさん。ああちょうどよかった。3人とも、こっちが期待の新人のAや。」
そういえば3人パーティを紹介してくれる話だったか。
「Aだ。《剣と丸盾》Lv4。よろしく頼む。」
「私はクラリチェ。《剣と丸盾》Lv6。このパーティのとりまとめをさせてもらっています。よろしく。」
金属鎧に身を包んだ、165cmくらいの美女だ。金髪ツインテール。金髪ツインテール!優しそうな顔だ。多分童貞殺しだろう(偏見
「俺はバルバック。《両手持ち長剣》Lv3だ。まぁよろしく頼む。」
170cmほどのおそらくは男。体つきは中性的で、目まで覆う革の兜をかぶっているので顔がわからない。美形だと思われる。声は女性的だから、男装の麗人とか俺っ娘だったらおいしい。
「イーリオス・・・。《軽魔法師》氷Lv5・・・。よろしく・・・?」
非常に眠そうな130cmくらいの幼女だ。いやしかし、『ギルド』登録は16以上だから見た目どおりの年齢ではないだろう。全身を白いローブで覆っている。
とりあえず3人と登録証を見せ合いながらの自己紹介を終える。
「ほな自己紹介も終わったみたいやし、ご飯にしよっか。4人とも引き落としでええ?」
「ああ。」「はい。」「それで。」「うん・・・。」
今日は巨大なステーキとガーリックトースト、葡萄酒だ。
「「「「いただきます。」」」」
4人でハモって食事を開始する。やはりここの料理はおいしい。
「そういえば、遠征失敗と聞いたのだが、詳しく訊いていいだろうか?」
食べながら会話を投げる。
「いいですよ?私たちは全員初級のランク4なんですけどね。」
と、クラリチェが快く返事をしてくれる。
「今回は砂漠地方で火のエレメントを“吸いすぎた”トカゲの狩猟依頼だったんだ。」
バルバックも話すことに忌避はないようだ。
「でも・・・、思ったよりも・・・、大きかったの・・・。」
イーリオスも加わる。
「トカゲが?」
「トカゲが、です。予想された大きさの3倍近くありました。」
「あれはもうドラゴンって言ってもいいと思うぜ。」
「空は飛ばなかったから・・・。頑張ればいけたかも・・・?」
「頑張ってもあの時点では火力が足りませんでしたよ。それにバルバックが突っ込みすぎてひどい目にあったでしょう?」
「あれは大変申し訳なかった。」
バルバックは突撃志願なのか?クールそうなのに意外だ。
「ひどい目?それは大丈夫だったのか?見た目には怪我しているようには見えないが。」
「死角をついたつもりが反応されて、火を吐かれたんだ。幸い鎧が肩代わりしてくれたからそのあとも何とか動けたんだが、体力が9割くらい持っていかれたんだ。」
「鎧も・・・ボロボロで・・・。これ以上は無理って・・・。撤退したの・・・。」
「なるほど。それじゃあ依頼失敗ってことになったのか?」
「いえ、期限はあと10日ほどありますので。装備を変えてもう1度遠征する予定です。」
「もし遠征までにオレがランク4になったら、手伝わせてもらっていいだろうか?」
遠征というものを経験しておく流れな気がするので提案するが、
「Aの実力がどんなものかがわからないし、それに《剣と丸盾》は相性悪いだろうしな。」
バルバックは乗り気じゃないみたいだ。
「遠征前に・・・、1度一緒に・・・、狩りする・・・?」
逆にイーリオスにパーティ狩りの提案をされる。それは願ってもない!
「ああ、それで実力を見てもらってだな。トカゲ狩りに貢献できるって思ったら連れて行ってくれ。」
「Aさんは今ソロなのですか。」
さくさくと進めているとクラリチェに確認される。あ。グラシア。
「あ、いや、今朝パーティ組んでペアだ。」
「私たちは明日は休養日にする予定なので、その間に相方さんにも話をしておいてくださいね?その方が遠征に乗り気かどうかはわかりませんが。」
「わかった。とりあえず明日話してみる。で、明後日に全員で日帰りの狩猟依頼をしよう。」
「その相方にちゃんと話が通ったら、だけどな。」
「日帰りの方は大丈夫だと思う。」
と、ここで全員の食器が空になる。
「「「「ご馳走様でした。」」」」
「はい、お粗末様。えらいもりあがったねぇ。」
とりあえず風呂に入って寝よう。明日のことは明日考える。




