-日本昔風作り話-「あんころもち」
昔話って面白いけど、一体だれが見てたり、聞いてたりするのかな?
そうか!全部作り話なんだ!※そんな事はありません。
田吾作「おっかぁ!おら、あんころもちが食いてぇーだ!」
ここは山々に囲まれた土地
年の半分以上は雪があり寒さ厳しく
作物を耕してもなかなか育たない
山に入れば木や動物も少なく狩をするにも適してない
住む村人は、ただただ先祖の守ってきたというだけで寡黙に生き抜いていた。
そんな村の住人で、小さな茅葺屋根に積もる雪おろしを
してきたばかりの田吾作が、家の中に入るなり、
突然母親に向かって団子が食べたいと言い放った。
勿論、その日の食べ物ですら事欠く
団子が食べれるかなんて結果は百も承知である。
それでも田吾作は言ったのである。
すると、小ぶりの薪を囲炉裏にくべながら母は深いシワを
もっと深くしながら田吾作へと向いて言った。
「田吾作ッ!おめぇ、ワシの子じゃねッ!」
「・・・」
「勘違いすんじゃねぇぞ?高価なモノをねだったから怒って言ったんじゃねッ!」
「お、おっかぁー!」
「おまえがおかしくなったとも思ってねぇッ!」
「あ、あんころ・・・もち」
「実は田吾作、おまえは・・・」
田吾作は、今まで母だと思っていた人に告げられたその言葉に動揺を隠せなかった。
でも、どうしても「あんころもち」を言いたい気持ちがあった
「ぁ・・・あん・・・・ころ・・もち」
「おまえは・・・ワシの姉の子じゃ!」
「・・・・。」
「あんころもち、それはおめぇのおっかぁーであるワシの姉の好物だったんだッ!」
「あんころもち・・・」
そう、田吾作は母と思っていた人が産みの親ではなかった。
田吾作が物心がつく前に死んだそうだ。
変わりに妹の自分が幼子の田吾作を育てることになった
田吾作の父は山を出たっきり帰ってこなかったそうだ
田吾作は思った。
『なんでー、こんな告白されてんだおら?
屋根から雪を下ろしたことを伝えただけなのに・・・』
この地方では、「あんころもち=雪をおろす」「食いてぇ=終わった」と表現する
そう、何十年もこの地に住む母が意味を分からないはずは無い。
なのに突然、田吾作の生い立ちを話はじめた。
田吾作は疑念を抱いた。
『このおっかぁ・・・一体だれなんだべ!?』
雪深い土地に、久々の春が訪れようとしていたが
そんな田吾作の心は冷たく硬くなるのにはさほど時間はかからなかったそうなぁ・・・
-完-
生まれてきた環境が世界のすべてだと思うと
果たして目の前の母親ですら本物なのか、自分自身も本物なのか
一体だれが教えてくれるのでしょうか?信じて生きるしかないんですかね?