Ninth note
骨と内臓だけになった義龍の前に馬車が10台くらい、馬が40頭くらいと人間が50人くらい並んでいる。ミッチー軍団だ。
連れてきた奴が数を把握していないので、数字に「くらい」がついている。
「ではMitchellさん、お願いします」
カリーナさんはミッチーに何かを頼んでいたようだ。だから「例の場所」で通じていたのか。
「かしこまりました、天馬流星拳魔法っ!」
どっごぉぉぉぉーんっ!
ミッチーが右腕を繰り出すと草原に大穴が開いた。これが「魔法」なのか。
「大次郎さん、義龍の骨と内臓をこの穴に入れてください」
「はぁ?」
「放っておいたら内臓が腐って衛生状態が悪くなり、疫病が流行ってしまいます。食べられない部分は埋めちゃいましょう」
全て「食べられない部分」だったんじゃないんですか!?
突っ込みたかったけど、カリーナさんは恐ろしい女なのでやめておいた。
「・・・はい」
また稲妻颶風に頼んで、高速で動き回って貰おうか。
「お待ちください、ロウ殿下」
ミッチーが声をかけてきた。
「私がやりましょう」
「あ、さんきゅー」
すぐにお礼を言った。面倒くさいことを自ら進んでやるとは、ミッチーは良い奴だ。
「颶風衝撃波魔法っ!!」
どっかーんっ!
もの凄い衝撃波が義龍の骨と内臓を大穴に押し込んだ。
やるな、ミッチー。
ちなみに皮は別に置いてある。カリーナさんは義龍の鱗で商売でもするのかな?
「これで片付きましたな」
ミッチーはドヤ顔で僕をみた。うん、すごい、すごい!
カリーナさんはミッチーに義龍の残骸を処理するように頼んでいたんだな。だとしたらこれくらいしてくれないとねぇ。
「Mitchellさん、ありがとうございます。ついでに埋めるのもお願いします。報酬はこの『義龍の鱗』でいいんですよね」
「はい、しかしこれだけの量の『義龍の鱗』ではむしろ貰い過ぎなくらいです」
「いいんですよ」
「ありがとうございます」
あ、ミッチーには報酬があるんだ。僕にはないのに。
しかも「怪我と弁当は自分持ち」である。まだ怪我はしていないが弁当は義龍の肉なんだぞ!?
また黒い衝動が僕を襲った。食事2回分の便意がやってきたのだ。
「すいません。埋めるのはちょっとだけ待って貰えますか」
「はい、何でしょう?」
「その大穴で・・・、そのぉ・・・、アレしたいのですが・・・」
「アレって?」
「そのぉ・・・。排便っす・・・」
「英雄さまが便したいそうですっ!」
ミッチーの妹たちやお付きの人たちにも聞こえるくらいの大声で言い直しやがった! 恥ずかしい。カリーナさんは性格が悪い。まさに悪女だ。
しかし、その大声には訳があった。
ミッチーのお付きの人たちが大穴の縁に囲いを建て、簡易トイレを作ってくれたのだ。
「ロウ殿下、御小姓や御次、御半下は必要であろう?」
「・・・。はい、そうですね」
組み立てられたトイレに入ると、大穴に便が落下するよう溝が掘られていた。
端には塩水の入った壺に棒が挿してある。尻拭き棒だ。こんなものまで用意してくれて、まさに至れり尽くせりだ。
「ふんっぬぅーっ」
城でしたよりも凄い量の便が出てきた。これからも勝利の虹たちを宿している限りたくさん食べて、たくさん便をするのか。
勝利の虹たちの1日のエネルギー消費量は一体、何キロカロリーなんだろう?
肉ばかり食べているので便が硬い。その硬い便を大量にし過ぎて僕の「直腸の体外への開口部」がヒリヒリする。
そこを塩水で湿らせたスポンジで拭くのだから飛び上がるくらい染みる。
(稲妻颶風、この痛みを何とかしてくれ!)
『あたしは痛み止めじゃないよ! 宿主ももっと水を飲んだり、食物繊維を摂取するなりして対策をしておいてよ!』
(野菜なんてないじゃないか)
『ここは草原だよ? そこいらの草を食べればいいんだよ』
(僕は牛か!)
『我が輩がおいしく感じるように味覚を制御するのである!』
(余計なことはしなくていいの!)
『 『了解、宿主』 』
トイレから出るともう陽が落ち始めていた。
「もういいのですか?」
「はい、おかげさまでスッキリしました」
そういうとミッチーのお付きの人たちがトイレを片付けて馬車に積み込んだ。
「では埋めます、颶風冥皇覇魔法っ!!」
ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダ、ダーッ
細かい衝撃が草原を走る。彼方此方から土を少しずつ撃って大穴を埋めている。器用なもんだ。
「曾祖父が勇者王、Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Third様だったので、私たちも勇者様と同じ魔法が使えるんですよ」
マミか、クーか判らないが、ミッチーの妹が自慢げに話しかけてきた。
「じゃあ君たちも王家の一族なの?」
「曾祖母が勇者王の側室でしたので、私たちは直系ではなく王家の分家になります」
「側室って、愛人? お妾さん?」
現代日本人である僕に側室なんて言われてもピンとこない。
「曾御婆様を愚弄するな!」
もうひとりの妹が突っかかってきた。
「いや、そんなつもりじゃないんだけど」
「曾御婆様は優秀な魔法使いだったんだ! 魔王の側近だった悪魔将軍だって、曾御婆様が倒したんだ!」
「ふーん」
「悪魔将軍は魔王と同じ魔法が使えて、魔族も生み出せて、魔王と同格だったんだ! そいつを曾御婆様が魔法で倒したんだぞ!」
多分、この小生意気そうなのがクーなんだろう。いかにも末っ子って感じだ。
うん? 何か重要なキーワードをこの子は言ったなぁ?
「悪魔将軍が魔王と同格だったのなら、勝利の虹で斬らなければ倒せなかったんじゃないのか?」
「曾御婆様は魔法で倒したんだ、凄かったんだからな!」
凄かったって、お前は見ていたんか!
見ていたかもしれない奴に聞いてみよう。
(おい、勝利の虹)
『何じゃ?』
(お前、聞いていただろ? 悪魔将軍って何者だ?)
『魔王のバックアップじゃよ』
(本気か!)
『ワシは斬っていないから、やられたフリをして逃げたんじゃろ』
つまりこいつらの曽祖母さんが魔法で倒したと思い、勝利の虹で止めを刺さなかったから今、地球はネロに狙われていると言うことか。くっそーっ!
「ごつっ」「ごつっ」「ごつっ」
僕は3姉妹に拳骨した。
「ロウ殿下、いきなり何を!」
「いったぁ~い」
「何をするんだよ!」
「お前ら、何かムカつくんだよ!」
『理不尽な』
『可哀想』
(お前ら、うるさい!)
理不尽なのは判っている。でもこの怒りは何処にぶつければいいんだ!
「大次郎さん、何をしているんですか!」
珍しくカリーナさんが怒っている。
「いきなり女の子を殴るなんて、サイテーです!」
『宿主、サイテー』
『宿主、サイテー』
『宿主、サイテー』
『宿主、サイテー』
わ! サイテーの五重奏だ。
「・・・すいません」
勢いに押され、とりあえず謝っておいた。
「では出発しましょうか」
カリーナさんが皆を集めた。
「馬や馬車まで宇宙船に乗せるんですか? 置いて行きましょうよ」
「馬と馬車を置いて行けだと!? 私たちに歩いて殿下の国まで行けというのか!?」
「はい」
「何と理不尽な!」
「理不尽大王だ」
「いや、まだ王になっていないから理不尽王子だ」
理不尽大王って、僕は冬木弘道さんか!
そもそも僕は王子じゃないし!
「とりあえず馬でも馬車でもみんな乗せちゃいましょう!」
僕が理不尽大王ならカリーナさんは適当女王だ。高○純次さんを上回ると思うぞ!?
「カリーナ御姉様はお優しいのに理不尽王子は何よ!」
「カリーナ様は何か訳があって王子についているのかしら?」
「カリーナ御姉様はきっと理不尽王子にいつも無茶なことばかり言われているのよ、お可哀想に」
「はいはいはいはい、行きましょう、行きましょう、日が暮れちゃうよ!」
女3人寄れば姦しいというが、3姉妹は騒々しい。
お付きの人たちも全員女性だし、カリーナさんも美少女だし、男は僕ひとりだ。
ん? これってもしかしてハーレム?
『我が輩は違うと思うぞ?』
『ワシも違うと思うぞ?』
(黙れ!)
『 『了解、宿主』 』
2015/12/24 誤字訂正