Eighth Wonder of the World
「勇者王Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Thirdの遺骸より現れ出た宝剣『勝利の虹』は、この国の如何なる者も触れることができずにおったが、今ここに正当なる後継者が現れたのじゃぁーっ!」
王様が興奮気味に叫んでいる。そんなに凄いことだったんだ。
「(痛みに我慢できれば誰でもできたんじゃないの?)」
「(Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Thirdさん以外、痛みが我慢できなかったのでしょう)」
だとしたら僕は痛みに強い方だったんじゃないか?
稲妻颶風は幾ど拷問だったし。
「ロウ殿下、是非この国で新たなる勇者となっていただきたいっ!」
「待て、待て、待てぃ!」
「いかがなされた?」
「僕は地球に戻って、ネロを倒さなければならないんです」
「ネロ!? ネロとはその昔、この国を苦しめていた魔王と同じ名前だが・・・」
「多分、同じ人です」
「いやいや、魔王は勇者王Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Thirdが倒した」
「そのネロのバックアップが生きていて、地球で殺戮を始めたのです」
「何じゃと!?」
「頂いた勝利の虹を持って、急いで帰らないとネロの本体が復活してしまうんです」
「魔王が復活する!?」
「おおおおぉ」
この場にいた人、皆が響めいた。
「魔王が復活する?」
「この世の終わりだ」
「早く何処かへ逃げなくては・・・」
静かだった謁見の間がざわめきだした。魔王がいたのは昔のことだったらしいが、未だここの人々には恐怖の記憶が刻まれているようだ。
そんな奴が地球で暴れ出したのだからたまったもんじゃない。
「なので、そろそろ御暇したいのですが・・・」
「うむむむ。事情が事情なので、急いで帰国された方が良いようだな」
「はいっ」
やっと帰れる、地球に戻れる。地球に戻ったら、真っ先に洗浄式便座でお尻を洗いたい。
「陛下っ!」
ミッチーが王様の前に駆け寄った。
「私もロウ殿下と一緒に魔王討伐したいと存じます」
「ミッチーが、か?」
こいつは勢いだけの気が強い女、という印象だ。男装をして帯剣しているくらいだから腕に自信があるのかな?
「私は剣も魔法も使える。お役に立てると思います」
「でも、ねぇ・・・」
「この目で魔王が倒れるところを確認したいのです。魔王が倒れたことが確認できなければこの国の民も安心して暮らすことができないでしょう」
言っていることは判る。魔王の名前が出ただけでこのざわめきだ。
「カリーナさん・・・」
「いいんじゃないですか。ただし怪我と弁当は自分持ちですよ」
「かしこまりました。ありがとうございます」
ミッチーは頭を下げた。「怪我と弁当は自分持ち」なんて昔の建設作業員みたいだ。ミッチーはそれでいいのか?
「すぐにでも出発したいのですが・・・」
「判りました。急いで準備しますので、例の場所で落ち合いましょう」
ん? 例の場所って何だ?
カリーナさんとミッチーは打ち合わせ済みなのか?
「陛下、よろしいですか?」
「うむ。Mitchellよ、頼んだぞ」
「御意!」
王様に了解を取るとミッチーは走って謁見の間を出て行った。
「私たちも例の場所へ行きましょう」
「例の場所って何処なの?」
「では、陛下。私たちもこれにて失礼いたします」
「うむ。武運を祈っている」
「だから例の場所って何処なの?」
カリーナさんと僕は転移した。結局、僕の質問は無視された。
転移した先は宇宙船ではなかった。草原だ。
そして義龍の死体が横たわっている。改めてみるとデカい!
「さぁ、雷光流転にコレを収めてください」
「はぁ?」
「雷光流転は異空間に物を収納する能力があります。これくらい大きな物でも大丈夫です」
盾が鞄がわりになるってことか。サ○レッドのヴァ○プ将軍みたいだ。
「死体を持って帰るんですか?」
「大次郎さんのお弁当ですよ」
「はぁ!?」
こんなモンを何で僕の「お弁当」にするんだ?
「この国の人は義龍を食べる習慣がありません」
「えぇ?」
「義龍の肉は臭くて食用には向かないのです」
「え、え、えっ」
カリーナさんはさっき僕に腹一杯、食わせていたぞ!?
「大次郎さんには衝撃の蠍たちがいますから、何でもおいしくいただけますし、多少腐っていても、毒が入っていても大丈夫です」
「だからって・・・」
「稲妻颶風も消化、吸収を手伝ってくれますし」
「ちょ、ちょ、ちょい」
「此処にあると邪魔だし、腐ったら衛生上よろしくありませんし、大次郎さんはすぐにお腹が減るでしょうし、一石二鳥、三鳥にもなるんです」
なんてこった。僕は生ゴミ処理機か!
「・・・。もしかして、宇宙船からお城の近くじゃなくてここに転移した理由って・・・」
「えぇ、大次郎さんの食料確保です。それと義龍を退治すれば、宝剣と称して大事にしまっていた勝利の虹を王様は喜んで渡してくれると思いまして」
「転移だか転送する装置を使って、勝手に持ってきちゃえば良かったんじゃないんですか?」
「あら、泥棒はよくないことですわ」
なんだよー!
僕が死にかけたり、生ゴミを大量に食わされたりしたことに比べたら、剣1本を盗むくらい、いいじゃないか!
「大次郎さんだって怪我と弁当は自分持ちですからね。勝利の虹たちを身体に宿しているのですから、エネルギー消費が激しいはずです。ですから食料は大量にあった方がいいでしょ? ふふふ」
最初から生ゴミみたいな義龍の肉を僕の食料にするつもりだったんだ・・・。恐ろしい女だ。
僕は勝利の虹を使って義龍を車1台分くらいの大きさに切り分けた。
カリーナさんには言いたいことが山ほどあるが、機嫌を損ねてこの星に置き去りにされちゃ困るので黙っていた。
切り分けた肉片は雷光流転に吸い込ませた。必要なときに必要なだけ取り出せるそうだ。
義龍は高層ビルくらい大きかったが、作業は稲妻颶風が僕の身体を操り、音速を超える速度で動かしていたので思っていたよりは早く終わった。
途中、お腹が空いたので2回ほど肉を焼いて食べた。生ゴミ処理ではない。食事、だ!
『生のまま食べても我が輩や稲妻颶風が何とかするから大丈夫ですぞ?』
(調理しないで食べたら、心が折れちゃいそうなんだ・・・)
『別に折れたっていいんじゃないの?』
(稲妻颶風は冷たいな、いじけちゃうぞぉ)
『宿主、元気を出してください!』
(ありがとう、雷光流転は優しいなぁ)
『それより、ワシを包丁代わりに使うんじゃないっ!』
(勝利の虹は黙って働け!)
『了解、宿主』
勝利の虹も文句を言う割には素直に従うんだな。
義龍が骨と内臓だけになった頃、ミッチーたちが馬に乗ってやってきた。
例の場所とは義龍の死体があるところ、ということだったのか。
馬から下りて僕とカリーナさんに近づいてきた。
「遅くなって申し訳ありません」
「いえいえ、こちらの作業も終わったばかりですので・・・」
「おい、これは何だ?」
ミッチーは小隊とも言える人数を引き連れている。
「紹介しよう。私の妹、MamiとCooだ」
「初めまして。義龍殺しの英雄、ロウ殿下」
「お会いできて光栄です、ロウ殿下」
「あ、あぁ」
3姉妹とも甲冑を着て帯剣、手には槍や弓矢を携えている。闘う気満々だ。
しかし、問題はそこじゃない。
「あの団体は何だ?」
「私たちの従者だが、何か?」
ひとりあたり4、5人の兵がついていて、その後ろの馬車には何人のメイドが乗っているんだ!?
「・・・。この団体は全部で何人いるんだ?」
「50人くらいかな?」
「くらいって、把握していないんかいっ!」
観光バスなら補助席を出さなきゃ座りきれない人数だ。
「こんなにたくさん連れて行く気なのか? 一緒に行くのはお前ひとりじゃないのか!?」
「闘うときには『隊伍』を組むだろう? その兵たちを世話する御小姓、身の回りを世話する御次、煮炊きする御仲居、下働きする御半下等が必要ではないか」
「・・・。カリーナさん、何とか言ってやってください」
「まぁ、私の宇宙船には乗れますから、いいんじゃないんですか?」
「本気かっ!」
あの宇宙船にも異空間に物を収納する能力がついているのか?
もし僕がいた空間で「乗り切れる」と思っているんだったら、通勤時間帯の山手線並みの混雑になるぞ!?