Seventh moon
「その昔、余の祖父が義龍の王、金愚義龍を倒して以来、義龍を統率するものが現れず、好き勝手に暴れだして手がつけられなかったのだ」
「そうだったんですか」
「お恥ずかしながら、今では義龍を倒せるほどの勇者も国には居らず、困っておった」
「城下町の近くにいた義龍が倒されて、よかったですね」
「余が義龍を倒せるほどの実力があったなら良かったのだが・・・。勇者王と呼ばれた祖父、Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Thirdに合わせる顔がないな」
「はい?」
なんだか、もの凄く長い名前だ。しかもすべて「A」で始まっている。
日本語に直したら「あ・あ・あ・あ」だ。ありがちな勇者の名前だなぁ!
「さて、ロウ殿下。此度の功績に対して、余から褒美を取らす」
「(ありがとうございます、謹んでお受けいたします)」
また女将さんが横で囁いた。
「ありがとうございまぁーすぅ、謹んでお受けいたしまぁーすぅ」
「(変に語尾を伸ばさないで! 馬鹿に見える!)」
「(だって、僕はカリーナさんに囁かれた台詞を言うだけの馬鹿なんだもーん)」
「(ちっ)」
カリーナさん。今、舌打ちしたでしょ!?
「(衝撃の蠍!)」
『Yes,mam』
「あたたたたたっ」
急に蟀谷が痛み出した。拳骨でグリグリされているみたいだ。
(やめろよ!)
『了解、宿主』
ささやかな抵抗すら許されないのか!
「ごほん。あー、義龍退治を称え、ロウ・アマノ殿下に宝剣『勝利の虹』を授与する」
「ははぁーっ」
僕は恭しく頭を下げた。いちいち囁かれなくったって、これくらいのことはできるんだぞ!
着飾った人が長い木箱を持ってきて僕の前に立った。
僕は片膝をついたまま両腕を差し出し木箱を受け取った。
こいつがネロを倒せる唯一の武器、勝利の虹か。
「陛下、異議あり!」
後ろから女の人の声がした。
異議ありって、義龍退治をしたのが本当は僕じゃないのがバレちゃったのか!?
「その宝剣『勝利の虹』は勇者王、Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Third様の遺骸から現れたもので、謂わば国の宝。いくら義龍を倒したからといって、どこの誰かも判らない男に授与するなんて、信じられません!」
「ロウ殿下は一国の王子であるぞ」
んー、話が通じない。いつの間にか僕は王子様になっている。
「(カリーナさん。僕が王子って、いったいどうなっているの?)」
「(大次郎さんが眠っている間に私が王様に挨拶をしていたの)」
「(うん)」
「(その時に『この眠っている戦士が義龍を倒したオオジロウ・アマノです』って紹介したのよ)」
「(うん、うん)」
「(そうしたら『王子ロウ・アマノ』って勘違いされちゃって・・・)」
「(えぇ!?)」
「(説明するのも面倒だったから、『ロウ王子』のままで通しちゃったの)」
「(本気か!)」
そこは面倒がらないで、ちゃんと説明してよーっ!
っていうか、そもそもこの星の人たちは日本語で話していなかったぞ!? 自動翻訳機がおかしくなっているだけなんじゃないの。
「(私も『王子の付き人』と勘違いされちゃって、悔しかったわ)」
「(だったら早めに訂正しておこうよーっ!)」
「(『勝利の虹』を回収したらすぐに帰るからいいけど)』
「(僕は訂正しておきたいのですが・・・)」
「(いいじゃない。少しの間だけ王子様ということでいきましょう)」
「(はぁ)」
『勝利の虹』を頂戴したことだし、早く地球に帰りたい。
異議なんて無視して、転移だか転送の装置を使ってとっとと宇宙船に帰ろうよ。
「義龍1匹を倒したくらいで、国の宝を差し出すのですか!?」
「そういうMitchellは義龍を1匹でも倒せるのか」
「・・・。3つの旅団と9つの歩兵大隊を貸していただけるなら・・・」
「貸すのは構わん。ちゃんと返してくれるのか」
「そ、それは・・・半分くらいは犠牲になってしまうかも知れません」
「話にならんな。Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Third様とロウ殿下はおひとりで義龍を倒したのだぞ」
「で、では魔王をも一太刀で倒したという伝説の宝剣『勝利の虹』を貸していただければ私ひとりで倒して参ります」
「ますます話にならんな。Mitchellは『勝利の虹』を持つことができるのか」
「試してみなければ判りませぬ!」
「それでは持ってみるが良い。ロウ殿下、よろしいかな?」
「はぁ」
「(もっと敬意を持って返事しなさいっ)」
またカリーナさんから注意されてしまった。
「はい」
そう言えば会社の上司にも「お前の返事は人を馬鹿にしているようだ!」とよく叱られる。
「失礼します、ロウ殿下」
異議を申し立てているミッチーと呼ばれていた女の人が目の前に来た。女性なのに男性のような服を着て腰に剣を差している。男装の麗人ってやつなのか。
ちなみに緑色のジャケットは着ていないし、包帯もしていない。
「『勝利の虹』をお借りする」
「え、嫌だよ。もう帰るんだから・・・うぐぐぐぅ」
カリーナさんに口を塞がれた。
「どうぞ、どうぞ」
にっこり笑って剣の入った木箱を勧めている。ダチョ○倶楽部みたいだな。
「では、失礼」
僕に木箱を持たせたまま、蓋を開けて剣を取り出そうとした。
ガッチャーン
ミッチーは剣を落とした。そんなに重くはないはずだけど?
「申し訳ありません。持てませんでした・・・」
「そうであろう。いくらお前がAlexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Thirdの血を引く魔法剣士だとしても、『勝利の虹』には選ばれなかったのだ」
「で、ですがロウ殿下だって『勝利の虹』に選ばれるとは限らないのでは・・・」
「ロウ殿下は義龍殺しの英雄ぞ!? 宝剣の所有者にふさわしいではないか」
「・・・」
何だかよく判らないが、折角『勝利の虹』が手に入ったんだし、早く地球に帰りたい。
僕は何げなくMitchellが床に落としてしまった『勝利の虹』を拾い上げた。
どっどーんっ!
落雷にあったような衝撃が走った。なんだ、こいつは!?
(稲妻颶風ぉ!)
『はいはい、しょうがない英雄さまだねぇ』
右手にガントレットが現れ、剣をつかんだ。うん、これなら痛くない。
しばらくしたら剣が右手に吸い込まれるように消えていった。
周りで見ていた王様をはじめミッチーや着飾った貴族っぽい人たち、兵士が「おぉーっ」と感嘆の声をあげた。
『おんやぁ? 皆が揃っているではないか』
『お久しぶりです、勝利の虹さん』
『皆も先日、やっと出会えたんである』
『銀河中にバラバラになっていたよね』
(感動の再会中、申し訳ないが静かにしていてくれたまえ)
『 『 『 『了解、宿主』 』 』 』
勝利の虹も素直じゃないか!
よしよし、みんな良い子だ。
「『勝利の虹』が右腕に吸い込まれた・・・」
ミッチーが呆然と僕を見ている。
「なんか、やっちゃったのかな?」
「大次郎さんは4回目ですが、他の皆さんは武具が身体に吸い込まれるのを見るのは初めてなんでしょう」
「そうだね、そりゃ普通じゃないよね」
僕だって3日前なら腰を抜かすほど驚いていたと思う。
『3日前は小便チビってたね』
『うんちも漏らしそうだって言っていました』
(うるさい、黙れ!)
『 『 『 『了解、宿主』 』 』 』
返事だけは良いんだからなぁ。
「流石、ロウ殿下。『勝利の虹』に認められる英雄ですな!」
王様はニコニコ笑っている。裏がありそうな怖い笑顔だ。
「『勝利の虹』が認めた・・・」
ミッチーはよっぽどショックだったのか、その場にへたり込んでいる。
「カリーナさん、もう帰りましょうよ。ちゃっちゃっと転移だか転送してください」
「この国の人たちにはお世話になったんですよ。いきなり転移していなくなったら失礼じゃないですか」
がさつで適当な割には、こういうときの礼儀だけはしっかりしているんだなぁ。
普段から、そうしていてもらいたいっ!
「普段」といっても僕は出会ってからまだ、3日しか経っていないが。
2015/12/21 ルビ訂正
Sword & Protective gear system
意思ある兜『衝撃の蠍』
視覚、味覚、嗅覚、聴覚等を制御し、通訳までする頭脳担当。
意思ある鎧『稲妻颶風』
身体を自由に動かせ、内臓まで制御できる。ちょっと高飛車な姉御。
意思ある盾『雷光流転』
敵からの攻撃を防ぐしかできないので、日常生活では役に立たない。
意思のある剣『勝利の虹』
傷つけることしか出来ない攻撃担当。若い頃は剣なのに「キレたナイフ」と呼ばれていた。