May the 'forth' be with you.
義龍が急降下してきた。よくみたら首が9つある、九頭龍だ!
「走って!」
僕はカリーナさんの手を引いて、城っぽい建物がある方向に走り出した。
「走っても義龍はすぐに追いついちゃいますよ?」
「じゃあ、どうしたらいいんですか!」
「とりあえず、闘ってみましょう」
「だって攻撃用の武器がないんでしょ!?」
「ヘルムで頭突き、ガントレットでパンチ、サバットでケック、シールドで撲殺すれば良いのです」
剣がないから斬ることはできないけど、今装着している防具で肉弾戦をしろってことか。
それとキックのことをケックって言う人を見たのは、マサ斎藤さん以来だ。
そもそも相手は高層ビルくらいデカい図体なんだよ!?
冗談じゃない!
『我が輩に任せるのだ!』
衝撃の蠍が名乗り出た。
(嫌だ! 頭突きなんてしたら脳細胞が死んじゃう!)
『宿主よ、大丈夫だ! 我が輩に任せるのだ!』
(衝撃の蠍は虚栄心が強いのか!?)
『自分で言っているんだから、大丈夫なんじゃない?』
『宿主、安心してください。攻撃はすべて、この雷光流転が防ぎますから!』
『 『 『宿主!』 』 』
(判ったよ、もう好きにしてよ!)
投げた。僕は粘りがない。そういえば会社の上司にも「もっと粘ってこい、諦めるな!」ってよく叱られるな。
走っている足が止まった。僕の身体は衝撃の蠍たちが動かしている。
兜、鎧、盾が身体の中から出てきた。
剣は持っていないがフルプレートアーマーの甲冑剣士だ。
それでいて重さを感じない。僕の身体と一体化しているおかげなのだろう。
振り返ると義龍のでかい頭のひとつがすぐそこに迫っていた。
「ぎゃぁぁぁぁおぉーん!」
義龍が吼えた。その声の大きさで地面が震動しているが、衝撃の蠍が働いているので、大きな音に感じない。
『おりゃぁ!』
義龍に頭から突っ込んでいった。そんなことしたら食べられちゃうぞ!
「どっどぉーん!」
義龍のでかい頭のひとつが後方に弾かれていった。頭突きが当たったのだ。
『宿主、義龍にὨρίωνをも倒す蠍の毒を喰らわせてやりました!』
(それって誰よ・・・)
『獅子を素手で倒す、かなり強い男よ』
(あ、そう)
強い男になんて興味がない。それより今は目の前の義龍を何とかしてもらいたい。
義龍は残った8本の首で攻撃してきた。
(毒を喰らったって全然元気じゃないか!)
『宿主、我が輩の毒は後から効いてくるのだ!』
(すぐに効かなきゃ意味ないじゃん!)
『では、あたしが頑張ってあげる』
(稲妻颶風さん、頑張ってください!)
『義龍を倒してあげてもよくてよ』
高飛車な態度だ。でも嫌いじゃない。
僕は高く飛び上がった。もちろん僕の力じゃない。多分、稲妻颶風さんの能力なんだと思う。
『うぉぉぉぉーっ! 噴流昇龍覇!』
拳が当たって義龍の顎が跳ね上がった。あんなデカい頭に殴りかかって、ダメージを与えるなんて。すごい、すごいぞ、稲妻颶風さん!
『まだまだいくよっ! 噴流昇龍覇! 噴流昇龍覇! 噴流薫衣覇ーっ!』
一気に3つの頭に攻撃した。あんなにでかい頭がピンポン球のように弾かれる。
『このままじゃ埒が開かないね。頭を吹っ飛ばすわ、いいわね、いくわよ!』
稲妻颶風さんの気合いが入った。前屈みの姿勢で思いっきり力んだら背中から純白の羽が生えた。
もしかして、空を飛べちゃうの!?
『はっ!』
気合いとともに空に飛び上がった。
義龍の首がそれぞれ、僕に狙いを定めて襲ってきた。めっちゃ怖いっ!
ひとつの頭に狙いをつけて、ものすごい勢いで飛んだ。
『噴流昇龍覇! 噴流薫衣覇! 一角獣跳蹴っ!』
右、左とアッパーを喰らわしてからの強烈な前蹴りで、義龍の頭がひとつ吹っ飛んだ。ものすごい破壊力だ。この破壊力でもネロは倒せないというのか。
『おりゃぁ! 反動三段蹴ーっ!』
頭を吹っ飛ばした勢いのまま、振り向きざまに3つの頭に蹴りを入れて、またも吹っ飛ばした。殴るより蹴る方が威力がある。
羽ばたいて義龍から距離を取った。何をする気なんだろう。
『一気に行くよっ』
急に疲労感が強くなった。身体が重い。かったるい。
その疲労感に比例して、全身が青白く輝きだした。
『うぉぉぉぉーっ、超重力隕石斬っ!」』
僕の身体を弾丸のように飛ばし、四方八方から義龍に跳び蹴りを喰らわせた。
景色が線のように流れている。もしかしたら僕は生身で音速を超えているのかもしれない。
頭が残り2つになった時点で義龍は逃げようとした。
『逃しはしないよっ、雷光流転っ!』
『はい、お姉さまっ』
何をするんだろう、もう僕はもうへろへろになっちゃったんだけど。
『義龍よ、止めだ。雷光明王流転拳ーっ!』
「ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド、ド、ドッゴーン!」
左腕の盾で義龍に殴りかかった。そんなに素早くパンチを繰り返しちゃ肩が外れちゃう。やめてーっ!
「うぎゃぎゃぎゃーぁ」
義龍は巨体を草原に横たえた。ダウンした、というより絶命したのだろう。
まさか本当にこんな巨大な龍を倒すとは・・・。
「やりましたね」
草原に降り立つとカリーナさんが駆け寄ってきた。
「ウチの子たちは強いでしょ!」
「はぁ、でも僕はへろへろで身体のあっちこっちが痛いんですけど・・・」
立っていられなくなり両膝をついて、そのまま四つん這いになった。
「気にしない、気にしない。一休みすれば直りますから」
もしも僕が光の国の巨人だったら、胸につけているタイマーが赤く点滅していると思う。死んじゃいそうだ。
『いきなり全開で闘ったら宿主の体力もなくなるであろう。あんなに攻撃しなくても我が輩の毒で十分倒せたはずだ』
『お姉さまが調子に乗って魔法なんて使うから宿主が倒れそう』
『超重力隕石斬はまずかったかしら?』
身につけた防具にやられるとは思っていなかった。
(た、たすけて・・・)
倒れた。意識が遠のいていく。
毎日、毎日、会社と家との往復で疲れ果てていると思っていたが、本当に「疲れ果てる」とは今の状態を言うのだろう。
『宿主には魔力がないのに無理矢理、魔法を使うからじゃ』
『ちょっとだけ魂を削って魔力を作っただけじゃない』
『それ、良くないと思います』
『えー。宿主が(稲妻颶風さん、頑張ってください!)って言うから、頑張ったのに・・・』
(勝手に僕の魂を削っちゃダメだろ!)
頭の中で駄目出ししたのが限界だった。
急に目の前が暗くなり、僕は気を失ってしまった。
Ὠρίων:オーリーオーン
2015/12/17 ルビ訂正