Twenty-third ward
「実は今回の件でアルカディア国の人が11人、亡くなっています」
洞穴に戻った僕は勇者王に被害状況を正直に伝えた。
「カリーナさんのクーデターの被害者、というわけではないのですがネロにやられました」
「大次郎殿、私が悪魔将軍と闘ってからまだ1日、2日だが、その者たちは亡くなってからどれくらい経っているのだ?」
僕がネロを倒して2日間くらい気を失っていて、地球に行ってから戻ってきて次の日の夕方だから・・・。
「こちらの時間で3日と半日くらいです」
「では、急いでその者たちのところへ行こう!」
「弔いですか?」
「いいや、復活だ!」
勇者王が言うには「死者を復活させる魔法は、死後7日以内の新鮮な屍には効く」そうだ。
ミッチーたちはカリーナさんの星に埋葬されていた。
「超復活元気印魔法ーっ、きぇーしゅっ!」
勇者王が何故、薬丸自顕流の猿叫を知っているのかは判らないが、もの凄い気合いが入った。
ミッチたちは土の中から起き上がってきた。夕闇が迫る中、次から次へと墓穴から出てくる様はゾンビ映画で観たシーンを思い出した。
(なんか、気味悪いね)
『あの勇者王は何でもありなのか!? あいつこそアリアリのアリで三色バンバンなのではないか!』
虹の彼方はそのフレーズを気に入っていたんだ・・・。
「私は若い頃・・・、といっても前世での話だが冥界に霊獣退治に行ったことがあってな・・・」
勇者王の話ではまだ勇者と呼ばれる前の「血気盛んなただの若僧」だった頃、名をあげるために冥界に霊獣退治に行ったそうだ。
そこで八面六臂の大活躍をして、冥府狂犬に獅子羊蛇、獅子鷲たちを捩じ伏せて服従させた。他にもいろいろな化け物を服従させたらしいが、見たことも聞いたこともない化け物なので僕にはよく判らない。
「呼び出して大次郎殿に紹介しよう」
「あはは、またの機会にお願いします」
その暴れぶり(勇者王曰く「大活躍!」)に今後、冥界に攻め込まないと約束する代わりに冥皇から「復活魔法」を授かったとのことだ。
(冥界ってあの世のことだよね?)
『そうじゃ。もしかしたら勇者王が転生したというのは、この勇者王が冥界にやってくるのを嫌って、冥皇がしたことかもしれん。いや、間違いないであろう!』
(冥皇も勇者王の関係者が冥界になるべく来てほしくないから「復活魔法」をあげたのかな?)
『そうかもしれん。いや、きっとそうじゃ!』
勇者王の冥界での暴れぶり(勇者王曰く「大活躍!」)が目に浮かぶ。実際は僕の思い描く様子の何十倍も暴れていたのだろうな。
「Mitchellよ、気分はどうだ?」
「私は・・・生き返った!?」
「この私にかかれば死者を現世に呼び戻すなど容易なこと」
「こんなことができる赤子がここに!?」
「Mitchell姉様、この方は曾御爺様の生まれ変わり、勇者王Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Third様なのよ!」
「そうだったのですか!? 勇者王様ありがとうございます!」
復活したアルカディア国の人たちは勇者王を取り囲んで興奮している。前世は大人気だったんだなぁ。ミッチーたち以外は1度、この勇者王に殺されているんだぞ?
「アルカディア国では勇者王Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Third様が御隠れになってから義龍が暴れ回り、この半年でかなりの被害がありました・・・」
ミッチーが勇者王に近況報告をしている。ん? 勇者王が亡くなってからまだ半年くらい? 王様は勇者王のことを「祖父」と言っていたぞ?
「おい、クー。アルカディア国の王様っていくつなんだ?」
「王様はもう70歳を超えているよ」
「その王様が勇者王のことを祖父と言っていたぞ?」
「勇者王様は長生きだったのよ、200歳まで私たちを導いてくださっていたの。そして今また転生されて私たちを助けてくださった! 私は勇者王様の血を継ぐ者として誇らしいわ! 勇者王様は・・・」
クーの勇者王賛美が止まらなくなってしまった。
(アルカディア国の人の平均寿命なんて知らないけど、200歳って凄くない? 時間の流れが地球と違うのかなぁ?)
『200年は地球でもアルカディア国でも大差ないわ。大方、この勇者王が冥界にやってくるのを冥皇が嫌っていたんじゃろ』
・・・。冥皇は余っ程、冥界に来てほしくないのだな。
今の勇者王が生後6ヶ月くらいの赤ん坊だから、死んですぐに転生したのか。
多分、この赤ん坊も長生きする。200歳くらいまで生きる。病気や事故では死なないのだろう。冥皇に嫌われているからな。
それからアルカディア国の人たちと義龍の肉を食べて、ちょっと休んだ。義龍の肉は不評だったが「食べると魂が回復する」と説明したら、奪い合うように食べていた。
みんな1度死んでいるから「魂の回復」というキーワードに弱かったのだろう。
「ベルちゃんは早く帰りたいわぁ」
「地球の時間は止まっているようなモンですから、もう少し付き合ってください」
「俺はどうしてここに連れてこられたんだ・・・。怖い思いをしただけじゃないか・・・」
しゃべる犬エイチはブツブツ文句を言っている。僕はこいつから文句しか聞いたことがない。しゃべる犬ではなく、文句を言う犬だ。
みんなを連れて次元転移をして、アルカディア国の義龍を埋めた草原に降り立った。
「王様と別れたばかりの時間だから、僕はこのまま帰る。またな」
「ロウ殿下、また会えますよね」
ミッチーが珍しくしおらしい。
「義龍を狩りにくるから、また会えるさ」
「私も大次郎殿に頼んで、たまには顔を出すつもりだ」
「勇者王様、その節は国民全員で歓迎いたします」
「ベルちゃんは早く帰りたいわぁ」
「俺はどうしてここに連れてこられたんだ・・・。怖い思いをしただけじゃないか・・・」
続けざまの次元転移は辛いから義龍の肉を食べたいんだけど、みんなに別れの挨拶をした以上、早く行かなくては格好がつかない。
「元気でな!」
僕はまた次元転移した。「元気でな!」とは言ったけど皆の前で次元転移しちゃったので、次回来たときには同じ時間、同じ場所に現れちゃうから、どうしようか。
地球への次元転移はちょっと目が回る回数が多い。アルカディア国と地球とでは距離が離れているのか、別次元だからなのか。もしも僕がウオッカなら、ホワイトキュラソーとレモンジュースを加えて『バラライカ』が出来上がっているくらい目が回った。
僕の部屋に戻るとしゃべる犬エイチはベルちゃんが送っていってくれることになった。
「ベルちゃん、このわんこを見つけたときから一緒に遊んでみたいと思っていたのぉ」
「俺はなんでこんな奴に目を付けられてしまったんだ・・・。なんで・・・」
結局、エイチは最後まで文句を言う犬だった。
「私は空間転移ができるので自分で帰る」
勇者王も送っていかなくていいようだ。
でも、帰っちゃう前に僕はどうしても一言いいたい!
「勇者王様」
「なんだ?」
「勇者王様がネロと闘ったとき、金愚義龍を召還しましたよね」
「あぁ」
「そのとき、金愚義龍が壊した建物の中にいた人たちや下敷きになった人たちがいて、死者297名、重体428名、重軽傷者1000名以上が発生しているそうなんです」
「・・・そうであったか」
「地球の時間ではネロが現れてからまだ24時間経っていません。ミッチーたちのように復活や回復の魔法をかけてやってはくれませんか?」
「・・・アルカディア国の民だけが王の祝福を受ける・・・」
「そんな! 勇者王様は、今は地球人ではないですか!」
「最後まで聞け!」
赤ん坊なのに凄い迫力だ。
「アルカディア国の民だけが王の祝福を受ける訳ではなく、この国の民も王の祝福を受けるべきだと思っている」
「それでは・・・」
「この国の民を傷つけたのは、私の金愚義龍だけではないはずだ」
「他に誰が?」
「ネロだ」
そうだった。僕はカリーナさんの宇宙船の中からネロに刺される人たちを見ていた。
「ネロに殺されてしまった人、壊れた建物で被害にあった人、それだけでなく壊れた建物もすべて元に戻そうじゃないか」
「おぉ!」
この勇者王は本当に何でもあり、なのか!?
「ちょっと行ってくる」
「どこへですか?」
「冥界だ」
「は? 冥界からあの世に行った人たちを連れて帰るのですか?」
「それでも良いが建物が崩れたままだぞ」
「では、どうするのですか?」
「冥皇に頼んで地球の時間を24時間だけ戻してもらう」
「冥皇に頼むって・・・冥皇はそんなことができるんですか!?」
「24時間ならできる! 私が頼めばやってくれるはずだ」
勇者王は「頼む」と言っているが、冥皇からすれば脅されているのと変わらないのだろうな。
「ただ、時間を戻すと地球はすべて24時間前に戻ってしまう」
「はぁ?」
「24時間前から今に至るまでの出来事がすべて消えてしまうと言うことだ。ネロも現れないし、金愚義龍も召還されない」
「それは、それでいいんじゃないですか?」
ネロや勇者王のせいで亡くなった人や大怪我をした人たちが、それが無かったことになるならそれに越したことはない。
「大次郎殿がそれでいいのならば、そうしよう」
(勇者王って結構話せるいい人じゃない)
『転生してから少しは人の話を聞くようになったみたいじゃからな』
「では行ってくる」
そういうと勇者王が煙のように消えた。そういえば勇者王はなんで冥界へ自由に出入りできるんだろう? 次にあったら聞いてみよう。
2016/01/05 誤字訂正




