Twenty-first century
「俺、なんでこんなところに連れて来られちゃったんだろう・・・」
しゃべる犬、エイチはずーっとブツブツ言っている。
僕もそう思う。こいつは戦力になりそうにないし、気味が悪いし。
「だってぇ、面白そうな子だったからぁ」
「俺はお笑い芸人じゃねーぞ!」
「赤ん坊がいるから背中に乗せて走り回ってくれなぃ?」
「俺は馬じゃねーぞ!」
この犬は反抗期なのか? 同じ立場なら僕も捻くれそうだけど。
「この星の王宮に空間転移して、女王に会う。そしてアルカディア国の人たちに装着した不思議な甲冑を外してもらう。もし女王が攻撃してきたらみんなで僕を守ってほしい」
「甲冑なんて無理矢理にでも脱がしちゃえばいいんじゃなぁい?」
「剣や盾は腕を切り落とせば離れるけど、兜と甲冑は装着者の生命活動を停止させないと外れないんです」
「その女王を脅してでも外してもらいたいな」
脅しても拷問しても解除しないだろうって虹の彼方は言っていたが、誠心誠意お願いしたら聞いてくれるんじゃないかと、僕は密かに思っている。
「そろそろ行きましょうか」
「俺はまだ心の準備が・・・」
エイチは無視して転移した。ブツブツ文句ばかり言っているから、いちいち聞いていられない。
・・・。もしかしたらカリーナさんも同じ気持ちだったのか?
虹の彼方が場所を知っていたので、いきなり王宮にある女王の間に空間転移した。
カリーナさんは玉座に座っていた。
「あら、大次郎さん。虹の彼方を返しに来てくれたのですか?」
突然の来訪だったが驚いた様子がない。
「いくつかの条件を聞いてくれたら返しますよ」
『宿主、いいのか」
(話し合いで解決できるなら、それに越したことはないでしょ?)
「いいですよ。私は虹の彼方を返してほしいだけですから」
「ひとつ、マミたちに装着しているSword & Protective gear systemを解除すること」
「・・・」こくり
「ひとつ、マミたちをアルカディア国に帰すこと」
「・・・」こくり
「ひとつ、僕を殺さずに虹の彼方を外すこと」
「・・・」こくり
「ひとつ、僕らを無事に地球へ帰すこと」
「・・・」こくり
「条件は以上だ」
「大次郎さんの条件は聞きました。聞いてあげたので虹の彼方は返してもらいます」
後ろの扉が開き、衝撃の蠍たちを装着した甲冑剣士が入ってきた。
「うわっ、揚げ足取りかよ!」
『宿主、御嬢はそういう奴じゃよ』
(性格、悪いなあ!)
慌ててヘルメットをかぶり、右手に虹の彼方を握って甲冑剣士と対峙した。勇者王を乗せたエイチとベルちゃんはカリーナさんを睨んだままだ。
「マミ、なのか?」
昼間、切り落とした左手首がある。別人なのか。
「持って帰った雷光流転から聞いたのかしら? その子はマミよ。大次郎さんが切り落とした手首も綺麗についているでしょ、アルカディア国の人たちは回復魔法も使えるから重宝するわ」
そうか。マミたちは回復魔法が使えるって言っていたな。いざ闘うとなると厄介だ。
「僕の腕を切って虹の彼方を返し、その後に回復魔法で繋げてくれるって案はどう?」
「私の造った勝利の虹や雷光流転ならばできますが、虹の彼方は大次郎さんの全身に宿っていますから・・・無理ですね」
『宿主、御嬢が仕掛けてくるぞ!』
「幻影雷神剣っ!」
昼間やられたビリビリ攻撃だ!
「壁子っ!」
左手に盾が現れ、斬り込まれた剣を受けた。壁子は電流を通さない。優秀な盾だ!
「雷光流転、帰ってきなさい」
カリーナさんが指を鳴らしたが壁子は無反応だ。
「・・・雷光流転に何をしたの」
「教えない」
「天馬流星拳魔法ーっ!」
勇者王がマミに勇者魔法をぶっ放した。女王の間の壁や天井が吹っ飛ばし、マミも盾で防いだがそのまま部屋の外に飛ばされていった。
「久しぶりだな、カリーナ殿。その説は世話になった」
「だ、れ?」
カリーナさんが驚いている。赤ん坊が犬の背中に乗って特大の勇者魔法をぶっ放したんだから驚いて当たり前だ。
「自己紹介が遅れました。私はけいちゃんです。しかし前世ではAlexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Thirdと呼ばれていました」
「ゆ、勇者王!?」
「アルカディア国の民がお世話になっているそうですな」
「な、な、なぜ赤ん坊が勇者王の名を名乗っているの!?」
「地球に転生していた勇者王様に事情を話して助っ人として付いてきてもらったんだ!」
「転生ですって!? では地球で見たネロを追いかけていた金愚義龍は・・・」
「私が召喚した」
「カリーナさん、分が悪いですよ。観念してマミたちを解放してください」
「・・・せっかく纏まった数のアルカディア国の人が手に入ったのに、簡単に返すのは惜しいのよ」
カリーナさんは最初からアルカディア国の人に目を付けていたんだ!
『御嬢もアルカディア国の奴らが魔力炉を持っていることを知っていたな』
(そりゃ、かなり前に勇者王と接触していたらしいですし)
『それより宿主、勇者王に気をつけろよ!』
(なにを、どう、気をつければいいのか・・・)
「カリーナ殿は私の国民を操っているそうじゃないか」
「操っているなんて人聞きが悪いですわ。お手伝いをしていただいているだけです」
「無理矢理、ではないのですか?」
「無理矢理ではありません」
「ふっ」
勇者王が小さく笑った。
『ヤバいぞ! 宿主!』
(え? え?)
「召喚魔法っ!」
勇者王の頭上に大きな魔方陣が現れた。
「出でよ! 金愚義龍っ!」
「ば、馬鹿! こんなところで・・・」
『もう遅いわ・・・』
魔方陣から金愚義龍が降りてきた。でかい! 僕が倒した義龍の倍くらいの大きさだ!
「ギャオォォォォーンッ!」
金愚義龍が咆哮した。この王宮の外観を見ていないから大きさが判らないが、少なくとも女王の間は崩壊するぞ!
「防御壁魔法!」
勇者王が魔法で防御壁をつくり、天井から落ちてくる瓦礫から僕らを守ってくれた。
「カリーナ殿、改めて聞く。私の国民を解放してくれないか」
「私はそんな脅しには屈しません」
カリーナさんが右手を挙げると甲冑を着た剣士が雪崩れ込んできた。衝撃の蠍たちに似ているが、少し異なる。
「私の造ったSword & Protective gear systemは強いですよ。金愚義龍とはいえ、勝てますか?」
「私が召喚できるのは金愚義龍だけと思っているのか?」
「え?」
(なに? なに? なに?)
『宿主、今度こそ奴を止めろーっ!』
「拡張召喚魔法っ!」
勇者王の頭上にまた魔方陣が現れた。
「出でよ! 冥府狂犬たち! 獅子羊蛇たち! 獅子鷲たち!」
(今、名前のすべてに「たち」がついていた!)
『宿主、逃げよう! もう収拾がつかんぞ!?』
「勇者王、Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Thirdの名において命ずる。刃向かう者は噛み殺せ!」
「馬鹿! 中身はマミたちなんだぞ!」
「この不思議な甲冑が外れたら私が回復魔法をかけてやるから、安心せい!」
(死んじゃったらどうする気なんだ?)
『此奴なら魔法で生き返らせるとしても不思議ではないぞ・・・』
(本気か!)
魔方陣から冥府狂犬、獅子羊蛇、獅子鷲の団体が現れた。100匹、200匹はいる。
っていうか途切れることなく続々と現れる。
金愚義龍は王宮の天井を破って立ち上がっちゃうし、化け物みたいな召喚獣は溢れかえっているし、まいった。助っ人を頼んだ僕の方が降参しちゃいそうだ!
勇者王の作った防御壁の中には僕、勇者王を乗せたエイチ、ベルちゃん、そしてカリーナさんがいる。防御壁の外では天井や壁から崩落する瓦礫を避けながらSword & Protective gear systemを装着したマミたちが勇者王の召還した化け物たちと格闘している。
しかし闘いにならない。数が違いすぎる! あ、誰か腕を食い千切られた!
「やめて、やめて、お願いだからやめてーっ!」
「大次郎殿、大丈夫だ、落ち着け」
「・・・何で大次郎さんの方が勇者王を止めているの?」
『宿主、御嬢が呆れているぞ?』
(わーん! 誰があんな奴、連れてきたんだーっ!)
『じゃから、ワシは反対したんじゃ・・・』
王宮は崩壊した。壁があったところから朝日に輝く荒野が見える。
マミたちはみんな死んでしまった。勇者王に召還された化け物たちに太刀打ちできなかったのだ。そりゃ43対1000以上、それに金愚義龍までいる。勝てるわけがない。
彼方此方に死体と外れた鎧や兜が散乱している。
「転送魔法!」
勇者王は魔法を使ってマミたちの屍を防御壁の中に転送した。
「超復活元気印魔法ーっ、おりゃぁ!」
食い千切られていた手足が元の身体に戻っていく。
「うそでしょ!?」
『ワシ、あの勇者王とは関わり合いたくない・・・』
いつも冷静なカリーナさんが目をまん丸くして口をぽっかり開けて見ている。
マミたちは43人、全員が勇者王の魔法で生き返った。一度死んだのでSword & Protective gear systemから解放されている。
勇者王は最初からこうするつもりだったのか!?




