Second impact
「あなたのお名前は?」
「僕の名前は天野大次郎です」
「では大次郎さんとお呼びしますね。私のことはカリーナと呼んでください」
「はぁ」
巨乳の美少女はカリーナと名乗った。裾が長くてよくわからないが、多分良い脚をしているのだろう。
「それでトラブルの話なのですが」
「はい」
どんなトラブルなのだろう。仲間に置いていかれて地球に残ってしまった、という訳でもなさそうだし、宇宙船が故障したのならばここにいられないだろう。
「お恥ずかしい話ですが私の星で昔、戦争がありました」
地球では歴史上、戦争がなかった期間はほとんどない。今もどこかで戦争をしている。
だから昔、戦争があって恥ずかしいと言われても困ってしまう。
「そして戦時中、最悪の兵器を産みだしてしまったのです」
「最悪の兵器ですか・・・」
「えぇ、戦況に特化した生物兵器を生み出す能力を持ち、自分を複製してバックアップを作り、常に戦い続けます」
「怖い兵器ですね」
「もう戦争は終わったので止めたいのですが、止めるためには本体を破壊しなくてはならないのです。しかし本体を破壊してもバックアップがまた本体を産み出し戦い続けます」
「では本体とバックアップを同時に破壊しないと止まらないのですか」
「そうです。現在もその兵器は戦い続け、私たちが戦争をしていた相手の星を飛び出して活動し続けています。私のトラブルというのは、その兵器をこの広い宇宙で自由にさせてしまっていることなのです」
「危ないなぁ」
「すいません。ですが、とある星で本体が破壊されたため現在、バックアップだけになっていることが確認されました」
「ふーん」
遠い星の戦争で使われた兵器の話なんて、僕には興味がなかった。
それより窓から見える地球をスマートフォンで撮影したかった。宇宙人の先端技術で僕のスマートフォンを充電してくれないかな。ついでに割れた画面も直してほしい。
「そのバックアップが地球にいるという情報が入ったのです」
「はいぃ?」
遠い星の話だと思っていたら、地球に危機が迫っていた。僕は思わず、警視庁にいる東大卒の警部みたいな返事をしてしまった。
「その兵器は知的生命体を殺し、生命エネルギーを取り込みます」
「魂を喰らう・・・ってことかな」
「生命エネルギーが蓄積されると生物兵器を生み出し、自分を複製します」
「それでまた人殺しを続けるのか・・・」
「人とは限りません。知的生命体が殺戮対象なのです」
「知的生命体のすべてを殺し続けるというのか。誰も彼もいなくなっちゃうぞ!?」
「いいえ。その星にいる知的生命体の半分程度まで生命エネルギーを奪うと、今度は残った知的生命体を奴隷にして一定数を維持します。そうでないと吸収する生命エネルギーが途絶えて、自らが破滅してしまうからです」
「よくできた兵器だなぁ」
「星間戦争でしたので、この兵器がいれば相手の星を制圧し、残った知的生命体を奴隷として使役させることが簡単にできます。破壊しても、破壊してもすぐに復活し、殺戮を繰り返す。まさに最悪の兵器なのです」
「そんな兵器が地球にあると?」
「はい。います」
とんでもない話だ。地球人70億の半分が殺され、半分が奴隷になる。奴隷となっても、数が増えれば殺される。夢も希望もない未来が待っている。
「その兵器を破壊するのを手伝ってほしいってことですか? 僕は普通の日本人ですから戦闘の経験もないし、武器の扱いに長けているわけでもないですよ」
「その点は問題ないです。大次郎さんはそこにいるだけでいいのです」
「いるだけで、お手伝い?」
「その兵器は特殊な武器でないと破壊できません。その武器に身を任せていればいいのです」
「だったらカリーナさんだけでも大丈夫なんじゃないのですか?」
「私はその兵器を産んだ星の人間です。その兵器は私たちを攻撃しないよう教育されていますが私たちが破壊行為をすると、その時点で兵器が私たちを殺戮対象として認識してしまうのです」
自分たちは殺戮対象にならないように、他の星の人間に破壊させるのか。
確かに地球に兵器があるなら、既に地球人は兵器にとっての殺戮対象になってしまっているから、地球人に手伝いを頼むのも理解できる。
「それでたまたま目が合った僕に兵器破壊の手伝い・・・というか傭兵依頼だね」
「いいえ。傭兵には報酬がありますが、大次郎さんにはありません」
「あれれ・・・」
同じような仕事をしても家政婦には報酬があるが、家事手伝いは無報酬という理屈なのだろうか。だから『手伝い』なのだろう。自分たちの不手際の面倒を見てもらうのだから少しくらい報酬をくれてもいいのに。
「報酬が必要なら地球政府からお受け取りください。兵器破壊が成功すれば大次郎さんは最悪の兵器から地球を守った、という大義名分ができますから」
「地球政府なんてないよ」
「では大次郎さんの属する国の政府からお受け取りください」
「・・・。あぁ、そうするよ」
申請しても良くて『国民栄誉賞』くらいなんだろうな。
「では早速、討伐準備をしましょうか」
「え? まだ手伝うって返事していないんだけど」
「あら? お嫌でした? 銀河の英雄になるチャンスなのに?」
銀河の英雄とは大きく出たな! 大艦隊を率いて戦うのか!?
実際には艦隊司令や参謀長等が戦闘を行えば、僕はただ身を任せているだけでいい。
兵器には「攻撃しているのは地球人です! 私たちは彼の指示で戦っているだけです!」とアピールすれば、自分たちが殺戮対象にならない。
言ってみれば僕はお飾りの将軍なんだろう。
「どれくらいの規模で兵器破壊をするつもりなんだ」
「実働は大次郎さんだけです」
「ひとり!?」
「兵器を破壊できる特殊な武器は1人分しかありませんから」
「僕は怖いのも、危険なことも嫌いなんだ・・・」
「あら、そうですか。では地球にいる知的生命体が半減するのを黙って見ていますか?」
「誰か他の奴に手伝ってもらえばいいじゃないか」
「もう他の人を選んでいる場合じゃないみたい。殺戮が始まってしまったわ」
「え・・・」
部屋の窓が地表の様子を映し出した。これは窓じゃなくてモニターだったようだ。
真上から映しているのでよく判らないが、どこかの森のようだ。木の陰に隠れて、通り歩く人を誰かが剣で刺している。
「通り魔?」
「あれが最悪の兵器、ネロです」
「あの剣が最悪の兵器?」
「いいえ。剣を持っている方がネロです。人造人間なのです」
「あ・・・兵器って人の形をしているんだ・・・」
最悪だ。兵器と言うから宇宙戦艦とかロボットを想像していたけど、映像を見る限りでは普通の人間だ。この人を「破壊」するのか。
人造人間だから「殺す」ではなくて「破壊」と言っているのだろうが、1対1なら殺し合いと変わらないじゃないか。
「ネロはああして剣で刺し、そこから生命エネルギーを吸収しています。今はまだバックアップだけのようですが、生命エネルギーが貯まれば本体を産み出します。そうなると厄介なんです」
なるほど、急いで破壊しないと複製を作り、生物兵器も生み出すだろう。そうなれば本当に地球の人間が半分になってしまいそうだ。
僕は英雄になるべく選ばれた、地球人類の代表なのだ。逃げちゃダメだ!
「わかったよ、僕がやるよ。具体的にはどうすればいい?」
「特殊な武器を装着して戦っていただきます。まずは今、手元にある分を装着してみてください」
テーブルが大きくなり、その上にガントレットや兜、盾が現れた。
「その鎧や兜、盾には意思があります。装着すれば大次郎さんの身体に溶け込み、大次郎さんと一体化します」
「それって、どういうこと?」
「時間もないことですので、実践していきましょう。まずは兜を冠ってみてください」
言われるがまま兜を頭に乗せた。ちょっとサイズが大きいようだ。僕はそんなに頭が大きくはない。
しかし兜が完全に頭を包むと急に縮みだした。
「なんだ、なんだ!?」
頭や顔が締め付けられる。孫悟空が緊箍児で頭を締め付けられる気持ちがよくわかった。痛い、痛い!
僕は椅子から転げ落ちて踠いた。この宇宙人は僕を殺す気だったんだ! やられた。美少女で巨乳、そしてノーブラノーパンという姿に油断した。
「ちっきしょーっ!」
でもしばらくしたら痛くなくなった。兜の重みも感じない。
手で顔を触る。そして頭を掻く。あれ? 髪の毛に触れる。兜は何処へ行った?
「最初の内は痛みがありますが、身体に溶け込めば痛みも違和感もなくなるはずです」
「これで兜を冠ったことになっているの?」
「はい。意思ある兜『衝撃の蠍』が大次郎さんに宿りました」
『我が輩が意思ある兜、衝撃の蠍である。宿主よ、共に戦おうぞ!』
誰かが話しかけてきた。部屋を見渡すが僕とカリーナさんしかいない。
一体化というから身体の中から兜が僕に話しかけているのだろう。慣れていないから意思のある「物」というのは不気味な感じがする。
「次に鎧を着てみてください」
鎧と言ってもガントレットだけだ。両手を通してみたら、あっという間に細いチェーンがガントレットから伸びてきて全身を包んだ。
痛い、痛い、痛い。全身が細いチェーンで締め付けられる。
(ばきっ、ばきっ)
うぉっ! 肋骨が折れた! これは鎧じゃなくて拘束具なんじゃないのか!?
「ぎゃぁぁぁぁぁーっ!」
指先が激痛に襲われた。爪と指の間に細い針のようなものを刺されている。しかも両手の指だけじゃなく、足の指にまでやられた。
あまりの痛さで漏らしてしまった。口から涎も垂れている。また椅子から転げ落ちて床に這いつくばった。拘束具じゃない、これは拷問具だ!
しばらくしたら痛みはなくなったが、漏らしてしまったので格好悪くて立ち上がれない。
『あたしが稲妻颶風だ。あなたを守ってあげてもよくてよ』
今度は高飛車な女の声がした。
『あらあら、漏らしちゃったのね。ふふふ、イケない子だわ』
言い返したかったが痛みの余韻で声が出ない。まだ手足も震えている。防具を装着するだけでこんなにも痛いものなのか。
これを作った奴は自分で装着したことがないのだろう。きっと。
2015/12/15 誤字訂正