Nineteenth world heritage
起きたら外は暗くなっていた。
『宿主、起きたか。では行動開始するか』
(よし! とっととマミたちを探し出して、アルカディア国に連れて帰ろう!)
『Sir、宿主、発言してもよろしいでしょうか、sir』
(壁子、許可する)
『Sir、私の前の宿主は宿主が探していらっしゃる、マミでした、sir』
(なんだと!? 何故早く言わなかったんだ!)
あいつはマミだったのか! 衝撃の蠍たちに身体を乗っ取られていたんだろう。それでも最後の一太刀を何とか外して僕を助けてくれたのか。
『Sir、お休みでしたので、このようなことで起こしては宿主に申し訳がないかと思いました、sir』
(変な気を遣うんじゃない!)
『Sir、すみませんでした、sir』
(まぁ、仕方ない。これからは何かあったら報告、連絡、相談を迅速に行うようにしろ!)
『Sir、了解、宿主、sir』
会社の上司からいつも言われている、報告、連絡、相談の頭文字で「ほうれんそう」を行うよう指導してやった。僕も「悪いことほど報告、連絡、相談を早くしろ!」といつも叱られている。「話しかけづらい雰囲気を作っているくせに、よくそんなことが言えるな」といつも思っているので、僕は何でも言える優しい上司になってやるんだ。
(あー、壁子。もし僕に何か話かけづらい雰囲気があれば、すぐに言うんだぞ)
『Sir、了解、宿主、sir』
『話しかけづらいんだから、言える訳がないじゃろ。お主は馬鹿なのか?』
(・・・)
慣れないことはしない方がいいみたいだ。ボロが出る。壁子にはもう少し優しく接してやろうか。
水分を補給して仕切り直そう。まだ半日くらいしか経っていないのに、持ってきたスポーツドリンクはもう1本空いてしまった。
(カリーナさんはマミに衝撃の蠍たちを装着させて、誰と闘うつもりだったんだろう?)
『そりゃ、あれだけの火力が必要な相手は限られるぞ』
(壁子は何か知っているか? 発言を許可する)
『Sir、マミさんたちはナビスを倒しました、sir』
(『はあ?』)
虹の彼方とハモってしまった。
確かナビスってカリーナさんの母親の名前だよな?
『ナビスが倒されただと!?』
『Sir、カリーナは連れてきたアルカディア国の人たちに「Sword & Protective gear system」を装着させました、sir』
(全員に、か?)
『Sir、43名、全員です、sir』
(・・・「Sword & Protective gear system」というのはお前らのことか)
『Sir、私たちの複製品です、sir』
装着するだけで気絶するほど痛みがある装備を、カリーナさんはマミやクー、お供の兵士だけじゃなく御仲居や御半下にまで着せたのか!
『Sir、マミたちは王宮を制圧し、ナビスを倒しました。カリーナが新しい女王になります、sir』
(王宮? 女王? どういうこと?)
『宿主、言っていなかったか? ナビスはこの星の女王じゃよ』
本気か、母娘なのにクーデターを起こした!?
カリーナさんは女王の娘だから王女だよな?
っていうか荒野ばかりの、この茶色い星がカリーナさんの故郷だったのか!?
『そうか、ナビスは死んだのか・・・』
虹の彼方は落ち込んでいるようだ。ナビスのことは母親のように思っていたみたいだったからショックなのだろう。
(カリーナさんがクーデターを起こした目的って何だ?)
『Sir、女王になりたかったんだと思います、sir』
(母娘だから王位継承権くらいあるだろう!? 待てなかったとでもいうのか?)
『宿主、御嬢のことはいい。後回しだ』
(虹の彼方はそれでいいのか!?)
『あぁ、それより先にアルカディア国の奴らを何とかしないと駄目だな』
虹の彼方は面識がほとんどないマミたちを心配してくれているのか。口は悪いが優しいんだな。
『まずはアルカディア国の奴らの装備を外さないと』
(カリーナさんに命令してもらわないと、装備が外せないな・・・)
『どうやって御嬢に装備の解除命令をさせる?』
(脅すとか?)
『その前に御嬢に辿り着けんぞ。マミたちは装着している「Sword & Protective gear system」に身体を乗っ取られておるはずじゃから、43人の兵士が全力で御嬢を守っているぞ』
(僕と同等の強さの奴を43人、殺さないように倒すってことだろ?)
『殺さないように倒すじゃと!? 宿主よりもワンランクもツーランクも格上を?』
(え?)
『ナビスを倒したということは、宮殿にいる衛士とも闘っているはずじゃ。ネロが100人で守っているのと同じようなもんと言えば理解しやすいか?』
(本気っすか!)
『昼間もマミひとりにあっさりやられおったしな』
(では、どうしたらいいんでしょうか・・・)
『・・・全員、殺れ』
(マミたちを、ですか!?)
『ワシにはステルス機能があるから、奴らに気づかれずに殺ることができる。所謂「暗殺」じゃな。殺れば装備を外して奪えるし、生命エネルギーだって奪える。殺らねば奴らの装備は装着したまま、宿主の生命エネルギーは減っていくだけじゃ。それに御嬢は脅されようが、拷問されようが装備の解除命令は出さないと思うぞ。あの装備を装着したアルカディア国の奴がひとりでもいれば助け出してもらえるからな』
(・・・)
虹の彼方を優しいと一瞬でも思った僕が馬鹿だった。全員、暗殺しろだと!? マミたちの生命エネルギーを奪えだと!?
(マミたちを殺さない方法は何かないのでしょうか?)
『白旗を振って御嬢の前に立ち「話し合いましょう」とでも言うのか? 問答無用で斬られるわい!』
そうだった。昼間もカリーナさんと話している最中に、いきなり後ろから斬りつけられた。
『アルカディア国の奴らは強いぞ。この宇宙でも数少ない「魔力持ち」だからな。普通は魂を削って魔力を作り出すが、奴らは魔力炉を持っているから魂を削らんでも魔法が使える』
(そうなの!?)
『あぁ、だから隠れて後ろからそっと近づき、気づかれないうちに背中から刺せ』
(刺す・・・)
『刺したらワシが生命エネルギーを吸い出す。なぁに、それを43回繰り返せばいいだけだ』
(・・・)
虹の彼方は簡単に言うが、43人の人を殺すのだ。
日本の法律なら死刑、よくて無期懲役の大量殺人だ。しかも相手はカリーナさんに操られている、一緒に闘った仲間だ。
(少し時間をくれ、考えたい)
『時間をくれだと? 先送りにしても事態は悪化するだけじゃぞ』
会社の上司にも「問題は先送りにしても解決しないぞ!」とよく叱られる。
(・・・家に帰りたい)
『帰ってどうする? 御嬢は宿主がワシを宿しているのを知っている。すぐに地球は攻め込まれるぞ。もう逃げることはできんのじゃ』
会社の上司にも「お前は困るとすぐに逃げだす。問題に立ち向かえ、逃げるんじゃない!」とよく叱られる。
(じゃぁ、アルカディア国に戻って強力な魔法が使える奴を助っ人に雇って・・・)
『今のアルカディア国にそれだけの猛者がいるのか?』
そう言えば王様でも義龍1匹倒せないと言っていたな・・・。
ん?
義龍、それも九頭龍の王「金愚義龍」をひとりで倒したという勇者がいた・・・。
(虹の彼方、やはり僕の部屋に帰ろう!)
『じゃから、帰ってどうするのだ!?』
(助っ人を連れてくる!)
『地球人なんぞ、何人連れてこようがアルカディア国の奴らには勝てんぞ』
(だから「アルカディア国の奴」に勝てる奴を連れてくるんだ!)
『はぁ?』
(勇者王だよ! 転生したという勇者王に助っ人を頼むんだ!)
『地球に転生した勇者王はまだ赤子じゃぞ・・・』
(赤ん坊だけど、金愚義龍を召喚して、勇者魔法でネロを追っ払ったんだろ!?)
『それはそうじゃが・・・』
(もう、それしか方法はない! 勇者王を助っ人に雇ってマミたちと闘ってもらい、その間にカリーナさんに会いに行こう!)
『宿主としての命令なら従うが・・・。ワシは反対じゃ。反対したからな!』
(判った。責任は僕がすべて持つ!)
優れた上司は部下の責任を取ってくれる。僕はそういう男になりたいといつも思っている。会社の上司なんて「自分のミスは、自分で責任をとれ!」といつも怒鳴っているからな。
(次元転移で僕の部屋に戻り、勇者王を連れて次元転移すれば時間と場所は今のままだろ?)
『そうじゃ』
(そうと決まれば早速行動しよう!)
『了解、宿主・・・。ワシが反対したのを覚えておくんじゃぞ・・・』
目が回った。次元転移だ。酔わなくなったとはいえ、この感覚はやはり慣れない。
部屋に戻るとまた義龍の生肉を頰張った。これから勇者王の元に空間転移して、すぐに次元転移しなければならない。エネルギー満タンになるくらい食べておいた。
『ステルス機能を発動させながら空間転移するから、素早く勇者王を説得するんじゃ。・・・ちゃんと説得するんじゃぞ』
虹の彼方は、先から引っかかる言い方をしている。昔、勇者王に倒されたから嫌いなのかな?
(判っているよ! 赤ん坊を連れ去るのは忍びないけど、もう頼れるのは勇者王しかいないんだから)
義龍の肉は山程食べた。トイレが詰まるんじゃないかと言うくらい、出すモンも出した。いざ、出発だ!
(虹の彼方、頼むよ!)
『了解、宿主・・・。ワシは反対なんじゃぞ・・・』
虹の彼方は結構しつこい性格なんだな。
目が回り転移した先は見覚えのある家だった。
(ここに勇者王がいるの?)
『あぁ、今は眠っておるようじゃが・・・、魔力が張り巡らせておる。警備魔法じゃ』
(もう気づかれちゃったかな?)
『ワシもステルス機能を展開しておるが、どっちの能力が上回っているのかは判らん』
(まぁ、いいや。とにかく勇者王の部屋に行ってみよう)
勝手知ったるといった感じで家の中に入った。家人に見つからないように勇者王の眠る部屋へと行く。すぐに次元転移してカリーナさんの星に戻るから土足のままだ。まぁ、土足でも僕は気にしない。この家は会社の嫌みな上司、田辺久作の家だし。




