Eighteenth summer holidays
ここは見渡す限り荒野だ。岩がゴロゴロあり酸素も薄くて砂埃が酷い。生き物はおろか草木も見当たらない。
(ネロは何でこんな星に逃げたんだろう? 生き物がいなければ生命エネルギーを吸収することができないんだろ?)
『宿主は知らないのか? ここは・・・』
「もしかしたら、大次郎さんなのですか!?」
不意に声をかけられて振り返った。カリーナさんだ。
「やはり大次郎さんでしたか。どうやってここに?」
「どうやってって・・・ラベンダーの香りを嗅いで気がついたらここに・・・」
「嘘。やはり『虹の彼方』は大次郎さんが持っていたんですね・・・」
「僕だって『虹の彼方』が宿っているなんて知らなかったんだ!」
「衝撃の蠍たちも『虹の彼方』が大次郎さんの身体にいると気づいていませんでした。しかし、あなたは宿主ですよ!? 知らなかったというのは言い訳にしか聞こえません」
「本当ですよ! 自分の部屋に帰ってから気づいたんです!」
「宿るときには神経接続があるでしょ? 気づかない方がおかしいのではないですか!」
「じゃあ、僕は鈍感で無神経で、おかしな奴なんです! それよりマミやクーたちはアルカディア国に戻ったってカリーナさんは言ってたけど、帰っていなかったじゃないですか!」
「言ったでしょ? 私の宇宙船はタクシーではない、と」
「皆は何処だ!」
「大次郎さんには関係ありません」
「一緒にネロと闘った仲間だ、関係はある!」
「私がお手伝いをお願いしたのは大次郎さんだけです。勝手に付いてきただけでしょう」
「それじゃミッチーたちは勝手に付いてきて、勝手に闘って、勝手に死んだと言うのか!」
「・・・大次郎さんには関係無いと言っているんです」
「くっ!」
頭に血が上っているのが自分でも分かる。カッカしてきた。
『宿主、落ち着け』
落ち着いた。いきなり冷静になった。虹の彼方も僕の感情を制御できるようだ。
(ありがとう、虹の彼方。落ち着いたよ)
『御嬢は何か隠している。それと・・・』
ビュン!
背後から斬りかかられたが真横にスライドして躱した。虹の彼方が僕の身体を動かしてくれた。
振り返ると見覚えがある兜と鎧を着て、剣と盾を構えた甲冑剣士がいた。
衝撃の蠍たち、だ。
慌ててヘルメットをかぶり、右手で虹の彼方を握った。
「いきなり何をするんだ!」
「元宿主に、まさかこんなに早く、こんな形で再会するとは」
衝撃の蠍たちがこの甲冑剣士を動かしているのか。今の宿主は誰なんだ?
(こいつは誰なんだ!?)
『見りゃ分かるだろ、衝撃の蠍たちだ』
(宿主の方だ!)
『誰かは知らんが、雌だな』
(それは声でわかってた)
「幻影雷神剣っ」
勝利の虹が放電をしながら斬りかかってきた。
「まずいっ!」
虹の彼方で剣は受けたが、電流が全身を駆け抜けた。
「うぁぁぁーっ!」
次元転移したばかりで気力も体力も疲労している。そんなところに電気ショックだ。口から泡を吐いて倒れた。
『宿主、しっかりせいっ!』
これでしっかりできたら医者はいらない。しっかりできるのはコ◯ト赤信号のリーダーだけだ。
(身体が痺れて動かない・・・)
筋肉が収縮してしまっている。強力なスタンガンにやられたようだ。
「虹の彼方を大次郎さんから返してもらうにはこうするしかないの」
甲冑剣士の隣にカリーナさんが立っている。
「ネロの破壊をお手伝いしていただいた方なので、感謝の意味で母星に送って差し上げたのに・・・。残念ですわ」
甲冑剣士が勝利の虹を振り上げた。
『宿主、逃げないと首を刎ねられるぞ!』
(くっそーっ! 身体が全然動かないんだよ!)
こんな名も知らない辺鄙な星で死んじゃうのか。そんなの嫌だ!
僕の首を狙って勝利の虹が振り下ろされた。
(神様ーっ!)
ガツッ!
勝利の虹の剣先は、僕の首ではなく地面に当たって止まった。
「に・・・げ・・・て・・・」
甲冑剣士からか弱い声がした。
『宿主!』
(ふんぬぅーっ!)
身体の痺れが少し治ってきたので、僕は背中を意識して力をいれた。
ばさっ
純白の翼が生えた。
(虹の彼方っ!)
『任せとけっ!』
翼を動かして体勢をかえる。同時に虹の彼方は甲冑剣士の左手首を刎ねた。
「うぁぁぁーっ!」
甲冑剣士が落とした盾、雷光流転を拾うとそのまま空高く舞い上がった。
「また会いましょう!」
ちょっと無理してカリーナさんに挨拶した。
「私から逃げられると思っていますの?」
「ええ」
そう言うと大きく翼を羽ばたかせて僕はこの場から逃げ出した。カリーナさんは多分、追いかけてこない。
カリーナさんは「別れの挨拶はまた会うつもりがある人にするものだ」という考えだから、別れの挨拶をした僕はカリーナさんたちの前にまた現れると思うはずだ。
自分の前にまた現れる人をカリーナさんたちはわざわざ追いかけては来ないだろう。
『宿主は御嬢の気質に詳しいな』
(まぁ、ね)
追いかけてこないとは思うが、なるべく遠くに離れたかったので、かなりの速度で飛び続けた。翼を羽ばたかせて飛んでいるのに音速を超えている。
岩山に洞穴を見つけたので、ここに隠れることにした。
『宿主、危なかったな!』
(あぁ、死ぬかと思った。ところで何で雷光流転を持ってきちゃったんです?)
僕の左手には盾が握られている。
『お主は防御力が弱いからじゃ。こいつがあればある程度の攻撃は防げるじゃろ』
(でも、こいつの産出責任者はカリーナさんでしょ? 装着してもカリーナさんが命令したら僕から外れちゃうよ)
『まぁ、見てな』
そう言うと盾に剣を突き立てた。力を入れていくと剣が盾に入っていき、盾は剣に吸い込まれるように消えた。
『ちょっと時間がかかるから肉でも食って待ってろ』
異空間収納から義龍の肉を取り出してくれた。
生のまま食べる方が欠けた魂の回復が早い。臭くて食べづらいが我慢して食べた。
食べて、出して、食べて、出してと繰り返し、眠くなったので少し横になった。
『どうじゃ! 恐れ入ったか!』
頭の中に虹の彼方のダミ声が響いて起こされた。
(何がでしょう?)
『馬鹿もん! 気づいていないのか? お主には感覚がないのか!』
それ、カリーナさんにも言われた。
ということは・・・
『宿主、よろしくお願いします』
(わっ! 雷光流転だ!)
先ほどまでは僕に宿っていなかった。
『ふふふ。ワシの「26の秘密」のひとつ、ハッキング能力を使ったのじゃ!』
何でもペラペラしゃべるからお前に秘密なんてないじゃん。そう思ったけど言わないでおいた。
『雷光流転の産出責任者を御嬢からお主に書き換えてやったぞ』
僕は男なのにママになったのか。違和感があり過ぎる!
(じゃあ、上位命令が出せるの?)
『ふふふ。試してみるがいい』
(雷光流転ぁ! これからは話しかけられたとき以外その臭い口を開くな! 口でクソ垂れる前と後にサーを付けろ!)
『Sir、yes、sir』
(それから何か発言したいときは僕の許可を得てからだ!)
『Sir、yes、sir』
(お前は敵の攻撃から僕を守るしか能がない! だから、今からお前の名前は「壁子」だ!)
『Sir、yes、sir』
(もっと大きい声で!)
『Sir、yes、sir!』
『・・・。宿主、気に入ったか・・・』
(えぇ! かなり気に入りました!)
なんか気持ちいい。僕に宿っていたときから素直な子だとは思っていたが、より従順になった。絶対服従していると言っても過言ではない。
『・・・それはよかったなぁ・・・」』
虹の彼方は少し呆れているようだったが気にしない。
(壁子の異空間収納には僕が倒した義龍の肉が何万トンってくらい入っているんです! これで食料・・・じゃなくて生命エネルギーの補充には困りませんよ!)
危うく義龍の肉を食料と言うところだった。
『他にもいろいろ入っているのではないのか?』
(え?)
『雷光流転、ワシに収納品リストを渡すのじゃ』
『・・・』
(壁子、虹の彼方に収納品リストを渡すのだ!)
『Sir、yes、sir!』
『なんじゃ! それ!』
(もうこいつは「壁子」と呼ばないと反応しませんよ。ふっふっふっ)
壁子の異空間収納品リストには水や食料はなかったが、カリーナさんは物置代わりに使っていたようで、兜や鎧の作りかけからトレーラーハウスみたいな簡易宿泊設備まであった。
『ワシと壁子が警戒しているから、宿主は休むといい』
隠れている洞穴の奥に壁子の異空間収納から簡易宿泊設備を取り出して、ベッドで眠ることにした。
ライダージャケットやプロテクターを着けたままなので寝苦しいが、ベッドに入り枕に顔を埋めると眠くなってきた。
枕からはほんのりカリーナさんの匂いがした。
「カリーナさんはネロを倒すまで味方だったのに、今じゃ僕の命を狙っている敵だ」
敵なのに「さん付け」で呼ぶのもどうかと思うが、虹の彼方も「御嬢」と呼んでいるので似たようなモノなのか。
多分、僕も虹の彼方も、心の底ではカリーナさんを本当に「敵」だとは思っていないのだろう。




