Seventeenth satellite
ダブル焙煎ドリップ珈琲を3回もおかわりしたのでファミレスを出て家に帰った。
僕の中のもやもや気持ちを整理するためにもアルカディア国へ行きたい。行ってミッチーの墓参りとマミやクーにお別れを言いたい。幸いにも虹の彼方は次元転移ができるというので、行こうと思えば何時でも行ける。
(虹の彼方さん、ちょっとお願いがあるのですが)
『なんじゃ?』
(アルカディア国へ行きたいのですが、ぱぱぱっと次元転移して貰えませんか?)
『次元転移はかなり魔力を消耗するぞ? 宿主は魔力がないから魂を削って作り出すしかないが』
(ちょこっとだけ僕の魂を削って、ぱっと行ってぱっと帰ります)
魂を削ったって肉を食って寝てれば治るって稲妻颶風が言っていた。
『20から30年くらい寿命が縮むぞ?』
(え?)
『宿主が良ければ、ワシは構わないが・・・』
(魂を削ったって肉を食って寝てれば治るって聞いたんですけど)
『そんなの嘘、嘘。さては稲妻颶風あたりに騙されておったな』
(そんなぁ・・・。本気っすか?)
『マジじゃ。魂を治してくれるのは魂だけじゃよ』
(どういう意味?)
『簡単なことじゃ。ワシを誰かに刺して生命エネルギーを吸い出すんじゃ』
それではネロと変わらない。誰かを犠牲にして自分の糧とするのか。
虹の彼方と稲妻颶風。どちらの言っていることが正しいのだろう。僕には自分の魂がどれだけ削られているのか、またどれだけ修復されたのか、判らない。
『宿主はネロと闘ったときに魔法を使っているし、ワシに刺されてだいぶ生命エネルギーを吸われておる。もう魂がほとんど残っていないのではないか?』
(本気っすか)
『どれ、ワシが宿主の魂の残りを調べてみよう』
(そんなこともできるんですか!?)
『ワシは大概のことはできるぞ。ワシにとっても宿主の命は大事じゃからな』
そこが寄生虫は違うところだな。宿主の健康管理までしてくれる。
『宿主』
(どうでした?)
『魂を治してくれるのは魂だけなのと、肉を食って寝てれば治るということ、どちらも正解のようじゃ』
(はぁ?)
『宿主は何か特殊な肉を食べていたのではないか?』
(あ!)
そういえば稲妻颶風たちを装着している間、ふだんは食べていない肉といったら・・・。
(義龍だ! 義龍の肉ばかり食べていた!)
『きっとその肉を食べることによって魂を修復したのだろう。ワシが思っていたより魂は減っていなかったぞ』
カリーナさんが僕に義龍退治をさせて、臭い肉を食べさせていたのには訳があったのか!
イジメられていたのではなくて良かった。
『義龍の肉が手に入らなければ、ワシを誰かに刺して生命エネルギーを吸い出すしかないな』
(義龍を倒して肉を手に入れます! 義龍はアルカディア国にいます!)
『では宿主はアルカディア国に行って義龍を『殺したい』ということじゃな』
(そういう言い方しないでくださいよ、狩りですよ、狩り)
『宿主は義龍に知性がないと思っているのかな?』
(え・・・)
絶句した。あんなに凶暴な怪物にも知性があるのか!? 僕はネロと変わらないことをしていたのか。どうしたらいいんだ。
『ふふふ、ネロが狩らなかったから知的生命体ではないのだろうが、な』
(で、ですよねぇーっ)
虹の彼方の言葉が気になる。義龍も知性があり、僕らと変わらないのではないかと考え込んでしまった。
アルカディア国の王様も「勇者王が義龍の王、金愚義龍を倒して以来、義龍を統率するものが現れず・・・」と言っていた。
群れを作って、ボスに従い行動する。犬や猿、イルカ並みの知能があるのかもしれない。
僕らは他の生命を犠牲にしなくては生きていけない。
仏教徒が肉や魚を食べないと聞いたことがあるが、殺生を禁じているのは自分の腹を満たすために誰かを犠牲にしたくないのだろう。
「あー! 考えていたって答えは出ない!」
考えすぎて頭がオーバーヒートしそうだ。行動しよう。
会社の上司からは「お前は考え無しで行動しすぎる!」とよく叱られているが、そんなことはどうでもいい。
(虹の彼方さん、アルカディア国に僕を連れて行ってください!)
『ほう。ワシは構わんが』
(義龍の肉を手に入れ、ミッチーの墓参りとマミやクーたちの無事を確認したらすぐに帰ろう!)
『了解、宿主』
(そうとなれば、すぐに行きましょう!)
『ちょっと待て、宿主。その格好で行くのか?』
虹の彼方は稲妻颶風たちと違って僕の命令に何でも従うわけじゃないようだ。
(その格好って、シャツにジーンズ。僕の普段着ですけど)
『ワシは剣で斬られたり、魔法を喰らうというのは不得手と言ったが』
(鎧を用意しろってこと?)
『そうだ。少なくとも頭部を守る兜は欲しいところじゃな』
虹の彼方は稲妻颶風たちよりも実戦経験がありそうだし、宿主に的確なアドバイスをしてくれる。ただのイエスマンではない。
(・・・、判りましたよ)
思いがけない出費になりそうだ。
兜と言ってすぐに思いついたのはバイクのヘルメットだった。
買い出しのため近所にあるバイク用品店に出向いた。
『宿主、これは良いぞ。あれも良い』
虹の彼方に言われるがままに手に取っていたら、ヘルメットだけではなくモトクロスに使うプロテクターやすね当て、ブーツにグラブとウェア一式になってしまった。
「お会計は213,840円になります」
「カードで。あ、24回払いにしてください」
大出費となってしまったが自分の命を守るモノだと思えば納得だ。
・・・納得だ。
納得するしかないのだ!
コンビニに寄ってスポーツドリンクの2リットルペットボトルを4本買い、家に帰ると買ったウェア一式に着替えた。皮のライダージャケットはちょっとした「皮の鎧」だ。だけど新しすぎて腕が動かしづらい。
『では宿主、出発するか』
(あ、ちょっと待って!)
トイレに駆け込み、買い置きのトイレットペーパー4ロールを手にした。
(これを異空間収納に入れておいて!)
『了解、宿主』
右手でトイレットペーパーに触れると吸い込まれた。
(え!? 僕の身体の中にしまうの?)
『そう見えるだけだ。ちゃんと異空間に置いてある』
アルカディア国では尻を塩水に漬けたスポンジで拭くので気持ち悪い。トイレットペーパーは大事なアイテムだ。
(それとこれも!)
コンビニで買ったペットボトルも異空間収納にしまった。闘うと喉が渇く。運動の後の水分補給はスポーツドリンクの方が良いだろう。
『では、参ろう!』
強い疲労感がやってきて、部屋が歪んだ。次元転移だ。
アルカディア国に着いた。前回来たときにはモンゴルの草原みたいなところに降り立ったが、今回は岩肌が剝き出しの山の中腹だ。
(何でこんなところに?)
『義龍を狩るんじゃろ?)
殺気を感じて振り返ると義龍がいた。義龍の巣に転移していたのだ。
(気を利かせすぎだよ!)
いきなり戦闘だ、まいった。心の準備が間に合わない!
『宿主、ワシに任せるのじゃ!』
(待って、義龍は殺さないで・・・)
虹の彼方は手練れだった。僕の無茶とも思えるリクエストに応えてくれた。
『宿主は変わっているな。殺さず肉だけ切り取れ、とは』
(あれだけ躯がでかいんだから、僕が食べる分はちょこっと切り取るだけで十分なんだ)
義龍の攻撃から逃げ回り、背中の肉を少々頂いた。少々と言っても100kgくらいある。肉を切り取ったらすぐに空間転移で義龍から逃げ出した。
切り出した義龍の肉は虹の彼方の異空間収納に入れておいた。これで好きなときに好きなだけ取り出せる。
次元転移や義龍との闘いで消耗した分、義龍の肉を食べた。今までは生のまま食べると人間としての尊厳がなくなりそうだと思っていたが、焼かないで食べた方が魂の回復が促進されそうな気がするので、我慢して焼かないで食べた。
『ほう! かなり魂が回復するな』
虹の彼方が感心している。
(この方法なら誰も、何も殺さないで、生命エネルギーをチャージできるでしょ?)
『わははははは、宿主は変わっているなぁ! ワシ、こういうのも嫌いじゃないぞ』
お腹がいっぱいになったのでアルカディアの城に空間転移した。降り立ったのは謁見の間だ。いきなり王様の前じゃ失礼だろ!
『ワシ、回りくどいのが嫌いなんじゃ』
いくら謁見の間と言えども何時でも王様がいるわけじゃない。
「すいませーん、王様いらっしゃいますかーっ!」
ヘルメットを脱いで大きな声を出してみた。
「おぉ! 英雄さまだ!」
警備員兼ドアボーイが気づいてくれた。
程なくして王様がやってきた。
「突然の来訪、この様な格好で申し訳ございません」
「おぉ、ロウ殿下であれば何時だって歓迎するぞ」
「マミやクーが報告したと思いますが、ネロを討つことができました」
「おお! そうか、魔王は討たれたか。これで我が国も一安心だ」
ん? ネロが討たれたことを始めて聞いたような反応だ。
「あの、マミやクーたちは?」
「いや、まだ帰還しておらん。ロウ殿下と一緒だったのではないのかね?」
「!」
やられた! カリーナさんは皆アルカディア国に戻ったと言っていたが、嘘だったのか。
(虹の彼方さん、何か知っていますか?)
『さぁ? ワシは宿主に潜っていたから見かけていないぞ』
(カリーナさんの宇宙船に転移できますか?)
『何処にいるか判っているのか?』
(いいえ・・・)
いくら虹の彼方でも「カリーナさんの宇宙船」といった漠然とした目標地では転移できないようだ。
そういえばカリーナさんは僕との別れ際に、ネロを倒した星で虹の彼方を探すと言っていた。
(ネロを倒した星に行ってみよう!)
『了解、宿主』
マミやクーたちが無事でいてくれればいいのだが・・・。
「王様、申し訳ないのですがこれにて失礼いたします」
「ロウ殿下、もう少しゆっくりしていけば良いではないか。魔王を討ったときの話を詳しく聞きたい」
「御無礼をお許しください。取り急ぎの用ができました。ネロを討ったときの話はまた何れ」
「そうであるか、残念だ」
「では、失礼」
(虹の彼方さん、次元転移してください!)
軽い疲労感がやってきて、謁見の間が歪んだ。
(あれ?)
転移でした先はミッチーが義龍を埋めた草原だった。
『宿主、あそこで次元転移したらこの国に戻って来たとき、困るぞ?』
(おぉ!)
そうだった。次元転移すると同じ場所、同じ時間に戻ってくるんだった。
『普通、次元転移する際は誰もいないところでするもんじゃ』
(虹の彼方さん、めっちゃ優秀っす!)
人生経験豊かな剣に助けられた。
改めて次元転移して辿り着いた先は茶色い荒野だった。




