Sixteenth president
虹の彼方と「糧を得るための狩り」と「殺戮」の違いについて議論しても平行線のままになると思う。
今は金愚義龍を倒すことに集中しよう。
(お前は金愚義龍を斬れると言っていたが、探すことはできないのか?)
『ワシは優秀だぞ! 勝利の虹たちが4人集まってやっとできることをワシはひとりでできるモン!』
モン!って、お前は子供か!
大体剣や盾なのにひとりとか4人って数え方がおかしいだろう!
とりあえず僕の命の恩人の言うことだからスルーしてあげよう。
(4人分の能力があるということは防御ができて魔法が使えるということ?)
『防御といっても鎧や兜じゃないから大したことがないがな。魔法は次元転移までできるぞ!』
(すげー!)
カリーナさんが宇宙船で行っていた次元転移が生身でできるのか。そう言えばネロは次元転移で逃げていた。あれは虹の彼方の能力だったんだ。
『防御は多少大気が薄くても、多少引力が強くても、多少毒を喰らっても宿主の身体を守るくらいはできる。剣で斬られたり、魔法を喰らうというのは不得手じゃ』
(お前、ただの剣じゃないんだな)
『驚いたか。もっとワシを褒め称えよ!』
(すごい! すごい!)
『わははははははは』
機嫌が良くなった。どうやらこの子は「褒められて伸びる子」のようだ。ちょっと下手に出て、擽ってやろう。
(盾で思いっきりぶん殴ったのをネロが虹の彼方さんで受けていたけど、全然刃こぼれしていないなんて信じられないよ!)
『そうか? ぐふふふふ、ワシは凄いじゃろ? なんてったってオリジナルだしな!』
ん? オリジナル? こいつのコピーがいるのか?
(へぇー。じゃあ勝利の虹は虹の彼方さんのコピーなんだ)
『馬鹿もん! あいつは御嬢が造ったんだ。ワシの甥っ子みたいなモンで、ワンランクもツーランクも下じゃ!』
(じゃあ何でネロは虹の彼方さんよりもツーランク下の勝利の虹でないと倒せないんでしょうね?)
『・・・。まぁ、あいつは斬る専門じゃからなぁ。斬るだけならワシと同等なのかもな』
きっと武器としては虹の彼方よりも勝利の虹の方が性能は上なんだろう。
(そうなるとコピーって誰なの?)
『虹剣と言う量産品であっちこっちの人造人間に配られとる。ワシのコピーだけあって勝利の虹よりもワンランク上だぞ!』
剣のランキングなんて興味がないが、虹の彼方は褒めて煽てるとやはり伸びる。知らない情報がどんどん出てきたぞ。
(虹の彼方さんはオリジナルならでは、っていう性能が凄いモン!)
『だろ? コピーの方は人造人間に持たせるからって宿主を守る能力がバッサリ切られたし、宇宙船があるからって次元転移機能も省略されているんじゃ』
(うわっ、それじゃ劣化コピーじゃん)
『ふふふふ、ワシは試作品でもあるからジャンジャン予算を使って、ありとあらゆる機能を詰め込まれているんじゃ!』
つまり何でもかんでも試してみて、不要な機能を省いたものが量産品の虹剣なのか。
(虹の彼方さんは何でもありの、ありありでリーピン三色バンバンっすね!)
『おうよ! 三色バンバンなのよ!』
意味が分かっているのか? 麻雀する剣なんて聞いたことないぞ。腕がないからツモれないだろう。
(ありありの機能って他には何があるんですか?)
『千里眼、地獄耳に万能通訳や音声遠隔転送なんて言うこともできる。攻撃魔法に防御魔法、異空間収納機能もある。まあ、大体何でもできる。変わったところでは宿主の背中に羽を生やして空を飛ぶこともできる」
(おお! 僕も飛びましたが、気分がいいですよねー!)
嘘である。僕が飛んだのは闘いの最中だけであり、景色を見ている余裕などなかった。気分がいい訳ない。
『それが人造人間では何をやっても翼が出てこなくて、飛べなかったんじゃ。だからコピーでは省かれてしまった機能なんじゃぞ!』
だからネロは飛ばないで走っていたのか。
(多彩な機能に感動しました!)
『わははははは、ワシの機能はちょっとした宇宙戦艦並みなのだ!』
(だから僕の身体に入っても勝利の虹たちに見つからずにいられたんですね!)
『ステルス機能って奴だ。わははははは』
こいつは本気で凄い。今の地球の技術では再現できないことが多い。背中に羽を生やして空を飛ぶという、前時代的な発想を実現しちゃうところも、ある意味凄い。
(劣化コピーがばら撒かれるくらいだから、他の人造人間なんてショボイんでしょ?)
『いやいや、そうとも言えん。何せ大量にいるから次から次へと植民地にする星を制圧しとる』
本気か! ネロのバックアップを倒してもそこでお終いって訳じゃなかったんだ。
(カリーナさんは僕の倒したネロのバックアップに拘っていましたよ)
『ワシがネロ本体からバックアップに引き継がれたんで付け狙っていたんじゃろう。ワシはもともとネロ本体に宿っていたんじゃ。しかしアルカディア国にいた勇者王に本体はやられてしまった。そのときも御嬢は勝利の虹を勇者王に貸し出していたなぁ」
(え? ネロを倒したいんじゃなくて、もの凄く優秀な虹の彼方さんをどうしても手に入れたかったってこと?)
『そうだろうなぁ、今度はお主に勝利の虹を貸し出してバックアップを倒した。よっぽどワシが欲しいんじゃな』
(ネロとカリーナさんは義兄妹なんでしょ? だったらネロにちょうだいな、って頼めばよかったのに)
『ワシらは一度宿ると産出責任者の命令か、宿主が生命活動を停止するまで離れられないのじゃ。ワシを手に入れるためには産出責任者であるナビスに頼んで命令して貰うか、ネロを破壊するしかないからのぅ』
(どうしてカリーナさんは母親であるナビスさんに頼まなかったのですかねぇ?)
『ナビスに頼んだって、植民地を制圧するでもない者にワシを譲るわけなかろう。ネロに持たせておった方が役に立つ』
おかしい。なんかおかしい。カリーナさんが造ったという剣、盾、兜、鎧の四見一体システムを宿した僕は、虹の彼方を宿したネロと同等の強さだった。つまり虹の彼方を欲しかった理由は「強さ」じゃない。
もう少し擽るか。
(虹の彼方さんは武器や防具以外の機能でも優秀そうですからね!)
『おうよ! 知的生命体がいる星を見つけるのとかも得意じゃ! ネロと組んで銀河を飛び回り、知的生命体が住んでいる星々を探索して植民地にするため制圧しておった。まぁ、最近じゃ他の人造人間どもが制圧するんで他の次元にある銀河に出張ばかりしていたがな」
(じゃあ、いろいろな星に詳しいんですね)
『おうよ! 天の川銀河にアンドロメダ銀河、大マゼラン雲等々。ワシの知らん星はないというくらいじゃ』
(それってガイドブックとかになっていて本屋で買えますか?)
『馬鹿もん! 全部、ワシの頭の中じゃ。売りもんじゃないぞ!』
(ナビスさんやカリーナさんとは情報共有しているんでしょ?)
『こんなにバカでかいデータ、誰が受け取るんじゃ!?』
それだ・・・。カリーナさんはこいつの持っている星々のガイドマップが欲しかったんじゃないのか?
それにしても虹の彼方がネロから僕に「引っ越し」してきた目的が判らない。
「宿り木が枯れたらワシも活動が止まってしまうからだ」と言っていたが、なんか納得しない。
褒めて煽てると大事そうな情報でも何でもしゃべるが、本当のことを言っているのだろうか。
今の僕に判ることは虹の彼方を身体に宿しているので矢鱈に腹が減ると言うことだ。
とにかく腹を満たしてから次に移ろう。
僕は地元の牛丼屋に出かけ、メガ盛り牛丼を5杯も食べてしまった。虹の彼方を身体に宿しているとエンゲル係数が高くなることは間違いない。
食後は近所のファミレスでダブル焙煎ドリップ珈琲を飲んでまったりしている。
おかわり自由だし珈琲を席まで運んでくれるので、休日の午後のひとときを僕はいつもここで過ごしている。
(それでですね、金愚義龍の件なんですが虹の彼方さんがネロに宿っていたとき、金愚義龍に追いかけられていましたけど・・・)
『ありゃ、反則技じゃ。勇者王が召喚しおった』
(はぁ!?)
召喚って何だ? また勇者王が出てきた。ネロ本体を倒したっていう奴か?
『χώρα Αρκαδικούの勇者王、Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Thirdがこの地球に生まれ変わり、金愚義龍を召喚魔法で呼び出して、赤子の姿でネロに勇者魔法をぶっ放しやがったんじゃ』
また訳がわからない言葉が出てきた。転生って何だ? 天草四郎?
判ったことは「χώρα Αρκαδικού」とはアルカディア国ということ。
そのアルカディア国にいた勇者王Alexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Thirdがこの地球に生まれ変わって、まだ赤ん坊だということ。
転生した勇者王が魔法を使って金愚義龍を呼び出し、ネロに闘いを挑んだということ。
そういえばAlexander・Allen・Armstrong・Albemarle・Thirdといったらミッチー、マミ、クーの曾祖父さんだったけ。
生まれ変わっても魔王を倒そうと頑張っていたのか。金愚義龍召還はやり過ぎだと思うけど。
(じゃあ、その勇者王を倒せば金愚義龍は出てこなくなるのですね)
『まぁ、そういうことじゃな』
(ちなみに虹の彼方さんは勇者王の居場所って判りますか?)
『ふふふ。ワシが地球に勇者王が転生したことに気づいたのでやってきたんじゃ』
(そのぉ・・・居場所を教えていただけませんか?)
『居場所を聞いてどうする? 勇者王は今、赤子じゃぞ? 斬るのか?』
(・・・)
虹の彼方でも赤ん坊を斬るのは嫌なのか。それとも会いたくないのか。金愚義龍に乗って追いかけ回されて、魔法までぶっ放されたんだから、会いたくないんだろうな。
勇者王を捕まえて警察に引き渡そうと思ったが、まだ赤ん坊ということで成人するまで待ってやろう。
だけど、もし金愚義龍を召還して暴れたら、そのときは問答無用で倒してやる。日本の平和は僕が守るのだ!
なんてったって僕は「銀河の英雄」だからな。




