Fourteenth target
「マミ、皆を連れてクーのところへ行き隊伍を組み直せ!」
「判ったわ!」
「今度は闘うためじゃない、自分たちを守るために隊伍を組むんだ!」
「・・・」
「マミ、死ぬなよ!」
「Sir、yes、sir・・・」
お、僕の言ったことを覚えているじゃん。はじめから素直に僕の言うことを聞いていれば良かったのに。
「ネロ、一騎打ちだ!」
「ふっ。こちらは最初からひとりだ」
そういう言い方したら、僕らが寄ってたかって弱いものイジメしていたみたいじゃんか!
「この天野大次郎がいる限り、此の世に悪は栄えない!」
「さっきからお主は我を悪と呼んでいるが、何を持って悪なのか?」
「お前は自分のエネルギーを得るために罪もない人を多く殺した! だから『悪』なのだ!」
「お主は自分の腹を満たすために獲物を狩ることを『殺す』というのか」
「人間を殺すのと狩りとでは訳が違うだろ」
「我は知的生命体の生命エネルギーを糧にしておる。糧を得るために多くの『狩り』をしただけだ」
「それを『殺戮』と言うんだよ!」
「狩猟と殺戮、何が違うというのだ。話にならんな」
ネロが僕に斬りかかってきた。
「我は降りかかる火の粉は払う質なのでな」
「こんにゃろめ! 稲妻颶風っ!」
『あいよ! 超重力新星斬ーっ!』
僕の身体を超音速で飛ばし、四方八方からネロに跳び蹴りを喰らわせた。
「ぐあぁぁぁ」
ネロをボコボコにしてやった。僕の速さに追いついていない。
『神速体術魔法』
「はぁぁぁぁぁぁぁーっ」
身体を包む青白い光が、一層青くなった。
『幻影鳳凰剣っ!』
勝利の虹が消えた。消えた訳ではなく目に見えない速さで振られている。
上段、中段、下段、突きと切り刻み、ネロが着ている甲冑がボロボロと剥がれ落ちていった。
「はぁ、はぁ、制極界!」
ネロが魔法で防御壁を張った。この防御壁は崩せるのか?
『超電磁回転っ!』
勝利の虹を頭上にあげ、身体を高速回転させながら全身でネロに突っ込んだ。
「ぐおぁ、ぐぐぅーっ」
魔法で作った防御壁を打ち破りネロを仕留めようとしたが、素早く横に逃げたため左肩に直撃して、ネロの左腕を吹っ飛ばした。
「はぁ、はぁ、はぁ、お主、やるな」
「・・・おかげさまで」
衝撃の蠍たちが僕の身体を動かしているおかげには違いない。
ネロは左腕を失ったにもかかわらず、僕を睨み付けて立っている。人造人間だから痛みを感じないのか?
「ハァ、ハァ、ロウ殿下!」
突然、後ろからアキの声がした。ミッチー隊の伍長だ。
「何しに来たんだ! 隠れていろ!」
「ハァ、ハァ、隊長の仇を取らせてください! ケフ、ケフ」
仇・・・。そうか、ミッチーは死んだのか。回復魔法が間に合わなかったようだ。
アキは隊伍を引き連れている。僕は仇討ちのために組み直せと言ったんじゃない。
「馬鹿、お前らの敵う相手じゃない!」
「勝機!」
ネロは僕の傍を素早く駆け抜け、アキたちに襲いかかった。
「あっ!」
右手だけで次々と兵士を斬り倒していく。しまった、アキたちの生命エネルギーが奪われてしまう。
「ちきしょー!」
すぐに追いかけようとしたが足が縺れた。
『宿主もエネルギー切れだ』
『補充しないと!』
『死んじゃう、宿主が死んじゃう』
(今は僕よりアキたちだ!)
雷光流転が異空間に仕舞っていた肉の塊を出した。義龍の肉だ。
勝利の虹が手早く一口大に切って僕の口に入れた。
(うおっ! 生だよ、生肉だよぉーっ!)
『緊急事態だ、仕方ないであろう』
(ひーん、心が折れちゃう。汚されちゃう)
『そんなことを言っている場合じゃないでしょ!』
生肉を頰張りながらアキたちのところへ走った。
(飛べよ!)
『今はちょっとでもエネルギーを節約しておかないと!』
ネロは生命エネルギーを補充している。僕はエネルギーが残り少ない。僕が不利な方に形勢逆転だ。
「いかんっ」
兵士は皆やられてしまった。ネロがアキの足を払って倒し、剣を振りかぶった。
「ふんぬ!」
力を振り絞ってネロとアキの間に飛び込んだ。
ドガッ!
ネロの振り下ろした剣が僕の左脇腹に刺さった。ここは装甲が薄い。そのまま背中に突き抜けてしまった。
「ハァ、ハァ、ロウ殿下・・・ハァ、ハァ」
「アキ、早く逃げろ!」
「ケホン、ケホン、すみません、すみません・・・ハァ、ハァ」
這いつくばってアキはこの場を離れた。アキも空間転移が使えるはずなのに。よほど消耗しているのだろう。
「ふふふ、勝負あったな、コージロウ」
不思議と痛みはなかった。稲妻颶風が痛みを制御してくれているのだろう。
しかし脱力感がハンパじゃない。僕の生命エネルギーが吸われている!
「コージロウじゃない、僕の名前は大次郎だ!」
左手で剣を刺しているネロの右腕を掴んだ。これで逃げられない。
そのまま引き寄せ、素早く勝利の虹を逆手に握り直し、ネロの背中から自分に向けて刺した。
「ぐおぁぁぁぁぁぁーっ」
ネロの胸を貫いて、勝利の虹は僕の胸当てに当たって止まった。
「ぐぼぁ、くくく、我を倒したとしてもこれで終わりだと思うなよ」
「あぁ、まだ僕は金愚義龍を倒さないとならないからな」
「違う。うぅぅ、お主はあの女に使われているんだろう・・・」
あの女ってカリーナさんのことなのか?
「あの女はな・・・」
ざくっ
勝利の虹がネロの首を刎ねた。
(まだネロが何かしゃべっている途中だったのに!)
『早くしないとマミ殿たちが危険だ』
(でも・・・)
『宿主も限界でしょ!?』
そうだった。魔法まで使ってしまい、気力も体力も限界だ。おまけに稲妻颶風が痛みを押さえてくれているとはいえ、僕はネロに腹を刺されている。
『宿主も早く宇宙船に戻りましょう』
(あ、ああ・・・)
急に目の前が暗くなり、僕は気を失った。
目を覚ますと宇宙船の床で寝ていた。この宇宙船にはベッドがないのかとぼんやり考えていた。
僕ははっとした。
「マミたちは、どうした!」
跳ね起きて辺りを見回す。ここはカリーナさんの部屋だ。
「カリーナさん、カリーナさん!」
大きな声を出したら脇腹が痛くなった。ネロに剣で貫かれた場所だ。
(お前ら、起きているのか!?)
返事がない。またカリーナさんに寝かされているのか?
(再起動だ!)
『『『『Sword & Protective gear system.Ready?』』』』
頭の中で電流が駆け巡る。
『『『『Reboot』』』』
どっかーんっ!
今迄経験したことのないくらい強い電気が全身に流れ、飛び上がった。
『宿主、無事か』
『宿主、お腹空いたでしょ?』
『宿主、あたしも穴が開いちゃったんだよ』
『宿主、やりましたな』
(みんな、ありがとうな)
お腹が減っていたので雷光流転が異空間に収納していた義龍の肉を出したが、この部屋にはキッチンが見当たらないので、仕方なく生のまま食べることにした。
(なんだか、人間としての尊厳が失われていくような気がする・・・)
『エネルギーを補充しないとまた倒れちゃうよ?』
(そうだな)
僕はネロを「破壊」した。人殺しをした訳ではない。相手は人造人間なんだ。
現に罪悪感がない。かといって達成感もないが。
(皆はどうしたんだ?)
『我らも宇宙船に戻ってすぐ休止状態になったので、判りませぬ』
(そうだったのか)
ミッチーはネロにやられた。マミやクーは無事だったのだろうか。
僕が見ていただけでお供の兵士が10人が亡くなっている。
こんなに人が死んだのに悲しい気持ちにならないのは、衝撃の蠍が僕の感情を制御しているからなのか。




