Thirteenth tone
ネロは僕から逃げたいようだ。
後ろに飛んだと思ったら、右に逃げた。三方を囲まれていることに気づいていない。
「マミ! ネロが行ったぞ!」
離れているから聞こえているかどうか判らないが、大声で右にいるマミに知らせた。
「私はクーだよ!」
大きな声が帰ってきた。聞こえているようだ。
(え? 右側はマミが担当じゃなかったっけ?)
どうやらミッチーは自分から見て右がマミ、左がクーと言っていたようだ。リーダーは僕なんだから、僕を基準にしてよ!
『宿主、追いかけよう!』
(あぁ!)
僕も翼を羽ばたかせてネロを追った。
「うああぁーっ!」
クーのお供がネロの剣で腹を貫かれている。
『ネロは剣で刺して生命エネルギーを奪うのよ!』
そうだった。カリーナさんもそんなことを言っていた。だからクーたちの方へ行ったのか。
「きゃぁぁぁーっ!」
もう1人は胸を貫かれた。あっという間に2人も殺しやがった。
「天馬流星拳魔法っ!」
クーが勇者魔法を放った。この魔法を使えるのは勇者王の血を引く私たちだけって言ってたが、クーも使えたのか。
しかしネロはクーの魔法を避けた。ミッチーに比べたらクーの魔法は威力も速度も劣っている。
「火炎弾丸魔法っ!」
今度は指先から炎を連続して出している。やるな、クー。
『宿主、早く助けないとあの子はネロにやられるぞ!』
(判った!)
クーの火炎弾丸魔法は威力が弱いようでネロは避けもしない。
「クー、逃げろ!」
僕はネロを後ろから斬りかけた。
「くっ」
ネロの背中を斬ったが甲冑を削っただけだった。
「悪魔薔薇殺法」
ネロが魔法を放った。さっきまで肉弾戦だったのに!
雷光流転で受けたが、後ろにいたクーと兵士にも降りかかる。
「うぅっ」
「大丈夫か、クー」
「私は大丈夫だけど・・・」
クーは魔法剣士なので魔法攻撃には耐性があるのだろう。しかし兵士の1人は倒れてしまった。
「ネロ、お前も魔法が使えたんだな」
「剣で刺す方が好みなのだが、な」
そういうとネロは剣で突いてきた。避けたがネロの狙いは僕じゃなかった。
倒れていた兵士を突いた。この兵士から生命エネルギーを奪う気だ!
「させないぞ」
勝利の虹でネロの首を刎ねるつもりで薙いだが、前屈みになって躱された。
『噴流薫衣覇ーっ』
屈んだところを左のガントレットで殴りつける。
「ぐおぁ!」
顎先に一撃入った。
『ネロは気が逸れていたな』
『よほど生命エネルギーが欲しいらしい』
(ガス欠ってことか)
チャンスだ。一気に畳み掛けてやる。
「悪魔薔薇殺法っ!」
「わっ」
また魔法だ。雷光流転で受けたが、今度は後ろのクーたちに降りかからないようにしないと。
魔法攻撃を避けている間にネロが逃げた。
「ミッチー、今度は其方に行ったぞ!」
「ハァハァ、任せろ!」
ミッチーは苦しそうだ。大丈夫なのか。
「クーたちは何処かに隠れていろ!」
「ハァ、ハァ、悔しいけどそうするわ、ケホケホ」
クーも苦しそうだ。何とかしてやりたいが、先ずはネロを倒さないと!
「はあっ!」
ミッチーたちはネロに斬りかかるが当たらない。
6人もいて誰も当たらないなんて。みんな動きが遅すぎるんだ。
『酸欠で朦朧としているようね』
まずい。このままじゃネロに斬られて生命エネルギーを渡すだけだ。
ネロは素早く3人の兵士を刺した。
「氷塊飛槍!」
ミッチーが魔法を放ち、ネロに距離を取らせた。
僕は大きく羽ばたき、飛び退いたネロの真上に急降下した。
「脳天唐竹割!」
がきん!
ネロに剣で受け止められた。
「ミッチー、今だ!」
「ケホケホ、天馬流星拳魔法ぅーっ!」
ネロのガラ空きになった腹に向け、ミッチーが勇者魔法を放った。
ドガッ!
当たったが草原で大穴を開けたときほどの威力はないぞ?
「ぐおっ」
それでもネロにはダメージを与えたようだ。
「ハァ、ハァ、ハァ」
ヤバい。ミッチーはフラフラだ。
「ミッチー、退がれ!」
「まだ、だ。ゴホ、ゴホホ」
「無理するな!」
本当に気が強いな。
「姉様!」
マミが自分の隊伍を連れて飛び込んできた。
「雷撃獅子魔法!」
ドギャーッ!
マミからネロに向かって雷が落ちた。
「ぐぐぐっ」
僕はネロの足元を薙いだ。ネロは跳んで躱した。
「マミ、連続で魔法攻撃をしろ!」
「電撃軍曹魔法」
「電撃大佐魔法」
「電撃三矢魔法」
マミだけでなく、隊伍の兵士も魔法で攻撃した。
「はあ!」
ネロは剣を地面に刺した。マミたちの雷撃魔法が剣に吸い込まれ地面に流れる。ネロは剣をアース代わりにしやがった!
「おりゃあ!」
ミッチーがネロの右側から斬りつけた。いいぞ、ミッチー! そのままネロの首を刎ねろ!
ガッキーン
金属音が鳴り響いた。ネロは避けなかった。首で剣を受け止めやがった!
「そのような剣では我に傷をつけることなどできんぞ!?」
「くっ! 氷河期到来!」
左手でネロの腕を掴み魔法をぶっ放した! これならネロも逃げられない。
「おおおおおおーっ」
ネロの右腕が凍り出した。これで剣を握れないだろう。やれる!
ネロの首を刎ねようと突っ込んだ。
「馬鹿め!」
ネロは身体を半回転させ、地面に刺した剣を左手で抜き、凍ったままの右手で僕に向かって魔法を放った。
「悪魔血汚魔法!」
「おわっ」
盾で防いだが、今までにない強い衝撃で転んでしまった。
(生命エネルギーが貯まっている!?)
顔を上げて見たらネロが左手で握った剣でミッチーを突いていた。
「ミッチー!」
ネロはミッチーから生命エネルギーを吸い出していた。だから急に魔法が強くなったのか、くっそー!
「ミッチーがやられた!」
動揺と怒りが同時に押し寄せた。頭に血が上るのが自分でも判る。
『宿主、落ち着いて!』
落ち着いた。一気に冷静になった。衝撃の蠍は僕の感情まで制御するのか!?
『闘いでは冷静さを失った方が負けだぞ』
思い返してみれば、さっきから兵士が殺されているのに冷静だ。
ふだんの自分だったらこんな殺し合いは怖くて逃げ出している。
「マミ、ミッチーに回復魔法を!」
ネロをミッチーから引き離すために我武者羅に斬り込んだ。
左手で剣を使っているにもかかわらず、ネロは僕の攻撃をすべて裁いた。
(あいつ、めちゃめちゃ強いじゃないか!)
『勝利の虹がネロを斬れるといっても、ネロよりも強いわけではないからな』
(え?)
こいつらを装着していればネロなんて簡単にやっつけられると思っていた。
『わたしたちとネロは同じくらいの強さです。魔法が使える分だけネロが有利かも』
(でも、ネロは生命エネルギーが少なくて弱っているんだろ?)
『いいや。闘いながら生命エネルギーを吸収しているぞ』
なんてこった。ミッチーたちがいたからネロは生命エネルギーを得ることができたのか!
『あの人たちを殺っただけでも、かなりの魔法が撃てる生命エネルギーを得ていると思います』
『宿主は魔力がないから不利かもしれんな』
『またちょっとだけ魂を削って魔力を作らせてよ』
あー、どうしよう。このままではネロにやられちゃうし、魂を削られるのは嫌だし。
そもそも魂が減っちゃうとどうなるのだろう。死んじゃうのかな?
『ちょっとくらい魂を削ったって死なないよ! 肉食って寝てれば治るからさぁ!』
(あああああああーっ、判ったよ! 稲妻颶風、やっちゃって!)
『待ってました!』
急に疲労感が強くなり、全身が青白く輝きだした。魔法が発動したようだ。
ネロ、第2幕の開始だ!




