Twelfth player
次元転移して着いた星は茶色かった。
のど飴に雲がかかっているようだ。雲があるから海もあるのだろうが、青い部分は見当たらない。
「次元転移分の生命エネルギーを貯め込む前にネロを倒しましょう」
「了解しました、カリーナさん。よし、お前ら作戦会議だ。銀朱小隊の各班代表は集まれ!」
ここでは僕がリーダーだ。小隊名は「とある飛行小隊」から拝借した名前を今、名付けた。
「偉そうに! 私たちのことはMitchell姉様が指揮するのよ!」
「私たちはMitchell姉様に従います」
マミもクーも、おまけのおまけということが判っていないようだ。
「MamiもCooも静かに。私がロウ殿下に同行を願い出たのだ。ここはロウ殿下の指揮の下、一緒に闘おうじゃないか」
うん、ミッチーはよく判っている。おまけでいいから魔王討伐に行きたいって言ったの、ミッチーだもんね!
「俺ひとりでネロを倒せるのに、お情けでお前らを連れてきてやったんだぞ! 四の五の言わないで俺に付き従え!」
僕は滅多に「俺」とは言わないが、僕じゃ迫力が出ないから言ってやった。
こいつらを相手にするときには「俺」って、言ってやるんだ!
「これからは話しかけられたとき以外その臭い口を開くな! 口でクソ垂れる前と後にサーを付けろ!」
「急に何を言い出すんだ?」
「おらっ、クーぅ! お前の口は特別臭いんだから勝手に開くんじゃないっ!」
「義龍の臭い肉を食べ、私たちの出した生ゴミを『旨い、旨い』と言いながら頬張っていたくせに! ロウ殿下の口の方が臭いんだよ! ちゃんと歯磨きしたのか!?」
「ぐっ・・・」
言い返せない。鬼軍曹はこんなとき、なんて言うのだろう。
「あのぉ、大次郎さん。遊んでいないでちゃっちゃとネロを倒してきてください」
カリーナさんに注意されてしまった。
「魔王が逃げないよう、私たちが三方から取り囲むのでロウ殿下は正面から攻め込んでください」
「・・・はい」
「マミは右側を、クーは左側を、私は後方を固める」
「はい、Mitchell姉様」
「Mitchell姉様もお気を付けになって」
何だかんだ言ってミッチーが作戦を立て、みんなに指示している。
姉妹それぞれが「隊伍」を組んでいるが、ミッチーのところだけ6人いる。
「ウチはAkiが伍長なのだ」
ミッチーは別格ってことなのか。
「ネロを見つけました。そこに転移しましょう!」
カリーナさんはずっとこの星でネロを探していたようだ。
「では皆さん、集まってください!」
また目の前がグルグル回った。転移したのだ。
降り立ったところは荒野だった。大地には木も草も生えていない。岩がゴツゴツあるだけだ。
「あの岩の向こうにネロがいます。地球で魔法攻撃を受けたときにダメージがあったようで、踞っていますから今がチャンスです」
「では私たちも空間転移で配置につきます」
そうか、3姉妹は空間転移ができるって言っていたな。
「ミッチー、マミ、クー・・・」
「なんですか、ロウ殿下」
「・・・、死ぬなよ」
僕は真面目な顔をして、戦い前のキメ台詞を言ってやった。
「な、な、な、何を柄にもないことを言い出すんだ、理不尽王子!」
顔が真っ赤だぞ、クー。暑いのか?
「私たちは回復魔法が使えますので、死ぬことは滅多にないとは思いますが・・・」
口調は丁寧だが、マミはなんかムカつくぞ。
「ロウ殿下、お気遣いありがとうございます。私たちは魔王が倒れるまで死ぬわけにはいきませんっ!」
ミッチーは相変わらず気が強いな。
「よし! 行くぞ!」
「あのぉ、みなさん・・・」
カリーナさんが声をかけたので皆が振り返った。
「カリーナさん、折角皆の気合いが入ったのに!」
「この星の大気は皆さんにとって余りよろしくないようなので、早めに終わらせてください」
「はぁ?」
見るからに緑はないし、砂埃も酷いからマスクが欲しいところだけど。
『宿主、ここは酸素が薄い』
『おまけに粉塵が細かくって肺に悪そう』
『呼吸しない方がいいな』
『ワシ、関係ない』
(本気か!)
僕は衝撃の蠍たちが守ってくれているので大丈夫だと思うが、ミッチーたちは生身だ。
只でさえクソ重たい甲冑を着ているのだから呼吸が苦しくなると思う。
「お前らは宇宙船に戻っていろよ」
「ロウ殿下、私たちは魔王が倒れるところをこの目で見るまで帰りません!」
「宇宙船のモニターでいいじゃん・・・」
「カリーナ殿の言うとおり、早く終わらせればいいんだ! ケホケホ」
「そうよ、ケホケホ」
「早くやっちゃいましょう、ハァハァ、ケホケホ」
「お前ら、もう苦しそうじゃんか」
「ハァハァ、兎に角、行くぞ!」
あ、ミッチーが指揮した。僕がリーダーなのに。
3姉妹がお供を連れて空間転移した。他人が転移するところを初めて見たがスッと消えちゃう。
こちらもグズグズしていていられない。
(稲妻颶風っ!)
『はいはい、行くよ!』
僕は稲妻颶風に身体を任せた。
稲妻颶風は身体を前屈みにして力む。
『はぁっ!』
背中から純白の羽が生え、全身を兜、鎧が包み左手には盾、右手には剣が現れた。「空飛ぶ甲冑剣士」だ。
『最終決戦だ! みんな行くぞ!』
こちらは衝撃の蠍が指揮を執るようだ。『最終決戦』ってまだ地球には金愚義龍がいるんだから、こっちも何とかして貰わないと・・・。
『はっ!』
稲妻颶風が気合いを入れると、もの凄い勢いで地面スレスレを飛び出した。
(低い! 低い!)
『五月蠅いなぁ、こうしなきゃネロに見つかって逃げられちゃうだろ!?』
器用に岩を避けて飛ぶ。目が追いつかない。
ざざーっ!
ミッチーの作戦通り、僕はネロの正面に降り立った。
「ネロ、お前を斬る!」
「ほほぅ、我をネロと呼ぶか。お主は何者だ」
「ひとぉつ、人の世の生き血をすすり、ふたぁつ、不埒な悪行三昧、みぃぃつ・・・」
いきなりネロが斬りつけてきた。
身体を反らして辛うじて避けた。踏み込みが速い!
「ちょ、ちょっと最後まで聞けよ!」
ネロに出会ったら言ってやろうと思っていた台詞を途中で切られた。
「そんなに隙だらけで我に勝てると思っているのか!」
今度は突きだ。
がんっ!
雷光流転で防いだ。
「あぁ! もう! 僕は銀河の英雄、天野大次郎だ!」
ネロは気が短い。「何者だ」と聞いておいて、名乗る前に斬りかかってきやがった。人の話は最後まで聞け!
『宿主、ネロは焦っているようだな』
(そうなのか?)
僕にはこういう戦闘経験がない。相手との駆け引きなんて判らない。
『幻影雷神剣っ!』
勝利の虹が放電をしながらネロに斬りかかる。
ネロは剣で受けた。
『はぁっ』
ネロに電流が流れた。雷に撃たれたように全身が痺れている。
「おぉぉぉぉーっ!」
ネロは後ろに飛び、僕から距離を取った。
「反動三段蹴っ!』
稲妻颶風が踏み込んで素早い蹴りを3回繰り返す。
ネロは片手で蹴りを裁いた。こいつ、強い! 義龍の頭を吹っ飛ばした蹴りだぞ!?
『雷光明王流転拳ーっ!』
がつっ、がつっ、がつっ、がつっ、がつっ!
間髪を容れず盾でネロを殴った。義龍を殴り殺した技だ。コレ、肩が痛くなるんだよね。
ネロは剣で盾を防いだ。普通は盾で剣を防ぐんだけど、刃毀れしないのかな?
どがっ
「うぉっ」
鳩尾をネロに蹴られた。装甲が薄くなっているところだ。稲妻颶風が防いでいても衝撃がズシンときた。
またネロは後ろに飛んだ。僕と距離を取りたいようだ。
「くっ、お主。強いな」
「まぁ、ね」
とりあえず余裕を見せておいたが、只でさえ酸素が薄いというのに鳩尾を蹴られて息が苦しい。
すると突然、ネロが走り出した。
「勝負は預けておく、さらばだ!」
逃げる気だ。次元転移をしないところをみると、まだ十分な生命エネルギーを補充していないんだな。
まわりを見渡しても生き物どころか草木さえ見当たらないし。
ネロは何でこんな星に逃げ込んだんだ?




