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Eleventh Doctor

「あっ!」

 地球をていたら最優先事項(とってもだいじなこと)を思い出した。

「カリーナさん、僕と箱根で出会ってからどれくらい時間がちましたか?」

「地球の時間で87時間ほどですが」

 1日24時間だから3日で72時間、87引く72だから・・・。

「3日と15時間!」

 まずい!

 箱根に行ったのが金曜日の深夜だから、今はもう火曜日の16時過ぎだ。

 無断欠勤しちゃっているよ!

「会社に電話しなきゃ!」

「会社?」

「ぎりぎり就業時間内だから、今連絡したら今日の無断欠勤は何とか勘弁してもらえるかも!」

「・・・大次郎(おおじろう)さん、それよりネロを倒さないと地球の危機なんですよ?」

ずは連絡です! この宇宙船には電話はないんですか?」

「・・・ありません」

「じゃあ僕のスマートフォンを充電してください!」

「・・・仕方ないですね」

 カリーナさんが右手を振ったら僕のスマートフォンの電源が入った。

 流石さすが、異星人。未知の技術であっという間にフル充電にしてくれた。しかも非接触だ!

 慌てて会社に電話したがつながらない。

「カリーナさん、電波がきていないです!」

「・・・今、この宇宙船(ふね)は地球の衛星とほぼ同じ位置にいます」

「さ、38万キロも離れているの!?」

 地球から月までの距離は知っていた。月明かりは約1秒かかって地球に届いているのだ。ちなみに地球1周は4万キロ。光の速さだと1秒間で7周半できる。

「会社、クビになっちゃう・・・」

 どうしよう、無断欠勤は懲戒処分だ。よくて減給、悪くて解雇。このまま欠勤日数がズルズルと伸びれば、悪い方の処分になってしまう。

 懲戒解雇になんてなったら退職金が出ないし、企業年金も出ない。御先真っ暗だ。

 退職理由が「懲戒解雇」だったら、失業手当も申請できないんじゃない(※1)


「ロウ殿下、一体どうしたというのだ?」

 ミッチーが声をかけてきた。

「ほっとけ! お前には関係ない」

「一緒に魔王討伐する仲間ではないか。その狼狽ろうばいぶり、ただ事ではない」

「無断欠勤で会社をクビになっちゃいそうなんだよ!」

「会(※2)をクビになる? 連歌の会に参加できなくなることが、そんなに大事か?」

「ロウ殿下は一国の王子ですから、会に参加できなくなることは一大事なのではないですか?」

 マミが話に割り込んできた。もう、ややこしくなるから何処どこかに行ってろ!

僭越せんえつながら、この私が会の主催者に口添えしよう。分家とはいえ、これでも王家一族の末端に属している身であるから、力になるぞ」

「もういいです! ミッチーが社長に何を話すって言うんだよ! まったく・・・」

 大体、ミッチー軍団が地球に降り立ったら何を仕出かすか心配だ。

 ミッチーなんか「口添え」なんて言っているけど、僕の嫌みな上司と口論になって、問答無用で魔法をぶちかます姿がすぐに思い浮かぶ。まぁ、それはそれで良いんだけど。


宿主(マスター)、ネロを倒せば銀河の英雄になれますぞ』

『銀河の英雄になれば会社なんて関係ないです』

『多分、肩書きだけで大金持ちになれますよ』

『ワシ、そういうの興味ない。ワシ、斬るだけだし』

(おぉぉぉぉー! 銀河の英雄だぁーっ! 国民栄誉賞だぁーっ!)

 ちょっとテンションが上がってきた。やってやるぞーっ!


「・・・あの」

 カリーナさんが右手を挙げている。

「はい、カリーナさん」

「私たちは次元転移しているので・・・」

「そうですね」

 知っている。グルングルン目が回った。

「地球を離れた時間と場所に戻ってきているんです」

「はいぃ?」

 特○係の警部さんみたいな返事をしてしまった。

「次元転移で地球を離れたので、戻ってくるのは同じ時間と場所なんです」

「はぁ?」

「次元転移とは時間軸に割り込んで転移するものなので・・・」

「あの、もういいです・・・」

 説明が全く理解ができない。次元転移の概念がわからない。でも僕は馬鹿じゃないよ!

「つまり、最初に次元転移した時間と場所に戻ってきているんです。ここ(・・)の時間では箱根で大次郎おおじろうさんと出会ってから20分くらいしかっていません」

「はぁ」

 次元転移って何!? タイムマシーンなのか?

宿主(マスター)、あまり深く考えない方が良いぞ』

『とにかくネロが地球で殺戮さつりくを始めたばかりだってこと』

『安心してください、間に合っています』

『ワシ、そういうの興味ない。ワシ、斬るだけだし』

(・・・、わかったよ)

 多分、カリーナさんの説明では普通の人はほとんど理解できないぞ。僕は普通の人なだけだ。

「とにかくこれを見てください」

 カリーナさんが右手を振ったら壁に真上から見たもりの景色が映った。ネロが通り歩く人を剣で刺している。

「これって、前に見た!」

「録画じゃないですよ、リアルタイムです」

 ネロが走り出した。かなり速い! ちょっと引いた画面になってネロをカメラが追いかけている。

「あ!」

 もりに見えたのは多分、代々木公園だ。明治神宮らしきものが映っている。あの辺は新宿や渋谷が近いから、たくさんの人がいるぞ!

「早く行こう!」

「ちょっと待ってください、ネロが建物に入ってしまいました」

何処どこだ!?」

 真上から見ているだけではチョロチョロ動くネロを見つけるのは困難だ。

「あそこに行ってネロを探そう!」

「はいっ」

「ロウ殿下、我らも一緒に行きます!」

 ミッチーだ。お前ら邪魔だから来るなよ。

「私も魔王に一太刀浴びせてみせる!」

「私は曾御婆ひいおばあ様のように魔法で倒して見せる!」

 マミとクーだ。っていうか、お前らの曽祖母ひいばあさんがやらかしたから僕が苦労しているんじゃないのか!?

「『隊伍たいご』を組め! 出陣だ! ときの声をあげろ!」

「おぉぉーっ!」

 五月蠅うるさい。非常に五月蠅うるさい。五月蠅うるさいと言うよりやかましい。

「カリーナさん・・・」

「ま、いいんじゃないですか。味方は多い方が良いと言いますし」

「こいつらを原宿や渋谷に連れて行ったら、何をするかわかりませんよ」

「何をするって、皆でネロを討つんでしょ?」

「ミッチーたちがあんなところで草原で見たような魔法をぶっ放したら、日本の首都は壊滅しますよ!」

「そうですか?」

「そうですよ!」

 カリーナさんには危機感が足りない。だからネロが彼方此方あっちこっちの星で殺戮さつりくを繰り返しているんじゃないのか?

「あっ!」

 クーが声をあげて画面を指差した。

 大きなビルが崩れ、中から崩れたビルよりも大きな金色のりゅうが現れた。あれって義龍(ドラゴン)!?

金愚義龍(キングドラゴン)・・・だ」

「そんなっ! 金愚義龍(キングドラゴン)Alexander(アレクサンダー)Allen(アレン)Armstrong(アームストロング)Albemarle(アルベマール)Third(Ⅲ世)様が倒したはず!」

 金色の義龍(ドラゴン)はビルをなぎ倒しながら進んでいる。迷惑なやつだ!

「あれって頭が3つしかないけど、義龍(ドラゴン)の亜種?」

「よく見ろ、頭が切り落とされた首だけが6本があるだろ。合わせて9つ、九頭龍だ。そして金色の身体。あれは九頭龍の王、金愚義龍(キングドラゴン)に違いないっ!」

「そんなもんがなんで東京にいるんだ?」

「知るかっ!」

 ミッチーでもわからないらしい。

「カリーナさん・・・」

「さぁ? 私にもわかりませんわ」

 カリーナさんも首をかしげている。

 チョロチョロと逃げるネロを追って金愚義龍(キングドラゴン)が海に出た。

 近くにはレインボーブリッジもある。早く何とかしないと!

金愚義龍(キングドラゴン)が暴れ回っているだけで東京はボロボロになってしまう! カリーナさん!」

「はい、急ぎましょう!」

 そのとき、画面が揺れた。

「あ!」

 草原でミッチーが義龍(ドラゴン)の骨と内臓を捨てる穴を掘った魔法だ。

「ミッチー、あれは!?」

「あぁ、天馬流星(Galactica)拳魔法(magnum)だ。勇者にしか使えない魔法を、どうして金愚義龍(キングドラゴン)が出せるんだ?」

 余波で海がうねっている。東京湾でもあの辺は晴海やお台場があって、船も多いところだぞ! あんなにうねっていたら転覆(てんぷく)してしまう!

 そして、ものすごい光がネロを包んだ。

「まただ!」

「今度は幻影冥皇(Galactica)拳魔法(phantom)だ!」

「やった! ネロが消し飛んだ!」

 クーが喜んでいる。違う、違う、そうじゃない! 東京が危ないんだ、喜んでいる場合じゃない!

「あ、ネロが次元転移しました!」

 カリーナさんが珍しく慌てて画面を指差した。

「次元転移? ネロはそんなことまでできるのか!」

「ιχνηλάτης, σημάδι Νέρωνας」

 カリーナさんが誰かに向かって何かを言った。

『Ναι, μαμά.』

 宇宙船(ふね)から返事がきた。だけど、何を言っているのか僕にはわからない。

 多分、宇宙船(ふね)に何か命令をしたんだろう。


「急いでネロを追いかけましょう!」

「それより東京湾に金愚義龍(キングドラゴン)がいるんだ、あいつを何とかしないと!」

 そのとき、画面から金愚義龍(キングドラゴン)が消えた。

「え?」

大次郎おおじろうさん、今はネロを追いかけましょう」

「何であんなでっかいやつが急に消えたんだ!?」

「みなさん、次元転移します!」

 カリーナさんがそう言うのと同時に目が回った。転移が始まったのだ。

 っていうか、僕の質問は無視された。

 次元転移したら同じ時間に戻ってくるそうなので、金愚義龍(キングドラゴン)のことは後で考えよう。


「ネロが転移した先ってわかるんですか?」

「ネロの追跡子(tracer)を目印に追いかけていますから」

 とっととネロに追いついて、ばっさり斬ったら急いで地球に戻って金愚義龍(キングドラゴン)退治だ。

「よおし! 国民栄誉賞、いただきっ!」

 右腕をぐっとひいて、にやりと笑った。

「ロウ殿下、王子が国のために働いても『国民栄誉』とは言わないぞ?」

「理不尽な王子だから、きっと『なんか賞をくれ!』といつも御父様に言っているんじゃありませんか?」

「王子なのに国民として御父様に褒めていただき、あまつさえ報償を欲しがるなんて・・・サイテー」

 3姉妹、特に下2人にはさげすんんだ目で見られてしまった。


 僕は王子じゃないし、そもそも日本は君主制国家ではない!

 でも「僕は平民だ」と言ったら、3姉妹(こいつら)にますます馬鹿にされちゃうんだろうな。分家だけど自分たちは王族なんだ、って自慢げに話していたし。

※1:解雇した会社が離職票を発行してくれれば、支給申請できます。

※2:会者 連歌の会に参加する人


2015/12/24 誤字訂正

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