>五月雨の少女③<
放課後、雨は未だ止まずしとしとと降り続いていた。
「まったく梅雨はやっかいだな。」
俺たちは昇降口を出て校門に向かって歩いていた。
「そういや今日、あそこのラーメン屋半額らしいぞ。」
「マジか!ちょうど腹減ってるし寄って行くか!」
ハハハ、と笑いながら校門を出て右に曲がると、俺はふと足を止めた。
俺たちの10mほど前に、黒髪で長身の少女がバイクに跨り雨の中びしょ濡れで校舎を見つめている。
うちの高校の制服の上からライダースジャケットを羽織った奇抜な格好をしていた。
「おい、どうしたんだよ。」
取海が俺に声をかけると、少女はその声に反応してこちらを見た。そして、俺と目が合った。
「………!!!!」
その瞬間、俺の脳内の記憶が一気に蘇り、あの不思議な空間での出来事を思い出した。
彼女はまぎれもない、その空間で出会った少女だった。
少女は俺から目を逸らさずに言った。
「時刻まであと11秒。」
俺はその『時刻』が何を示すのかを悟った。
その直後、タイヤとアスファルトが擦れる音がして、学校から見て正面の交差点を巨大な黒い物体がドリフトでこちらに曲がってきた。
それは、今朝見た黒い装甲車だった。
フロントに歪な形をした巨大な刃物が取り付けてある。
「くそっ!!」
俺はその物体から逃げるべく傘を捨てて走ったが、我ながら迂闊な事をしたと思った。
俺は少女のいる方向に向かって走ってしまったのだ。
ドゴォォォオオオン!!!!!!
背後で凄まじい音が響き、装甲車が曲がりきれず門壁にぶつかった。
しかしそんな事もものともせずに、装甲車はこちらに向かってくる。
「(追いつかれる!!!!)」
刃先が俺のすぐ後ろに迫っていたのは、振り返らずともわかっていた。