>五月雨の少女<
朝は好きだ。
前の日にいくら嫌な事があっても、次の日の朝には全てどうでもよくなって、爽やかな気持ちになれる。
台風だろうが、雷が鳴っていようが関係ない。
カーテンを開ければ、そこには昨日とは違う、生まれ変わった新しい世界が広がっている。
「今日は雨か…」
俺の家は高地に建てられているため、俺の部屋からは街が一望できる。
少し霏がかかり、強めの雨が街に降り注いでいた。
「こんな雨でも木々とっては恵の雨だ。今日も世界には幸せが溢れかえっている!」
とても爽やかな朝である。
「行ってくるぞー」
1階に降りると、兄が家を出るところだった。
「あれ、早いな。」
「今日は残業できないからな。早く行って少しでも仕事片付けないと。」
そう言うと兄は車のキーを取って家を出た。
「いいよなぁ社会人は車で移動できて。」
「いいじゃないか。家から歩くのなんて10分ぐらいだろう?」
その10分の雨によってズボンがどれくらい濡れるのか、父さんはわかっていない。
俺は着替えを済ませると鞄を持ってリビングを出る。
「いってきます。」
傘を手に玄関を開けると、6月の生暖かい雨が頬に当たった。
「少し弱まったみたいだ。」
午前8時25分、吉野裕樹の朝は今日も爽やかである。