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4、戦慄! 紫婆と学校の変態

4、戦慄! 紫婆と学校の変態



 ……次の日。


「ねえ、知ってる? 旧校舎2階の女子トイレに紫婆が出たんだってさ。三組の子が見たって言ってた。それでね……」


 そんな噂を聞きつけて。昼休み、私は一人旧校舎へ向かった。

 紫婆っていうのは、数年前に流行った都市伝説の一つだ。

 学校のトイレに現れる全身紫色尽くめの老婆で、三番目のトイレを三回ノックすると現れるとか、出会ったら肝臓を取られるとか、ムラサキと三回唱えたら消えるとか、色々なバージョンがある。共通しているのは、全身紫色尽くめの老婆だって事と、トイレに現れるって事。

 その都市伝説のお化けが、我が学校に現れたと言うのだから生徒会役員としては、調査に出ずには居れぬでしょう。

 もし不審者だったりしたら、生徒の安全に関わります。

 ……はい、単純に好奇心ですとも。

 私、キラッキラの女子高生。好奇心の権化。何か文句あるか!


 そんな訳で、やってまいりました。

 旧校舎2階女子トイレ。

 ふむ、誰もいませんね?

 まあ、当たり前。普段旧校舎は立ち入り禁止なのだ。来年には取り壊しも決まっていて、今は完璧に物置と化している。だからこんなところに入ってくる一般生徒は居ない。

 ん? 私?

 私は、生徒会役員だから旧校舎の鍵をいつでも持ち出せる立場にあるのだ。うん、役員特権、素晴らしい。


 さて、どうしましょうかね?

 噂によると、三番目のトイレを三回ノックでしたっけ? 洗面所の鏡に向かってムラサキと三回だっけ? 噂がありすぎて、どうにもね。

 とりあえず、三番目のトイレの扉を三回ノックしてみましょうか。

 いやー、怖いですね。

 昼休みの時間を選んで正解ですよ。放課後でもよかったんだけれど、あの時間は暗いもんね。暗いと、怖い。怖いのはやばい。でも、今は昼間! この明るさなら大丈夫!

 そんな訳で、三番目のトイレの前に立ちます。

 とりあえず、中を確認。うん、誰も居ない。普通の和式便器があるだけですよ。

 さて、はじめますか。とりあえず、扉を閉じましてっと、


 コン、コン、コン


 三回ノック。さてどうなりますかね。まあ、普通に考えて何も起こるわけは無いんですけどね。まあ、不審者の気配もないし、このまま帰りますか、次は英語の授業で超怠い。そんな事を考えていますと、


「はーい」


 声がしました。幼い感じの、女の子の声が。

 私が、今しがた閉めた、三番目のトイレの扉の中かから。


 え?


「出てはいけないよ」

 私が固まっていると、さらに中から声がします。今度は、さっきとは違う、嗄れた老婆の声。

「まだ、お前は出ちゃあいけないよ。まだね。でもせっかくだ、今はこの婆が出て行こう、久しぶりに遊ぼう」

 どうやら中で何やら会話をしているようです。諭すような老婆の声と、うんうん、と頷く少女の声がします。


 よし、逃げよう。

 なんだかわからないけれど、私は駆け出しました。

 目覚めた心は走り出したのです! 未来を描くため!


 そして、トイレをダッシュで出ようとした私は、ドンっ! と何かにぶつかりました。いえ、『何か』ではありません、『誰か』です。

 私がぶつかったその人は、

「すまん、どうした? 大丈夫か? 」

 と言って、肩抱いて私を支えてくれました。

 その人は、狐面を被った、エプロンドレス姿の青年でした。


「ギャーァあああああああ! 」

 私は叫んでいました。

 パニクっていたのもあるけど、その姿はやっぱりちょっと、至近距離で見るとインパクトが……。


「そんなに、叫ぶもんじゃないよ君」

 クマのぬいぐるみが、青年の頭の上に乗って、私に語りかけてきました。その声は、とっても綺麗なバリトンです。美声です。イケボです。

「ほら、うちの魔法少女が傷ついているだろう? 」

 見ると、青年の狐面の顎の辺りから、一筋の水の雫が。

「何も泣くことはないだろうに」

「え、あの、えっと、すいません」

 呆れ顔のクマさんを無視して、私は、魔法少女さんに謝ります。

「いや、いいんだ……」

 魔法少女さんの声は、なんだか少し震えていました。

「なんで俺、こんな事をしなきゃなんなくなったんだろうと思うと、ちょっと心が壊れそうで……」

 なんだか、複雑な事情が御有りのようです。

「まあ、いいんだ……」

 魔法少女さんは震える声で言います。

「とりあえず、君、ここから逃げなさい。なんだか、ただならぬ気配がする」

 魔法少女さんがそう言うのと同時に、


 キィ……


 と、木製のドアの開く音がしました。

「おや、魔法少女さんが、居るとはね」

 老婆の嗄れ声がします。

「……遊びのかいが、ありそうじゃわい」


「……まずいぞ、あいつは七不思議の一人だ」

 クマさんが、緊張した声で魔法少女青年に語りかけます。

 とりあえず、君は逃げなさい。

 魔法少女さんはそう言うと、ドンっと私を廊下に突き飛ばしました。

 うわ、すごい力。

「早く入り口まで走れ! 」

 そう言われて、私は素直に入り口までダッシュ。

 後ろの方で、何かが戦っているようなものすごい音がします。


 旧校舎の入り口までくると、扉のところに吉居先生が立っていて、

「どうしました? 物凄い悲鳴が聞こえましたが?」

 と、聞いてきました。

「えーっと……? 」

 私は、息を切らしながら考えます。一体どう説明をすべきか……、

「どうしたんですか? 黙っていてはわかりませんよ? 」

「えーっと、はい。不審者が……」

「不審者? 」

 吉居先生が首をかしげた瞬間、


「うおおおおおおおっ? 」

 雄叫びと共に、魔法少女さんが転がり出てきました。

 そして、三人とも、一瞬沈黙。

 狐面の、魔法少女さんの表情は見えませんが、なんだか「しまった」を全身に貼り付けたようなリアクションをして、また廊下の奥へと消えて行きました。


「確かに、あれは不審者ですねえ……」

 吉居先生のつぶやきが、旧校舎の静寂の中に吸い込まれていきました。



続く

旧校舎はロマン

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